【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

文字の大きさ
35 / 158
イーザリア王国編

お花見

しおりを挟む
 夜、眠る直前兄さんが僕を抱きしめる。その顔はひどく焦っているように見えた。
「ルカは俺が守る、だから大丈夫だ」
「無理しないで、僕だって兄さんを守りたいよ」
「駄目だ。もうあいつから決闘を申し込まれたら受けてもいいんじゃないか」
「……それはミゲルも言ってたでしょ。決闘したら兄さんが勝つかもしれないけど、逆恨みされるって」
「じゃあこの街から出るか」
「今は得策じゃないよ。あいつは依頼でこの国最大の港町にいる。伝手で情報も集まるから移動したらすぐバレる。そしたら確実に追いつかれる」
「話し合った通り決闘は避けて、あいつがダンジョンに篭る秋まで耐えるしかないのか」
「ダンジョンじゃ情報を集めても外に出られないからね。さすがに国外に出たらソーンも追いかけないみたいだし。寂しいけど秋になったらイーザリアから出よう」
「そうだな」

 秋になったらイーザリア王国を出る。これはもう決めたことだ。
 寂しいがほとぼりが冷めたらまた遊びにいけばいい。
「ルカ、ひとりで行動するのは控えてくれ。必ず誰かと一緒にいてほしい」
「わかった。兄さんも気をつけてね」
「ああ」
 今日も抱き合いながら寝ることになるだろう。すっかり習慣になってしまった。
 兄さんの鼓動が早い。僕を守らなければと必死になっているのかな。その気持ちは嬉しいし頼もしいが、淋しい。

 僕達は相棒なのに

 今の兄さんに言っても響かないだろう。いつかちゃんと伝わればいいな。

 ここ最近は平穏な日々が続いている。ソーンに決闘を申し込まれたと噂になったことで、逆に他の冒険者に絡まれることがなくなったから楽になった。
 冬に比べると春は依頼も多く気候もいい。人の多さを無視したら最高の季節だ。

 この世界の暦は世界共通のものだ。季節は春夏秋冬。1日は24時間。
 春の1の月、2の月、3の月といったように季節ごとに3つの月が存在する。
 1月は28日。7日×4週で1月となる。
 また夏の3の月と秋の1の月の間に創造神と女神の月が入る。
 春夏秋冬の12ヶ月と創造神と女神の月を合わせて、1年は364日。閏年や閏月はない。前世の暦とは違うが、大きな違いはないのですぐに受け入れられた。
 この世界は通貨や言語、暦など共通のものが多い。その原因はダンジョンだ。ダンジョンは世界各国平等に出現する。
 そしてダンジョンからは全く同じ通貨がドロップし、同じ言語で注意書き等が書かれ、暦通りに時間が経過する。
 世界を旅するのに楽でいいなと思っていた仕組みはダンジョンのおかげだった。それに気づいたのは最近だ。大変興味深い。
 早く銅級になってダンジョンに行ってみたいなと思う。

「兄さん明日お花見しない?」
「お花見?」
「花を見ながらピクニックするの。過ごしやすい季節だからさ、のんびりしたくて。お弁当作るよ」
「いいな。カツサンドが食べたい」
「兄さん好きだね」
「ああ」
 兄さんはワイバーンカツレツ以来、カツにハマりよくリクエストするようになった。普段は、前世の豚肉と味が変わらないオーク肉を使っている。オーク肉もオリーブオイルも安いのでついつい作ってしまう。
 いつかカツ丼を食べさせてあげたいな。兄さんが絶対好きな味だ。

 翌日、僕達はいつもホーンラビット狩りをしている草原の奥の方にある丘の上に立っていた。
「見晴らしが良くて気持ちいいね。丘を少し下ったところに、花畑があるからもうちょっと歩こうか」
「春だな」
「春だねぇ」
 そんな話をしていると目的地の花畑に到着した。
 辺り一面、色とりどりの花が咲き乱れる絶景に心を奪われる。原色の花が多くてまるで南国のようだ。

 お花見といえば、淡い色の花弁が儚く舞い散るあの場面が頭に浮かんでしまう。目の前の光景だけに集中したいのに。
 まだまだ先の話なのに別れを意識して、センチメンタルな気持ちになっているのかも。そんな記憶の片鱗を掻き消すように兄さんに話しかける。

「綺麗な花畑だね。適当な場所に座ろうか」
「そうだな」
「もうカツサンド食べちゃう?」
「そうしよう」
 カツサンドが入ったバスケットを手渡すと兄さんはバクバクと食べ始めた。ひと口の大きさが僕と全然違う。

「兄さんも飽きないね」
「毎日カツでもいいくらいだ」
「太るよ?」
「問題ない」
 世の女性が羨ましがる発言だ。兄さんの場合、毎日それだけ動いてるってことだけど。

 しばらくしてカツサンドを食べ終わると兄さんがいきなりゴロンと横になった。
「心地よくて眠ってしまいそうだ」
「僕達はお花見に来たんだからもうちょっと花を見ようよ、ほら」
 僕は立ち上がり花畑の中に入るとその場で手を大きく広げた。はしゃぎすぎたかなと思ったが、兄さん以外誰も見てないからいいだろう。

「ほら、兄さん。綺麗でしょ?」
 兄さんは眩しいものを見るように目を細めて、噛み締めるように言葉を紡いだ。

「ああ、綺麗だ……すごく」

 あまりにも普段とは違う表情だった。だからその言葉が何の花を見て出たものなのか、僕にはよくわからなかった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...