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先輩と後輩、晩飯と晩酌 (水月+レイ)

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家の玄関を開けると玄関マットの上でレイが正座していた。恭しく頭を下げ、上げ、儚げに「おかえりなさい」と微笑んだ。

「……た、ただいま。何してんだ、レイ……いつから待ってたんだ?」

「そりゃ着いてすぐからっすよ」

「ずっと待ってたのか!? 足痺れてないか? 立てるか? 暑かったろ、九月にクーラー効いてない廊下に居るとか何考えてんだよ」

「だって」

「だっても何もない! こんな出迎え方されても嬉しくないよ俺、涼しいとこでのんびり待って、俺がその部屋入ったら「おかえり」でいいんだよ。ううん、それがいい。俺ここで一人寂しく待ってろなんて言ってないよ、アキとかのこと頼んだろ?」

「……ごめんなさいせんぱい」

「怒ってないよ、ただちょっと心配になっただけで」

「嘘なんす、冗談すよ、ずっと待ってたって。その方がせんぱい、健気で可愛いって思ってくれるかなって……アキくん達と遊んで、ご飯いただいて、またアキくん達と遊んでたらお義母さんが電話してせんぱい今から帰るって言ってるって……それから待ってたんす」

「……そっか、よかった。いやほら、レイ最初の頃俺がバイト終わるのずっと待ってたりしたろ? だからありえるなって……ごめんな騒いじゃって。でも十分ちょっとは待ってたのか。ホント、さっき言った通り俺が部屋行ったらでいいからな?」

「お出迎えしたいっすよ」

「なら玄関開けたらでよくないか? リビングに居たら聞こえるだろ」

「はい……」

と言いつつもレイは拗ねたような顔をしている。

「あぁそうだ。位置情報共有しとくか? それなら俺がいつ頃帰ってくるか分かるだろ」

「……! はい!」

「良さげなアプリ探しといてくれ。じゃ、俺着替えてくるから」

「せんぱいの生着替え見たいっす」

「そうか? 好きにしろよ」

冷房どころか扇風機もない本屋の前でしばらく話していた代償に、俺はじっとりと汗をかいていた。部屋着を着る前に汗拭きシートで全身を拭い、その間は半裸で過ごした。

「サービスシーン多めっすね……!」

レイには好評だった。

「おかえり水月、アンタのレンジに入ってるわよ」

ダイニングに移るとリビングの方から母の声がした。アキ達とゲームで遊んでいるようだ。

「さっきまで俺とアキくんとセイカくんと荒凪くんで遊んでたんすよ」

「へぇ、何やってるんだ?」

「ボドゲいっぱい収録されてるヤツっす」

レンジの前で温め完了を待つ俺の隣に居る。アキ達の元に向かうつもりも、ダイニングで座って待つつもりもなさそうだ。可愛いヤツめ。

「あぁ……アレか」

「俺はマルチで出来るアクションゲームとかやりたいんすけど、アキくんなんか目ぇ悪いみたいっすし、セイカくん片手プレイっすし、荒凪くんもなんか手素早く細かくは動かないみたいっすし……そういうのはやっぱせんぱいとっすね」

「だな」

「最大四人なゲーム多いっすから、歌見せんぱいと……ハルせんぱい?」

「ハルは割とゲームやってるし、漫画も読んでるからなぁ……でもやっぱりかなりエンジョイ勢だし、カサネ先輩誘いたいな」

「あぁ、居たっすねぇオタクっぽい子。まだあんまり話せてないっす。登下校一緒なんすか?」

「先輩は不登校引きこもりだ」

「引きこもりっすか、気が合いそうっすね」

温め完了を告げる電子音が鳴る。料理を持ってダイニングに移るとレイもちょこちょこ着いてきた。

「向かいか隣か、悩むっすね……」

「じゃあ間を取って斜めはどうだ? 俺端に座るから」

「角を挟んで隣っすか。結構近くて、斜めからせんぱいを眺められる……! 最高っすね。せんぱいを肴に一杯いただくっす、そこのコンビニで買ったの冷やしといてもらったんすよ」

「また酒か」

「夏季限定のチューハイなんすよ、試しに一本呑むくらいいいじゃないすか」

缶には大きくスイカのイラストが描かれている。

「……スイカ味? 美味いの?」

「キュウリ風味っすね」

「確かにスイカの皮の方は若干キュウリに似てるけど。で? 美味いの?」

「チューハイはやっぱ酸味あるのがいいっすね。レモンしか勝たん! っすよ」

好みではないみたいだ。

「せんぱい体育祭で創作ダンスするんすよね。ハルせんぱいにメッセで聞いたっすよ、せんぱいダンス下手くそだって」

「……ダンスなんか出来なくても死なないよ」

「俺が高校の頃、男子は組体操だったんすけどねぇ」

「あー……何年か前に廃止されただろ、危ないとかで。俺は汗だくの男子達とくんずほぐれつな組体操の方がいいんだけど……リズム感関係ないし」

「へー、ジェネギャ……じゃないっす! 地域差っすよ、俺んとこ田舎だったからそういうの遅いんす! あっそうだせんぱい、俺ちょっとおっきい買い物したんすよ、聞いて欲しいっす!」

歳に関する話は嫌なようで、レイは慌てて話を変えた。俺はレイの年齢なんて気にしていないのにな。

「何買ったんだ?」

「これっす!」

突き出されたスマホに焦点を合わせる。レイの部屋の写真だ、大きな黒い物が目につく。

「これ……」

「マッサージチェアっす、高かったんすよ~」

「へぇえ……電気屋で見たことあるけど、買う人居るんだな」

「超いいっすよ、超ほぐれるっす。せんぱい座りに来てくださいよ」

「俺別にどこも凝ってないしなぁ」

「凝ってなくても気持ちいいっすから!」

「わ、分かったよ……今度行ったら座らせてもらうよ」

俺の返事を聞いてレイは満足気に笑う。そういえば最近彼の家を尋ねていない、寂しがらせていたのかもな。今夜も、次に彼の家を尋ねた時も、その寂しさを癒せるようたっぷり可愛がってやらなければ。
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