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消えない胸の痛み (水月+ヒト・荒凪・サキヒコ・アキ・セイカ)
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少々居心地が悪かったが、雨に濡れることなく楽に家に帰れたのだから文句は言うまい。
「雨、止みましたね」
家に着く数分前くらいから雨が止んでいたことに、俺は車を降りて初めて気が付いた。
「ええ、少し前から。よかったですね、降りる時に濡れなくて」
そう言いながら車を降りたヒトは後部座席のドアを開け、荒凪を抱き上げた。お姫様抱っこだ。
「えっ、あの、ヒトさんっ? 何を」
「何……? あぁ、靴をお持ちでないようでしたから、乗車の際もこうして。ね、荒凪さん」
「うん。ありがとぉ」
「さ、鳴雷さん。早く玄関を開けてください」
「あっはいすぐに!」
玄関扉を開け、荒凪を抱えたヒトを入らせる。荒凪を廊下に下ろしたヒトはすぐに外に出て俺の首に絡みついた。
「鳴雷さん……荒凪さん見た目の割に重くないですか? 持ち上げたことあります?」
「お疲れ様です……」
「労いと別れのキスが欲しいです」
頭を擦り寄せる子供っぽい仕草を愛しく思いつつ、ヒトの首に抱きついて背伸びをして、屈んだ彼と唇を重ねた。
「……んっ、ふ……んんっ、ん……んっ」
舌を伸ばしてヒトの口内を徹底的に愛でる。ヒトの方から伸ばされる彼の舌は押し返したり、ねぶって吸ってくったりさせたりして、攻勢を保った。
「ん……はぁっ、はぁ……ひどい、鳴雷さん……こんなのスイッチ入っちゃいます、もっと色々しないと治まらない……」
ごり、と硬いものが腹に擦り付けられる。
「鳴雷さん……」
腰を揺らしぐりぐりと俺の腹を押す。角、いや、俺の腹筋は平らだから床かな? 床オナでもしている感覚なのだろうか。
「もう帰らなきゃいけないのに……本当にひどい。近いうちに予定を空けてください、たくさん抱いてくれなきゃ許しませんから」
「ええ、もちろん」
「一度じゃ嫌ですよ、約束ですからね」
可愛いヒトの唇に今度はバードキスをし、約束ですと微笑んだ。ヒトは顔を赤くし、前屈みになりながら車に戻っていった。
「さようなら、鳴雷さん。おやすみなさい」
「おやすみなさい、ヒトさん…………あぁ~! 可愛いっ、ヤりたい!」
「早く母君に帰宅の報告をし夕食を取れ」
サキヒコに急かされ、ダイニングへ。母はリビングでアキとセイカとすごろく系のパーティゲームで遊んでいた。
「ただいママ上アキきゅんセイカ様」
「おかえり水月、おかずレンジに入ってるわ。温める時は野菜出すのよ」
「はーい」
テレビ画面から目を離さずの返事だ、別にいいけど。
「おかえり、鳴雷」
《兄貴ぃ! スェカーチカが俺ばっかり妨害してくる……怒ってくれよ~》
「……? セイカ、アキ……なんか泣きそうじゃないか?」
「寂しかったんだってさ」
「そっかそっか寂しかったのかぁ可愛いなぁもう! ご飯食べたらお兄ちゃんたっぷり構ってやるからな!」
なんて可愛い弟だろう。構い方はどうしよう? ゲームに参加するか、それとも恋人らしくか……アキが望むようにしてやるかな。
「あ……」
「どうした、ミツキ」
「荒凪くんのもある。そりゃ、あるよね。どうしよう、荒凪くんまだ食べれる?」
「すこし」
「んー、じゃあ半分こしよっか。俺お腹すいてるし」
荒凪を追って結構走ったんだ、おかずを半人前増やした程度じゃ太らないだろう。そう楽観した俺は二人分の食事を温め直し、分けた。
「ご飯欲しい?」
「すこし」
「ちょっとずつ入れていくからストップって言ってね」
荒凪のために新しく買われた魚柄の可愛らしいお茶碗。そこに少量ずつ米をよそっていく。
「よいしょー、よいしょー」
「何故イクラ丼式なんだ」
「よいしょー、よいしょー」
「掛け声と入れる量が合っていない」
「よいしょー」
「しゅとぷ」
「はい、ここまでだね。いい? じゃ、次俺の入れちゃお……おかず増えた分減らすべきかな」
お茶碗を両手で持ち、じっと見つめながらよたよたと机に運ぶ荒凪の姿を見て、ノヴェムに皿を運ばせた時のことを思い出した。やはり荒凪は仕草が幼い、人間の姿だと特にだ。人間の体に慣れていないだけだと思いたいが……
