ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はじめての……じゅうに

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雪兎に十分な量の食事を摂らせることが出来た。俺と雪風は達成感からハイタッチをし、雪兎は口元を拭うとまたすぐに俺の胸に顔を埋めた。

「ユキぃ……真尋の乳に埋もれていたい気持ちは分かる、激しく分かる、でもなぁ」

「乳じゃない、ただの筋肉だ」

「でもなぁ……でもな、ユキ……お父様をガン無視ってのはないんじゃないか!? 俺だってしまいにゃ傷付くぞ!」

怒るんじゃなく傷付くだけなのか。

「ユキ……」

それでも返事をしない雪兎にガックリと落ち込んだ雪風は、何故か唐突にスマホを弄り始めた。まさか「息子 無視する なぜ」とか調べているのではないだろうか。検索結果は反抗期の子供への接し方なんて記事ばかりだろうな。

「…………真尋」

雪風は俺にスマホを向けた。そこに書かれた文面を読んだ俺は雪風の目を見つめて頷いた。

「よし……俺、またちょっと出てくるわ。寝る時はまた来るから」

「ん。またな、雪風」

「悪いな一緒に居られなくて」

雪風はそう言うと空の食器を積んだカートを部屋の外へ出し、自分も外に出たような足音を立て、静かに部屋へと戻った。

「……雪風、帰っちゃいましたね」

布擦れの音すら気にして扉の前から動けずに居る雪風を見ながら、雪兎に囁く。

「うん……」

雪兎は上手く雪風が帰ったと信じ込んでくれたようだ。

「ユキ様はどうして雪風にお返事すらなさらなかったんです? 一応父親でしょう?」

一応とは何事だと言いたげに雪風が俺を睨んでいる。

「父親…………うん、父親だから、だよ」

「……だから、とは?」

「僕……人、殺しちゃったから。生き物には使っちゃダメって言われてきたのに……なのに、しちゃった、悪い子だから……とってもとっても、悪い子だから…………一緒に殺したポチはいいけど、パパはダメなの。もう、お喋りしちゃ……ダメ、で…………ぅ、え……うぇええぇんっ……ひっく、ひっく……ぽち、ぽちぃ……行かないで、どこにもいかないでぇっ」

「……どうしたんです急に。俺はどこにも行ったりしませんよ」

泣き出してしまった雪兎を慌てて宥める。やはり精神状態が非常に不安定だ、こんなことならカウンセリングの勉強でもしておけばよかった。そう後悔しながらただ雪兎を抱き締めていると、走ってきた雪風がベッドに飛び乗った。

「ユキ! ユキっ……雪兎!」

「へっ!? ひゃっ!? 雪風っ!? なんでっ、か、帰ったって……」

「こっそり聞き耳立ててたんだよ! なんだよお前ぇ……ユキが悪い子な訳ないだろ! こんないい子この世のどこを探したって他に居るもんか! ユキ、お前は俺の息子だ、世界一! 最高の息子なんだ! お前が何殺したって知るもんか! お前の父親辞める気なんかないからな!」

「え、ぇ……えっと……僕」

「お喋り、してくれるな? 俺のこともう無視しないな?」

「…………ごめんなさい。無視、して……ごめんなさい」

「……分かってくれたらいいんだ。泣かなくていい。謝らなくていい……ユキ、大丈夫……何があったって、何をしたって、俺はお前の味方だよ」

長らく父親の役目を果たしてこなかったとはいえ親子とはやはりすごいもので、雪兎は雪風の腕に抱かれるとすぐに眠った。帰ってきてから寝てばかりだ。現実逃避願望の表れだろうか?

「ふぅ……寝たな。凄腕のカウンセラーを呼んである、明日以降カウンセリングを受けさせるとするか。真尋……そいつは昔からの顔馴染みだ、そう怖い顔するなよ。警戒し過ぎだ。雪兎に会わせる前に念の為に俺と親父で最終チェックもするしな」

雪風は眠った雪兎をベッドに下ろし、胡座をかいていた足を伸ばしてくつろぎ始めた。

「……俺がカウンセリングの場に付き添うのは」

「ダメだ。一人で受けるもんだろああいうのは、お前が居ると上手くいかない」

「…………そうか」

「あぁ。お前は? 明日からどうする? 雪兎に着いてるか、秘書修行も戦闘訓練もひとまずお休みだな」

「あぁ、全特訓休止だ。帰国したら國行に会いに行こうかと思ってたんだけど、それもしばらくはダメそうだな」

「國行くん、従弟だっけか。お前にそんなに可愛がる親戚が居るってのは何か不思議な気分だぜ、雪兎のことしか考えてねぇのかと思ってた」

「……ポチはそうだな。真尋は違う、前からの人間関係も……新しい恋も、愛も……ある」

雪風の肩を掴み、ベッドに押し倒す。雪風は妖艶な笑みを浮かべて俺の首に腕を回し、口付けを受け入れた。
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