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補足:回想

過去:イザベル②*

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※ディアンス帝国建国前のお話です。
※この話を読まなくても本編には何の影響もありません。
※本編の雰囲気を壊したくない方は読まない方がいいかもしれません。
※過去のお話なので暗いです。ご注意ください。




 初めての性交は激しかった。
 一度落ち着いてからすぐに私の部屋に行って朝方まで何度も何度も抱かれ続けた為に、翌日以降は起き上がることすらできなかった。

「イザベル、行ってくる」

 そう言って額に口づけを落としたルロワは颯爽と部屋を出ていき、再び戦場へと赴く。私はそれをベッドの中からぼんやりと見送りながら、再び目を閉じた。

 私の家には少しおかしな決まり事があった。嫡男は代々女性の名前を与えられた上で幼い頃から女性として扱われ、決して男性だと漏らしてはいけないというものだ。例に漏れず嫡男である私も、外では女性として振る舞っている。第二性がオメガであることや元々線が細く、華奢な体つきだったことが功を奏したのか、未だに男だとバレてはいない。
 
 一度母に、どうしてそんな決まりがあるのかと聞いてみたことがあった。今でも信じられないことなのだが、どうやらこの家に生まれる嫡男は何故か全員オメガ性らしく、婿を取りやすくするためなのだそうだ。
 また身体が弱い子が多かったようで、健康祈願も兼ねていたようだ。東の方にあるどこかの国に、悪い物は男の子――特に長男を狙うという言い伝えがあるらしい。体の弱い長男を元気で長生きさせたいという思いから女の子の格好をさせて育てるようになったという話を聞いた昔の当主が、この家にもその言い伝えを取り入れたのだと聞いた。

 まあ別に私としては何その言い伝えと言いたい所だが、今でもこの決まりがあるということはそれなりに効果があったのかもしれない。

 私が男だということはルロワとテオしか知らない。初対面の時は二人とも私のことを女の子だと思っていたらしいが、ある日三人揃って山で遭難しかけた時に男だとバレた。それからは二人とも秘密だと言って律儀にも守ってくれ、私は今も男だとバレずにいる。

「イザベル様、テオフィル様がいらっしゃいました」
「テオが……?ここに通して」
「かしこまりました」

 侍女の一人が私の部屋に入ってきてそう言った。私は閉じていた目を開けてぼんやりと天井を見つめながら、何か約束があっただろうかと考える。
 いや多分約束はしていなかったはずだが……もしかしてルロワとヤったのが知られたのか?

 コンコンと扉を叩かれ、返事と共にテオが室内に入ってきた。相変わらずの美丈夫だなと思いながら、ベッドの近くに置かれている椅子を進めると、彼はこくりと頷いて腰を下ろした。

「急に来るなんて珍しい……何かあった?」
「おいその髪……いやそれよりもイザベル、この香りはどうした?……まさか、発情期か?」

 侍女に手伝ってもらいながら上体を起こし、クッションに背中を預けるようにしてベッドに座る。テオを見ながら質問を投げかけると逆に質問が返ってきて、しかも言い当てる物だから面食らってしまった。やはりアルファにはこのフェロモンの香りがわかるらしい。

 テオは何も言わずに笑む私の姿に、眉を顰めながら袖で口元覆った。どうやら大分匂いがきついらしく顰めっ面になっている。

「……これは、出直した方が良さげだな……」

 そう言って椅子から立ち上がったテオはふらりとよろめき、扉近くの家具に手をついた。私から発せられるフェロモンが大分きついようで、テオの顔色はどんどん悪くなっていく。
 室内で控えていたもう一人の侍女にテオに手を貸してやって欲しいとお願いすると、彼女はすぐさまテオの元へと駆け寄り、肩を貸して部屋を出ていった。

 それから数日間は外にも出れず、ずっと室内で過ごしていたある日、私の耳に届いたのは朗報だった。長く続いた戦争が漸く終わり、この国を含め近隣の十数の小国が連なって新たに帝国を築くというのだ。
 主となるのは今私達がいる国であり、初代皇帝はルロワになるだろうとのことだった。私はやっと戦争が終わることにほっとすると共に、終戦にまで持ち込んだルロワの力量に感心していた。

 それから数年が経ち、ルロワを初代皇帝に据えたディアンス帝国が誕生し、時を同じくして私達は結婚した。
 この頃には私には何故か後天的に魔力属性が付与されていることがわかり、またそれが神にしか使うことができないとされた治癒魔法と浄化魔法であることがわかった。そのため人々はそんな私の事を聖女と呼び、初代皇帝と共に初代聖女が誕生したのである。