「サキヒコくんなんでヨイショって言いながらイクラかける方式のイクラ丼知ってるの?」
「この間てれびで見た」
「中高年感あるなぁ」
藁を材料に呪いの藁人形を作るように、荒凪は人間を材料にして作られた呪いの道具。それがスイが出した答え。材料にされたのは幼い子供なのではないか、それは荒凪の幼さを感じた俺の妄想。
「…………はぁ」
「ミツキ? て、てれびでの情報収集はダメなのか?」
「えっ? あ、いや、ごめん、違うよ。サキヒコくんと話してるのとは別で考え事してて……ごめん」
「そうか。ではその内容を聞かせてもらおう、ミツキをそんなにも悩ませるのは一体何だ?」
「……荒凪くんのこと。俺かアキと同い歳くらいに見えるけどさ、実年齢っていうか……材料にされた人間は、いくつだったんだろうって。荒凪くんの魂の話、多分血縁の魂二つ分って。アレってさ、少なくとも未成年が二人は酷い殺され方したってことだろ……多分、酷く殺さないと、呪いに使えないと思うし、イメージだけど」
「…………ふむ」
「大人ならいい訳じゃないんだっ、でもやっぱり若ければ若いほど嫌だろ、そういう殺され方されるの。若い方が可哀想な気がする……サキヒコくんだって、まだ、何も……してなかったのに、死んじゃって」
「……泣くなミツキ。全く、自分の痛みには疎い癖に他人のことばかりに胸を痛めて……どうしようもなく愛おしい性質だが、ミツキ、よく聞け。私は今幸せだ、ミツキがそうしてくれている。若くして死んだことにそれほど悲壮感はないんだ。だからな、ミツキ、荒凪にもそうしてやれ。幸い彼には生前の記憶などないようだ、ミツキがうんと可愛がってやれば彼の人生は幸福なものになるだろう」
「……うん、頑張るよ」
サキヒコは安心したような表情になった、俺が彼の話に納得したと、悲しむのをやめたと思ったのだろう。
「…………」
生前の記憶がないのなら、二人の子供が混ぜられ一つの怪異に成ったのなら、二人の子供の人生はやっぱり酷く殺された時点で終わりなんじゃないか? 荒凪の今は、サキヒコの今のような人生の続きではないのでは? ならやっぱり、荒凪の材料になった名も知らぬ子供達は不幸なままなのでは?
「……いただきます」
「いたぁきます」
「ふふ……先食べててよかったのに」
頑張って慰めてくれたのだろうサキヒコには悪いけれど、俺の痛みは弱まらないみたいだ。
「雨、止みましたね」
家に着く数分前くらいから雨が止んでいたことに、俺は車を降りて初めて気が付いた。
「ええ、少し前から。よかったですね、降りる時に濡れなくて」
そう言いながら車を降りたヒトは後部座席のドアを開け、荒凪を抱き上げた。お姫様抱っこだ。
「えっ、あの、ヒトさんっ? 何を」
「何……? あぁ、靴をお持ちでないようでしたから、乗車の際もこうして。ね、荒凪さん」
「うん。ありがとぉ」
「さ、鳴雷さん。早く玄関を開けてください」
「あっはいすぐに!」
玄関扉を開け、荒凪を抱えたヒトを入らせる。荒凪を廊下に下ろしたヒトはすぐに外に出て俺の首に絡みついた。
「鳴雷さん……荒凪さん見た目の割に重くないですか? 持ち上げたことあります?」
「お疲れ様です……」
「労いと別れのキスが欲しいです」
頭を擦り寄せる子供っぽい仕草を愛しく思いつつ、ヒトの首に抱きついて背伸びをして、屈んだ彼と唇を重ねた。
「……んっ、ふ……んんっ、ん……んっ」
舌を伸ばしてヒトの口内を徹底的に愛でる。ヒトの方から伸ばされる彼の舌は押し返したり、ねぶって吸ってくったりさせたりして、攻勢を保った。
「ん……はぁっ、はぁ……ひどい、鳴雷さん……こんなのスイッチ入っちゃいます、もっと色々しないと治まらない……」
ごり、と硬いものが腹に擦り付けられる。
「鳴雷さん……」
腰を揺らしぐりぐりと俺の腹を押す。角、いや、俺の腹筋は平らだから床かな? 床オナでもしている感覚なのだろうか。
「もう帰らなきゃいけないのに……本当にひどい。近いうちに予定を空けてください、たくさん抱いてくれなきゃ許しませんから」
「ええ、もちろん」
「一度じゃ嫌ですよ、約束ですからね」
可愛いヒトの唇に今度はバードキスをし、約束ですと微笑んだ。ヒトは顔を赤くし、前屈みになりながら車に戻っていった。
「さようなら、鳴雷さん。おやすみなさい」
