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人間の味方になるはず (水月+荒凪・セイカ・ミタマ・サキヒコ・リュウ)
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俺の頭を撫でている荒凪に「もういいよ」と笑いかけながら手を下ろさせた。
「……いたい、終わった?」
「うん、ありがとう。大したことないから、俺のことでコンちゃん嫌わないであげてね。荒凪くん自身の噛まれたり蹴られたりってのは……まぁ、君の痛みだから、しょうがないけど…………噛んだのは勘違いとはいえ俺を助けるためだったし、蹴ったのも……うん」
様子がおかしくなっていた際の詳細を話すのも危険ではと思い至り、寸前で口を噤む。気付くのが遅い自分を蔑みつつ、首を傾げている荒凪を見てセーフだと胸を撫で下ろす。
「コンちゃん、悪い子じゃないんだ。それだけは分かってくれる?」
「……なかま?」
「うん、仲間。もし誰か、他の悪い人に荒凪くんが怖いことや痛いことされてたら、コンちゃんはその人をさっきみたいに尻尾でビターンってしてくれるよ」
荒凪が首ごとミタマの方を見る。ミタマが頷いてみせると、荒凪の警戒が少し緩んだ気がした。
「俺にはね、他にも優しい仲間がいっぱい居るんだ。今日何人かに会うと思うから、その仲間達とも仲良くしてくれる?」
「……僕達に、いたい……しない?」
「しないよ。みんないい子」
「…………うん。みつき、なかま……僕達、なかま」
やはり荒凪は痛みに対して敏感だ。痛覚が鋭いという意味ではなく、痛みを与えてくる相手かどうかという点で。
「そろそろ出発しよっか」
「なぁ鳴雷、荒凪、俺の車椅子乗せてってやれよ」
「ナイスアイディア! 怪我以前に歩き方ヨタヨタしてるんだもんなぁ……人混みはちょっと心配。セイカは車椅子なしで平気か?」
「俺の乗り物は他にもあるから。お前とか」
「え、俺に跨りたいって? 積極的ぃ。俺も浴衣えっちしたいと思ってたんだ、気が合うなぁ」
「お前だけが頼りだ秋風」
「お姫様抱っこでもおんぶでもするじゃん俺もぉ!」
「……早く行かねば電車の時刻が過ぎてしまわないか?」
「あっそうだ早く行かなきゃ」
都内のため電車の出発時刻の心配などする必要はないが、祭りには早く長く参加したい。彼氏達を連れ、荒凪を車椅子に乗せ、いざ出発。
「……らくちん」
茜色に染まる空の下、車椅子に座った荒凪は足をぷらぷらさせる。
「だろ?」
アキの背中でセイカは得意げに笑う。
「そろそろ駅だ。コンちゃんサキヒコくん消えておいて、切符代かかっちゃう」
「分かった」
「こすいのぅ……」
電車に揺られて戸鳴町へ。車内はそれほど混み合っておらず、祭りの知名度や期待度の低さが伺えた。
「電車はそこまでだったけど、駅前は割と混んでる……待ち合わせの人が多いのかな」
隣接する神社と公園を使って行われている小さな祭り。隣町に住んでいるのに今年まで来たことがなかった、まぁ引きこもり陰キャなんてそんなものだろう。
「俺の可愛い彼氏達はどこかな。見つけたら教えてくれよ」
「デカいし銀髪だし歌見から探したらどうだ?」
「確かに先輩は見つけやすいかも」
「……空から探してくる」
首筋がヒヤリと冷えた。耳元で囁いたのはサキヒコだ。姿は見えないが幽霊らしく空を浮かんで彼氏達を探してくれているらしい。
「お……水月ぃ~」
「リュウ! っと……一番に会うのがお前とはな、残念だよ。甚平着てるのか? まぁ、馬子にも衣装ってとこだな」
「ゃん水月ぃ、いけず……ん? は……!?」
