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異種との風呂は難しい (水月+荒凪)
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まずはシャンプー。髪を洗う様を荒凪に見せる。荒凪はぎゅっと目を閉じて俺と同じように頭を洗い始めた。見様見真似、には見えない。頭の洗い方は知っていたみたいだ。
「……ぅおっ」
荒凪の肩の辺りからにゅっと三、四本目の腕が生えた。追加の腕二本は常設の腕二本と同じように頭を洗っている。
(昼間は脇腹から生えててヤモリっぽかったのに、今回は肩からという天津飯スタイル。どこからでも生えるんでしょうか。鱗とかと違って跡形もなくなくなりますし……)
ミタマが言うところの肉体と霊体の差だろうか? 鱗やヒレは肉体があるが、この二本の腕は霊体のみ? 骨格はどうなってるんだ? 無知な俺が肌の上から見たところで何も分からない。
「水月? どうした?」
目を閉じる前は向かい合って座っていたのに、気付けば立ち上がって肩を覗き込んでいた俺を不審に思ったのか、荒凪が首を傾げる。
「あ、いや、腕増えてるから」
「……! ほんとだ」
「無意識なんだね……いやどういうこと?」
格ゲーで言うと、Xボタンを使わない縛りでプレイしていたのに、ついうっかりXボタンを押してしまう感じ……? いやいやいやいや、腕を生やすのに力んだりとかしなくていいの? してなさそう。
「…………減った」
「消えた!? 不思議な不思議な生き物だなぁ、本当……この謎が解ける日は来るかな」
「さぁ」
「他人事だね。ま、いいや、頭洗えた? 流すよ」
泡を洗い流し、水を切り、コンディショナーを渡す。髪に塗り広げていく最中もやはり荒凪は腕を増やしていた。
「……流すよー」
増えた腕が消えるのはいつも、荒凪が腕が生えたことに気付いてからだ。何も言わなければいつ気付いて、いつ消えるのだろう。好奇心が湧いた俺は腕に関して黙することに決めた。
「洗えたね。髪、首とか肩に張り付いてると身体洗いにくいんだ、荒凪くんも俺もちょっと髪長めだから一緒に頭にタオル巻こっか」
頷く荒凪の髪をタオルでまとめてやる。自分の髪は後回しにし、荒凪の髪をタオルで包んでいく。
「タオル巻くのはね、こうやって……」
荒凪の髪は外側は黒いのだが、内側は海のような色をしている。深海のような暗い青も、太陽に照らされる浅瀬のような輝きもある。人間とは違う不思議な身体だから常に色が変わっているのか、光を当てる角度によって色が変わるのか、どちらなのかはよく分からない。
「こう! さ、身体洗っちゃお。ボディソープはこれね、ボディウォッシュはこのタオルっぽいの……」
そこまで説明して、俺の口は止まった。鱗に擦り付けたらボディウォッシュボロボロにならね? と思い至ってしまったのだ。
「水月?」
「……あ、うん、ボディウォッシュはこれなんだけど、鱗に引っかからないかなって。生えてる方向に逆らわなければ大丈夫かな? ちょっと尻尾の先っぽかして」
荒凪の向かいに座り、膝の上に尻尾を乗せてもらう。先端だけでもかなりの重さだ。
「噛まれたのは人魚の時だったのに、ここには怪我ないんだね……爪先はもっとずっと上の方にあるのに、尾の先っぽの傷が足先に移るってのも不思議……」
足を包むように皮が張り鱗が生えたように見えたが、尻尾の中に足はないのだろうか。魚のように一本の背骨だけがあるのだろうか。
「秘書さんレントゲン撮ってないのかなぁ」
なんて呟きながら泡まみれのボディウォッシュで荒凪の尾を擦る。まずは鱗に逆らわずに。人間の肌よりも抵抗が少なく滑らかに進んだ。次は逆撫でだ、鱗が生えている方向とは逆にボディウォッシュを動かしてみる。
「……っ、うわ……」
軽く撫でただけなのに、ビビビッ、だかビリッ、なんて音がした。泡を流して確認してみると、ボディウォッシュは穴が空いたとまでは言えないまでもほつれていた。
「…………荒凪くん、自分で鱗の方向に逆らわず洗える?」
「出来る」
「気を付けてね。背中とか洗いにくかったら俺に言うんだよ」
「……水月、僕達子供じゃない」
「あ……ご、ごめんごめん…………秘書さんから造られたての妖怪とか聞いたし……荒凪くんも記憶ないって言うから、全部説明した方がいいかなって。不快だったかな、本当にごめんね。今度から教え過ぎないように気を付けるよ、分かんないことは適宜聞いてもらう感じでいこうかな?」
荒凪はじっと俺を見つめる。
「…………そんなに、気にされると……嫌だ。そんなにしっかり謝ったり、いらない。僕達ただ……ただ、ちょっと」
