冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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乾けば人に (水月+荒凪・ミタマ・セイカ・アキ)

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バスタオルとドライヤーで荒凪の水分を取り始めてからしばらく。ピシピシと妙な音が鳴り始めた。

「何、この音……」

髪を拭いてやっていた俺は音の発生源である荒凪の尾の方へ。ドライヤーを止めさせ、音の原因を観察する。

「え……」

鱗が剥がれ落ちていく。ヒレが崩れ、ビクビクと痙攣しながら人間の足が現れる。鱗は尾の先から剥がれ始め、首の後ろまで到達した。爪も落ち、水掻きも崩れ、人間の手が背中や二の腕をさすって剥がれた鱗を落とした。

「荒凪くんっ……」

起き上がった荒凪が咳き込む。首にあるエラから少量の血が零れ、塞がる。数度苦しそうに呼吸をし、顔を上げた。

「……荒凪くん、大丈夫?」

「み、つき……けほっ」

「エラ呼吸から肺呼吸に変わるの、痛そうだね。大丈夫? もう息出来る?」

「……乾かしてる間ずっと息出来てなかったってことか?」

「あっ」

失念していた。今度から頭だけ水に漬けて身体を乾かし、最後に頭を一気に乾かす方式を取ろうと思う。

「息できてなかったんなら言ってよ荒凪くぅん……」

人魚の姿の時は表情がコロコロと変わっていたのに、今はもう無表情だ。

「とりあえず服着よっか。鱗自分で払える? チクチクしそうだからちゃんと払い落とすんだよ」

小さく頷いた荒凪に、先程彼が脱いだ服を入れたカゴを渡す。服を着るのは一人で出来るだろう。

「……なぁ、鳴雷、さっきから気になってたんだけど、色々立て続けに起き過ぎて……これくらいいいかってスルーしてたんだけどさ」

「うん? なんだ?」

「あの、人魚……荒凪? だっけ、自分のこと僕達って言ってないか? 一人称が複数形なんだよ、気付いてたか?」

「あぁ、うん。そういう一人称だと思ってた」

「お前なぁ……」

「そんなに変かな、俺はあんまり気にならないけど……まぁ変わった一人称に大した理由なんかないよ、キャラ付けキャラ付け」

「アイツ、キャラ付けとか意識するタイプじゃないだろ……多分」

セイカは見せつけるようにため息をつく。そんなに呆れられるようなことを言っただろうかと悩む俺の背を荒凪がつつく。

「荒凪くん、着替え終わった?」

荒凪は微かに頷く。

「立ってるの辛いでしょ、座って座って」

デッキチェアを引きずって移動させ、荒凪を座らせる。彼の足からは血が流れ続けている。

「左足は何ともないね、右足だけに噛み傷があるよ。やっぱり深いなぁ……」

変身が解けた際にガーゼとテープは抜けてしまった。もう一度消毒し直し、ガーゼを固定する。

「これでよし。よく頑張ったね」

ぽんぽんと頭を撫でる。相変わらずの無表情、返事もない。

「痛むか? すまんのぅ。ワシの方が痛かったとは思うがワシもう治って痛くないからのぅ……総合的には痛み分けになるんじゃろうかこれ」

「どうかな……まぁ、二人がそれで納得するなら」

「噛んだこと許してくれるかのぅ?」

ミタマが尋ねると荒凪は大きく頷いた。

「おぉ! 禍々しい気配しとるくせに寛大じゃな、ワシもワシに変なもん食わせたことは許すぞ」

「誰も食わせはてないよ」

「水月、アイツ──あら? 荒凪くん人に戻ったのね。水月、ほらスマホ返すわ。この鱗は……間違えて踏むのは絶対ダメなんでしょうね」

電話を終えた母はスリッパ越しに鱗を踏み、ザリザリと音を立てた。

「すごく綺麗じゃない? 部位や角度によって色変わってさぁ……螺鈿みたいだよ、この鱗使って何か飾り作りたいなぁ。鱗は無害だといいんだけど……あ、劇物でもさ、レジンに封入するんなら大丈夫じゃない? どう思う母さん」

