冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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手作りの赤い簪 (水月+ハル・荒凪・セイカ・アキ・サキヒコ)

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ウェーブがかかった黒い髪。海のように神秘的な色のインナーカラー。その二色を混ぜ返すように荒凪の頭をくしゃくしゃ撫でる。

「きゅうぅ……」

髪型が崩れる、なんて概念すらない荒凪は心地良さそうに俺の手に頭を寄せる。目は相変わらず開きっぱなしだが……

「きゅい~」

「……そのイルカみたいな鳴き声何なんだ?」

「様子変になった時もイルカっぽいっちゃイルカっぽい声出してたし、多分本来の声。普段は頑張って人間の言葉使ってくれてるんだよね~、ふふ……この声聞かせてくれたってことは、気ぃ抜いてくれたってことかな」

「あの人魚のカッコならその鳴き方でも違和感ないんだけど……人型だと若干イタいな」

「そう? 可愛いけどな」

「ミツキ、居たぞ。早く行った方がいい」

突然耳元で囁かれ、思わず肩を縮める。視覚で先に覚悟をしておかないと、囁きというのはここまでくすぐったいものなのか。

「右を向いて、そのまま真っ直ぐだ」

サキヒコの案内に従って人混みの中を進んでいくと、鶴柄の赤い浴衣が愛らしい美少女……いや、美少年が居た。誰かと揉めているようだ。

「だぁーかぁーらぁ! 待ち合わせ中なの! 探すのに邪魔だから向こう行ってってば!」

「そう言わないでさぁ、一緒にお祭り行こうよ。そのお友達? も一緒に。俺もグループで来てるし」

「い! や! なんでアンタらなんかと……」

「ハル!」

「……っ、みっつん!? みっつーん! 遅ぉい!」

揉め事には首を突っ込まないと決めているのだが、それは彼氏、もしくは美少年が絡んでいないことに限っての話だ。荒凪をアキに任せ、人の壁を抜けてハルの元に辿り着いた。

「何かあったのか?」

駅前には交番がある。駆け込む準備を整えつつハルに、そして揉めている相手の男に尋ねる。

「ぅゎ……」
「顔面つよ……」
「圧倒的負け……」
「すいませんでした……」

ハルと揉めていたのは一人に見えたが、どうやら四人組だったようだ。理由は知らないが引き下がってくれて助かった、アキが傍に居る今下手に揉めるとアキが暴力で全てを解決してしまうからな。

「みっつんすごーい!」

「え、いや、俺は何も。っていうかなんで揉めてたのかも分かってないんだけど」

「ナンパだよナンパ。みっつんの顔面力の前には尻尾巻いて逃げるしかなかったみたいだね~! 真のイケメンはナンパ撃退に言葉も拳も使わないんだねっ」

「あ、ナンパ……そうだったのか。ごめんなハル、遅くなって。怖かったろ」

「大丈夫大丈夫っ」

乙女ゲームでありがちな「カレがナンパ男を追い払ってくれる展開」には俺も憧れがある。気の利いた一言、雄らしさ全開の威嚇などなど、追い払い方にはキャラによって個性がある。俺も決め台詞を考えてはいるのだが、そもそも男をナンパする男なんてそうそう居ない。だから一見美少女のハルくらいしか憧れの展開を再現出来る相手は居ないのだが、女目当てのナンパは男が来たら逃げるものなので、やっぱり決め台詞は使えない。戸鳴町の治安を考えるとキャッチの撃退法を覚えた方がいいかもしれないな。

「あれ、この子誰?」

「……荒凪くん。母さんの会社の人から、しばらく預かって欲しいって頼まれたんだ」

「夏休み終わってからって変わってるね~。俺、ハル! よろしく荒凪くん」

「はるー……よろ、しく」

「……外国人? なんか、イントネーションが」

「そんな感じ。いっぱい話しかけてやってくれ」

ハルはリュウのように逃げ出したりせず、荒凪に笑顔で話しかけてくれている。やはりリュウの怯えは、彼が神社生まれであることに由来する危機察知能力のようなもので──いや、違う、荒凪に危険なんてない、ないんだ。こんなに可愛い美少年が危険な存在であってたまるものか。

「何このインナーカラー、超綺麗~。羨ましいかも! ねっねっ、この辺のお店でやってもらったの?」

「こっち来た時からその頭だったから、向こうの美容院だと思うぞ」

「そっかぁ~……俺もインナーカラーやってみようかなぁ」

「やるとしたらやっぱり赤か? ハルの髪には赤が似合うよ、その簪とかな」

「……! えへへっ、みっつん手作りだもん。見てほら見てほら~、みっつん手作りの簪! ヤバくない? 羨ましいっしょ!」

ハルはその場でくるりと半回転し、髪をまとめた簪を俺達に見せびらかした。しばらくするとまた半回転して俺達の様子を伺った。暗がりで見ると粗が分かりにくく、良い作品に見える。俺は手を叩いて「似合う」「可愛い」と褒めたたえた。

「かわ、いー……?」

荒凪が俺の言葉を反芻する。

「荒凪くんもそう思うっ? えへへへ……ありがと! アキくんは?」

《棒だけで留めてあんのすげぇよな、シュッて抜いたら即ほどけるんだろ? 髪。なんか……エロいな! これがワビサビってヤツか》

「ん? わびさび? ゃ、これ結構華やかなカッコだから違うんだけど……日本的な情緒があるとかそんな感じなのかな? ね、せーか」

「……あぁ、だいたいそんな感じだ」

なんか怪しいな。

「せーかはどうよ、羨ましい?」

「いや別に……俺そんな髪長くねぇし」

「みっつんに作ってもらったってとこ!」

「……俺だって公次に法被作ってもらったぞ」

セイカは祭と書かれた法被を着たハムスターのぬいぐるみをハルの眼前に突き出す。

「えっすご細かっ。可愛い~…………じゃなくて! 簪! どう? 俺に似合ってる? 可愛い?」

「可愛い可愛い」

「……なーんか「言っときゃいいんだろ」を感じるんだよね~」

「それだけカツアゲされたら本当に思ってるヤツでもその感じは出すだろうよ……」

「ちなみにアンタは本心なワケ?」

「……自発的にお前が可愛いと思ったことはないけど、俺より可愛い男だとは思う」

「ん、んん……? うーん……まぁ、喜んどく……みっつん、他のヤツらまだ来てないの? メッセとか送ってみた?」

「あぁ、そうだな。聞いてみた方がいいか」

ハルのアイディアで他の彼氏達と連絡を取るため、スマホを取り出した。
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