「えっ、あっ、あー! ごめんねっ、そんな深刻な感じじゃなかったんだね!? 気にしなくていいよそんなっ、俺は大丈夫だから!」
「水月……」
「ん?」
「……僕達も、水月も、二人とも気にしない?」
「そうそう、気にしな~い」
「きにしなーい……うん」
荒凪は笑みを零し、俺の言葉をそのまま真似た。
「じゃ、ゆっくり身体洗いな」
俺は荒凪が身体を洗っている間、湯船に浸かることにした。祭りで歩き回り疲れた足が熱い湯に癒されていく。
「はぁー……やっぱりお風呂で足揉むのが一番きもちぃセルフマッサージだなぁ」
人魚の下半身ってマッサージの心地良さを感じられるのだろうか。
「……ヒレってちょっと透けてて、破れそうで怖いね」
「そんなに、弱くない」
「見た感じだよ見た感じ」
耳と腕以外、全て下半身に生えたヒレ。折り畳み可能なそれは広げれば大きく、鋭い。
「背中自分で洗える?」
「多分……」
一定方向に擦らなければならない荒凪には、ボディウォッシュタオルの端と端を掴んで背に回して擦るなんて、人間がよくやる手法は使えない。背ビレも邪魔だ。だが、荒凪には腕が四本ある。生える場所に制限がなさそうな腕二本は身体を洗うのに有利なようだ。
「下……難しい」
「むつかしいねぇ」
「水月ぃ……」
人間体の荒凪の拙い言葉を真似てからかってみると、荒凪は照れくさそうに拗ねた目で俺を睨んだ。
「お尻……? 腰? 持ち上げられそう?」
下半身の洗い方に悩んでいるようだ。尾の先の方は持ち上げて洗えるが、人間なら腰や太腿がある位置は難しいようだ。
「こう、蛇みたいに下の方くるって巻いてさ、持ち上げるの。無理そうなら俺が腰掴んで上げてあげるけど」
「…………こ、う?」
荒凪は浴槽の縁に四つの手をつき、尾の先端一メートル程だけの力で腰を持ち上げてみせた。
「出来たね! すごいすごい。魚の下半身なら蛇より筋力弱そうな感じもしたけど……先細りだし……イケるもんだね!」
「………………洗えない」
「えっ? あ」
腕は四本とも浴槽の縁を掴んでいる上、プルプルと震えていて、とてもボディウォッシュを扱えそうにない。
「……水月、洗って……お願い」
潤んだ目で頼まれたなら、応える他ない。ボディウォッシュを持って浴槽を出て荒凪の背後に回る。
(え……? これ、お尻や太腿撫で回せって、コト?)
どう見ても魚の背ではあるのだが、ここは人間なら尻や太腿がある位置だ。割れ目も穴もないけれど。緊張と興奮が高まっていく、手つきが怪しくならないよう気を付けなければ。
「……ぅおっ」
荒凪の肩の辺りからにゅっと三、四本目の腕が生えた。追加の腕二本は常設の腕二本と同じように頭を洗っている。
(昼間は脇腹から生えててヤモリっぽかったのに、今回は肩からという天津飯スタイル。どこからでも生えるんでしょうか。鱗とかと違って跡形もなくなくなりますし……)
ミタマが言うところの肉体と霊体の差だろうか? 鱗やヒレは肉体があるが、この二本の腕は霊体のみ? 骨格はどうなってるんだ? 無知な俺が肌の上から見たところで何も分からない。
「水月? どうした?」
目を閉じる前は向かい合って座っていたのに、気付けば立ち上がって肩を覗き込んでいた俺を不審に思ったのか、荒凪が首を傾げる。
「あ、いや、腕増えてるから」
「……! ほんとだ」
「無意識なんだね……いやどういうこと?」
格ゲーで言うと、Xボタンを使わない縛りでプレイしていたのに、ついうっかりXボタンを押してしまう感じ……? いやいやいやいや、腕を生やすのに力んだりとかしなくていいの? してなさそう。
「…………減った」
「消えた!? 不思議な不思議な生き物だなぁ、本当……この謎が解ける日は来るかな」
「さぁ」
「他人事だね。ま、いいや、頭洗えた? 流すよ」
泡を洗い流し、水を切り、コンディショナーを渡す。髪に塗り広げていく最中もやはり荒凪は腕を増やしていた。
「……流すよー」
増えた腕が消えるのはいつも、荒凪が腕が生えたことに気付いてからだ。何も言わなければいつ気付いて、いつ消えるのだろう。好奇心が湧いた俺は腕に関して黙することに決めた。
「洗えたね。髪、首とか肩に張り付いてると身体洗いにくいんだ、荒凪くんも俺もちょっと髪長めだから一緒に頭にタオル巻こっか」
頷く荒凪の髪をタオルでまとめてやる。自分の髪は後回しにし、荒凪の髪をタオルで包んでいく。
「タオル巻くのはね、こうやって……」
荒凪の髪は外側は黒いのだが、内側は海のような色をしている。深海のような暗い青も、太陽に照らされる浅瀬のような輝きもある。人間とは違う不思議な身体だから常に色が変わっているのか、光を当てる角度によって色が変わるのか、どちらなのかはよく分からない。
