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ラウリア王国編
出会い
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暦の上では冬だが、この国では一番過ごしやすい季節だ。
あんなに悩まされた蒸し暑さも今はない。寒くもなく暑くもない。ちょうどいい気候に思わず頬が緩む。
僕達はラウリア王国の王都ラウリドに拠点を持った。もっとスパイス巡りの旅を続けてもよかったが、ここは珍しいスパイスが集まる地だ。希少なスパイスを購入するならラウリドに滞在したほうが効率がいい。
王都ということもあって人も物も多い。冒険者ギルドも例外ではなく、兄さんはずっと渋っていたが頼み込んで滞在の許可をもらった。
許された期間は半年だが、それだけあれば十分だろう。
「素材買取の窓口に並んでくる。混んでるからルカはそこで待っていてほしい。絶対、酒場に近寄らないように」
「わかった。よろしくね」
王都ラウリドの冒険者ギルドは喧騒が絶えない。一部素行の悪い冒険者もいて、たまに怒鳴り声が聞こえる。
兄さんは酒場を警戒していて絶対に僕を近寄らせない。夕方のこの時間は特に雰囲気がよくない。昼から飲んだくれてる冒険者と今から飲もうとしてる冒険者の間でいつ喧嘩が始まってもおかしくない。
目が合っただけで殴り合いになることもあるので僕だって近寄るのは遠慮したい。
依頼を受けるだけなら問題のない、むしろ受付の態度がよくて仕事がしやすいギルドなのになぜ酒場だけあんなことになっているのか。
すごく謎だが新参者がそれを聞いて、親切に教えてくれる冒険者は果たしてこのギルドにいるのだろうか。
兄さんを待つ間、ボーッと依頼書を眺めていると酒場の方から床に何かを叩きつけたような音が響いた。
「遅い!酒運ぶだけだろうが!どんだけ待たせるつもりだ!」
「申し訳ありませんっ」
「あーあ、お前がグズだから全部溢れちまったなぁ?」
「すぐお持ちします」
「さっさと持って来い!」
「はい。……っ!」
ガラの悪い冒険者ふたり組が酒場のウェイトレスさんに怒鳴り散らしている。彼女は突き飛ばされて尻餅をついていた。お酒をかけられたようでスカートの裾が濡れている。
突き飛ばされた時に足を捻ったのだろう。顔を歪めながら必死で椅子にしがみついて立ちあがろうとしていた。
周りは見て見ぬふりをしている。その状況に僕は耐えられなくてウェイトレスさんに声をかけた。
「足を痛めたのかな?手を貸すからゆっくり移動しよう」
「すみません、すみません。ありがとうございます」
さりげなく魔法で彼女の状態を確認したが、軽い捻挫だった。安静にしていたらすぐに治るだろう。怪我がひどくなくてよかった。
「おいおい色男さんよぉ、こんな時まで点数稼ぎか?」
「そこまでして女にいい顔したいのか。泣けるね」
色男ね。美少年なんて言われていた時が懐かしい。身長が伸びてからは、そう言われることが増えた。
僕はやつらを無視してウェイトレスさんを安全な場所に連れて行こうと歩みを進めた。
その態度に腹が立ったのか怒鳴ってそこらの椅子を蹴り始めたので、ウェイトレスさんを座らせて仕方なく相手をすることにした。
「何?酔っ払いに絡まれて迷惑なんだけど」
「何だその態度は?礼儀ってもんがなってないな」
「俺達が教えてやるよ。顔ぶん殴れば大人しくなるだろ」
「はっ!それはいい。色男が台無しになるな」
うわぁ、最悪だ。最近この手の絡みが増えてきてげんなりする。
反応がないことにイラついたのか、冒険者の片割れが僕を殴ろうと腕を振り上げた。しかしその手が僕に届くことはなかった。
「何のつもりだ。返答次第では折る」
「いてえ!」
「おい!そいつを離せ!」
いつのまにか僕の前に立ち塞がった兄さんが、冒険者の腕を掴んで威圧していた。
本当に痛いのだろう。男の顔から血の気が引いていく。あと少し兄さんが力を入れたら腕の骨が折れてしまう。
「兄さんやめ」
「そこまでにしておけ」
早く兄さんを止めなければと声をかけようとしたが途中で遮られた。
そこに現れたのはすらっとした体型の槍使いだった。小麦色の肌に黒髪、琥珀色の目。20代半ばくらいか。おそらくこの国の出身だろう。
見た目ではわかりにくいが魔力の巡りでわかる。この人は相当な実力者だ。
「邪魔をするな」
「彼が心配そうな顔をしてる」
兄さんが悔しそうに顔を歪める。
「兄さん僕は大丈夫だから。僕のためにありがとう」
兄さんが冒険者の腕から手を離すと「怪我はないか?」と確認するように僕の身体をペタペタ触った。もう僕に絡んできた冒険者に関心はないようだ。
「げっ!バーナデットかよ」
「うわっ帰ってきたのか」
「彼女と彼に謝れ」
「「すみませんでしたっ」」
バーナデットが凄むとやつらはペコペコ頭を下げてすごい速さで去っていった。
このギルドで影響力のある人なのかな。気になってつい顔をじっと見つめていると向こうから声をかけてくれた。
「災難だったな。怪我はないか?」
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました。僕は銅級冒険者のルカです」
「アイザックだ。礼を言う」
兄さんがすごく悔しそうな顔でバーナデットにお礼を述べた。その様子を見た僕は慰めるように兄さんの背中を優しく叩く。
そんな僕達の様子をバーナデットは興味深そうに眺めていた。
