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ラウリア王国編
ラウリア王国入国
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一瞬息を吸うことを忘れてしまうほどの蒸し暑い空気が襲ってくる。
僕達は今ラウリア王国南部の港にいる。街を歩く人々を観察すると小麦色の肌に黒髪の人が多い印象だ。
さっそくスパイス巡りをしたいが今日は宿屋を取ったら1日が終わるだろう。
なぜなら隣に立っている兄さんの目が据わっているからだ。
「こんなに精神を磨耗したのは初めてだ」
「ごめんやりすぎた」
「いや、俺が言い出したんだ。絶対にやり遂げてみせる」
「ほどほどにね。僕に出来ることならいつでも協力するから」
「助かる」
兄さんはなぜ魔法に拘るようになったんだろう。薄暗い船室で一点を見つめながら、光球を出していた時はすごく怖かった。魔力制御の鍛練をしてたみたいだけど何かの儀式かと思った。
そんな努力が実って硬化の魔法はだいぶスムーズに発動できるようになっている。3秒で再発動できるようになったので目標まであと少しだ。
その後は身体強化を使いながら武器を硬化するという難しい問題が待っている。
兄さんにいつでも教えられるように僕も何回か練習してみた。今の5倍は精神を磨耗するが、兄さんの実力なら乗り越えられるはずだ。
翌日、市場に向かいスパイス巡りをした。たくさんの露店が雑然と並んでおり、香辛料や野菜などの匂いが混じり合って鼻を刺激する。
「兄さん見て!サトウキビだ」
「ルカはずっと砂糖を大量に欲しいと言ってたな」
「あんまりにも高いから原料を調達して魔法で作ろうかと思ってたけど、この値段なら買っていいかも」
「目がキラキラしてる。楽しそうだな」
「見てるだけで楽しい!早く新作料理を完成させたいな」
カレーを作るために最低限必要なスパイスは3つ。コリアンダー、クミン、ターメリックだ。できればレッドペッパーも入れたい。
カレー粉がないので一から配合を試さないといけない。他にも買いたいスパイスはたくさんある。ミヅホと同じように各地を転々と周りいろいろ調達したい。
「たくさん買い込む予定だと言ってたが予算はどのくらいだ?」
「杖を売ったお金の半分。僕の取り分全部」
「そんなに?俺も食べるから一部負担させてほしい」
「いいよ。趣味みたいなものだし」
「しかし……」
冒険者ギルドでの報酬は戦闘の多寡に関わらず完全折半だ。兄さんと話し合った結果そうなった。
食費は僕の趣味が料理ということもあって多めに負担する事が多い。
その代わり兄さんが拠点の家賃等を多めに負担しているので生活費のバランスは取れている。
今のところそれで上手くいっていたが、さすがにスパイスは金額が高すぎたか。
どうしようかと悩んでいると兄さんがそれならと提案してくれた。
「欲しいものはないか?魔法を教えてもらった礼も兼ねて何か贈らせてほしい」
「魔法のことは気にしないでいいのに。うーん、欲しいものかぁ」
物欲がある性格ではないので急に聞かれても何も出てこない。でも何か言わないと兄さんに悪いなと思っていると、ふと頭に浮かんだ。
恥ずかしいけど他に思いつかないし言っちゃえ。僕と兄さんの仲だし、引かれることはないだろうと軽い気持ちで口に出した。
「兄さんとお揃いのものが欲しい」
「え?」
「さすがに嫌か。ごめんね、変な事言っちゃった。考えておくからまた今度伝えるね」
兄さんのポカーンとした顔を初めて見た。この旅が始まってから3年経ったけどまだ見た事ない表情があったとは。
後に続く言葉を聞くのが怖くて話を切ってしまった。来年成人する男が何を言ってるのやら。恥ずかしいので聞かなかったことにしてほしい。
「嫌なわけがない!!」
びっくりした。周りの人達も驚いて一斉にこちらを見ている。
兄さんが露店がひしめき合ってる場所で市場の端まで届きそうな大声を出した。普段は落ち着いた話し方だから意外な一面を見た気分だ。
人々の視線に気付いたのだろう、兄さんが恥ずかしそうに咳払いした。
「すまない。驚かせてしまった」
「ごめん、僕が変な事言ったから」
「揃いのものか。すごくいいな。候補が複数浮かんできた。少し時間がかかるが必ず用意する」
「ありがとう。楽しみにしてる」
「ああ」
兄さんの目がキラキラしている。いつもより声が弾んでいて本当に楽しそうだ。スパイスやサトウキビを見た僕もこんな感じだったのかな。
僕は全然思いつかなかったのに短い間にお揃いのもの候補が複数出てくるってすごい。
僕も今欲しいスパイスを複数挙げろとなったらスラスラ言える自信があるからそういうことなのかな。興味があるものってアイディアが出てきやすいのかも。
いつも落ち着いている兄さんが僕の一言であんなにはしゃぐなんて。
まずい。じわじわと照れが襲ってきた。僕の顔は真っ赤になっていることだろう。
横にいる兄さんに顔を見られたくなくて反対側に逸らす。すると兄さんが急に静かになった。
気になって目線だけ兄さんに向けると、兄さんの顔が真っ赤になっていた。思わず顔ごと兄さんの方を向いてしまった。
「ルカ顔が赤い」
「兄さんこそ真っ赤だよ」
「……ここは思ったより暑いな」
「そうだね、すごく暑いや」
