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絶倫男爵様に心からお詫びを…
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換気の間、わたし達もバックステージに下がって休憩を取ることになった。
判定アウトになった人々が会場から去り、ホールの人口密度がかなり下がったので、一息つくにはちょうど良いタイミングでもあった。
ずっと立ちっぱなしだったこともあり、座り心地の良い椅子が有り難い。
座るとすぐにケータリングの飲み物が何種類か運ばれてきて、「ミカンと桃、それからリンゴのジュース、赤と白のブドウジュースもございます」と、まるで飛行機の機内サービスのよう。白ブドウを選ぶと、爽やかなマスカットジュースで美味しかった。
周りも皆好きなものを貰ってノドを潤している。わたしの前後左右の護衛は、同じ配置のままマッタリと過ごしていた。
致し方ないことではあるけれど、周りで情報交換されている内容は、神薙の杖の試練で起きたことが中心だった。
巷で絶倫だと噂されていた何処かの男爵様が、一回のキノコ爆発では済まず大変なことになり、近くにいた騎士が救護室へ運び込んだらしい。
魔力量が規定量をやや下回っていたせいで人一倍ひどい目に遭ったようだ。しかも、絶倫の噂が本当であることを証明する結果になってしまっている。
なんだか、事件の容疑者にでもなったような気分だった。
のんきにジュースなんか飲んでいて良いのかしら……。
「リアの前で下品な話をするな!」
不機嫌そうなヴィルさんが、わたしの耳を両手でふさいだ。
もう全部聞いてしまった後なのに……、やはり彼はチョット天然だ。
心配そうにわたしを見つめるエメラルドの瞳に、なんとも言えない罪の意識を感じた。なにせわたしは「絶倫男爵の連続キノコ爆破事件」などというタイトルで、先程の出来事を原案とした脳内テレビドラマを作って頭の中で絶賛放映中だったのだ。
とても彼には言えない。「見ざる」と「聞かざる」には失敗したので、「言わざる」だけは頑張ることにした。
程なくして、絶倫男爵様が入院したという報せが届いた。同情した陛下が「何か届けてやれ」と言ったので、わたしも連名でお見舞いを届けて頂くようお願いした。
人生で初めて、人を病院送りにしてしまった……。申し訳ございません(泣)
休憩が明け、再び出ていって陛下のちょっとしたお話が終わると、全員とのご挨拶タイムが始まった。
あらかじめ「家族や兄弟はまとまって挨拶を」とお達しが出ていたので、おじいちゃん・お父さん・夫候補の息子さんという三人セットか、お父さんと息子さんの組み合わせが多い。
文官が「ナントカ伯家の皆さまです」「ナンチャラカチャラのダレソレ様です」と、リストを読み上げて紹介してくれる。
気になった人がいたら覚えておくようにと言われていたものの、わたしの脳みその残念な仕様により、それは困難だった。
こんな短い時間では、まず気にならないし、その上まったく覚えられない。どうも昔から人の名前を覚えるのは苦手だ。
ヴィルさんの苗字も、既に怪しい感じになってきている。
ラ行なのは間違いない(さっきも言った)
リンドバーグでしたっけ? レン、ラン……、ランドリーだったかな。
ヴィルヘルム・ランドリー?
なんか違う。そんなヘルメットの洗濯屋っぽい名前ではなかった気がする……
ダメだ。あとでイケ仏様にコッソリ聞こう。
来客の皆さんは素敵な方ばかりだ。
この王国はイケメンとイケオジしかいらっしゃらないのかと思うくらい素敵だ。
でも、わたしの周りにいる人達が異常すぎた。イケ過ぎている仏像とか、羽みたいに軽いダンディーとか、ド天然の国宝イケメンとか、グルメで優しいイケオジとか……。周りが個性的すぎて、そのくらいガツンと来るものがないと、挨拶程度では記憶に残らないのだ。
短い会話なら交わしても良いことになっているので、そこで個性を出してくれたなら有り難いのだけれども、残念ながら皆さん同じような服を着て、通り一遍の挨拶をしていく。
「初めまして」のインパクトで、オーディンス副団長の長細いメガネ岩に匹敵する人は一人もいなかった。
イケ仏様をチラリと見た。
ノーメガネのせいで仏像風味が消え失せている彼が「ん?」と眉を上げた。
うぐ、格好良すぎる。
不用意に見てはダメなやつだったと反省し、ふるふると首を横に振った。
なんでもないです。ちょっと退屈になってきてしまっただけです。と、心の中で言う。
ヴィルさんを見た。
ペカーっと眩しい笑顔が放たれる。
彼は多分、笑顔だけで世界を癒す力があると思う。
