48 / 63
補足:回想
過去:イザベル②*
しおりを挟む※ディアンス帝国建国前のお話です。
※この話を読まなくても本編には何の影響もありません。
※本編の雰囲気を壊したくない方は読まない方がいいかもしれません。
※過去のお話なので暗いです。ご注意ください。
初めての性交は激しかった。
一度落ち着いてからすぐに私の部屋に行って朝方まで何度も何度も抱かれ続けた為に、翌日以降は起き上がることすらできなかった。
「イザベル、行ってくる」
そう言って額に口づけを落としたルロワは颯爽と部屋を出ていき、再び戦場へと赴く。私はそれをベッドの中からぼんやりと見送りながら、再び目を閉じた。
私の家には少しおかしな決まり事があった。嫡男は代々女性の名前を与えられた上で幼い頃から女性として扱われ、決して男性だと漏らしてはいけないというものだ。例に漏れず嫡男である私も、外では女性として振る舞っている。第二性がオメガであることや元々線が細く、華奢な体つきだったことが功を奏したのか、未だに男だとバレてはいない。
一度母に、どうしてそんな決まりがあるのかと聞いてみたことがあった。今でも信じられないことなのだが、どうやらこの家に生まれる嫡男は何故か全員オメガ性らしく、婿を取りやすくするためなのだそうだ。
また身体が弱い子が多かったようで、健康祈願も兼ねていたようだ。東の方にあるどこかの国に、悪い物は男の子――特に長男を狙うという言い伝えがあるらしい。体の弱い長男を元気で長生きさせたいという思いから女の子の格好をさせて育てるようになったという話を聞いた昔の当主が、この家にもその言い伝えを取り入れたのだと聞いた。
まあ別に私としては何その言い伝えと言いたい所だが、今でもこの決まりがあるということはそれなりに効果があったのかもしれない。
私が男だということはルロワとテオしか知らない。初対面の時は二人とも私のことを女の子だと思っていたらしいが、ある日三人揃って山で遭難しかけた時に男だとバレた。それからは二人とも秘密だと言って律儀にも守ってくれ、私は今も男だとバレずにいる。
「イザベル様、テオフィル様がいらっしゃいました」
「テオが……?ここに通して」
「かしこまりました」
侍女の一人が私の部屋に入ってきてそう言った。私は閉じていた目を開けてぼんやりと天井を見つめながら、何か約束があっただろうかと考える。
いや多分約束はしていなかったはずだが……もしかしてルロワとヤったのが知られたのか?
コンコンと扉を叩かれ、返事と共にテオが室内に入ってきた。相変わらずの美丈夫だなと思いながら、ベッドの近くに置かれている椅子を進めると、彼はこくりと頷いて腰を下ろした。
「急に来るなんて珍しい……何かあった?」
「おいその髪……いやそれよりもイザベル、この香りはどうした?……まさか、発情期か?」
侍女に手伝ってもらいながら上体を起こし、クッションに背中を預けるようにしてベッドに座る。テオを見ながら質問を投げかけると逆に質問が返ってきて、しかも言い当てる物だから面食らってしまった。やはりアルファにはこのフェロモンの香りがわかるらしい。
テオは何も言わずに笑む私の姿に、眉を顰めながら袖で口元覆った。どうやら大分匂いがきついらしく顰めっ面になっている。
「……これは、出直した方が良さげだな……」
そう言って椅子から立ち上がったテオはふらりとよろめき、扉近くの家具に手をついた。私から発せられるフェロモンが大分きついようで、テオの顔色はどんどん悪くなっていく。
室内で控えていたもう一人の侍女にテオに手を貸してやって欲しいとお願いすると、彼女はすぐさまテオの元へと駆け寄り、肩を貸して部屋を出ていった。
それから数日間は外にも出れず、ずっと室内で過ごしていたある日、私の耳に届いたのは朗報だった。長く続いた戦争が漸く終わり、この国を含め近隣の十数の小国が連なって新たに帝国を築くというのだ。
主となるのは今私達がいる国であり、初代皇帝はルロワになるだろうとのことだった。私はやっと戦争が終わることにほっとすると共に、終戦にまで持ち込んだルロワの力量に感心していた。
それから数年が経ち、ルロワを初代皇帝に据えたディアンス帝国が誕生し、時を同じくして私達は結婚した。
この頃には私には何故か後天的に魔力属性が付与されていることがわかり、またそれが神にしか使うことができないとされた治癒魔法と浄化魔法であることがわかった。そのため人々はそんな私の事を聖女と呼び、初代皇帝と共に初代聖女が誕生したのである。
「イザベルが聖女……?」
「……まあ言いたいことはわからないでもない」
「見た目だけは儚い美女だが、中身がなあ……」
「テオにだけは言われたくないね」
ふわりとした淡い水色のドレスに身を包んだ私の横で、私達と同じタイミングで教皇となったテオが正装に身を包んで苦笑しながら立っている。
今私達は、城で開かれている建国記念パーティに来ている。初代皇帝となったルロワは護衛騎士達と共に挨拶に行っているので、私達とは別行動だ。
「……ねえ、テオは告白しなくても良かったの?」