「……真尋くんがUターンしてきてるからちょっと待ちなさい。アイツに判別させるわ。アンタの手芸の材料にするにしろ、危険物だから捨てるにしろ、とりあえずまとめないとね。ホウキとチリトリ持ってきなさい」

「そうだね」

言われるがままに掃除用具を取りに行きつつ、荒凪にとって鱗を装飾品に利用されるのは切った髪をミサンガにされるような気分なのではないか、と思い至る。

(わたくしがやられたとしたらどう思うか考えてみましょう。やりそうなのはレイどのですかな)

ミサンガに出来るほど髪を伸ばすつもりはないが、伸びたとして、あるいは短い髪を繋ぎ合わせたとして、俺の髪でレイがミサンガを作ったら? 満面の笑顔で「せんぱいの髪で作ったミサンガやっと完成したんす、見てくださいっす!」とか言ってきたら?

「……ふへっ」

可愛いなぁ。髪伸ばそうかな。

「あ、そうだセイカ、聞こうと思ってたんだけどさ」

「何?」

プールサイドに戻った俺は鱗を集めながらセイカに気になっていたことを尋ねた。

「昨日、アキがどうとかごちゃごちゃ言ってただろ。今日見る感じ仲良さそうだし、やっぱりセイカの勘違いだったのか?」

「あ……あぁ、アレな、なんか……秋風まだよそよそしいんだ。なんでだろ」

「そうは見えないけど……」

「何よ、アンタら遊びに行って喧嘩してんの? ややこしい」

母が話に入ってくるとセイカは途端に黙り込んでしまう。何も聞けなくなるから母にはしばらく黙っていて欲しいな。

「アキがよそよそしいって? そうは見えないけど」

「…………ぁ、いえ……」

「ん? 何? ハッキリ言ってよ」

「ゃ……今日は、朝から……いつもより、そんなにだなって……」

「ふぅん……? アキ!」

母がアキを呼ぶ。スマホのライトを使ってミタマの口の中を覗いていたアキが母の前まで駆けた。

《アキ、アンタ今日はセイカとイマイチらしいわね、何かあったの?》

「ちょっ……」

「母さん? 何言ってるか知らないけどあんまりほじくり回さないであげてよ」

《コイツ俺と一緒に寝たがらなかったんだよ! 寝てぇくせによぉ。顔洗いに行くのも他のヤツと行っちまうし……今までは追っかけてやってたが、それじゃいつまで経っても素直にならねぇ。ってことで心を鬼にして、向こうから来るまでベタベタはしねぇって決めてんだ!》

「えっ……?」

アキがなんか長々と話した。

「セイカ、アキなんて? 長かったってことは何か理由あったのか? 勘違いじゃなかったのか……俺、楽天的過ぎたかな」

「昨日、あーちゃんはせっちゃんと寝るつもりじゃったのに、せっちゃんはひーちゃんが寝たがっとるぞとひーちゃんにあっちゃんを譲ったじゃろ。あーちゃんはそれが気に入らんかったんじゃ、ひーちゃんに対抗してきて欲しかったんじゃな」

あだ名のせいか妙に分かりにくい文だな。

「ほぇえ……めんどくせぇ乙女心かよ。なぁお前ら、お前らの彼氏俺だからな?」

「うるさい! 同じ部屋でも寝なかったくせに!」

「昨日は仕方ないだろ! 激レア彼氏出現中だったんだから!」

「どーっせ俺らは一日一回無料ガチャで必ず出るコモンだよ!」

「なんか詳しくなってるなぁ!? 俺の話聞いてくれてたんだね……!? わー、キュンキュンする、嬉しい、ドキドキする、やっば勃ってきた」

「……っ、最後のさえなければ」

「同意よセイカ……今のは無い。アキの話は聞いたわね? さっさと甘えなさい」

母がセイカの肩をぽんと叩く。セイカは一瞬身を縮めて怯えたが、すぐに繕って母を見上げて頷いた。
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