つまらなくてイジイジしながら、残り何組ぐらいいるのだろうと順番待ちの行列を見てみると、そこに一人だけ見知った顔があった。
やややっ、あのお方は。
判定アウトになった人々が会場から去り、ホールの人口密度がかなり下がったので、一息つくにはちょうど良いタイミングでもあった。
ずっと立ちっぱなしだったこともあり、座り心地の良い椅子が有り難い。
座るとすぐにケータリングの飲み物が何種類か運ばれてきて、「ミカンと桃、それからリンゴのジュース、赤と白のブドウジュースもございます」と、まるで飛行機の機内サービスのよう。白ブドウを選ぶと、爽やかなマスカットジュースで美味しかった。
周りも皆好きなものを貰ってノドを潤している。わたしの前後左右の護衛は、同じ配置のままマッタリと過ごしていた。
致し方ないことではあるけれど、周りで情報交換されている内容は、神薙の杖の試練で起きたことが中心だった。
巷で絶倫だと噂されていた何処かの男爵様が、一回のキノコ爆発では済まず大変なことになり、近くにいた騎士が救護室へ運び込んだらしい。
魔力量が規定量をやや下回っていたせいで人一倍ひどい目に遭ったようだ。しかも、絶倫の噂が本当であることを証明する結果になってしまっている。
なんだか、事件の容疑者にでもなったような気分だった。
のんきにジュースなんか飲んでいて良いのかしら……。
「リアの前で下品な話をするな!」
不機嫌そうなヴィルさんが、わたしの耳を両手でふさいだ。
もう全部聞いてしまった後なのに……、やはり彼はチョット天然だ。
心配そうにわたしを見つめるエメラルドの瞳に、なんとも言えない罪の意識を感じた。なにせわたしは「絶倫男爵の連続キノコ爆破事件」などというタイトルで、先程の出来事を原案とした脳内テレビドラマを作って頭の中で絶賛放映中だったのだ。
とても彼には言えない。「見ざる」と「聞かざる」には失敗したので、「言わざる」だけは頑張ることにした。
程なくして、絶倫男爵様が入院したという報せが届いた。同情した陛下が「何か届けてやれ」と言ったので、わたしも連名でお見舞いを届けて頂くようお願いした。
人生で初めて、人を病院送りにしてしまった……。申し訳ございません(泣)
休憩が明け、再び出ていって陛下のちょっとしたお話が終わると、全員とのご挨拶タイムが始まった。
あらかじめ「家族や兄弟はまとまって挨拶を」とお達しが出ていたので、おじいちゃん・お父さん・夫候補の息子さんという三人セットか、お父さんと息子さんの組み合わせが多い。
文官が「ナントカ伯家の皆さまです」「ナンチャラカチャラのダレソレ様です」と、リストを読み上げて紹介してくれる。
気になった人がいたら覚えておくようにと言われていたものの、わたしの脳みその残念な仕様により、それは困難だった。
こんな短い時間では、まず気にならないし、その上まったく覚えられない。どうも昔から人の名前を覚えるのは苦手だ。
ヴィルさんの苗字も、既に怪しい感じになってきている。
ラ行なのは間違いない(さっきも言った)
リンドバーグでしたっけ? レン、ラン……、ランドリーだったかな。
ヴィルヘルム・ランドリー?
なんか違う。そんなヘルメットの洗濯屋っぽい名前ではなかった気がする……
ダメだ。あとでイケ仏様にコッソリ聞こう。
来客の皆さんは素敵な方ばかりだ。
この王国はイケメンとイケオジしかいらっしゃらないのかと思うくらい素敵だ。
でも、わたしの周りにいる人達が異常すぎた。イケ過ぎている仏像とか、羽みたいに軽いダンディーとか、ド天然の国宝イケメンとか、グルメで優しいイケオジとか……。周りが個性的すぎて、そのくらいガツンと来るものがないと、挨拶程度では記憶に残らないのだ。
短い会話なら交わしても良いことになっているので、そこで個性を出してくれたなら有り難いのだけれども、残念ながら皆さん同じような服を着て、通り一遍の挨拶をしていく。
「初めまして」のインパクトで、オーディンス副団長の長細いメガネ岩に匹敵する人は一人もいなかった。
イケ仏様をチラリと見た。
ノーメガネのせいで仏像風味が消え失せている彼が「ん?」と眉を上げた。
うぐ、格好良すぎる。
不用意に見てはダメなやつだったと反省し、ふるふると首を横に振った。
なんでもないです。ちょっと退屈になってきてしまっただけです。と、心の中で言う。
ヴィルさんを見た。
ペカーっと眩しい笑顔が放たれる。
彼は多分、笑顔だけで世界を癒す力があると思う。
つまらなくてイジイジしながら、残り何組ぐらいいるのだろうと順番待ちの行列を見てみると、そこに一人だけ見知った顔があった。
やややっ、あのお方は。
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