頬を赤らめ腰をくねらせ、辛辣な物言いに興奮していた様子のリュウは、一気に顔を青ざめさせ後ずさった。
「……? リュウ? どうした……ぁ、やだな、本当は似合ってるよ。すごく可愛い。お前いつも嫌なこと言われたがるから……」
「………………それ、何?」
ぎゅっと親指を握り込んで拳を震わせながら、視線をチラチラと荒凪に向ける。
「え……? そ、それって、酷いな……荒凪くんだよ。えっと、母さんの会社の人が、しばらく預かってくれって」
「みつき、なかま?」
「あぁ、仲間だよ。リュウって言うんだ」
「りゅー」
「……っ、ちゃう! ちゃいます……違い、ます。ごめん……無理、無理無理無理……さっ、先行くわ、すまん……ほんま堪忍、ほな……」
「えっ、おいリュウ!」
カッカッカッ……と下駄を鳴らし、リュウは足早に去っていった。
「……? みつき、りゅー、どこ行った?」
「…………さ、さぁ。どうしたんだろうな」
あんな怯えたリュウの顔、初めて見た。それほどまでに荒凪が危険な存在ということだろうか、サキヒコがまだ悪霊だった頃はお祓いのようなものを頑張ってやってくれたのに、一人で逃げるなんてよっぽどでは?
「みつき、お顔、あおい」
「ん……あぁ、ちょっと人に酔ったかな」
俺を見上げ、俺を気遣ってくれている可愛いこの子が、そんなに危険なのか?
「みつき、人多い、いや?」
いや、危険な目にはついさっき遭ったばかりだが……
「……みつき、人へる、よろこぶ?」
「え……? い、いやいやいや、人はいっぱい居た方が賑やかで楽しいよっ。なっ?」
「みつき、人多い、すき?」
「好き好き」
今、否定していなかったらどうなった? 人混みは嫌いだと、減って欲しいと言っていたら、どうなった?
「…………どうにもなってない、よな?」
ただの世間話のようなもの、俺の好き嫌いを聞いてくれただけ。きっとそうだ、そうに決まってる。どう答えたって「そうなんだ」以上のリアクションはないはず……荒凪は、人間の味方になる妖怪なんだから。
「……いたい、終わった?」
「うん、ありがとう。大したことないから、俺のことでコンちゃん嫌わないであげてね。荒凪くん自身の噛まれたり蹴られたりってのは……まぁ、君の痛みだから、しょうがないけど…………噛んだのは勘違いとはいえ俺を助けるためだったし、蹴ったのも……うん」
様子がおかしくなっていた際の詳細を話すのも危険ではと思い至り、寸前で口を噤む。気付くのが遅い自分を蔑みつつ、首を傾げている荒凪を見てセーフだと胸を撫で下ろす。
「コンちゃん、悪い子じゃないんだ。それだけは分かってくれる?」
「……なかま?」
「うん、仲間。もし誰か、他の悪い人に荒凪くんが怖いことや痛いことされてたら、コンちゃんはその人をさっきみたいに尻尾でビターンってしてくれるよ」
荒凪が首ごとミタマの方を見る。ミタマが頷いてみせると、荒凪の警戒が少し緩んだ気がした。
「俺にはね、他にも優しい仲間がいっぱい居るんだ。今日何人かに会うと思うから、その仲間達とも仲良くしてくれる?」
「……僕達に、いたい……しない?」
「しないよ。みんないい子」
「…………うん。みつき、なかま……僕達、なかま」
やはり荒凪は痛みに対して敏感だ。痛覚が鋭いという意味ではなく、痛みを与えてくる相手かどうかという点で。
「そろそろ出発しよっか」
「なぁ鳴雷、荒凪、俺の車椅子乗せてってやれよ」
「ナイスアイディア! 怪我以前に歩き方ヨタヨタしてるんだもんなぁ……人混みはちょっと心配。セイカは車椅子なしで平気か?」
「俺の乗り物は他にもあるから。お前とか」
「え、俺に跨りたいって? 積極的ぃ。俺も浴衣えっちしたいと思ってたんだ、気が合うなぁ」
「お前だけが頼りだ秋風」
