上 下
34 / 158
イーザリア王国編

チンピラ

しおりを挟む
 優しい風が頬を撫でる。季節は春。恐れていた季節がやってきた。
 ミゲルの言ったことは本当だった。想像以上に人が増えた。混雑を避けるためいつもより遅い時間に冒険者ギルドに行くようになった。
 鉄級で割りのいい仕事は遠出になることが多い。遠出の依頼は基本受けないので、遅れて行っても問題ない。
 小競り合いはたしかに多い。夜にギルドの酒場に行くのはしばらく中止だ。いつ巻き込まれてもおかしくない。

 今のところ絡まれることなく過ごせている。しばらくしたら落ち着くだろう。それまでの辛抱だ。
「すごく気持ちいい天気だね。今日も人が多そうだ」
「だろうな」
 うんざりしながらギルドの扉を開ける。人は多いが許容範囲だ。
「今日は何しようか?もうホーンラビット狩りは飽きたなぁ」
「森に行ってコボルトを狩るか?」
「いいね、じゃあ 」

「よう、お前がアイザックか?」
 会話の途中で絡まれた。声の持ち主を確認すると、そこには金髪長身の槍使いがいた。
「おい!返事しろよ!銅級風情が舐めたマネしやがって」
 兄さんが金髪槍使いを無視すると、その態度に怒って胸ぐらを掴んできた。

「離せ」
「お前がアイザックか?」
「そうだ」
「チッ。めんどくせえ。さっさと答えろや」
 掴んだ手を離したと思ったら、即殴りかかってきた。兄さんはそれを最小限の動きで避ける。
「クソがっ!舐めやがって!」
「何の用だ?」
「チッ!……お前、ワイバーンを単独で討伐したって本当か?」
「ワイバーンの幼体だったら討伐した」
「別に幼体かどうかはどうでいいんだよ。なぁ、俺と決闘しようぜ」
「断る」
「は?」
「お断りだ。俺は誰とも決闘しない」
「金級冒険者ソーン様の申し出を断るとか舐めてるのか?ぶち殺すぞ!」
「危ないっ!」

 ソーンがいきなり槍を振り上げ兄さんに襲いかかる。僕は思わず雷撃の魔法を使ってしまった。
 ソーンは痛みに驚き槍を落とす。そして僕を思いっきり睨みつけた。
「てめぇ!このガキ!邪魔しやがって、ただじゃおかねぇ!」
 ソーンが僕に掴み掛かろうとするが、その前に動きが止まる。兄さんがソーンの両肩をギリギリと握りしめていた。
「ルカに手を出してみろ。お前を殺す。決闘なんて面倒だ、今すぐ殺してやる」
「クソッ!離しやがれ!」
 ソーンが兄さんの手から逃れようと身体を捩るがびくともしない。

「今日のところは勘弁してやる。これくらいで済んでよかったなぁ?」
 兄さんの剣幕と全く動かない身体に焦ったのだろう。ソーンは捨て台詞を吐くとそのままギルドから出て行った。
 なんだあのチンピラは。怖かった。心臓がドキドキしてる。
「ルカ!怪我はないか!」
「僕は平気。兄さんこそ大丈夫?すごく乱暴な人だったけど」
「俺は大丈夫だ。怖い思いをさせてすまない」
「兄さんのせいじゃないよ」
「なんだったんだあの男は?」
「金級冒険者って言ってたね。有名な人かも。情報を集めてみよう」

 エイダンさんにソーンの話を聞いたところ、実力は確かだが素行に問題のある冒険者だと教えてもらった。特に僕はあいつに近づかないよう注意された。
 その後僕達は予定通りコボルト討伐の依頼を達成し、その日は終了した。

「あのソーンに絡まれるとは災難だったっすね」
 翌日、ミゲルが拠点に遊びに来てくれたのでついでにソーンの話をすると同情された。

「ソーンはトリフェ支部内で、最も白金級に近い金級と言われている実力者っす。整った顔立ちにそぐわない輩っぷりで冒険者からも恐れられてるっす」
「びっくりした。言動がチンピラなんだもん」
「顔と言動が合ってなさすぎて驚くっすよねー」
「あいつはなぜ俺に決闘を申し込んだ」
「あいつの趣味だからっす。あいつは自分とそこそこやり合えそうな相手を見つけたら、片っ端から声をかけて決闘を申し込むっす。最終的にその相手を痛めつけて楽しむのがいつもの流れっす」

 なんだそりゃ。めちゃくちゃ迷惑なやつじゃん。
「決闘を申し込むと言っても乗り気じゃない人もいるでしょ?」
「あいつは手段を選ばず脅迫して、必ず決闘に持ち込むっす。過去には家族を人質に取られて無理矢理決闘させられた人もいるから、ルカは用心したほうがいいっす」
「ひどいね。ちゃんと警戒しないと」
「ルカは俺が守る」
「俺も知り合いに声をかけて、ソーンを見張ってもらうようにお願いするっす。ダリオも昔あいつにやられて怪我でしばらく動けなくなって……許せないっす」

 ミゲルが怒っている顔を見るのは初めてだ。それだけダリオが酷い目にあったのだろう。
 そこに僕達まで被害にあったと聞いて憤慨している。

「俺も協力するっす!とりあえず情報が入ったらすぐ伝えるっす!幸いあいつは指名依頼が入って、遠出の長期任務になったから、しばらくは何もできないっす!」
 それを聞いてホッとした。一先ず安心だ。
 僕達はミゲルが持ってきたクッキーをつまみながら、その後の対策を話し合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

兄が媚薬を飲まされた弟に狙われる話

ْ
BL
弟×兄

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました

不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話 爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...