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お礼はいらない (〃)
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咳き込んだ俺の背をサキヒコとミタマが撫でる。同時に撫でるから手がぶつかり合って上手く撫でられていない。
「みつき……」
「ん、大丈夫。何ともないから気にしないで」
荒凪の指はたどたどしく俺の首に触れている。爪の跡や手形でもついたのだろうか。
「……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですってば」
「今のことではなく、その子を家に置き続けることです。危険に思えるのですが」
「……危険なんかないですよ。荒凪くんはいい子ですから」
「はぁ……」
ネイは額に手を当てて俯き、また深いため息をつく。
「あなたは……優しいというより、愚かで……けれど、そんなところが…………はぁ、全く………………それで、水月くんが掴んだ情報は今の二つで終わりですか? 正式名称と、妖怪の養殖……その証拠」
碧い瞳が荒凪を見つめる。
「はい。今度また秘書さん来てくれるみたいなので、聞き出してみます」
「無理はなさらないでくださいね」
「あの人口が軽いって言うか……あの人的にはあんまり大事な情報じゃなさそうなので、イケると思います」
「……そうですか」
「ネイさんが欲しい情報って、オカルト的なのじゃなくて法律に則って裁けそうな悪事の証拠ですよね?」
「いえ、それを掴むのは私の仕事です。侵入でも潜入でもして……ただ日本神秘の会に入信するフリをしただけでは、日本神秘生類創成会に潜り込むことは出来ません。あなたのおかげで存在が私の妄想でないことが分かった裏の顔……どう調べても掴めなかった、そこに潜入するための道、その取っ掛りが欲しい。子供のあなたに無茶をしろとは言いません、本当にただ……あの男から情報を引き出すだけでいい」
「……秘書さんと話すだけでいいんですね? 分かりました」
「競売を壊滅させたと言いましたね。そんな情報、私は掴んでいません。競売ともなればどこか大きな箱が必要、壊滅させたとなれば死傷者や銃火器の使用もあったでしょう。なのに、何の情報も入らないのは異常です。ヤツの情報管理は並ではない……と、私は考えています。気を付けてください、探っていることを悟られないように」
俺には彼は情報管理なんてしていないように思える。
「偽情報かどうかは気にしなくて構いません、私が判断します。聞いたこと全て、気付いたこと全て、私に教えてください。引き続きよろしくお願いします」
「……はい」
「さて、水月くん。今回あなたが持ってきてくださった情報は素晴らしいものでした、是非お礼をさせてください」
ネイは立ち上がり、俺が座っているソファの肘掛けに緩く腰掛け、俺の肩に腕を回した。
「……なんでもしますよ」
緩く手を握り、僅かに開いた唇からチラリと舌を覗かせる。淫靡な仕草と表情に、俺の口は勝手に動いた。
「ヤらせてください」
「ミツキ……!?」
「セックスですか? 分かりました」
余裕な態度を崩さず了承したネイに、何故か無性に腹が立った。
「すんなりOKするんですね……まぁ、そりゃ、元からそうやって俺から情報得ようとしてたんですから、さほど抵抗もないでしょうね」
こんなこと言いたくなかったのに、また口が勝手に動いた。
「私としましても嬉しいことなんですよ。あなたとそういうことが出来るなんて……」
「……リップサービスも付けてとは言ってませんけど」
「信じてくださいませんよね……確かに私はあなたを利用するためにあなたに好意を示しました。でも、そうしなければならないと分かった時私は自分の幸運を噛み締めたんです。好きでもない相手ではなく、あなたが対象になった幸運を……」
「そういうの、いいですから」
目を逸らしながら言うとネイはシャツのボタンを外し始めた。
「…………」
「…………」
「……ミツキ」
くい、とサキヒコが俺の服の裾を引く。そのおかげで俺はようやく俺の主導権を俺の感情から奪い返すことが出来た。
「ごめんなさいっ、帰ります!」
「えっ……水月くん!?」
打ち出されたように走り出す。ノヴェムを起こさないように……なんて気遣い、なかった。ドタバタ走って、気付けば裸足のまま道に居た。
「ミツキ! ミツキ……靴を履け」
追いかけてきたサキヒコが靴を渡してくれた。
「……ありがとう」
「据え膳食わぬは男の恥と言うに……意気地なしじゃのうみっちゃんは」
ミタマが荒凪の手を引いている。一人分ではない下駄の音を不思議に思い足元を見れば、荒凪も下駄を履いていた。
「……荒凪くん、下駄……どうしたの?」
「ワシのじゃ」
「コンちゃんのは履いてるじゃん」
「ワシのを履かせた後、ワシが変身し直したんじゃ」
そんなこと出来るんだ。
「それよりみっちゃん、さっきのは……」
「ミタマ殿、どうかそこまでに。ミツキ、家に帰ろう。ほら早く履くんだ」
靴、というかスリッパを履き、サキヒコに改めて礼を言う。気持ちが落ち着き始めた俺の袖を荒凪が引いた。
「みつきー」
心配してくれているのだろう、笑顔を見せてやらないとな。
「大丈夫……」
「ねい、きらい?」
「…………え?」
荒凪の服が持ち上がり、二組目の腕が現れる。その腕は俺の手を強く握る。
「居ない方が、うれしいか」
荒凪の口は動いていないの、彼の喉の奥から声がする。
「居なくなれば、みつき、よろこぶか」
言いようのない不安を感じる。
「……っ、悲しい! ネイさんが居なくなったら俺すごく悲しいよ……好きなんだあの人のこと、初めて会った時からずっと憧れてて……ネイさんの本性知った後でも話せると、嬉しくて……でも、スパイみたいな仕事してる人だから、俺のことホントに好きになってくれるとかありえなくて……だから、苦しくて」
手を握られている感覚が消え、視線を下に落とせば荒凪の腕は二本に戻っていた。
「うん、苦しい……好きだから苦しい。それだけ。だから俺は大丈夫だし、ネイさんにはずっと元気でいて欲しい……危ないお仕事なら控えて、ノヴェムくんとずっと笑ってて欲しいんだ」
「……みつき、ねいすき、わかた」
荒凪はしっかりと唇を動かして話している。
「分かってくれた? よかった」
「僕達、はやとりち」
「とちり、ね。ふふ……」
まだまだ言葉が拙い荒凪が可愛くて笑みが零れた。だが笑顔の裏で心は冷え切っていた、ネイが嫌いだ居なくなれと答えていたら荒凪はどうしていたのか……そればかり考えて、よくない妄想を広げて、怯えていた。
「みつき……」
「ん、大丈夫。何ともないから気にしないで」
荒凪の指はたどたどしく俺の首に触れている。爪の跡や手形でもついたのだろうか。
「……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですってば」
「今のことではなく、その子を家に置き続けることです。危険に思えるのですが」
「……危険なんかないですよ。荒凪くんはいい子ですから」
「はぁ……」
ネイは額に手を当てて俯き、また深いため息をつく。
「あなたは……優しいというより、愚かで……けれど、そんなところが…………はぁ、全く………………それで、水月くんが掴んだ情報は今の二つで終わりですか? 正式名称と、妖怪の養殖……その証拠」
碧い瞳が荒凪を見つめる。
「はい。今度また秘書さん来てくれるみたいなので、聞き出してみます」
「無理はなさらないでくださいね」
「あの人口が軽いって言うか……あの人的にはあんまり大事な情報じゃなさそうなので、イケると思います」
「……そうですか」
「ネイさんが欲しい情報って、オカルト的なのじゃなくて法律に則って裁けそうな悪事の証拠ですよね?」
「いえ、それを掴むのは私の仕事です。侵入でも潜入でもして……ただ日本神秘の会に入信するフリをしただけでは、日本神秘生類創成会に潜り込むことは出来ません。あなたのおかげで存在が私の妄想でないことが分かった裏の顔……どう調べても掴めなかった、そこに潜入するための道、その取っ掛りが欲しい。子供のあなたに無茶をしろとは言いません、本当にただ……あの男から情報を引き出すだけでいい」
「……秘書さんと話すだけでいいんですね? 分かりました」
「競売を壊滅させたと言いましたね。そんな情報、私は掴んでいません。競売ともなればどこか大きな箱が必要、壊滅させたとなれば死傷者や銃火器の使用もあったでしょう。なのに、何の情報も入らないのは異常です。ヤツの情報管理は並ではない……と、私は考えています。気を付けてください、探っていることを悟られないように」
俺には彼は情報管理なんてしていないように思える。
「偽情報かどうかは気にしなくて構いません、私が判断します。聞いたこと全て、気付いたこと全て、私に教えてください。引き続きよろしくお願いします」
「……はい」
「さて、水月くん。今回あなたが持ってきてくださった情報は素晴らしいものでした、是非お礼をさせてください」
ネイは立ち上がり、俺が座っているソファの肘掛けに緩く腰掛け、俺の肩に腕を回した。
「……なんでもしますよ」
緩く手を握り、僅かに開いた唇からチラリと舌を覗かせる。淫靡な仕草と表情に、俺の口は勝手に動いた。
「ヤらせてください」
「ミツキ……!?」
「セックスですか? 分かりました」
余裕な態度を崩さず了承したネイに、何故か無性に腹が立った。
「すんなりOKするんですね……まぁ、そりゃ、元からそうやって俺から情報得ようとしてたんですから、さほど抵抗もないでしょうね」
こんなこと言いたくなかったのに、また口が勝手に動いた。
「私としましても嬉しいことなんですよ。あなたとそういうことが出来るなんて……」
「……リップサービスも付けてとは言ってませんけど」
「信じてくださいませんよね……確かに私はあなたを利用するためにあなたに好意を示しました。でも、そうしなければならないと分かった時私は自分の幸運を噛み締めたんです。好きでもない相手ではなく、あなたが対象になった幸運を……」
「そういうの、いいですから」
目を逸らしながら言うとネイはシャツのボタンを外し始めた。
「…………」
「…………」
「……ミツキ」
くい、とサキヒコが俺の服の裾を引く。そのおかげで俺はようやく俺の主導権を俺の感情から奪い返すことが出来た。
「ごめんなさいっ、帰ります!」
「えっ……水月くん!?」
打ち出されたように走り出す。ノヴェムを起こさないように……なんて気遣い、なかった。ドタバタ走って、気付けば裸足のまま道に居た。
「ミツキ! ミツキ……靴を履け」
追いかけてきたサキヒコが靴を渡してくれた。
「……ありがとう」
「据え膳食わぬは男の恥と言うに……意気地なしじゃのうみっちゃんは」
ミタマが荒凪の手を引いている。一人分ではない下駄の音を不思議に思い足元を見れば、荒凪も下駄を履いていた。
「……荒凪くん、下駄……どうしたの?」
「ワシのじゃ」
「コンちゃんのは履いてるじゃん」
「ワシのを履かせた後、ワシが変身し直したんじゃ」
そんなこと出来るんだ。
「それよりみっちゃん、さっきのは……」
「ミタマ殿、どうかそこまでに。ミツキ、家に帰ろう。ほら早く履くんだ」
靴、というかスリッパを履き、サキヒコに改めて礼を言う。気持ちが落ち着き始めた俺の袖を荒凪が引いた。
「みつきー」
心配してくれているのだろう、笑顔を見せてやらないとな。
「大丈夫……」
「ねい、きらい?」
「…………え?」
荒凪の服が持ち上がり、二組目の腕が現れる。その腕は俺の手を強く握る。
「居ない方が、うれしいか」
荒凪の口は動いていないの、彼の喉の奥から声がする。
「居なくなれば、みつき、よろこぶか」
言いようのない不安を感じる。
「……っ、悲しい! ネイさんが居なくなったら俺すごく悲しいよ……好きなんだあの人のこと、初めて会った時からずっと憧れてて……ネイさんの本性知った後でも話せると、嬉しくて……でも、スパイみたいな仕事してる人だから、俺のことホントに好きになってくれるとかありえなくて……だから、苦しくて」
手を握られている感覚が消え、視線を下に落とせば荒凪の腕は二本に戻っていた。
「うん、苦しい……好きだから苦しい。それだけ。だから俺は大丈夫だし、ネイさんにはずっと元気でいて欲しい……危ないお仕事なら控えて、ノヴェムくんとずっと笑ってて欲しいんだ」
「……みつき、ねいすき、わかた」
荒凪はしっかりと唇を動かして話している。
「分かってくれた? よかった」
「僕達、はやとりち」
「とちり、ね。ふふ……」
まだまだ言葉が拙い荒凪が可愛くて笑みが零れた。だが笑顔の裏で心は冷え切っていた、ネイが嫌いだ居なくなれと答えていたら荒凪はどうしていたのか……そればかり考えて、よくない妄想を広げて、怯えていた。
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