「俺の名前はバーナデット。白金級冒険者だ。お前達とは仲良くなれそうだな。よろしく」
それが僕達とバーナデットの出会いだった。
あんなに悩まされた蒸し暑さも今はない。寒くもなく暑くもない。ちょうどいい気候に思わず頬が緩む。
僕達はラウリア王国の王都ラウリドに拠点を持った。もっとスパイス巡りの旅を続けてもよかったが、ここは珍しいスパイスが集まる地だ。希少なスパイスを購入するならラウリドに滞在したほうが効率がいい。
王都ということもあって人も物も多い。冒険者ギルドも例外ではなく、兄さんはずっと渋っていたが頼み込んで滞在の許可をもらった。
許された期間は半年だが、それだけあれば十分だろう。
「素材買取の窓口に並んでくる。混んでるからルカはそこで待っていてほしい。絶対、酒場に近寄らないように」
「わかった。よろしくね」
王都ラウリドの冒険者ギルドは喧騒が絶えない。一部素行の悪い冒険者もいて、たまに怒鳴り声が聞こえる。
兄さんは酒場を警戒していて絶対に僕を近寄らせない。夕方のこの時間は特に雰囲気がよくない。昼から飲んだくれてる冒険者と今から飲もうとしてる冒険者の間でいつ喧嘩が始まってもおかしくない。
目が合っただけで殴り合いになることもあるので僕だって近寄るのは遠慮したい。
依頼を受けるだけなら問題のない、むしろ受付の態度がよくて仕事がしやすいギルドなのになぜ酒場だけあんなことになっているのか。
すごく謎だが新参者がそれを聞いて、親切に教えてくれる冒険者は果たしてこのギルドにいるのだろうか。
兄さんを待つ間、ボーッと依頼書を眺めていると酒場の方から床に何かを叩きつけたような音が響いた。
「遅い!酒運ぶだけだろうが!どんだけ待たせるつもりだ!」
「申し訳ありませんっ」
「あーあ、お前がグズだから全部溢れちまったなぁ?」
「すぐお持ちします」
「さっさと持って来い!」
「はい。……っ!」
ガラの悪い冒険者ふたり組が酒場のウェイトレスさんに怒鳴り散らしている。彼女は突き飛ばされて尻餅をついていた。お酒をかけられたようでスカートの裾が濡れている。
突き飛ばされた時に足を捻ったのだろう。顔を歪めながら必死で椅子にしがみついて立ちあがろうとしていた。
周りは見て見ぬふりをしている。その状況に僕は耐えられなくてウェイトレスさんに声をかけた。
「足を痛めたのかな?手を貸すからゆっくり移動しよう」
「すみません、すみません。ありがとうございます」
さりげなく魔法で彼女の状態を確認したが、軽い捻挫だった。安静にしていたらすぐに治るだろう。怪我がひどくなくてよかった。
「おいおい色男さんよぉ、こんな時まで点数稼ぎか?」
「そこまでして女にいい顔したいのか。泣けるね」
色男ね。美少年なんて言われていた時が懐かしい。身長が伸びてからは、そう言われることが増えた。
僕はやつらを無視してウェイトレスさんを安全な場所に連れて行こうと歩みを進めた。
その態度に腹が立ったのか怒鳴ってそこらの椅子を蹴り始めたので、ウェイトレスさんを座らせて仕方なく相手をすることにした。
「何?酔っ払いに絡まれて迷惑なんだけど」
「何だその態度は?礼儀ってもんがなってないな」
「俺達が教えてやるよ。顔ぶん殴れば大人しくなるだろ」
「はっ!それはいい。色男が台無しになるな」
うわぁ、最悪だ。最近この手の絡みが増えてきてげんなりする。
反応がないことにイラついたのか、冒険者の片割れが僕を殴ろうと腕を振り上げた。しかしその手が僕に届くことはなかった。
「何のつもりだ。返答次第では折る」
「いてえ!」
「おい!そいつを離せ!」
いつのまにか僕の前に立ち塞がった兄さんが、冒険者の腕を掴んで威圧していた。
本当に痛いのだろう。男の顔から血の気が引いていく。あと少し兄さんが力を入れたら腕の骨が折れてしまう。
「兄さんやめ」
「そこまでにしておけ」
早く兄さんを止めなければと声をかけようとしたが途中で遮られた。
そこに現れたのはすらっとした体型の槍使いだった。小麦色の肌に黒髪、琥珀色の目。20代半ばくらいか。おそらくこの国の出身だろう。
見た目ではわかりにくいが魔力の巡りでわかる。この人は相当な実力者だ。
「邪魔をするな」
「彼が心配そうな顔をしてる」
兄さんが悔しそうに顔を歪める。
「兄さん僕は大丈夫だから。僕のためにありがとう」
兄さんが冒険者の腕から手を離すと「怪我はないか?」と確認するように僕の身体をペタペタ触った。もう僕に絡んできた冒険者に関心はないようだ。
「げっ!バーナデットかよ」
「うわっ帰ってきたのか」
「彼女と彼に謝れ」
「「すみませんでしたっ」」
バーナデットが凄むとやつらはペコペコ頭を下げてすごい速さで去っていった。
このギルドで影響力のある人なのかな。気になってつい顔をじっと見つめていると向こうから声をかけてくれた。
「災難だったな。怪我はないか?」
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました。僕は銅級冒険者のルカです」
「アイザックだ。礼を言う」
兄さんがすごく悔しそうな顔でバーナデットにお礼を述べた。その様子を見た僕は慰めるように兄さんの背中を優しく叩く。
そんな僕達の様子をバーナデットは興味深そうに眺めていた。
「俺の名前はバーナデット。白金級冒険者だ。お前達とは仲良くなれそうだな。よろしく」
それが僕達とバーナデットの出会いだった。
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