冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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なかま (〃)

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目と鼻と口から血を溢れさせながら荒凪を抱き締めた。四肢がビリビリと痛み、痺れ始めて力が入らなくなっていく。ミタマに首根っこを掴まれて荒凪から引き剥がされた瞬間、荒凪が叫んだ。

「ァ……アアァぁあああっ!?」

計六本の手足で俺に這い寄り、俺の服を弱々しく掴んで震えた。

「みつき、みつきちがう、だめ、みつき」

荒凪の声色が戻った。同時に四肢の痛みと痺れが引いて、視界もクリアになる。荒凪の増えた瞳孔と腕が消えていくのが見えた。

「みつき……なかま、僕達に、てあて」

俺の服からずり落ちた手は荒凪自身の足に触れる。俺が手当してやった足に。

「……俺達は、俺達だけで…………でも、みつきは……ちがう」

足の手当てや移動の際に手を繋いだことで荒凪は俺に懐いてくれていたから、俺を傷付けるのを嫌がって怪異らしい人間への悪影響を引っ込めてくれた……と考えていいのだろうか。

「霊力の波が落ち着いたようじゃな。流石じゃみっちゃん、この男たらし」

「ミツキっ、大丈夫なのか? 酷い血を……血、を……? 血はどこだ? ミツキ」

血? あぁそうだ、鼻血が酷かったんだったな。吐血もしたっけ。早く床や服を綺麗にしないと。あれ……? 血、なくない?

「血って、何言ってんだサキヒコ」

「ミツキが血を流していただろう!? 鼻や口から……目からもだ!」

「はぁ……? いや、そんなことなかったと思うけど」

焦っているのはサキヒコばかりで、セイカは怪訝な顔をしている。俺の背に庇われた頃から状況が全く分かっていないのだろうアキなんて、ずっとキョトンとしている。俺が鼻血を出していたら二人とももっと慌てるだろう……慌てるよな? 俺の自惚れじゃないよな? 心配してくれるよな、みんな。

「みっちゃんは何か覚えとるか?」

「う、うん……鼻血出たのは確かだと思うんだけど、幻覚だったの?」

「いや、幻覚ではない。霊体の血じゃ、ワシの血と一緒。本人と霊感の強い者以外には視えんのよ。実体がないからほっといたら霧散して消える。みっちゃんは霊力大したことないからワシより消えるの早いし、せっちゃんらに視えんのじゃな。にしてもこんな一瞬で消えるとは人間とは脆弱なもんじゃ……全く、離れろと言うたのに近付くから、霊体に少し傷が入ったんじゃぞ。これに懲りたらワシの言うことを──っと説教は後じゃ。みっちゃん、身体ダルくないか?」

そういえば、何となく身体が重い気がする。

「肉体は肉体だけで動いとるんじゃないからのぅ、霊体が損傷すれば物理的な傷や不調がなくとも肉体の動きに支障が出る。霊体の修復には霊力が必要じゃ、その程度なら自然治癒で一日二日……しかしワシが霊力を分けてやればすぐに治るぞぃ」

「ほんとっ? こんなダルさじゃお祭り楽しめないよ、コンちゃんがそれで体調悪くなるとかじゃないならすぐやってくれる?」

「みっちゃんにとってはそこそこの量じゃが、ワシにとってはちょっぴりじゃ、何ともないわ。さぁみっちゃん口を開けよ、古来より霊力の受け渡しは性交かマウストゥーマウスと決まっておる」

「性交で!」

「祭りに行くんじゃろうがバカチンが!」

ムードを作る努力くらいしたらどうじゃと愚痴を呟きながら、ミタマは俺と唇を重ねた。床に座り込んでいる俺と、膝立ちのミタマ。上を向かされ、唾液を飲まされるようなキス。与えられるものを素直に受け取りながらも俺は必死に舌を伸ばし、絡め合おうとミタマを誘った。

