ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はじめての……じゅういち

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俺の胸に顔を押し付けて、また大人しくなってしまった雪兎の頭を撫でる。絹糸のような白髪は俺の指の間を優しく通り抜けていく。あの男の血は雪兎の髪を痛めることすら出来なかったらしい、当たり前だ。

「ポチ、あったかい……」

だが、雪兎の心を深く傷付けることに成功した。それが腹立たしい。これはただの嫉妬だ。

「ユキ様、せっかく家に帰ってこれたんです。これからもずっと一緒ですし……何か、しませんか? 楽しいこと。落ち込んでる時はそれが一番です」

掴めてしまう太腿を撫で、揉む。内腿を重点的に刺激し、手の甲で性器を押し上げて、誘う。

「……ね、ユキ様」

久しぶりに邸宅に戻ってきた俺の身体は疼いていた。躾けて欲しい。拘束して、人の言葉を奪って、乳首をちぎれそうなくらいに痛めつけて、後孔を玩具で蹂躙して、精液を搾り尽くして、強い苦痛と快楽に喘ぐ俺を踏みつけて欲しい。

「ユキ様ぁ……」

ここで行われた様々な調教を、苛烈なプレイを、思い返すだけで身体が震える。熱い吐息を雪兎にかけて、頬を吸って、鼠径部を指でなぞり、ねだる。

「しましょう? ユキ様」

「………………ごめんねポチ、今はそんな気分になれないや。もう何日か待ってくれるかな」

「……そう、ですね。すいません……元気付けたかったんですけど」

「謝らないで。ふふ……ポチは賢いねぇ、君を虐めてる時の僕が楽しい顔してたから、それさせようとしたんだね? いい子だね……いいこいいこ。ごめんね、もう少し……落ち込ませてて」

手探りの小さな手にくしゅくしゅと頭を撫でられ、俺は犬が甘えるようにくぅんと鳴いた。



しばらくして扉が勢いよく開け放たれた。怯える雪兎に入ってきたのは雪風だと伝え、雪風にはもっと静かに自己紹介しながら入ってこいと唸ってやった。

「悪い悪い、急いで戻ってきたからよ。怖かったか? ごめんなユキぃ。真尋、ユキの調子は?」

「……ご覧の通り。怯えて落ち込んで、しばらく何もしたくないって感じ」

「そうか……雪兎、飯まだだよな? 俺を待っててくれたのか?」

「食欲なかっただけみたいだぞ」

「だろうと思ったけどさ、そこはお世辞でも俺を待ってたって言うとこだぜ。一緒に食おうか、なぁ? 飯食わないと大きくなれないぞ、親父みたいになっちまう」

雪風の父親、雪兎の祖父、雪成は雪兎と同い歳くらいの見た目の若さだ。雪兎の成長した姿は見てみたいが、だいたい雪風と一緒だろうし、俺の膝の上に収まるこの可愛いサイズのままでも俺としては一向に構わない。

「……も、持ってこさせるぞ? ユキ……いいんだよな? 真尋も腹減ったろ。持ってこさせるからな?」

雪兎は雪風に一切返事をしない。雪風は顔を覗き込んでしつこく尋ねたが、雪兎は俺の胸に顔を埋めてピクリとも動かなくなった。

「…………もしもしぃ?」

つきかけたため息を飲み込み、雪風は使用人に内線をかけて食事の準備をさせた。雪兎の部屋で三人で食べるのなんて、初めてじゃないだろうか。

「いただきます」

「………………た…………す……」

「いったっだっきまーす」

雪兎も一応「いただきます」とは言ったが、渡しても箸を握らず、自ら食べようとはしなかった。しかし俺や雪風が口元まで持っていくと口を開けた。雛鳥のようで可愛らしい。

「重症だな……」

「……記憶消したりとかって出来ないかな?」

「だっ、だめ! だめ……! 殺しちゃったこと、ちゃんと背負わないと……ポチは、そうしてるんだから……ポチに、守ってもらったんだから、それ忘れるなんてやだぁ……」

「お、ちゃんと話したな。そうだよなユキぃ、真尋がすげぇ活躍したって俺も聞いたぜ? んなカッケぇの、忘れるなんてもったいねぇもんな」

あえて話のスケールを縮めた雪風にやはり雪兎は返事をせず、また俺の胸に顔を押し付けて動かなくなってしまった。

「…………まぁ、時間が解決するさ」

雪風は気楽にそう言ったが、その表情は深刻そのものだった。
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