冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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後で食うから据え膳取っといて (〃)

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キスされている。多分、いや絶対そうだ。荒凪が抱きついてきて、キスしてきた。何故? アニメに影響を受けたのか?

「……荒凪くん? な、何? どうしたの急に」

押し付けられた唇はすぐに離れた。興奮を押し殺し、荒凪の気持ちを確認するまで浮かれるなと自分を叱りつけ、表面上は冷静に尋ねる。

「みつき、僕達すき」

「す、好きだけど」

「すきなら、するもの」

陽光も届かない深海のような双眸が俺を真っ直ぐ見つめている。

(そ、それは今見ているアニメの強気ヒロインちゃんがヘタレ主人公の唇を奪って言ったセリフ! を、荒凪くんが話しやすいように解体したヤツですな。やっぱりアニメの影響受けてのことですか……どうしましょ、荒凪くんが恋愛の機微を理解しているとは思えませんから、その辺を教えて荒凪くんの判断を待つ前に手を出しちゃうのは子供に手を出すようなものでは? よくないのでは?)

欲望と倫理がせめぎ合う。

(いやでも見た目的には同い歳くらいですしそもそも人外、恋愛感情を理解してわたくしをそういう目で見れなかったとしても彼と付き合える人間なんて居ないわけで、っていうかきゃわゆい荒凪くんを他の男に渡すなんて絶対嫌なんですが! なら! アニメの真似でも親愛を錯覚しているだけでも、既成事実を作ってしまった方が!? いやいやいや後々荒凪くんが正気に戻ったらめちゃくちゃ傷付く&わたくしフラれる訳で……!)

思考ばかり回って口は少しも動かない。痺れを切らした荒凪が口を開く。

「ひと、と、してた」

「ぁ、昨日の? 見てたんだ……」

「みつき、ひとすき。みつき、僕達すき。でも僕達、みつきとちゅしてない。だからした」

なるほど。今見ているアニメでキスの意図をしっかり理解したから今行動に移したんだな。だが「好き」には色々種類があることを教えておかなければ、俺以外ともキスをしかねない。

「みつき、いやだった?」

「え? まさか! 嬉しいよ。でもっ……あ、荒凪くん?」

でも、キスをする仲の「好き」というのは特別で──と説明をしようとしたけれど、荒凪の手が後頭部と顎を支え再びキスの構えに入ったので中断した。

「ひと、ちゅー……もっと長かた」

「そりゃディープだったからっ、ちょっ、ちょっと待って」

キスを遮るように手を広げると、手首を掴まれて押さえつけられた。荒凪の手は変わらず俺の頭を支えているのに、肩甲骨辺りから生えているらしいもう一対の腕が……あぁもう腕が四本あるのズルい!

「待って荒凪くんっ、待っ……んーっ!?」

ソファの上で押し倒されて強引に唇を奪われる。素晴らしい襲い受け……って喜んでる場合じゃない。

「ぷは……なんか、ちがう。ひとのは、もっと」

「昨晩のミツキとヒト殿との口付けは舌を絡ませる深いものだ」

「サキヒコくん!? 止めてよ!」

「何故? ミツキも喜んでいるように見えるが……」

そうだったサキヒコは感情が色で視えるとかいうよく分かんない能力持ちだった! 表面的な感情しか読めないのなら、そりゃ俺の困惑や熟慮は無視して「美少年とのキスだひゃっほい」の感情しか分からないよねクソッタレ!

「そりゃ嬉しいよ荒凪くん可愛いからね!? でも荒凪くんが恋とか愛とかちゃんと分かってるとは思えないし……!」

「分かってる! 僕達みつきがすき、だいすき!」

「それは荒凪くんが俺としかまだろくに関わってないからだろ!?」

「その通りだ。だがミツキ、あなたしか居ないんだ。私も、ミタマ殿もそうだ……私達のような人に非ず者共にはあなたしか居ない。ミツキだってそうするつもりだろう? 自分だけに依存させ、相思相愛にした後で、自分に恋する者達だけとの交流を部分的に許す。あなたはいつもそうする」

