男ですが聖女になりました

白井由貴

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本編

8話*

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「あ……あ、あんっ……あう……ッ」

 ゆさゆさと体を揺さぶられる度に喉から嬌声が溢れる。
 自分が今何をしているのか、ここはどこで、今がいつなのかすらもはっきりとはわからない。

 ずっと全身を快楽が襲っている。
 気持ちがいい、もっと……と全身が更なる快感を求め続けて痙攣が止まらない。だらしなく開いた口からは飲みきれなかった唾液が溢れ、身体やコンクリートの床を汚していく。

 身体が熱くて堪らない。いっぱい気持ちのいいことがしたい、いっぱい誰かと触れ合いたいと本能が訴えている。これがヒートと呼ばれる発情期だと気付いたのはいつだっただろうか。

「ひゃあうっ!あっ、あ、きもちぃ……んむっ!」
「くっ、出るっ!」

 ヒートが始まってからかなり強いフェロモンが出ているらしく、この部屋の前を通った人達がみんな熱に浮かされたような顔で何人も入ってきてはずっと俺を犯し続けている。ずっとずっと減ることのない人の数。俺は休む暇もなくずっと中に出され、刺激を与えられ続けている。

 集まった人たちは全員アルファかと言えばそうではない。数人はベータのようだった。ここにいるアルファ達は皆、俺の強いフェロモンによってアルファの発情期であるラットを誘発されたらしく、全員が本能のままに抱いてくる。俺も俺で、ヒート中はずっとセックスのことしか考えられなくて、ずっとイキ続けている気がする。

 後孔と口にはそれぞれアルファの大きくて硬い陰茎が抽挿され、俺の貧弱な陰茎は誰かの口によって扱かれている。胸や足も舐められたり触られたりしているせいか、どこもかしこも頭がとんでしまうくらいの快感に包まれていた。

「うぐっ、う、んんっ!んむっ、ん、ん――ッ!」
「う、く……はは、気持ちいいかよ!」
「もっと口動かせ!おら!」

 ヒートのせいでずっと快感に溺れているから、このまま馬鹿になってしまう気さえしてくる。多分もう俺は壊れてしまったのかもしれない。気持ち悪いとか怖いとか痛いとか、そんな負の感情よりも、気持ち良くなりたいだとかもっとほしいだとか獣のようにセックスを求めている。

 ――ああ、何だったっけ?
 俺何でこんなことしてるんだっけ?ああ、気持ちがいい。早く中にちょうだい、いっぱい、もっと。



 そんな快感に溺れるだけだった時間は突然終わりを告げた。

 ヒートが終わってからもラットを誘発されたアルファは止まらなかったが、俺のフェロモンで発情していただけのベータ達はヒートが終わってしばらくすると正気に戻り、そそくさと出ていった。その出て行ったベータ達が誰かに伝えてくれたお陰か、俺は漸くこの快楽地獄から抜け出すことが出来たのだ。

 しかしずっと全身を犯され続けていたせいか、過ぎた快感から未だ降りてこられずにいる。
 
 俺は一日中何度も中に出され続けたせいで、下腹部がぽっこりと膨れ上がっている。ヒート中のオメガは妊娠の確率がグッと上がると言われているので、司教達は俺の様子を見て急いで最近作り出された帝国内で一番強いとされるアフターピルを俺に服用させた。

 このアフターピルは最近大聖堂内の優秀な魔導士達が作り出したもので、ヒート中の中出し等の性交渉に限り一週間以内であれば約8割が避妊できるという優れものである。しかし効果が大きい代わりに副作用も酷く、治験段階では死に至った事例や脳に異常をきたす事例もあったらしい。
 一応毎日避妊薬を飲まされていたが、念の為だと言っていた。それもこれも聖女が陵辱されて妊娠したとあれば国の一大事になるので、どうにか妊娠を回避したいとの想いからだろう。
 
