【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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イーザリア王国編

扇風機

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 休息日なのに、朝早くから目が覚めてしまった。春の終わりを感じるような暑さのせいだ。じんわりとかいた寝汗が気持ち悪い。
 こんな日は扇風機の風に当たりながら冷たいものを食べたい。
 特に予定もない。よし、今日は魔法で扇風機の真似が出来るか試してみよう。

「兄さんおはよう。今日何か予定ある?」
「特にない。武器の手入れと鍛錬くらいだ」
「僕はリビングで魔法の研究してるね」
「わかった」

 さて、実験開始である。まず生活魔法《微風》を常に出し続けることができるか確かめよう。魔力を多めに込め、微風を発動させる。一瞬そよそよと風が吹いたかと思ったらすぐに止んだ。
 わかってはいたが、やはり生活魔法はいくら魔力を込めても威力が強くなったりしない。
 弱目の風を常に安定して出し続けることを考えると、風属性魔法が最適だろう。僕は風属性魔法《風操》を、最小の威力で発動させる。すると、そこそこ強い風が室内で暴れてものが散乱してしまった。

「うわっ!」
「ルカどうした!?」
「ごめん威力調整間違えた」
「怪我しないようにな」
「ごめんね」
 思ったよりも風が強くてびっくりした。もっと威力を落とす必要がある。面白い、魔力制御の訓練だ。

 1時間後、完璧に使いこなせるようになった。弱めの風を魔法で出し続けるだけだが、これは扇風機といっても問題ないだろう。でもまだだ。やはり扇風機といえば首振り機能とタイマー機能をつけなければ。

 首振り機能はすぐにできた。魔法発動前に風の動きをイメージすればそのまま再現されるからだ。魔法発動後は風を動かせないので、前世の扇風機のような便利さはないが仕方ない。魔法発動後に力の指向を変えるのはかなり魔力を消耗するのだ。

 タイマー機能が本当に大変だった。魔力を予め込めておいて、術者がいなくても魔法の効果が続くようにする。簡単なことなのに、この実験だけでその日は終わってしまった。
 せっかくの休息日なのに、何をやってたんだろう。それでも扇風機に当たりながら冷たいものを食べることを目標にその後も実験を続けた。

 数日後、やっと完璧な扇風機の魔法が完成した。今日もそこそこ暑いから、冷たいものも美味しく頂けるだろう。暑い日を歓迎する日が来るなんて思わなかった。

 なぜタイマー機能をつける事に時間がかかったのか。この世界に魔力量を数字で表す概念がないからだ。某RPGでいうところのMPがないということだ。
 魔力が数値化されていれば、例えば魔力を10消費したら扇風機の魔法が1時間動くといったデータがとれる。それができないので、感覚を基に全部手探りで実験するしかなかった。
 何回も試行し、1時間扇風機の魔法を動かし続ける魔力量がやっと把握できた。
 全部終わった後にタイマー機能別に使わなくない?と思ったが今さらだ。

 扇風機の魔法が完成したので、冷たいデザートを作る。ハチミツレモンシャーベットにしよう。
 水とハチミツを鍋で熱しシロップを作る。そこに、レモン果汁を加えて凍らせる。凍り始めたら全体をかき混ぜる。これを何回か繰り返したら完成だ。

「兄さん休憩しようか」
「そうだな。何か風が吹いてないか?」
 僕は一通り扇風機について説明した。実験に苦労したことも話した。
「お疲れ様。すごい発想だな。たしかに涼しくて気持ちがいい」
「その風に当たりながら冷たいデザートを食べよう」
「氷菓子か。贅沢だな」

 この世界で氷は貴重だ。運ぶのが大変だし、氷の魔法は火と水の適性が必要で技巧もいるので術者が少ない。
 そのため、暑い日に冷たいものを食べる事は一種の贅沢なのだ。

 レモンシャーベットを一口食べる。爽やかな強い酸味と、後から追いかけるように現れる優しいハチミツの甘み。暑い日にぴったりの味だ。
 外で鍛錬をしていて、暑かったのだろう。兄さんが貪るようにシャーベットをかき込んだ。
 その直後痛みに耐えるように頭を押さえる。止めようとしたが間に合わなかった。

「ごめん、注意するの忘れてた。一気に食べると頭痛くなるよ」
「知らなかった」
「喉が急に冷えると、頭が痛くなるらしいよ。温かい紅茶を淹れてくるね」
「すまない」

 紅茶を用意しながら、子供みたいにシャーベットを頬張って頭がキーンとなった兄さんを思い出し、くすくす笑った。
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