温度のない手が頬に触れた。荒凪と頭のてっぺんを合わせるように、俺の顔を覗き込むサキヒコは嘲るような笑顔を浮かべていた。

「……独占する気しかないくせに、美しい箱庭から出すつもりがないくせに、今更常識人ぶるな。セイカ殿にしたって弟君にしたってそうだ、自分に依存させて離す気なんてさらさらないくせに他との交流も大切なんてほざきよる。その交流とやらも自分の恋人達とだけ……セイカ殿がカサネ殿と話していた時は随分怒ったな? そしてカサネ殿も引き入れた。ミツキ、あなたはもう少し自分の醜さに自覚的になるべきだ」

「…………それ、は、そんなの……俺」

「もっと自分に素直になれ、ミツキ。荒凪、襲ってしまえ。男の理性など脆いもの、誘惑し通せば乗ってくるものよ」

「……分かったような口振りじゃん。誘惑しなれてんの?」

「嫉妬か? ふふ、安心してくれミツキ。耳年増なミタマ殿からの受け売りだ。私にはあなただけだ、荒凪にもな」

「さきひこー、した……かりゃましぇりゅ、どうするの?」

サキヒコの言っていることも一理あるだろう、でも! やっぱり言動が幼いんだよ荒凪くんは!

「わ、私もよくは分からない……とりあえず舌を押し込めば後はミツキが進めてくれるだろう。ミツキの口は私が開けさせるからとにかく舌を入れるんだ」

「……っ、あのさぁ! ちょっと聞いて!」

「据え膳食わぬは男の恥という言葉を知らんのか」

「食うよ! 荒凪くんも君もそのうち食う! 一回思い出してよ、荒凪くんの血かかった俺の手どうなったか思い出してよ。あんまり言いたくないけどさぁ……荒凪くんの唾液、俺飲んだりしても平気なのかな」

「…………完ッ全に失念していた! 一度離れろ荒凪!」

荒凪は全ての手を俺から離し、慌てて立ち上がった。そこまで離れなくても平気だと止めるまで後ずさりをやめなかった。

「そういえば全身劇物というか毒物というか……そういう疑念があるんだったな。今のところ血しか確認していなかったが、唾液なども危険なのか?」

「わかんない……」

「私やミタマ殿のような実体化した霊体と、生きた人間の肉体では差異が出るかもしれん。私達での実験は信用出来んな、母君に豚肉の欠片でも分けてもらうか……いや、死んだ肉もやはり反応が違うかもしれんな。となるとまずは動物実験、その後人体実験だ」

「サキヒコくん怖いこと言わない! 今度また秘書さん来てくれるから、その時に唾液とか取ってもらって、成分検査とかしてもらう予定だから! はぁ……荒凪くんとそういう関係になるのは秘書さんに安全かどうか確認してもらってからのつもりだったんだよ、先走らないで欲しいな」

「…………すまない」

「僕達、あぶない……だったら、ちゅー、だめ?」

「中和剤とか作れないか調べたり、対策考えるつもりだったよ。だからまず調べなきゃ。調べずにキスとかして、もし俺の舌が溶けたりしたら、荒凪くん嫌だろ?」

「いや」

「いい子だね。もう少し待っててくれる? ハグとかならいつでもしてあげるから、ね?」

「……うん」

「ミツキ、すまない……」

「サキヒコくんももう気にしないでよ、俺の態度に腹が立っただけだろ? その気持ちは分かるよ、自分でも分かるもん。善人ぶろうとしてる気持ち悪さ……でもさ、偽善でもやらないよりはマシでしょ? 欲望に従ってたらセイカ閉じ込めちゃってたし、サキヒコくんもツザメさんに会えなかったかも」

「……あぁ。だが、ミツキ……あなたしか居ない者にとって、あなたの手放そうとしているようにも取れる言動は酷く苦しいんだ。あれは、控えて欲しい」

「…………うん、ごめん。気を付ける」

小さな身体が抱きついてきた。抱き締め返しても体温や鼓動を感じることはなく、彼の存在の儚さがよく分かった。
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