 そうして司教達は聖女が陵辱されたことを隠すため、再び俺を軟禁した。

 体を綺麗に清められ、ふかふかのベッドに寝かされると、不眠不休で性交をしていたからかすぐに眠ってしまった。寝足りないのか目が覚めてもまだ俺の頭はふわふわとしていて、何も考えられずにまるで幼子のようになってしまったのだが、それでも聖女の役目が免除されることはなかった。

 流石に人の命にも関わるポーションの作成と他の人に姿を見られてしまう恐れがある礼拝は免除となったが、こんな状態でも出来る奉仕だけは続けられた。

「んむ……ん、んんっ」
「……はあ……上手だねラウルちゃん」
「ん……んむっ、ん、んぐッ!」
「く、っ……ほら、全部飲んで」

 軟禁されてからは朝昼晩と一日中奉仕をすることになり、今日はすでに二人目だ。ユイットと名乗った人物は俺が陰茎を咥える姿が好きだと言って、ずっと陰茎を口の中に入れられている。口内に射精をすれば必ず飲んでくれと言われ、拒否をすれば喉の奥を陰茎で突かれて無理矢理に飲まされた。

 あのアフターピルの副作用か、それとも精神的なものなのかは定かではないが俺の味覚はなくなり、常に頭はぼんやりとしていた。そのお陰かはわからないが、こうして無理矢理に精液を飲まされたとしても吐き気を催さなかったのかもしれない。

 今日の晩はないのだと、ユイットは言っていた。明日の夜は皇族が俺に会いに来るからその準備のために一日は何もせず、ただ綺麗にして過ごすようにとのことらしい。

 ユイットは出したばかりの陰茎を俺の口から引き抜いて、俺を押し倒した。膝裏を抱えながらひくひくと疼く後孔にあてがった後、ずぷんっと一気に中に入れる。びくびくと小さく痙攣しながらイくと、可愛いと言われてキスをされた。
 俺の膝を抱えたまま腰を激しく打ちつけて、絶頂を迎えると同時に熱を注ぎ込まれていく。そして射精が落ち着くとまた抽挿が再開し、ぐちゅんぐちゅんと卑猥な水音を上げながら俺を突き上げた。

「ひあっ……ああっ、ん、あうっ」
「夜からは、できないから、今のうちに、いっぱい出しておくね……っ」
「ふ、あぁ……ッ」
「その蕩けた顔、最高だね」

 ユイットはそう言って俺の中に精を放った後、俺の胎内から自分の陰茎を引き摺り出した。そのわずかな刺激にさえ反応し、果ててしまいそうなほどに敏感になった体を見た彼は、喉の奥でくくっと笑う。

 そしてそのまままた眠りについてしまい、起きた時にはもう次の日のお昼だった。

 誰かが綺麗に清めてくれたようで、全身の表面は愚か、胎内に出された精液も殆どが出されていた。俺は空っぽになった下っ腹を撫でながらベッドに寝転んで目を瞑る。
 ずっと頭はぼんやりとしている。今もまだ快楽に犯されているのか、目も虚ろだった。



 扉をノックする音に意識が浮上する。
 この部屋には時計はあるけれども窓はない。窓はないというよりも、存在していたはずの窓は全て外側と内側から塞がれている状態である。だから今が朝なのか夜なのかが分からずに、ぼんやりとノックがされた扉を見つめた。

 入ってきたのはシルバーアッシュの髪とミルキーブロンドの瞳を持つ美丈夫だった。すらりとした身体には薄らと筋肉がついている。

 へらりと笑うと、相手が息を呑んだのがわかった。どうかしたのだろうかと首を傾げながら見ていると、その人は後ろに控えていた人達に何か声をかけた後、扉を閉めてこちらに近づいてくる。ぴくっと無意識に震えた身体に相手は気づかなかったようで、ベッド脇に置いてあった椅子を引き寄せてそこに腰掛けた。

「……まさか、君が聖女だったなんて……」
「……?」

 ぽつりと呟かれた声に首を傾げると、熱のこもった瞳を向けられた。その瞬間、俺の中の何かが何かを訴えるように暴れ回り、思わず胸を押さえて蹲る。

 今のは何だ?あれ、なんで涙が……?

