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当然の風邪 (水月+荒凪・サキヒコ)
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四人でゲームで楽しく遊んで、風呂に入って、寝支度を整えて、くしゃみをした。ゾクゾクと寒気が背筋を上ってくる。
「…………?」
「みつき、さむい?」
「いや、寒くない……はず。はず? うーん……ごめんちょっとよく分かんないや。冷房一度上げとこっか」
荒凪と共にベッドに入り、就寝。起床時俺はようやく自分の身体の異常に気が付いた。
「……っ、う……」
頭が痛い。喉も痛い。立てばふらつき、鼻呼吸が出来ず、扉の隙間から漏れ出た程度の冷気しか与えられず暑いはずの廊下ですら寒気を覚えた。
「みつき、みつきっ」
不安そうな顔で俺を支える荒凪に笑顔を見せてやる余裕もなく、覚束無い足取りの彼に肩を借りる。
「ママ……」
いつもの倍以上の長さに感じた廊下を渡り、ようやくダイニングに辿り着いた。
「おはよ水月。ん……? なんか顔赤いわねアンタ」
「……風邪、かも」
「はぁ? 風邪ぇ? やだ熱あるじゃない、測らなくても分かるわ」
母は俺の額や喉に手を当てる。
「部屋で寝てなさい。ご飯持ってってあげるから。アキもセイカも免疫ザコなのよ、アイツらに伝染したらアンタが一番気にするでしょ。荒凪くんは風邪引かなさそうよね、一緒に居てあげて。あなたのも部屋に持ってくから」
「きゅ……みつき、つらい? みつきつらい、僕達わるい?」
「なんでそうなんのよ。戸鳴町って確か昨日雨降ってたでしょ、それのせいじゃない?」
「きゅるるる……」
「きゅーきゅー言ってないで早く部屋連れ帰って寝させてあげて」
荒凪はふらつく足で俺を部屋まで誘導し、ベッドに寝転がさせてくれた。俺にタオルケットをかけると荒凪は床に膝立ちになり、きゅうきゅう鳴きながら俺の顔をじっと見つめた。
(この分じゃ学校行けそうにありませんな……そうだ、ミフユたまに連絡せねば)
俺の弁当を作ってくれているミフユには早めの連絡が必要だ。普段の弁当の手の込みようから考えて、もうほとんど作り終えていそうではあるけれど。
(送信完了っと)
スマホを弄るのも辛い。今日は何も出来そうにないな。
ほどなくして母が朝食を持ってきてくれた。食後の薬と、ひんやりとしたジェル入りの枕もついでに。
「……冷たくて気持ちいい」
「ちゃんと食べるのよ」
「うん……ありがとママ」
「とりあえず今日は市販薬で様子見ね。病院は明日以降考えましょ」
「ん……」
「何かいるものある?」
「ない。あ……眩しいから、電気消して欲しい」
「分かったわ。カーテンはどうする?」
「遮光は開けといて……普通のは、閉めといて」
「ん。ゆっくり休むのよ」
カーテンを閉め終えた母は俺の頭を撫でてから部屋を出ていった。
「はぁ……どうしよ、土曜までに治るかな」
土曜日はカミアと約束がある。彼に会える希少な日を風邪なんかで潰すなんて嫌だ。
「クソ……あ、そうだ。コンちゃん居る?」
「ミタマ殿は離れで寝ている」
荒凪の隣にサキヒコが出現した。いい加減彼の心臓に悪い現れ方にも慣れてきた。
「まだ寝てるの? そっか。じゃあサキヒコくんに頼んでいいかな」
「何だ? 何でも言え」
「セイカの車椅子、駅まで押してあげて欲しい……いつものとこにリュウ居ると思うから、その後はリュウに頼んで……」
「分かった」
「あ、身支度も手伝ってあげて」
「うん。行ってくる」
サキヒコは扉を開けることなくすり抜けて部屋を出ていった。少し話しただけで随分疲れた、咳をして、鼻を啜って、目を閉じる──
「みつき、きゅうぅ……みつき」
「ん、何? 荒凪くん。つまんないだろ俺見てても……プール入ってきていいよ?」
──すぐに目を開けた。これじゃ瞬きじゃないか。寝たい、静かに休みたい。心配してくれるのは嬉しいけれど、気を遣うから離れていて欲しい、せめて話しかけないで欲しい。なんて、心配してくれている相手に正直に言えるヤツは少ないだろう。
「みつき、かぜ、嫌?」
「嫌だよそりゃ……」
「なくなて、ほしい?」
頭痛が酷い。思考がまとまらない。俺は荒凪の単純な質問に、単純な考えで頷いた。
「うん……」
「……分かった」
荒凪がゆっくりと立ち上がる、ようやくプールに行く気になったのか?
