冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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ぞうのなかにいる (水月+レイ・荒凪・アキ・セイカ・リュウ)

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夕飯を食べ終えてリビングに移ると、居候三人組から「おかえりなさーい」と緩い挨拶があった。

「これでいいんだよこれで」

「……本当に、っすか? 自分の気持ちに正直になって欲しいっす」

「…………視線くらいは欲しいかなぁ! アキ! セイカ! お前ら最近俺の扱い雑な時多いぞ!?」

荒凪はしっかり俺の方を向いてくれた上、手を伸ばしてもきた。可愛過ぎる仕草に頬を緩めてその手を握り、アキ達に文句を言った。

「足の怪我はもう大丈夫なんすよね、荒凪くん。歩いてるのカメラで見てたっすよ、ふらふらっしたけど」

「あぁ、まぁな」

荒凪の正体はテディベアに仕掛けられたカメラには映していなかったか。彼が人魚であることをレイにどう説明しよう、人魚の姿を見せるのが手っ取り早いけど……

「……レイ今日泊まるんだよな? 俺の部屋で寝るよな」

「はいっす」

「じゃあ荒凪くん、今日は別のとこで寝てくれるか」

「きゅっ? やだ」

「そういや最近よく荒凪くんと寝てたっすね、手ぇ出してるんすか?」

「あぁ、本番はしてないけどな。アキの部屋でかるーくイチャついた。な、荒凪くん」

夜の海のように暗い輝きを宿した髪をくしゅくしゅ撫でる。彼の髪はいつ触れても何故かひんやりとしていて心地いい。

「きゅるるる……僕達、みつき、いしょねる」

「三人で寝たいんすか? 可愛いっすねぇ」

「荒凪くんの一人称は複数形なんだ」

「なんで!?」

っす口調が取れるほどの衝撃か?

「みつき、家いない、ながい。さみしい。だから、いしょねる」

寝る時くらい傍に居たい、ということかな。

「荒凪~、アンタの番よ」

「きゅ」

母に呼ばれて荒凪はコントローラーを持ち直す。じっと画面を見つめ、自分の手札を確認し、しっかりと考えてカードを出した。やはり荒凪が幼く感じるのは上手く話せていないからで、思考力などは見た目の歳相応なように思える。

《やべぇまた手札やべぇ、出せるもんねぇぞ》

《お前今回負けたら四連敗だぞ……勝てなきゃ面白くないけど、同じヤツに負け続けられてもゲームは楽しくないんだからな》

《負け続けてる俺が一番楽しくねぇよ!》

「どうしたアキ、セイカ、喧嘩するなよ?」

何やら言い争っている様子の二人の頭をまとめて撫でつつ、辺りを見回す。

「……コンちゃんは?」

「知らねぇ。昼間天正と庭でなんかやってたけど」

「そっか、リュウは帰ったんだよな? いつ頃だった?」

「…………まだ明るかったと思うけど」

少し考えた後、自信なさげにそう言った。夕方頃からミタマは姿を見られていないということになる。

「ちょっと庭見てくるよ」

「俺も行くっす」

レイと共に庭に出る。真っ暗だ、ダイニングとウッドデッキを繋ぐ窓から漏れる灯りだけでは頼りない。スマホのライトで祠を建てている場所を照らしてみる。

「なんか材料いっぱい積んであるっすね」

石材、木材が端に避けてある。それに被せられたブルーシートを少し捲り、レイは中を覗いている。

「像が建ってる……」

狐の石像がキチンと置かれている。神社で見かけるのは古いものばかりなので、新品は珍しい。ライトで照らしてじっくり眺めていると、石像が動いた。違う、霊体が抜けたんだ。石像はそのままそこに在る、けれど石像と同じ見た目のモノが台座から跳び、庭に降り立った。

「コンちゃん?」

滑らかに動く灰色の石が金色の毛を生やした獣へと変わる。ディフォルメの効いた顔が、身体が、尾が、本物の獣のものへと変わっていく。ふんわりとした尾が三本に分かれると、狐は甲高い声で鳴きながら俺の足に擦り寄った。

「コンちゃん、ここに居たんだ。像を、なんか、リュウになんかしてもらうの、出来た?」

「せんぱい……わやわやっすね」

「コンちゃん、狐可愛いけど……話したいな、人間になってくれない?」

ミタマは真っ直ぐに俺を見つめ、ゆっくりと首を横に振った。

「え、ダメなの?」

今度は大きく頷く。何か理由があるみたいだ。

「そっかぁ……あ、コンちゃん? えっちょ……な、何? 何……何かあるんだよね、理由。今度説明してね?」

また台座に飛び乗り、像をすり抜けて重なると姿を消した。石像に取り憑いただとか、宿っただとか、そう表現するので合っているだろうか。

「……リュウに電話してみるか」

「中入りましょーっす、暑いし蚊刺されちゃうっすよ」

「そうだな」

室内に戻り、ダイニングの椅子に腰かけてスマホを持つ。

「ちょっと夜遅いかな?」

「大丈夫っしょ、お風呂とかはありえるかもっすけど」

レイに躊躇いを振り切ってもらい、スマホを耳に当てる。しばらく待つとリュウが電話に出た。

『おー水月、どないしたん?』

「あぁ、ちょっと話聞きたくて。今何してる?」

『テレビ見とる』

「暇? 見たいヤツ?」

『撮っとるヤツやから大事な話なんやったら止めとくで』

「そうか? 悪いな、いや、コンちゃんがさ、なんか像に取り憑いて出てこないんだけど、なんか知ってるか? っていうか昼間何やったんだ?」

「さっきからなんか多いっすせんぱい……バカっぽいっす」

俺全肯定枠の彼氏であるレイに「バカっぽい」と言われたショックは大きい。

『ちょっと舞っただけやで。出てこぉへんのは……あー、なんか言うとったわ。馴染むまで入っとくて。やっぱり俺力不足やったんやわ』

「…………あっ、ごめん。聞いてなかった……ちょっと今レイにバカって言われて」

『あー、水月ちょっとアホやもんなぁ……まぁ気にせんでええで。支障あるほどのアホやない、可愛いアホやから』

「………………」

『水月ー? 最初から説明すんで、ええか?』

「…………」

「もらうっすよせんぱい……もしもしリュウせんぱい? ごめんなさい、せんぱいちょっとフリーズしちゃって。話してください、俺代わりに聞くっす」

ショックで何も言えなくなった俺の手からレイがスマホを奪った。レイは俺に幻滅したのだろうか、リュウは頭の悪いS役に納得していないだろう、なんて長々と考え続けた俺はレイが通話を終えるまで一言も発さなかった。
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