「おやすみなさい、ヒトさん…………あぁ~! 可愛いっ、ヤりたい!」
「早く母君に帰宅の報告をし夕食を取れ」
サキヒコに急かされ、ダイニングへ。母はリビングでアキとセイカとすごろく系のパーティゲームで遊んでいた。
「ただいママ上アキきゅんセイカ様」
「おかえり水月、おかずレンジに入ってるわ。温める時は野菜出すのよ」
「はーい」
テレビ画面から目を離さずの返事だ、別にいいけど。
「おかえり、鳴雷」
《兄貴ぃ! スェカーチカが俺ばっかり妨害してくる……怒ってくれよ~》
「……? セイカ、アキ……なんか泣きそうじゃないか?」
「寂しかったんだってさ」
「そっかそっか寂しかったのかぁ可愛いなぁもう! ご飯食べたらお兄ちゃんたっぷり構ってやるからな!」
なんて可愛い弟だろう。構い方はどうしよう? ゲームに参加するか、それとも恋人らしくか……アキが望むようにしてやるかな。
「あ……」
「どうした、ミツキ」
「荒凪くんのもある。そりゃ、あるよね。どうしよう、荒凪くんまだ食べれる?」
「すこし」
「んー、じゃあ半分こしよっか。俺お腹すいてるし」
荒凪を追って結構走ったんだ、おかずを半人前増やした程度じゃ太らないだろう。そう楽観した俺は二人分の食事を温め直し、分けた。
「ご飯欲しい?」
「すこし」
「ちょっとずつ入れていくからストップって言ってね」
荒凪のために新しく買われた魚柄の可愛らしいお茶碗。そこに少量ずつ米をよそっていく。
「よいしょー、よいしょー」
「何故イクラ丼式なんだ」
「よいしょー、よいしょー」
「掛け声と入れる量が合っていない」
「よいしょー」
「しゅとぷ」
「はい、ここまでだね。いい? じゃ、次俺の入れちゃお……おかず増えた分減らすべきかな」
お茶碗を両手で持ち、じっと見つめながらよたよたと机に運ぶ荒凪の姿を見て、ノヴェムに皿を運ばせた時のことを思い出した。やはり荒凪は仕草が幼い、人間の姿だと特にだ。人間の体に慣れていないだけだと思いたいが……
「サキヒコくんなんでヨイショって言いながらイクラかける方式のイクラ丼知ってるの?」
「この間てれびで見た」
「中高年感あるなぁ」
藁を材料に呪いの藁人形を作るように、荒凪は人間を材料にして作られた呪いの道具。それがスイが出した答え。材料にされたのは幼い子供なのではないか、それは荒凪の幼さを感じた俺の妄想。
「…………はぁ」
「ミツキ? て、てれびでの情報収集はダメなのか?」
「えっ? あ、いや、ごめん、違うよ。サキヒコくんと話してるのとは別で考え事してて……ごめん」
「そうか。ではその内容を聞かせてもらおう、ミツキをそんなにも悩ませるのは一体何だ?」
「……荒凪くんのこと。俺かアキと同い歳くらいに見えるけどさ、実年齢っていうか……材料にされた人間は、いくつだったんだろうって。荒凪くんの魂の話、多分血縁の魂二つ分って。アレってさ、少なくとも未成年が二人は酷い殺され方したってことだろ……多分、酷く殺さないと、呪いに使えないと思うし、イメージだけど」
「…………ふむ」
「大人ならいい訳じゃないんだっ、でもやっぱり若ければ若いほど嫌だろ、そういう殺され方されるの。若い方が可哀想な気がする……サキヒコくんだって、まだ、何も……してなかったのに、死んじゃって」
「……泣くなミツキ。全く、自分の痛みには疎い癖に他人のことばかりに胸を痛めて……どうしようもなく愛おしい性質だが、ミツキ、よく聞け。私は今幸せだ、ミツキがそうしてくれている。若くして死んだことにそれほど悲壮感はないんだ。だからな、ミツキ、荒凪にもそうしてやれ。幸い彼には生前の記憶などないようだ、ミツキがうんと可愛がってやれば彼の人生は幸福なものになるだろう」
「……うん、頑張るよ」
サキヒコは安心したような表情になった、俺が彼の話に納得したと、悲しむのをやめたと思ったのだろう。
「…………」
生前の記憶がないのなら、二人の子供が混ぜられ一つの怪異に成ったのなら、二人の子供の人生はやっぱり酷く殺された時点で終わりなんじゃないか? 荒凪の今は、サキヒコの今のような人生の続きではないのでは? ならやっぱり、荒凪の材料になった名も知らぬ子供達は不幸なままなのでは?
「……いただきます」
「いたぁきます」
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