「んっ……ぷはっ、余計なことをするでない! 全く、みっちゃんは助平なんじゃから……ワシとそういうことをしたければ、ちゃんとムードを作るのじゃ!」

叱られてしまった。

「ミツキ……大丈夫なのか?」

「サキヒコくん。うん、大丈夫。もう何ともないよ」

身体の重さがすっかり消えている。ミタマとのキスのおかげだろうか。

《なぁ……何が何だか意味分かんねぇんだけど》

《俺もよく分かんないよ》

《バケモンが野生の本性表して暴れ出したって訳じゃねぇんだよな、なんか狐とやり合ってたみたいだけど、何だったんだ? 狐は魚のこと敵とか言ってたけど》

《うーん……ん?》

頬に手のひらや手の甲を当て、顔の火照りを冷ましているミタマの肩をセイカがつつく。

「なぁ、お前と秋風は話せるんだよな」

「む? うむ、ワシの言葉は言霊が強いからのぅ、言語の壁をすり抜けて意味が伝わるんじゃ。前に言ったと思うが、それがどうした?」

「……荒凪の言葉は秋風分かってないみたいなんだ、あんな……全部殺すとか、ちゃんと分かってたら、秋風はもっと警戒するし力づくで鳴雷引き剥がしに行ったと思うから」

「…………ふむ、ワシと違って肉体を持つ怪異だからではないかのぅ。よく分からんが……しかし、そうか、あーちゃんには分かっとらんのか。まぁ分からん方がええな、あの子はなかなか喧嘩っ早い」

「秋風がアイツと話す時は翻訳要るのか、面倒臭ぇな」

「嬉しそうじゃのぅ」

立ち上がり、肩を回す。すっかり元通りだ。今回の件も秘書に報告しておかなくては……あまり危険なところを伝えると、やっぱり処分するとか言い出さないかな。全部殺すとか言ってたとこは隠そう。

「みんな、ちょっとこっち来て。あぁ、荒凪くんは座ってていいよ」

彼氏達を部屋の隅に呼び集める。

「……みんなも分かってるかもしれないけど、家族……特に弟の話をした時に荒凪くんは様子がおかしくなる。危険な方面にね。記憶喪失と関係ありそうだけど、素人の俺達がほじくり返すのは危ない。今後しばらく家族と弟は禁句とする、いいよね?」

アキ以外はみんな神妙な面持ちで頷いた。

《ぁー……えっとな、荒凪はなんか記憶喪失っぽくてさ、記憶が蘇りかけると暴れちゃうみたいなんだ》

《トラウマか》

《多分……? で、そのキーワードが「家族」とか「弟」なんだって。だから、その二つはしばらく禁句。分かったな?》

《へいへい。群れごと密猟にでも遭ったのかね、弟目の前で死んじまったとか?》

しかしアキにはセイカが説明してくれている、問題ないだろう。これで当面の安全は確保出来たかと一息ついていると、つんつんと肩をつつく手が一つ。

「……! 荒凪くん」

今の相談、聞かれてはいない……よな?

「はぶかん、やだ。みつき」

「ハブ姦やだ……? そうだよな、ちんちんのが太いから自動的に死姦になっちゃう。もう少し太いへびぃたぁっ!? 何するのコンちゃん!」

スパァーンッ! と頭を叩かれた。躊躇なき暴力……!

「こっちのセリフじゃ! 常軌を逸した異常性癖を堂々と語りよってからにこの狂人が!」

そこまで言う?

「ハブ感じゃろ。さっき浴衣に着替えた時にみっちゃん言っとったではないか」

「……あー、ぁーあーあぁ、ハブ感。言った言った」

「忘れとったんか……仲間外れにせんでくれ言うとるんじゃ。なぁ?」

笑顔のミタマに肩を組まれた荒凪は、身を捩ってその手を振り落とし、俺の傍にぴったりくっつくと、背伸びをして俺の頭を撫でた。

「……いたい。きらい」

「あー、噛んだり蹴ったり俺叩いたりで怖い人だと思われたのかな」

「なぬっ! くぬぬぬ……ほとんど不可抗力だと言うに……ふ、ふん、ワシは狐じゃからな、魚に嫌われるは当然よ。ショックなど受け取らんわぃ…………ぐすっ」

ミタマへの警戒心は一朝一夕で解けるものではないだろう。ゆっくり気長に仲を取り持ってやらないとな。
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