 突然生まれた自分の感情に訳がわからず、涙をポロポロと零しながら目の前で心配そうな顔をしている美丈夫を見上げた。

「だ、大丈夫か?どこか痛いのか?」
「……っ」
「ラウル……?」

 ――ああ、この声だ。

 ラウルと呼ばれた瞬間、脳裏に浮かんだのは逃げ出した日の光景。一緒に大衆居酒屋で美味しいご飯を食べたり、その二階で食休みをしながらたくさんのお話をしたあの日のことを、俺はやっと思い出した。

 涙が溢れ出して止まらない俺に、その人はあたふたと慌てながらも自分の服で俺の目元を拭ったり抱きしめたりしてくれる。俺は何でこの温もりを忘れていたんだろうか。

 そうだ、この人の名前は。

「……りあむ」
「!……ラウル、覚えててくれたんだな」

 瞳に光が宿るのを感じた。
 ぎゅうっと包み込むように抱きしめられ、その温かさに嬉しくて幸せで涙が止まらない。リアムの首元にぐりぐりと甘えるように頭を擦り付けると、擽ったそうな笑い声が上から降ってきて、心が温かくなる。

「ラウルが聖女だと知っていれば、あの日に俺が攫ってしまえたのに」
「……俺も、リアムが皇子だって知らなかった」
「会えて嬉しい」
「俺も、嬉しい」

 離れてからそんなに日数は経っていないはずなのに、もう長い間会っていなかったように感じる。リアムの胸元に顔を埋めてすんと嗅ぐと、リアムから良い香りがした。優しい爽やかな香りが、俺の頭から霞を祓っていく。

 リアムはこの国の第三皇子だった。
 あの日はお忍びで城下に遊びに来ていて、偶々ゴロツキに絡まれていた俺を見つけたのだとか。最初は良くあるいざこざだと見て見ぬ振りをしようとしたが、黒いローブから見えた腕があまりにも細くか弱そうに見えて思わず助けてしまったらしい。
 頭より先に身体が動いていたと笑いながら言っているが、そのお陰でリアムと会うことが出来たのだから感謝しかない。

「ラウルは……ここから逃げ出したんだっけ?」
「うん……役目が嫌で、逃げた」
「なら、第三皇子という立場から逃げ出そうとした俺と一緒だな」

 逃げられなかったけど、と続けてリアムは苦笑う。

「聖女は唯一聖属性魔法が使えるから引くて数多だろうな……魔力の使い過ぎで疲れてはいないか?」
「だ、大丈夫……ありがと」

 魔力を気遣ってくれるリアムの言葉や表情からは、性的なものを一切感じない。その時ふと思った。もしかして彼は皇族だけど聖女の役目の一つである『皇族や大聖堂への奉仕』を知らないのでは?と。仮に知っていたとしたら、魔力だけでなく身体も気遣われるはず。

 もし本当にそうなら、俺がしていることの殆どをリアムが知らないことになる。犯され続けて汚れてしまった俺を、リアムが知らないということが嬉しい。でもこんな汚れた俺が綺麗なリアムに触ったら汚してしまう気がして、俺はそっと体を離した。
 汚い俺に触らないで、リアムは何も知らない綺麗なままでいてくれと心の中で何度も唱えながら、下手くそな笑みを浮かべた。

「そう言えばどうしてこの部屋の窓は塞がっているんだ?」
「ええと……それは多分、俺が窓から逃げ出したから……?」
「なるほど?……それでも、こんな窓が一つもない部屋にずっといるのは身体に悪い気がするんだが……」
「……俺はこうしてリアムに会えるだけで元気になれるよ」

 そう本音を溢すと、目の前のリアムは喉を詰まらせたような声を出した後、両手で顔を覆って天を仰いでいた。急に苦しそうな声を出したリアムに驚いたが、そんな姿も絵になっているなと笑いながら、俺はちらりと時計を見た。
 現在の時刻は8時半頃。第三皇子であるリアムがこの部屋に来たということは今は夜。リアムがいつまでここにいてくれるのかわからないけれど、出来れば朝まで一緒にいたいと思った。