素直な子どもにだって通用しない言い訳を述べる。
でもそれを受け入れないと何かが変わる気がして、僕達は暑い暑いと言いながら顔の前でひたすら手をパタパタと動かしていた。
僕達は今ラウリア王国南部の港にいる。街を歩く人々を観察すると小麦色の肌に黒髪の人が多い印象だ。
さっそくスパイス巡りをしたいが今日は宿屋を取ったら1日が終わるだろう。
なぜなら隣に立っている兄さんの目が据わっているからだ。
「こんなに精神を磨耗したのは初めてだ」
「ごめんやりすぎた」
「いや、俺が言い出したんだ。絶対にやり遂げてみせる」
「ほどほどにね。僕に出来ることならいつでも協力するから」
「助かる」
兄さんはなぜ魔法に拘るようになったんだろう。薄暗い船室で一点を見つめながら、光球を出していた時はすごく怖かった。魔力制御の鍛練をしてたみたいだけど何かの儀式かと思った。
そんな努力が実って硬化の魔法はだいぶスムーズに発動できるようになっている。3秒で再発動できるようになったので目標まであと少しだ。
その後は身体強化を使いながら武器を硬化するという難しい問題が待っている。
兄さんにいつでも教えられるように僕も何回か練習してみた。今の5倍は精神を磨耗するが、兄さんの実力なら乗り越えられるはずだ。
翌日、市場に向かいスパイス巡りをした。たくさんの露店が雑然と並んでおり、香辛料や野菜などの匂いが混じり合って鼻を刺激する。
「兄さん見て!サトウキビだ」
「ルカはずっと砂糖を大量に欲しいと言ってたな」
「あんまりにも高いから原料を調達して魔法で作ろうかと思ってたけど、この値段なら買っていいかも」
「目がキラキラしてる。楽しそうだな」
「見てるだけで楽しい!早く新作料理を完成させたいな」
カレーを作るために最低限必要なスパイスは3つ。コリアンダー、クミン、ターメリックだ。できればレッドペッパーも入れたい。
カレー粉がないので一から配合を試さないといけない。他にも買いたいスパイスはたくさんある。ミヅホと同じように各地を転々と周りいろいろ調達したい。
「たくさん買い込む予定だと言ってたが予算はどのくらいだ?」
「杖を売ったお金の半分。僕の取り分全部」
「そんなに?俺も食べるから一部負担させてほしい」
「いいよ。趣味みたいなものだし」
「しかし……」
冒険者ギルドでの報酬は戦闘の多寡に関わらず完全折半だ。兄さんと話し合った結果そうなった。
食費は僕の趣味が料理ということもあって多めに負担する事が多い。
その代わり兄さんが拠点の家賃等を多めに負担しているので生活費のバランスは取れている。
今のところそれで上手くいっていたが、さすがにスパイスは金額が高すぎたか。
どうしようかと悩んでいると兄さんがそれならと提案してくれた。
「欲しいものはないか?魔法を教えてもらった礼も兼ねて何か贈らせてほしい」
「魔法のことは気にしないでいいのに。うーん、欲しいものかぁ」
物欲がある性格ではないので急に聞かれても何も出てこない。でも何か言わないと兄さんに悪いなと思っていると、ふと頭に浮かんだ。
恥ずかしいけど他に思いつかないし言っちゃえ。僕と兄さんの仲だし、引かれることはないだろうと軽い気持ちで口に出した。
「兄さんとお揃いのものが欲しい」
「え?」
「さすがに嫌か。ごめんね、変な事言っちゃった。考えておくからまた今度伝えるね」
兄さんのポカーンとした顔を初めて見た。この旅が始まってから3年経ったけどまだ見た事ない表情があったとは。
後に続く言葉を聞くのが怖くて話を切ってしまった。来年成人する男が何を言ってるのやら。恥ずかしいので聞かなかったことにしてほしい。
「嫌なわけがない!!」
びっくりした。周りの人達も驚いて一斉にこちらを見ている。
兄さんが露店がひしめき合ってる場所で市場の端まで届きそうな大声を出した。普段は落ち着いた話し方だから意外な一面を見た気分だ。
人々の視線に気付いたのだろう、兄さんが恥ずかしそうに咳払いした。
「すまない。驚かせてしまった」
「ごめん、僕が変な事言ったから」
「揃いのものか。すごくいいな。候補が複数浮かんできた。少し時間がかかるが必ず用意する」
「ありがとう。楽しみにしてる」
「ああ」
兄さんの目がキラキラしている。いつもより声が弾んでいて本当に楽しそうだ。スパイスやサトウキビを見た僕もこんな感じだったのかな。
僕は全然思いつかなかったのに短い間にお揃いのもの候補が複数出てくるってすごい。
僕も今欲しいスパイスを複数挙げろとなったらスラスラ言える自信があるからそういうことなのかな。興味があるものってアイディアが出てきやすいのかも。
いつも落ち着いている兄さんが僕の一言であんなにはしゃぐなんて。
まずい。じわじわと照れが襲ってきた。僕の顔は真っ赤になっていることだろう。
横にいる兄さんに顔を見られたくなくて反対側に逸らす。すると兄さんが急に静かになった。
気になって目線だけ兄さんに向けると、兄さんの顔が真っ赤になっていた。思わず顔ごと兄さんの方を向いてしまった。
「ルカ顔が赤い」
「兄さんこそ真っ赤だよ」
「……ここは思ったより暑いな」
「そうだね、すごく暑いや」
素直な子どもにだって通用しない言い訳を述べる。
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