「イザベルが聖女……?」
「……まあ言いたいことはわからないでもない」
「見た目だけは儚い美女だが、中身がなあ……」
「テオにだけは言われたくないね」

 ふわりとした淡い水色のドレスに身を包んだ私の横で、私達と同じタイミングで教皇となったテオが正装に身を包んで苦笑しながら立っている。
 今私達は、城で開かれている建国記念パーティに来ている。初代皇帝となったルロワは護衛騎士達と共に挨拶に行っているので、私達とは別行動だ。

「……ねえ、テオは告白しなくても良かったの?」
「お前がそれを言うか?……生憎、人の物を取る趣味はない。ただ不幸にすることがあれば、その時は俺が貰うだけだ」
「!ふふっ……そうだね、うん、そうだ」

 くすくすと笑うと、同じようにテオも笑う。
 私達は同じ人を好きになった同士、きっと今まで以上に仲良くできそうだと思った。

 しかし、現実はそんなには甘くなかったのである。

 それはパーティから一ヶ月後のことだった。
 大聖堂で私とテオが一緒にいる時のこと、私は発情期になったのである。それは三ヶ月周期のはずだったにもかかわらず、前回から二ヶ月も立っていない今日、何故か突然発情期が起こった。

 私のフェロモンは人よりも強いらしく、アルファだけではなくベータすらも無差別に誘惑してしまうほどの濃さだ。結婚をしていたならば普通は番になっているはずなのだが、生憎私とルロワはタイミングがあわずにまだ番にはなれていなかった。
 こんなことになるならどうにかして番になっておくんだったと、今更ながらに後悔している。

 熱が籠り、敏感になった体は、衣服が肌に擦れるだけでも果ててしまいそうなほどに敏感になっている。その上最近は外交のためルロワが城におらず、行為自体も久しくしていない。そんな状態の私にとって、今の状況は最悪としか言いようがなかった。

 気付けば私はテオに抱かれていた。正気を失っているのか、それともアルファの発情期を誘発されたのかはわからない。だがテオの目はおかしかった。
 何度も何度も突かれ、イき、そして中に出される。その一連の行為をどのくらいしただろうか。いつの間にかテオだけではなく、私の香りに引き寄せられた通りすがりのアルファやベータさえも私をめちゃくちゃに犯していた。

「ふぐ、ぅっ……ん、んむ、ぐ、ッ」

 前も後ろもどこもかしこも、訳がわからなくなるくらい犯され続けている。二日目くらいからの記憶はない。
 ただ三日目くらいに正気を取り戻したテオが、死に物狂いで私のそばから逃げ出したらしい。その後体を清めたり気分を落ち着かせ、状況確認の為に再び私のところに来た時、彼は絶望したと言う。

「んあぁッ!もっとぉ……もっと、ちょうらい……っ」
「……イザ、ベル?」
「や、ああっ……きもひ……あ、あっ、イク、イっちゃ……ああぁッ!」

 予定よりも早く終えて帰ってきたルロワが、私が大聖堂にいると聞いてここにやってきてしまったのだ。
 ルロワの目の前には、十人ほどのアルファやベータ達と気持ち良さそうに乱れた妻である私の姿。もっともっとと求める姿は、彼の目にはどう映ったのだろう。テオもフェロモンに当てられていた時の記憶がなく、彼の目にはきっと私が悦んで腰を振っているように見えたのかもしれない。
 私には彼らを非難する事が出来ず、発情期が過ぎた後はひたすらに後悔に苛まれていた。

 それからルロワは「番になっておけば」や「イザベル……どうして」、「違う、イザベルは悪くない」という言葉を譫言のように繰り返し、心を壊していったようだ。そして皇帝となってたった数年ではあったが、一つ下の弟を新たな皇帝とする動きがあるらしい。
 らしい、というのは私はその後一切ルロワとは会えなかったからだ。全て伝聞、テオや監視の騎士たちから聞いた話である。

 私はというと、テオによって大聖堂内に隔離されていた。当たり前だ。テオの大切な人を傷つけておいて、私だけがのうのうと外で自由に生きていくのはおかしい。だから私はこの監禁ともいえるこの状況を甘受していたのだ。

「イザベル、お前の他に四人の聖女が見つかった。お前と同じホワイトブロンドの髪を持ち、後天的に聖属性の魔力が付与され、治癒魔法や浄化魔法が使えるオメガ性だ。彼らはお前の部屋の隣にいるが、くれぐれも外に出るなよ?」

 そう言われてこくりと頷くと、彼は私のいる部屋を後にした。時折隣の部屋から喘ぎ声が聞こえてくるが、私はただじっと天井を見続けた。
 
 
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