 リアムと会えたことによって、漸く現実に戻って来れたような気がする。この穏やかで幸せな時間が、壊れていた心を治癒してくれているのかもしれない。あまりの心地良さに、このままリアムといさせてほしいと心が訴えている。

「リアム、俺……リアムともっと一緒にいたい」
「うん、俺もだ。……ああ、本当にこのまま攫って……いやそれは流石に無理か……まだ時間はあるし、今日はいっぱい話をしよう」
「……まだここにいてくれる?まだ、こうしていられる?」

 不安そうに聞いた俺に、リアムは驚いたように目をぱちくりと瞬かせたあと、柔和な笑みを浮かべて頷いた。それにホッとした途端また涙が溢れてきて、布団を濡らしていく。

 ラウルは泣き虫だったんだねと穏やかな声音で囁かれ、かあっと顔が熱くなる。泣き虫ではなかったはずなんだけど、と思いながらも涙は止まらない。

「ふふ、本当に可愛いなあ。そうだな……じゃあラウルが落ち着くまで俺の話でもしようか」

 そう茶目っ気たっぷりに言うリアムにこくこくと頷くと、リアムはくすりと笑って、俺との距離を少し詰めた。

「実は俺、自分の意思で今日ここに来たわけじゃないんだ。本当は聖女に興味がなかったし、会いたいわけじゃなかった。でも周りが聖女に会えと言って煩くて渋々……でも今は来て良かったと思ってる。ラウルにまた会えたことが本当に嬉しいんだ」
「……どうして聖女に会いたくなかったんだ?」
「どうして、か……散々煩く言われていたから辟易していたのもあるし、会ってどうしろって言うんだと思っていた。意地でも会いたくないとか思っていたな」

 リアムは周囲に「新しい聖女は第三皇子とも年齢が近いですから、きっとうまくいきますよ」と何度も繰り返し言われ、辟易していたのだと言う。上手くいくってなんだよ、何が上手くいくんだよとずっとイライラしていたらしい。でも今日俺に会え、こうして穏やかで幸せな時間を過ごしたことで、少しばかり言われた言葉に納得出来たのだとリアムは笑った。

 俺はその言葉を聞いて、その周囲の人達の言わんとしていることがわかり、胸がちくりと痛んだ。
 今俺達がしなければならないのは穏やかに過ごすことではなく、恐らく性行為なのだろう。聖女である俺と繋がることによって、もしリアムが特殊属性を持っていれば魔力の量や質を上げることが出来る。既に優秀なリアムをさらに優秀にするための言葉だと気付いたが、俺は敢えて口には出さなかった。

 言わないことが駄目なことくらいわかってる。聖女の役目を放棄するなと頭の中で何かが喚いているが、それでも俺の汚い部分や汚れてしまった身体を知られたくなかった。

 リアムは幸せそうな表情で俺を見つめている。
 この蕩けるような美しい瞳に侮蔑の色が加わるところを見たくないという俺の我儘を、どうか許してほしい。

「ラウル、もし君さえ良ければ毎週この曜日この時間にこうやって会ってもらえないかな?」
「俺も……っ、あ、でも……俺だけじゃ決められない、かな。大聖堂の人達に聞かないと……」
「なら司教達に言ってみようか。多分大丈夫だと思うけどね。これでも一応皇子だから無碍にはされないだろうし。それに俺が君に興味があると知られていた方が、これから先色々なことがやりやすくなるだろう。こうして君に会うことが出来たり、ね」

 人差し指を唇に当てたリアムが悪戯気に笑う。
 もう会えないかもしれないと思っていたのに、これからもこうして会えるかもしれないという事実に、初めて自分が聖女であることを喜んだ。

「ラウルはどうしたい?」
「俺も会いたい!リアムと、一緒にいたい!」

 リアムが聖女の役目について正しく知るその時まで、こうして穏やかな時間をリアムと過ごしたい。

 こくこくと全力で頷く俺を見て、リアムはとても幸せそうに笑った。

 
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