「お姫様抱っこでもおんぶでもするじゃん俺もぉ!」
「……早く行かねば電車の時刻が過ぎてしまわないか?」
「あっそうだ早く行かなきゃ」
都内のため電車の出発時刻の心配などする必要はないが、祭りには早く長く参加したい。彼氏達を連れ、荒凪を車椅子に乗せ、いざ出発。
「……らくちん」
茜色に染まる空の下、車椅子に座った荒凪は足をぷらぷらさせる。
「だろ?」
アキの背中でセイカは得意げに笑う。
「そろそろ駅だ。コンちゃんサキヒコくん消えておいて、切符代かかっちゃう」
「分かった」
「こすいのぅ……」
電車に揺られて戸鳴町へ。車内はそれほど混み合っておらず、祭りの知名度や期待度の低さが伺えた。
「電車はそこまでだったけど、駅前は割と混んでる……待ち合わせの人が多いのかな」
隣接する神社と公園を使って行われている小さな祭り。隣町に住んでいるのに今年まで来たことがなかった、まぁ引きこもり陰キャなんてそんなものだろう。
「俺の可愛い彼氏達はどこかな。見つけたら教えてくれよ」
「デカいし銀髪だし歌見から探したらどうだ?」
「確かに先輩は見つけやすいかも」
「……空から探してくる」
首筋がヒヤリと冷えた。耳元で囁いたのはサキヒコだ。姿は見えないが幽霊らしく空を浮かんで彼氏達を探してくれているらしい。
「お……水月ぃ~」
「リュウ! っと……一番に会うのがお前とはな、残念だよ。甚平着てるのか? まぁ、馬子にも衣装ってとこだな」
「ゃん水月ぃ、いけず……ん? は……!?」
頬を赤らめ腰をくねらせ、辛辣な物言いに興奮していた様子のリュウは、一気に顔を青ざめさせ後ずさった。
「……? リュウ? どうした……ぁ、やだな、本当は似合ってるよ。すごく可愛い。お前いつも嫌なこと言われたがるから……」
「………………それ、何?」
ぎゅっと親指を握り込んで拳を震わせながら、視線をチラチラと荒凪に向ける。
「え……? そ、それって、酷いな……荒凪くんだよ。えっと、母さんの会社の人が、しばらく預かってくれって」
「みつき、なかま?」
「あぁ、仲間だよ。リュウって言うんだ」
「りゅー」
「……っ、ちゃう! ちゃいます……違い、ます。ごめん……無理、無理無理無理……さっ、先行くわ、すまん……ほんま堪忍、ほな……」
「えっ、おいリュウ!」
カッカッカッ……と下駄を鳴らし、リュウは足早に去っていった。
「……? みつき、りゅー、どこ行った?」
「…………さ、さぁ。どうしたんだろうな」
あんな怯えたリュウの顔、初めて見た。それほどまでに荒凪が危険な存在ということだろうか、サキヒコがまだ悪霊だった頃はお祓いのようなものを頑張ってやってくれたのに、一人で逃げるなんてよっぽどでは?
「みつき、お顔、あおい」
「ん……あぁ、ちょっと人に酔ったかな」
俺を見上げ、俺を気遣ってくれている可愛いこの子が、そんなに危険なのか?
「みつき、人多い、いや?」
いや、危険な目にはついさっき遭ったばかりだが……
「……みつき、人へる、よろこぶ?」
「え……? い、いやいやいや、人はいっぱい居た方が賑やかで楽しいよっ。なっ?」
「みつき、人多い、すき?」
「好き好き」
今、否定していなかったらどうなった? 人混みは嫌いだと、減って欲しいと言っていたら、どうなった?
「…………どうにもなってない、よな?」
ただの世間話のようなもの、俺の好き嫌いを聞いてくれただけ。きっとそうだ、そうに決まってる。どう答えたって「そうなんだ」以上のリアクションはないはず……荒凪は、人間の味方になる妖怪なんだから。
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