「荒凪くん……?」
シャツが捲れ、三本目四本目の腕が現れる。カーテン越しの淡い光に照らされた荒凪の瞳の片方には瞳孔が三つあった。
「…………滅ブ……」
あぁそうだ、朝食を食べて薬を飲まなければ。でも、起き上がれないな、眠りたい。食べなきゃ、あぁダメだ、意識が落ちる。
再び目を覚ましたのは午前十時頃。身体を起こし、辺りを見回す。朝食は勉強机に置かれたままだ、二つあるプレートのうち一つは空だから荒凪が自分の分は食べたのだろう。
「……荒凪くん」
床に寝転がって金魚のオモチャを弄っていた荒凪が顔を上げる。
「みつき! おはよ。みつきつらい?」
「辛い? あれ……? そういえばあんまり。薬飲んでないのに」
「よかったねー」
「そうだね」
とりあえず朝食を食べよう。うわパサパサ。
パサパサの朝食を食べて、顔を顰めながら粉薬を飲んだ。何だか元気になったみたいなのでリビングに移り、ソファでくつろぎながらアニメを見た。
「見逃し配信は人類の叡智~」
隣に座った荒凪も画面をじっと見ている、内容を理解しているのだろうか。途中から見ても面白くないだろうな、興味があるなら一話から見せてやりたい。お、キスシーンだ、ちょっと気まずいな。
「……みつきー」
「ん?」
「ひと、すき?」
「ヒトさんのこと? うん、好きだよ」
どうしたんだろう急に。
「僕達、すき?」
「もちろん。荒凪くんのことも好きだよ」
人間の姿の時の荒凪は表情が変わらないし、声色も一定で感情が読み取りにくい。今見ているアニメでちょうど恋愛絡みの話をやっていたからかな、なんて考えていると荒凪が抱きついてきた。
「ん? どうしたの荒凪くん」
腰に腕が回されている感覚があるのに、首にも腕が絡んでいる。また四本生やしているのかと荒凪の腕に意識が逸れた瞬間、荒凪の顔が近付いて唇に柔らかいものが触れた。
「…………?」
「みつき、さむい?」
「いや、寒くない……はず。はず? うーん……ごめんちょっとよく分かんないや。冷房一度上げとこっか」
荒凪と共にベッドに入り、就寝。起床時俺はようやく自分の身体の異常に気が付いた。
「……っ、う……」
頭が痛い。喉も痛い。立てばふらつき、鼻呼吸が出来ず、扉の隙間から漏れ出た程度の冷気しか与えられず暑いはずの廊下ですら寒気を覚えた。
「みつき、みつきっ」
不安そうな顔で俺を支える荒凪に笑顔を見せてやる余裕もなく、覚束無い足取りの彼に肩を借りる。
「ママ……」
いつもの倍以上の長さに感じた廊下を渡り、ようやくダイニングに辿り着いた。
「おはよ水月。ん……? なんか顔赤いわねアンタ」
「……風邪、かも」
「はぁ? 風邪ぇ? やだ熱あるじゃない、測らなくても分かるわ」
母は俺の額や喉に手を当てる。
「部屋で寝てなさい。ご飯持ってってあげるから。アキもセイカも免疫ザコなのよ、アイツらに伝染したらアンタが一番気にするでしょ。荒凪くんは風邪引かなさそうよね、一緒に居てあげて。あなたのも部屋に持ってくから」
「きゅ……みつき、つらい? みつきつらい、僕達わるい?」
「なんでそうなんのよ。戸鳴町って確か昨日雨降ってたでしょ、それのせいじゃない?」
「きゅるるる……」
「きゅーきゅー言ってないで早く部屋連れ帰って寝させてあげて」
荒凪はふらつく足で俺を部屋まで誘導し、ベッドに寝転がさせてくれた。俺にタオルケットをかけると荒凪は床に膝立ちになり、きゅうきゅう鳴きながら俺の顔をじっと見つめた。
(この分じゃ学校行けそうにありませんな……そうだ、ミフユたまに連絡せねば)
俺の弁当を作ってくれているミフユには早めの連絡が必要だ。普段の弁当の手の込みようから考えて、もうほとんど作り終えていそうではあるけれど。
(送信完了っと)
スマホを弄るのも辛い。今日は何も出来そうにないな。
ほどなくして母が朝食を持ってきてくれた。食後の薬と、ひんやりとしたジェル入りの枕もついでに。
「……冷たくて気持ちいい」
