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お兄ちゃんはうわきもの? (水月+ノヴェム・ネイ・セイカ・アキ)

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遊園地のお土産のお菓子を配った。マスコットキャラクターのウサギが描かれたクッキーや、なんか……チョコフレーク固めたみたいな、なんか、名前分かんないお菓子とか……そういうの、配った。

「なんか描いてるな、ウサギ?」

「ハロウィンウサギっていうんだって。アトラクションもそいつのばっかり、園内の飾りもウサギだらけだったよ」

「ふーん……相当ウサギ好きなんだな、あの双子」

「みたいだな。どう? 美味い?」

「うん」

クッキーはコーヒーに合う味だと思う。

「セイカはコーヒーいいのか? そろそろおかわり作るからついでに作ってこようか?」

「ん……いいや、水ちょうだい」

「コーヒー嫌い? ならジュースもあるぞ」

「別に嫌いって訳じゃ……んー、水で」

「遠慮してる?」

「……クッキーの味だけ味わいたい、かな」

やはり遠慮しているように思える。いるかと聞いたらいらないと答えるのがセイカなのだから、もう何も聞かずに作って渡してやればよかったかな。いや、もし本当にコーヒーが苦手なら悪いし……

《おいしい!》

《よかったですね、遊園地のお土産だそうですよ》

《遊園地……》

ニコニコ笑顔でクッキーを齧っていたノヴェムが急にキッと目付きを鋭く変え、俺を見上げた。

《誰と行ったの! ぼくという婚約者がありながら!》

「ふふっ……」

《何笑ってるのセイカお兄ちゃん!》

「な、なんだ? ノヴェムくんなんか怒ってる……よな? えっなになに、どしたの、俺? 俺悪いの?」

なんか俺さっきからずっと「?」付けて喋ってない?

「えー、なんで……あっ、ちょっと待っててノヴェムくん。お土産あるんだ、ちょっと待ってね」

手を広げて突き出す、きっとどこの国でも「待って」や「止まれ」になるだろうボディランゲージを置いてまた積んだ土産物の元へ。

「あったあった。これこれ。ほら、ノヴェムくん。お土産!」

カボチャのランタンと箒を持ち、黒い三角帽子とマントを身に付けた、ウサギのぬいぐるみ。カミア曰く最もポピュラーなハロウィンウサギの姿らしいそれをノヴェムに渡した。

《うさぎ……?》

《お土産だそうです。ノヴェム、婚約者への贈り物を浮気相手と一緒に行った場で買う者が居ますか?》

《居そう》

《余計なこと言わない百鬼丸ボーイ。居ませんよ、ノヴェム》

《……うん。お父さん、大人だもん。大人の方がうわきに詳しい》

《お父さんは浮気したことありませんからねっ?》

《お父さん、まおとこ……》

《違いますったら!》

ぬいぐるみを両手で持ち、じっと見つめながら、ノヴェムはネイと何やら話している。渡せば「おにーちゃんありがとー」なんてにぱっと笑ってくれると思っていたのだが、俺は子供を侮り過ぎているのだろうか。

《お兄ちゃん浮気してないんだね》

《そうなりますね》

《……アンタ、ノヴェムが鳴雷を婚約者とか言ってんのいいわけ?》

《誰を好きになるかはノヴェムの自由ですよ》

《…………寛容っつーか、放任》

ノヴェムがようやく顔を上げた。碧と黄の純粋な瞳はもう俺を睨んだりしていない。

「ありがと、おにーちゃ! だいすき!」

「……! それそれそれだよ俺が欲しかったのは~。急に怒るから何かと! お兄ちゃんびっくりしちゃったぞー? よしよし、ふふふ……可愛いなぁもう」

《兄貴、俺には何かないの。個別の。まさか他人ん家のガキに個別やって、てめぇの可愛い弟に何もやらねぇなんて……ねぇよなぁ?》

「鳴雷、秋風が何か欲しがってる」

「何か!? うーん……アキはぬいぐるみ喜ぶ歳じゃないしさ、文房具も使わないし……正直難しいんだよな、アキへのプレゼントって。まぁ、一応……あるけど」

アキの趣味と言えば筋トレ、ダンス、サウナ、プール、そんなところだろう。物を楽しむタイプじゃない。だから遊園地に行った時なんて土産選びが難しいんだ。

「ほら」

《何これ》

「何これ、だってさ」

「ヘアバンド……アキ前髪長いから、顔洗う時とか運動してる時とか邪魔かなって」

針金入りでピンと立ったウサ耳が特徴の白いヘアバンドだ。これを身に付けたアキは彼自身の白さと赤い瞳によって白ウサギの愛らしさを得るのだ。

《あー、前髪押さえるヤツ? こう……?》

《耳が変な方向いてる、もうちょい右に回せ。回し過ぎ、戻せ、ストップ、そこ》

アキはセイカと話しながらヘアバンドを身に付けた。前髪を上げて額を丸出しにし、頭の上にぴょこんと耳を立たせる。

「Oh……これがジャパニーズ、ケモ耳モエ」

「萌え~! 可愛いぞアキ! なんか、なんかこう、テンション上がる!」

《前髪邪魔じゃねぇし、そんなに締め付け強くねぇし、結構いいわこれ》

《よかったな。お礼言っとけよ》

「にーに、ありがとーです。ぼく、これ、嬉しいするです」

「萌ッ」

なんて可愛いんだ。

「……鳴雷の最期の言葉が「モッ」になっちゃった」

「何言おうとしてたんでしょう?」

「さぁ……ろくでもないことってのだけは確かかな」

《お兄ちゃん!? ミツキお兄ちゃん! 大丈夫? どうしたの?》

ウサ耳付き弟のあまりの可愛らしさに心臓がぎゅうっと縮み、机に突っ伏してしまっていた。呆れ返るセイカの声をかき消して、不安そうなノヴェムの英語が聞こえた。

「大丈夫だよ、ごめんごめん……」

いくら俺の英語力が低くとも、俺の名前を呼んでいたことや、大丈夫かと聞かれていたことくらいは分かる。心配してくれたノヴェムの頭を撫で、微笑みかけた。
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