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一緒に学校行きたい (水月+荒凪・セイカ)

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荒凪が脱いだ下駄はポンと音を立てて消えた。ミタマは下駄を脱ぐ仕草など見せず、家に上がると同時に下駄が消えていた。今までもそうだっただろうか、足元にはあまり注意していなかった。

(足ばっかり見てたら足コキされたくなってきましたな)

足袋に興奮しつつ、自室に帰還。改めて荒凪を寝かしつける。彼は俺に懐いている、俺の悩みをどうにかしようとしてくれる。人混みや、俺の心を弄ぶネイを、どうにか……どう、してまうのだろう。

「おやすみ、みつき」

幼子のように純粋な心の彼が、サキヒコいわく憎悪に満ちているらしい彼が、スイいわく俺を一度呪ったらしい彼が、一体どうやって俺の悩みを解決するつもりなのだろう。

「……おやすみ、荒凪くん」

恐怖と同時に暗い好奇心まで膨らむ。ホラー映画のワンシーンを思い浮かべ、登場人物を駅前の人混みやネイに置き換えては吐き気を催す。

「きゅうぅ……みつきの手、あたかい」

俺の手に頬を擦り寄せる可愛い荒凪が、残酷な真似なんてする訳ない。きっと「コラっ」と怒って終わりなんだ……そんな訳ないだろ、多分想像通りだ、俺は荒凪の前で不満や悩みを口にするべきじゃないんだ。



暗い思考のまま眠り、スッキリしない目覚めを迎えた。

「はぁ……」

疲れが取れていない。同級生に恋人が居なければズル休みの選択も浮かんでいただろう。



朝支度を全て済ませた俺は、朝食の後すぐにプールに移った荒凪の元へ向かった。

「荒凪くん、どう? 楽しい? 本当に尻尾何ともない?」

金魚のオモチャと一緒に泳いでいた荒凪は水から顔だけを出し、すいーっとプールサイドに近寄った。

「楽しい。尻尾大丈夫」

「よかった。俺これから学校なんだ、セイカも。アキは居るから、二人でお留守番お願いね」

「……? 僕達、水月、仲間。仲間一緒。留守番しない」

「一緒に来たいの? ごめんね荒凪くん、学校はダメ。いい子だからお留守番してて?」

「学校……学校行きたい、僕達前から行きたかった」

前から? いつからだ?

「決まった人しか入れない場所なの。着いてきても学校には入れないんだよ」

「決まった人しか……人しか、入れない? 僕達……半分魚だから、だめ?」

拗ねたように水面をパシャンと叩く、七色に輝く尾ビレ。

「人間しかダメって訳じゃなくて、難し~い勉強をして、テストに合格した人しか入れないんだ」

「てすと? する。合格する」

「テストは年に一回しかないんだよ」

「……いつ?」

「来年。それに、そのテストに受かっても俺は二年生で荒凪くんは一年生になるから、学校で一緒には居られないよ。それでも学校行きたいの?」

そもそも人間ではなく何の書類もない荒凪には高校受験なんて出来ないだろう、という話は今はしないでおこう。

「……学校は、行ってみたい。でも水月、一緒違うなら……いい」

荒凪は残念そうな顔でトプンっと頭まで沈み、水面下を泳ぐ優雅な様を俺に見せた。屋根から下げられた淡い灯り、その光を虹色に反射する美しい鱗、ヒレ……いつまでも眺めていたい。

(クソデカ水槽欲しいですな。水族館みたいな。上からではなく横からも見たいでそ)

肺呼吸もエラ呼吸も出来るらしい荒凪は息継ぎのために水面に顔を出す必要はない。落ち込んでしまったみたいだし、しばらく水中に引きこもるだろう。

「鳴雷ー、そろそろ行かないと遅刻するぞー」

アキの部屋からセイカが声をかけてきた。

「ごめんごめん。じゃあね、荒凪くん。帰ってきたらいっぱい話していっぱい遊ぼう」

「秋風と二人で大丈夫かな……」

「大丈夫だろ、荒凪くんプールから出ないだろうし、アキはいつも一人で何とかなってるし」

扉をくぐる寸前、振り返ってプールに向かって手を振った。ザバッと現れた大きな魚の尾が左右に揺れた。

「あはっ、今の見たセイカ。尻尾バイバイ。超可愛い」

「……早く行くぞ」

「冷めてるなぁ」

アキとハグをし、セイカを車椅子に乗せ、いざ出発。駅までの道、ハムスターのぬいぐるみを弄りながらセイカが話し始めた。

「……鳴雷、今日バイトだよな。帰んのは晩飯前で……食ったら、荒凪と遊ぶのか? プールで?」

「んー、そうだな。荒凪くんがそうしたいなら。あやとりとかでいいなら楽なんだけど」

「随分懐かれてるよな……これからバイトある日の夜のちょっとした自由時間はアイツに使うつもりか?」

「しばらくはそうなるかも」

「…………あっそ」

不機嫌そうな低い声。ため息まで聞こえた。

「セイカ? なんか不満あるなら言ってくれ。俺としたいことでもあったのか? あっ……か、課題ならちゃんとやる、セイカに迷惑はそうそうかけないぞ。勉強教えてって頼りはするかもだけど、丸投げレベルの甘え方はしない!」

「……そうじゃ、なくて」

「…………セイカ? 割と……深刻な感じ?」

消え入るような声に不安を煽られ、俺は歩みを止め車椅子の前に回り込んだ。屈んで見上げるとセイカは少し驚いたような顔をした後、俺から目を逸らした。

「何してんだよ……遅刻するだろ」

「あぁ、遅刻する。このままセイカが何も話してくれなかったらな」

「…………はぁ? はぁー……ズリぃ……一人で車椅子動かせないの知っててお前はよぉ」

「痛い痛い、すね蹴らないで」

嫌がってはいるが、話す気になってくれたみたいだ。

「はぁ……よく聞けよ。いいか。まず平日の昼間はお前、鳥待とヤるだろ?」

「昼休みか? うん」

「バイトがない水曜日は放課後デートとか言ってどっか行くだろ?」

「うん」

今週の水曜日は荒凪のことを調べる日にしようかと思っているけれど。

「で、土日は朝からデート」

「うん。今週はカミアとだ、超楽しみ」

「金土の夜はよく秋風に乗っかられてるよな」

「気ぃ遣ってくれてるのか明日休みの日に誘ってくれることが多いんだよな、アキ。優しい子だよ」

「………………俺は?」

「ん? もちろんセイカも優しくて──」

「そっちじゃなくて! 俺……俺と、俺、と……シて、くれる日……なく、なっちゃう…………じゃん」

「……ぇ」

「お、俺っ、体力ないし……一回二回で終わるから、平日の夜にピッタリって感じだったのに……荒凪の世話するなら俺とっ……! 俺……俺の時間……ないじゃん」

遅刻を人質に無理矢理情事の心配事を話させられたセイカは、言い終えるとポロポロ涙を流し始めた。
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