冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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実質OKだろこんなもん (〃)

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本屋の照明がいくつも壊れたのは、女性客の相手をする俺を見たスイが嫉妬のあまり霊能力を暴走させたから。どうやら彼は苛立つとその優れた力のコントロールが効かなくなり、周囲の電化製品に悪影響を及ぼしてしまうらしい。

「…………へっ? え……? えっ?」

その件について問い詰めた結果、スイは「お前は俺のモノなのに」と叫びながら地団駄を踏み、再び暴走し始めそうだったので、強い霊力に晒された影響なのか本能的な恐怖を彼に覚えつつも勇気を振り絞って彼を抱き締めた。

「……はい。あなたのものです、スイさん。あなたが俺の告白を受けてくれるなら、俺の全てはあなたのもの。どうぞ好きなようにしてください」

抱き締めた瞬間、街灯の明滅は収まっていた。

「ぇ……なっ、何、言っ……!? か、感じるって言ってるでしょっ、アンタの他の、男の匂い! こんなひっつかれたら余計に、余計にっ……あっ」

腕の力を強めるとスイは静かになった。そっと顔を覗き込んでみると、茹でダコのように赤くなっていた。

「スイさん……?」

「ひっ……!? ぅ、あ……ずるいひどいさいてぇー! 彼氏いない歴イコール年齢のこじらせ野郎いきなり抱くなんて! ぁあぁあ顔が良過ぎる近い近い近い声あっま体温! 体温やばい! ひぃいん腕筋に確かな雄みぃ~! やだぁ~! ばかぁ~!」

「ス、スイさん? 大丈夫ですか?」

「ぅあぁああ……キャパ、オーバー、むり……かえる、おうちかえる……」

「え、ちょっと、死体の話は……」

「このままだと死体がひとつ増えることになるけど!? キュン死って正式な書類にはなんて書くのかな!? 心臓麻痺!? 帰る! バイバイ!」

暴れるスイを力づくで押さえ付ける訳にもいかず、俺は仕方なく腕をほどいた。

「……あの、告白の返事はOKってことでいいですか?」

「はぁ!? 保留だけど!? こんなテンションで人生の大事な選択出来ないっての!」

ある意味冷静だな。

「いや別にプロポーズしてる訳でもないんですから人生の大事な選択ってほどでは」

「ププププロポーズ!? 気が早いってそんなの、ぁ、俺教会より神前式がいいな……角隠しつけてみたい……」

気が早いのはどっちだ。

「あっでもケーキ入刀は憧れあるかも……そうそう聞いてよナルちゃんアタシの弟ね、蓮ね、こーんなちっちゃい頃にもう結婚式済ませてんの! 何回も!」

スイが示した身長から考えるに、その結婚式は幼稚園児のおままごとか何かだろう。

「カーテンでヴェール作ってちゅっちゅちゅっちゅ……!」

「可愛いじゃないですか」

ノヴェムより幼い子供達の結婚式ごっこなんて、癒しでしかない。

「弟に先越されるのムカつくじゃない! アタシまだキスしたことないのにぃ!」

「……今します?」

「へっ……? ななななに言ってるのしないしない絶対しなぁい!」

ダメ元の提案だったが、ここまで否定されるとは思わなかった。ショックだ。

「そういうのはもっと、なんか……場所があるじゃない」

スイは顔の前で指先だけを重ね合わせる。ショックを受ける必要なんてなかった、キスが嫌なんじゃなくシチュエーションが気に入らなかっただけなのだ。

「分かります……!」

「サキヒコくん?」

「様々な初めては海の見える丘やその上の小さな別邸で行われるべきです」

相変わらず理想が高いな。

「サキちゃん海好きなの? んー、アタシ夜景派かなぁ……」

「いい夜景スポット調べておくのでデートしてください」

海の見える丘なんて俺の力だけで叶えられるシチュエーションではないけれど、夜景を楽しむデートコースくらいなら俺でも何とかなる。

「えっデ、デ、デ……!?」

「大王……?」

「デート!? ダ、ダメよ、アタシそんな、そんなのしたことない……」

「だからするんじゃないですか」

「そんな……無理よ、そんなのぉ……」

繁華街に事務所を構え酒と煙草を嗜む彼が、デートに誘っただけで顔を真っ赤にするだなんて、全くの予想外だ。可愛い一面を知れて嬉しい。

「夜景見るってなると、最近夜でも暑いですし室内……レストランとかですかね。スイさん食べ物のアレルギーとか好き嫌いあります?」

「ぇ、えっと……お酒が進むもの、かなぁ」

「お酒ですか、じゃあバーとかでも……調べておきますねっ」

「うん…………ん? ナルちゃん未成年よね」

「はい。でも別に未成年立ち入り禁止って訳じゃないでしょう?」

「調べとくって何、誰に聞くの、誰かと行くの? フタちゃん? 他の男と回った店から選ぶとか絶対嫌、分かるからねアタシそういうの」

「えっと……ネットで調べるつもりだったんですけど、口コミとか見て……」

「…………そう。ごめん……ほんと、ほんとごめん、いつもこんなんじゃないのに俺……ごめんね、愛想尽かしちゃう? 恋冷めちゃう?」

「いえ、むしろ好きです。ヤキモチやいちゃうのすっごく可愛いです」

きゅっと手を握りながら言ってみるも、スイは「ひぃっ!?」と悲鳴を上げて俺の手を振り払った。

「……急に触っちゃってすいません」

女子に蛇蝎の如く嫌われ、一挙手一投足悲鳴が上がり続けたキモオタデブス時代を思い出した。

「ぁ、その、違うの、違うのよぉっ、嫌とかじゃなくて……そ、そんな傷付いた顔しないでよぉ~、触られて嫌とかじゃないの! あのね、えっと……ぅー、言えない……わ、分かってくれないかなぁ、アタシの……ね?」

「ミツキ、スイ殿の今の感情は照れや羞恥と言った具合のものに視えた」

「言わないでぇ!?」

「しかしスイ殿、自らの口では言えないのだろう? 言えないし、私に言われたくもない、けれど察せ……それは少々理不尽だ」

「それはぁ……そうかも、だけど……」

もじもじと落ち込むスイにかける言葉を考えているとスマホが鳴った。電話だ。

「……誰から?」

また空気が重くなる。スマホを取り出し、画面を見た。

「母さんです」

「あっお義母さま……出て出て、どうぞ早く出て」

お言葉に甘えて電話に出る。内容は至極単純、普段よりも帰宅の遅い俺へのお叱りだ。夕飯の都合があるのだから帰りが遅くなるなら一報入れろ、と。

「バイト終わってから結構経ったもんね。ごめんね引き止めちゃって……またね、ナルちゃん」

「はい。また今度、スイさん」

聞きたいことは聞けていないけれど、とりあえずは告白の返事はOKをもらえそうなことを喜んでおこうかな。

「……あの、死体が動いてたって話……ちゃんと聞きたいんですけど」

「あぁ……じゃあ明日も来るわ。電球返さなきゃだし。また明日ねナルちゃん」

「……! はい、待ってます!」

「ぅ……何その眩しい笑顔ぉ、もぉ~……そ、そんなにアタシ……好き?」

「好きです! 付き合ってください!」

「そっ、そんな大声で……分かったわよぉ、明日返事するから……じゃあ、ね。また明日ねっ」

駅へと消えていくスイに大きく手を振る。

「……アレ絶対OKだよね、サキヒコくん。明日楽しみだなー、なんか軽いプレゼント買っといた方がスマートかなぁ」

「はぁ……」

深いため息をついたサキヒコの方を見れば、心底呆れた表情がそこにあった。
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