「お前がそれを言うか?……生憎、人の物を取る趣味はない。ただ不幸にすることがあれば、その時は俺が貰うだけだ」
「!ふふっ……そうだね、うん、そうだ」
くすくすと笑うと、同じようにテオも笑う。
私達は同じ人を好きになった同士、きっと今まで以上に仲良くできそうだと思った。
しかし、現実はそんなには甘くなかったのである。
それはパーティから一ヶ月後のことだった。
大聖堂で私とテオが一緒にいる時のこと、私は発情期になったのである。それは三ヶ月周期のはずだったにもかかわらず、前回から二ヶ月も立っていない今日、何故か突然発情期が起こった。
私のフェロモンは人よりも強いらしく、アルファだけではなくベータすらも無差別に誘惑してしまうほどの濃さだ。結婚をしていたならば普通は番になっているはずなのだが、生憎私とルロワはタイミングがあわずにまだ番にはなれていなかった。
こんなことになるならどうにかして番になっておくんだったと、今更ながらに後悔している。
熱が籠り、敏感になった体は、衣服が肌に擦れるだけでも果ててしまいそうなほどに敏感になっている。その上最近は外交のためルロワが城におらず、行為自体も久しくしていない。そんな状態の私にとって、今の状況は最悪としか言いようがなかった。
気付けば私はテオに抱かれていた。正気を失っているのか、それともアルファの発情期を誘発されたのかはわからない。だがテオの目はおかしかった。
何度も何度も突かれ、イき、そして中に出される。その一連の行為をどのくらいしただろうか。いつの間にかテオだけではなく、私の香りに引き寄せられた通りすがりのアルファやベータさえも私をめちゃくちゃに犯していた。
「ふぐ、ぅっ……ん、んむ、ぐ、ッ」
前も後ろもどこもかしこも、訳がわからなくなるくらい犯され続けている。二日目くらいからの記憶はない。
ただ三日目くらいに正気を取り戻したテオが、死に物狂いで私のそばから逃げ出したらしい。その後体を清めたり気分を落ち着かせ、状況確認の為に再び私のところに来た時、彼は絶望したと言う。
「んあぁッ!もっとぉ……もっと、ちょうらい……っ」
「……イザ、ベル?」
「や、ああっ……きもひ……あ、あっ、イク、イっちゃ……ああぁッ!」
予定よりも早く終えて帰ってきたルロワが、私が大聖堂にいると聞いてここにやってきてしまったのだ。
ルロワの目の前には、十人ほどのアルファやベータ達と気持ち良さそうに乱れた妻である私の姿。もっともっとと求める姿は、彼の目にはどう映ったのだろう。テオもフェロモンに当てられていた時の記憶がなく、彼の目にはきっと私が悦んで腰を振っているように見えたのかもしれない。
私には彼らを非難する事が出来ず、発情期が過ぎた後はひたすらに後悔に苛まれていた。
それからルロワは「番になっておけば」や「イザベル……どうして」、「違う、イザベルは悪くない」という言葉を譫言のように繰り返し、心を壊していったようだ。そして皇帝となってたった数年ではあったが、一つ下の弟を新たな皇帝とする動きがあるらしい。
らしい、というのは私はその後一切ルロワとは会えなかったからだ。全て伝聞、テオや監視の騎士たちから聞いた話である。
私はというと、テオによって大聖堂内に隔離されていた。当たり前だ。テオの大切な人を傷つけておいて、私だけがのうのうと外で自由に生きていくのはおかしい。だから私はこの監禁ともいえるこの状況を甘受していたのだ。
「イザベル、お前の他に四人の聖女が見つかった。お前と同じホワイトブロンドの髪を持ち、後天的に聖属性の魔力が付与され、治癒魔法や浄化魔法が使えるオメガ性だ。彼らはお前の部屋の隣にいるが、くれぐれも外に出るなよ?」
そう言われてこくりと頷くと、彼は私のいる部屋を後にした。時折隣の部屋から喘ぎ声が聞こえてくるが、私はただじっと天井を見続けた。
1
お気に入りに追加
648
あなたにおすすめの小説
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
転生したら召喚獣になったらしい
獅月 クロ
BL
友人と遊びに行った海にて溺れ死んだ平凡な大学生
彼が目を覚ました先は、" 聖獣 "を従える世界だった。
どうやら俺はその召喚されてパートナーの傍にいる" 召喚獣 "らしい。
自称子育て好きな見た目が怖すぎるフェンリルに溺愛されたり、
召喚師や勇者の一生を見たり、
出逢う妖精や獣人達…。案外、聖獣なのも悪くない?
召喚師や勇者の為に、影で頑張って強くなろうとしてる
" 召喚獣視点 "のストーリー
貴方の役に立ちたくて聖獣達は日々努力をしていた
お気に入り、しおり等ありがとうございます☆
※登場人物はその場の雰囲気で、攻め受けが代わるリバです
苦手な方は飛ばして読んでください!
朔羽ゆきさんに、表紙を描いて頂きました!
本当にありがとうございます
※表紙(イラスト)の著作権は全て朔羽ゆきさんのものです
保存、無断転載、自作発言は控えて下さいm(__)m
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる