冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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まだまだ謎の多い会 (〃)

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結局、生きている人間が一番怖い。ホラー系の映画やゲームでこの結論を出されると、個人的には萎える。ヒトコワ見たい時はヒトコワ見るから……ってなる。幽霊出してよってなる。「本格ミステリ名乗った作品で、密室トリックの種が『被害者は幽霊に取り殺されたんだ!』とかやんのかオメーはよォ~」って言いたくなる。

(まぁ、それはわたくしの創作物の好みなんですが)

もちろん上手く使ってくれるなら人間怖いオチでも楽しめる、結局創作者の技量次第だよな。様々な創作論でダメだと言われている要素、展開を扱っていながら、技量で捩じ伏せてくるタイプの作品、好き。

(リアル怪異に人間のが怖いだろとか言い出されると、抱く感情に困りますな)

ネイとミタマとサキヒコの会話に上手く参加出来ない俺は、クッキーを齧る荒凪の隣でボーッとそんなことを考えていた。

「妖怪兵器のぅ……愛玩動物ならまだ分からんでもない、ワシとか超可愛いし。しかし兵器となるとのぅ、妖怪使う意味あるんかっちゅう疑問出るわな」

「既存の凶器のように足はつきませんよね?」

「ん~……しかしのぅ、わざわざ……いや、妖怪どうやって養殖しとるんか知らんしのぅ、ワシ。銃とか買うより手軽なんかもしれん。だとしたら、まぁ……しかし、自我のあるモノを扱うのは、不確定要素が多くはないかのぅ?」

「爆弾くくりつけた犬が自陣に帰ってきたとかいう話、聞いたことありますよ俺」

あんまりボーッとしているのもアレかと口を挟んでみる。

「え、犬に爆弾くくりつけたんか? 人間怖……意味分からん…………っと話が逸れたの。わざわざ妖怪を使わなくとも自分で生霊飛ばすとか、呪うとか、やりようあるじゃろっちゅうこっちゃ、ワシが言いたいんは。そっちでもヌシが気にしとる証拠は残らんぞ」

「ふむ……正直、生霊と呪いと妖怪の違いがイマイチまだ分かっていないのですが……実際兵器利用目的の妖怪の養殖を行っているんですよね? 神秘の会は」

「あ、はい。秘書さんはそう言ってましたけど」

クッキーを食べ終えて退屈になったのか、荒凪は懐から金魚のオモチャを取り出して眺め始めた。歌見が取ってあげていたヤツだな、気に入っているらしい。

「…………荒凪くん、腕……出せる? 二組目? 二セット目? なんて言えばいいのかなアレ……とにかくちょっと四本見せて欲しいんだけど」

「……? わかた」

荒凪の寝間着の腹辺りがもこっと膨らむ。服が内側から捲られ、脇腹周辺から生えたのだろう三本目四本目の腕が露わになった。

「……っ!? それ、は……今、出現しましたよね」

「荒凪くんは妖怪です。濡れると下半身が魚になります。腕が四本になったり、口が二つあったりします。彼は秘書さんが神秘の会が開催していた競売の商品です、秘書さんが単独で競売を襲撃、壊滅した後の戦利品とでも言えばいいんでしょうか」

「…………なるほど。何か、力はありますか? テロに使えるような」

「……血が、塩化ナト……違う、えっと、あっ、水酸化ナトリウム! 水酸化ナトリウムのように、人の皮膚を溶かします。貯水槽とかに流せば、テロじゃないですか?」

「溶かすだけ、ですか? 現実の薬品で再現可能なこと……? 他は? 攻撃的なものでなくても構いません」

「ワシの占いとかさっちゃんの夢侵入とかじゃな」

「……? ミタマ殿は生者の夢に入れないのですか?」

「出来る気せんよ。さっちゃん特技じゃ、誇れ」

「二人ともちょっと静かに……えっと、ネイさん、荒凪くんは今日預かったばかりなんです。まだあんまり分かってません」

「……そうですか」

ネイは残念そうにため息をつく。

「競売の壊滅……会にはどの程度の打撃なのでしょう。その子の奪取も……見逃していいものなのか、それともこの先何者かが彼を取り返しに来るかもしれないのか」

「えっ……」

そうか、確かに、言われてみれば、荒凪を奪い返そうとされても自然な状況だ。

「……ご注意を、水月くん。私も可能な限り警戒しておきます。神秘の会の情報もどうにか探りたい……表向きの宗教組織に潜入しても無駄足なのは分かっているし、どうにか運営側として雇われれば……っと、そうだ、荒凪くん、神秘の会で養殖されたあなたなら、神秘の会のメンバーのことが分かりませんか?」

「しぴのかい……?」

「神秘の会、日本神秘生類創成会のことです。代表や幹部をとまでは言いません、名前や特徴……印象的な位置のホクロとか、歩き方のクセとか、何でも構わないので」

「ネイさん、あんまり問い詰めないであげてください」

人間の姿の時、荒凪は表情がまだ上手く変えられない。嫌がっているとネイには分からなかったのだろう、俺だって予想でしかない。

「し、ぴ……しんぴ、神、秘…………神秘の……」

ぶつぶつと何かを呟き始めた。まずい、また様子がおかしくなった。また俺は鼻血を垂らしたり吐血したりしながら彼を宥めなければならないのか?

「も、の…………さ……」
「……る、さ……な……」

荒凪の声が同時に二つ聞こえた。違うことを言っているようだ。

「もの……べ、さ……」
「ゆ、るさ、ない」

「…………荒凪くん?」

「もののべさん」
「お前、物部か」

だらりと垂れ下がったままの荒凪の腕、彼の顔を覗き込んだ俺の首を鷲掴みにした荒凪の脇腹から生えた腕。その腕は全く違う意思で動いているように感じた。

「……物部か?」

爪が皮膚に食い込む痛みすら感じない、それほど強く掴まれている。全く動いていない荒凪の唇の向こう、喉の奥深くから響いてくる荒凪の声に、何とか返事をした。

「ち、がうっ……」

手が緩んだ。

「……っ、俺は、水月だ」

手が離れた。いや、消えた。三本目四本目の腕はまた消えてしまった。

「げほっ、げほ、げほっ……はぁ……」

「………………みつき?」

「はぁ、はぁ……ぁ、荒凪くん」

「……みつき……なかま。僕達も、なかま思てる。僕達……僕達、しかる。ごめんなさい……みつき」

首を撫でてくれている。心配してくれているようだ。酸欠なのもあってもう何が何だか分からなくなってきた、ひとまずは荒凪の手に甘えてみようか。
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