「ちゃんと食べるのよ」
「うん……ありがとママ」
「とりあえず今日は市販薬で様子見ね。病院は明日以降考えましょ」
「ん……」
「何かいるものある?」
「ない。あ……眩しいから、電気消して欲しい」
「分かったわ。カーテンはどうする?」
「遮光は開けといて……普通のは、閉めといて」
「ん。ゆっくり休むのよ」
カーテンを閉め終えた母は俺の頭を撫でてから部屋を出ていった。
「はぁ……どうしよ、土曜までに治るかな」
土曜日はカミアと約束がある。彼に会える希少な日を風邪なんかで潰すなんて嫌だ。
「クソ……あ、そうだ。コンちゃん居る?」
「ミタマ殿は離れで寝ている」
荒凪の隣にサキヒコが出現した。いい加減彼の心臓に悪い現れ方にも慣れてきた。
「まだ寝てるの? そっか。じゃあサキヒコくんに頼んでいいかな」
「何だ? 何でも言え」
「セイカの車椅子、駅まで押してあげて欲しい……いつものとこにリュウ居ると思うから、その後はリュウに頼んで……」
「分かった」
「あ、身支度も手伝ってあげて」
「うん。行ってくる」
サキヒコは扉を開けることなくすり抜けて部屋を出ていった。少し話しただけで随分疲れた、咳をして、鼻を啜って、目を閉じる──
「みつき、きゅうぅ……みつき」
「ん、何? 荒凪くん。つまんないだろ俺見てても……プール入ってきていいよ?」
──すぐに目を開けた。これじゃ瞬きじゃないか。寝たい、静かに休みたい。心配してくれるのは嬉しいけれど、気を遣うから離れていて欲しい、せめて話しかけないで欲しい。なんて、心配してくれている相手に正直に言えるヤツは少ないだろう。
「みつき、かぜ、嫌?」
「嫌だよそりゃ……」
「なくなて、ほしい?」
頭痛が酷い。思考がまとまらない。俺は荒凪の単純な質問に、単純な考えで頷いた。
「うん……」
「……分かった」
荒凪がゆっくりと立ち上がる、ようやくプールに行く気になったのか?
「荒凪くん……?」
シャツが捲れ、三本目四本目の腕が現れる。カーテン越しの淡い光に照らされた荒凪の瞳の片方には瞳孔が三つあった。
「…………滅ブ……」
あぁそうだ、朝食を食べて薬を飲まなければ。でも、起き上がれないな、眠りたい。食べなきゃ、あぁダメだ、意識が落ちる。
再び目を覚ましたのは午前十時頃。身体を起こし、辺りを見回す。朝食は勉強机に置かれたままだ、二つあるプレートのうち一つは空だから荒凪が自分の分は食べたのだろう。
「……荒凪くん」
床に寝転がって金魚のオモチャを弄っていた荒凪が顔を上げる。
「みつき! おはよ。みつきつらい?」
「辛い? あれ……? そういえばあんまり。薬飲んでないのに」
「よかったねー」
「そうだね」
とりあえず朝食を食べよう。うわパサパサ。
パサパサの朝食を食べて、顔を顰めながら粉薬を飲んだ。何だか元気になったみたいなのでリビングに移り、ソファでくつろぎながらアニメを見た。
「見逃し配信は人類の叡智~」
隣に座った荒凪も画面をじっと見ている、内容を理解しているのだろうか。途中から見ても面白くないだろうな、興味があるなら一話から見せてやりたい。お、キスシーンだ、ちょっと気まずいな。
「……みつきー」
「ん?」
「ひと、すき?」
「ヒトさんのこと? うん、好きだよ」
どうしたんだろう急に。
「僕達、すき?」
「もちろん。荒凪くんのことも好きだよ」
人間の姿の時の荒凪は表情が変わらないし、声色も一定で感情が読み取りにくい。今見ているアニメでちょうど恋愛絡みの話をやっていたからかな、なんて考えていると荒凪が抱きついてきた。
「ん? どうしたの荒凪くん」
腰に腕が回されている感覚があるのに、首にも腕が絡んでいる。また四本生やしているのかと荒凪の腕に意識が逸れた瞬間、荒凪の顔が近付いて唇に柔らかいものが触れた。
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