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郊外の一軒家

はじめての……じゅうさん

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帰国翌日から雪兎はカウンセリングを受けるようになった。俺は部屋の外で聞き耳を立てていたが、カウンセラーは警戒に値するような人間ではなかった。雪兎は順調に回復していった。

「ポチ、お待たせ」

今日のカウンセリングを終えた雪兎は俺の居ない方へと声をかけている。目隠し生活を続けたからと言って、心眼が身に付いたりはしないらしい。

「ユキ様、次はお散歩の時間です」

陽の光に当たった方がいいとのことで、俺は雪兎に日焼け止めをしっかりと塗った上で庭に連れ出した。相変わらず素晴らしい庭園だ、季節の花々が美しい。

「いい匂い……ポチ、この花何?」

俺に手を引かれている雪兎の目は封じられたままで、花の色や形は楽しめていない。香りだけが彼に届く。

「その花は……」

かつて花の図鑑を読んだ記憶を頼りに、俺は雪兎の質問に答えていった。



三十分の散歩を終えたら次はストレッチ。雪兎に軽い運動をさせる。これも三十分程。

「疲れたぁ……」

汗をかいたようなので風呂へ連れていく。目隠しは外さず、風呂を上がった後でずぶ濡れの布を予備の布と取り替える。その一瞬を雪兎は酷く恐れていて、目を決して開かない。視力は悪くならないのだろうか。

「さっぱりしたね、ポチ」

「はい、次はお昼寝の時間です」

「あんまり眠くないなぁ……」

この生活を始めてすぐの頃は雪兎はすぐに眠っていたけれど、寝付くまでの時間が段々と伸びてきた。回復の兆しだろうか。

「ユキぃ! 待ってたぜ。さぁ寝ようすぐ寝ようお父さんと一緒に! 寝るのにいいアロマ炊いてあるぞ~」

添い寝役の雪風のテンションが高めなのも問題があると俺は思う。

「……おやすみなさい」

「おやすみ、ユキ」

「おやすみなさい、ユキ様」

雪風の部屋のベッドで、俺と雪風で雪兎を挟み、彼が寝付くまで穏やかな話をしたり雪兎の胸を優しく叩いてやったりする。そうして雪兎が寝付いたら、俺達は隣の部屋へ移動する。

「今日も結構かかったな……目隠し外すタイミング見とかねぇと。早過ぎたら当然やべぇが、遅過ぎても目隠しに依存しちまって能力の扱いが下手になる。俺か親父が頭覗くのが手っ取り早いんだが……暴発したら死ぬからな。物騒な能力ってのは厄介なもんだぜ」

「物理系は珍しいのか? お前もおじい様も精神感応系で……ひいおじい様は治癒系だろ? その上は?」

「俺のひいじいさんだな。詳しく聞いたことはないが、病状を特定するとかいう能力だったはずだ。健康な人間には何も出来ねぇ。確かにユキみたいな物に作用するタイプの能力は珍しい……だが、過去に居るには居た。だから山には練習場があるんだ」

「……山って、この家が建ってる山だよな?」

「あぁ、日本最高の霊山……禁足地のここだ。家の裏のちょっと行ったとこに、体育館ほどの広さの土地を取っといてんだ。巻き藁とか丸太とか……能力に合わせて的を用意して、それを破壊させる。雪兎もちっちゃい頃にやったんだぜ、本人が覚えてるかは知らねぇが……感覚掴むために必要なんだ」

「ふぅん……」

「俺もそこでじゃないが訓練は受けた。じゃなきゃふと目が合った相手の考えてることが頭の中に流れ込んできて大変だからな……目を合わせなくても不自然じゃない話し方、逆に不審がられず目を合わせる技術、どんな心が読めちまっても態度に出さないポーカーフェイス……結構大変だったんだぜ」

「へぇ……」

「雪凪のバカは訓練受けてねぇから制御も出来なくて、眼帯付けてねぇとダメになってんだよ」

「……なるほど」

サボったのか、落ちこぼれだから訓練を用意してもらえなかったのかは知らないが、どっちにしろどうでもいいな。アイツに興味はない。

「あぁそうそう、頼まれてた國行くんの口座作っといたぜ」

「もう終わったのか? ありがとう、悪かったな忙しいのに」

雪兎から離れられなくなったため、帰国後に國行にしてやるつもりだったことが何一つ出来ていない。委託出来ることは雪風や使用人に任せているが、顔を見せるのはまだまだ先になりそうだ。

「スマホも買って送っといたぜ、初期設定済ませてお前の連絡先入れてな。明後日にゃ届くんじゃねぇかな」

「本当にありがとう……あぁ、でも憂鬱だな……月イチくらいで顔見せるって言っちゃったし、雪兎の世話中はあんまり電話出られないだろうし……」

「……まぁ、雪兎の世話中は電話出来ねぇのは雪兎が元気でもヘコんでても一緒じゃね?」

確かに。むしろ元気な方が放置プレイなどで雪兎が勉強中などの時まで通話を出来なくされそうだ。となるとむしろ、元気のない今が國行に会えない穴埋めをするチャンスかもしれない。

「それもそうだな……しかし、今回のことで俺は痛感したよ」

「なんだ?」

「普通の身体じゃなくなってること。SMプレイでケツに突っ込まれない生活が数日続くだけでもう……ダメだ、俺は。雪兎が居るのに虐めてくれない、甘えてくるのは可愛いし幸せだけど虐めて欲しい……痛いの欲しい、首絞められたい」

「……俺と昨日SMしたじゃん。お前は玩具ケツに突っ込んで、お前のは俺に突っ込んで」

「アレはアレで最高だった。でも雪兎のが欲しいっ……!」

「…………似せたディルドあるんだろ?」

「もちろんオナってるさ! でも、違う……所詮偽物だ。はぁ……雪兎の精神状態の次に深刻だよこれは」

自分だってセックスが出来なければ色んな不調を出すような淫乱のくせに、雪風はやれやれと呆れたように振る舞っていて腹立たしい。

「はーぁ、しゃあねぇヤツ……ん? おい、真尋?」

「……イライラしたらムラムラした。ちょっと、軽く一発だけ」

「あはっ、本っ当にしゃあねぇヤツだなお前は、こんっな昼間から……もちろんいいぜ? 一発だけとは言わずによ」

雪兎の昼寝は最低三十分、一時間までと決まっている。俺は時計を見る余裕を失わないよう自分を律しながら、雪風を机の上へ押し倒した。
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