「こう! さ、身体洗っちゃお。ボディソープはこれね、ボディウォッシュはこのタオルっぽいの……」
そこまで説明して、俺の口は止まった。鱗に擦り付けたらボディウォッシュボロボロにならね? と思い至ってしまったのだ。
「水月?」
「……あ、うん、ボディウォッシュはこれなんだけど、鱗に引っかからないかなって。生えてる方向に逆らわなければ大丈夫かな? ちょっと尻尾の先っぽかして」
荒凪の向かいに座り、膝の上に尻尾を乗せてもらう。先端だけでもかなりの重さだ。
「噛まれたのは人魚の時だったのに、ここには怪我ないんだね……爪先はもっとずっと上の方にあるのに、尾の先っぽの傷が足先に移るってのも不思議……」
足を包むように皮が張り鱗が生えたように見えたが、尻尾の中に足はないのだろうか。魚のように一本の背骨だけがあるのだろうか。
「秘書さんレントゲン撮ってないのかなぁ」
なんて呟きながら泡まみれのボディウォッシュで荒凪の尾を擦る。まずは鱗に逆らわずに。人間の肌よりも抵抗が少なく滑らかに進んだ。次は逆撫でだ、鱗が生えている方向とは逆にボディウォッシュを動かしてみる。
「……っ、うわ……」
軽く撫でただけなのに、ビビビッ、だかビリッ、なんて音がした。泡を流して確認してみると、ボディウォッシュは穴が空いたとまでは言えないまでもほつれていた。
「…………荒凪くん、自分で鱗の方向に逆らわず洗える?」
「出来る」
「気を付けてね。背中とか洗いにくかったら俺に言うんだよ」
「……水月、僕達子供じゃない」
「あ……ご、ごめんごめん…………秘書さんから造られたての妖怪とか聞いたし……荒凪くんも記憶ないって言うから、全部説明した方がいいかなって。不快だったかな、本当にごめんね。今度から教え過ぎないように気を付けるよ、分かんないことは適宜聞いてもらう感じでいこうかな?」
荒凪はじっと俺を見つめる。
「…………そんなに、気にされると……嫌だ。そんなにしっかり謝ったり、いらない。僕達ただ……ただ、ちょっと」
「えっ、あっ、あー! ごめんねっ、そんな深刻な感じじゃなかったんだね!? 気にしなくていいよそんなっ、俺は大丈夫だから!」
「水月……」
「ん?」
「……僕達も、水月も、二人とも気にしない?」
「そうそう、気にしな~い」
「きにしなーい……うん」
荒凪は笑みを零し、俺の言葉をそのまま真似た。
「じゃ、ゆっくり身体洗いな」
俺は荒凪が身体を洗っている間、湯船に浸かることにした。祭りで歩き回り疲れた足が熱い湯に癒されていく。
「はぁー……やっぱりお風呂で足揉むのが一番きもちぃセルフマッサージだなぁ」
人魚の下半身ってマッサージの心地良さを感じられるのだろうか。
「……ヒレってちょっと透けてて、破れそうで怖いね」
「そんなに、弱くない」
「見た感じだよ見た感じ」
耳と腕以外、全て下半身に生えたヒレ。折り畳み可能なそれは広げれば大きく、鋭い。
「背中自分で洗える?」
「多分……」
一定方向に擦らなければならない荒凪には、ボディウォッシュタオルの端と端を掴んで背に回して擦るなんて、人間がよくやる手法は使えない。背ビレも邪魔だ。だが、荒凪には腕が四本ある。生える場所に制限がなさそうな腕二本は身体を洗うのに有利なようだ。
「下……難しい」
「むつかしいねぇ」
「水月ぃ……」
人間体の荒凪の拙い言葉を真似てからかってみると、荒凪は照れくさそうに拗ねた目で俺を睨んだ。
「お尻……? 腰? 持ち上げられそう?」
下半身の洗い方に悩んでいるようだ。尾の先の方は持ち上げて洗えるが、人間なら腰や太腿がある位置は難しいようだ。
「こう、蛇みたいに下の方くるって巻いてさ、持ち上げるの。無理そうなら俺が腰掴んで上げてあげるけど」
「…………こ、う?」
荒凪は浴槽の縁に四つの手をつき、尾の先端一メートル程だけの力で腰を持ち上げてみせた。
「出来たね! すごいすごい。魚の下半身なら蛇より筋力弱そうな感じもしたけど……先細りだし……イケるもんだね!」
「………………洗えない」
「えっ? あ」
腕は四本とも浴槽の縁を掴んでいる上、プルプルと震えていて、とてもボディウォッシュを扱えそうにない。
「……水月、洗って……お願い」
潤んだ目で頼まれたなら、応える他ない。ボディウォッシュを持って浴槽を出て荒凪の背後に回る。
(え……? これ、お尻や太腿撫で回せって、コト?)
どう見ても魚の背ではあるのだが、ここは人間なら尻や太腿がある位置だ。割れ目も穴もないけれど。緊張と興奮が高まっていく、手つきが怪しくならないよう気を付けなければ。
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