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妖シッター (水月・セイカ)
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彼氏達と抱擁を交わして別れを惜しみ、車に揺られて帰宅。運転手に礼を言って手を振り、玄関扉を開ける。
「……? 何これ、下駄?」
靴を脱ぎつつ下を見ると下駄があった。台も鼻緒も黒い、変わった下駄だ。
「鳴雷のじゃないのか? 今日着物着ていくんだろ?」
「浴衣な。うん、でも俺こんな黒いの持ってなかったと思うんだけど……え、うわ、これすごい、爪先? と踵? に鉄板貼ってある。あと、なんだっけ、歯って言うんだっけ? これも鉄っぽい、キンキン言う」
「……知らない靴ベタベタ触るなよ、汚いな」
「重いなぁ……俺履きたくないよこんなの」
まぁ、下駄なんかどうでもいいや。荷物を部屋に置き、手を洗う。セイカにじっとり睨まれたのでいつもよりしっかりと。
「ただいまぁ~」
「おかえり、水月」
「おかえりなさい、お邪魔してます」
ダイニングには母が居た。その向かいには黒い着物と少しの包帯に身を包んだ色黒の男……見覚えがある、めっちゃある。
「あ、えっと……お久しぶりです」
レイの元カレの従兄であり、穂張事務所を支配する真の頭であり、母が勤める製薬会社の社長秘書の男だ。年齢の分かりにくい強面だが、見た感じの肌のハリから分析するとヒトよりは確実に若いと思う。って何分析してんだ、俺。
「セイカ、アキと部屋に帰ってろ…………何かご用でしょうか」
彼はオカルトにも造詣が深い。個人を気に入って取り憑いている狛狐の付喪神は珍しいとか言って、ミタマを調べたがっていた。それでなくともサキヒコとミタマは母の勤める会社に怯えていた、警戒心が高まってしまう。
(そういえばネイさんに、彼からなんか……新興宗教? でしたっけ、の話聞きたいとか言ってましたな。聞き出せたらネイさんに褒めてもらえそうですが、うーむ……)
ネイ、俺の恋心未満の憧れ裏切ったしなぁ。あんまり協力する気になれないんだよなぁ。
「そう警戒しないでくださいよ」
「……俺も出来ればそうしたいんですけどね」
「仕方ないですねぇ……ほら」
「おおっ!?」
男は着物の胸元を少しくつろげた。歌見の日焼け肌とはまた別種の萌えがある褐色肌の谷間がチラリと見えて、俺の足は思わず前に進む。
「ほぅら」
「おぉおっ!」
男は続けて着物の裾を僅かに持ち上げる。普段は足首まで隠れているから、ふくらはぎが顕になるだけで俺の興奮は高まる。着物というお堅い印象に、はだけるという淫らな仕草のギャップがたまらない。
「もっと見たい?」
「見たい見たい!」
「人の息子にストリップ仕掛けんじゃないわよド変態!」
「ド変態はあなたの息子の方でしょう……どういう教育したらこうなるんですか」
男は着物を整え、母の方を向く。
「こほん……あの、本当に何の用でいらっしゃったんですか? コンちゃん……ミタマのことでは、ない?」
「ミタマ。あぁ、狐の……今日は別件です。あなた、幽霊と神様を恋人にしてるんですよね」
「え、ええ、まぁ……」
「もう一種類欲しくないですか? 神、霊、と来たらあと一つは?」
「えっ? あと一つ?」
「妖怪でしょ!」
まぁ、そうかも。とゲームやアニメの知識を引っ張り出して納得する。
「なので妖怪をあげようかと」
「は?」
「かまァーん!」
男はリビングに向かって呼びかけた。すると、ソファに座っていた少年がぺたぺたとこちらへやってくる。何の変哲もないシャツとデニムを身につけた少年は、ミタマのように獣の耳や尾を持つ訳ではない。うねった黒髪の内側には深い海色の輝きが見えたが、これはまぁただのインナーカラーと判断出来る。彼が妖怪? 人間にしか見えない。
「こちら、日本神秘生類創成会にて造られたと思われる養殖妖怪です。その組織は富裕層向けの新しい愛玩動物として、あるいは兵器として売買するために色々怪異を作ってるんですが……この度競売的なのを一つぶち壊しましてね。ちなみに、この怪我はその時のアレです」
男は頭や腕に巻いた包帯を指す。
「競売……」
「五億で買うえ~って感じのとこです。商品の怪異はほとんど人を数人殺したヤツばかりで、祓わざるを得なかったんですが……あぁ、人殺した怪異は殺さなきゃいけないんですよ、人の味知ったクマみたいなもんでね、ほとんどの怪異は人を殺すことで効率良く強くなれるのでメリット理解しちゃったらどんどん殺すようになるんですよ」
「…………はぁ、それで、じゃあこの子は」
「殺人童貞。まだ無害。そういう怪異は害怪異駆除に役立てられる益怪異になる可能性があるので、俺は積極的に保護してるんですが……何せ俺忙しいので、預かって育てて欲しいんですよ。あなた怪異に好かれやすいみたいだし、ちょうどいいかなって」
男はミタマとサキヒコを指して笑う。
「えっ……い、いやいやいや! 無理ですよそんなっ、俺一般高校生ですよ!? 育てるって何ですか……!」
「道徳とか倫理とか身に付けさせて欲しいなって」
「無茶言わないでくださいどうすればいいか分かりませんよ!」
「いやぁ、適当に仲良くなればなんか人間の尊さとか言って人間の味方になるでしょ」
なんて雑な……!
「俺人間尊いと思ったことないんで、向いてないんですよねぇ。だから愛情深そうなあなたに任せたくて」
道徳も倫理もなさそうだもんな、この人。レイの元カレとそっくりだ。
「な、なんかないんですか? 妖怪の保護施設とか学校的なの。たまに保護するんでしょう? 妖怪……」
「基本もう少し育った状態で捕まえるので、ぶん殴って躾けますけど……その子生まれたてっぽいんですよ。分かりやすく言うと、普段やってるのは新人研修であって……ベビーシッターや保母さんボブさんは居ないって言うか」
「俺はベビーシッターでも保育士でもありませんよ! っていうかボブって誰ですか!? ボブは子育て得意なんですか!?」
「お母さんの許可はもらってますし」
「母さん!?」
「この子預かったらすっごいお金くれるのよ」
それだけリスクがあるということじゃないのか!? そんな守銭奴キャラじゃなかったろ!? 普段の聡明さはどこへやったんだ母よ!
「じゃ、注意事項伝えますね」
「まだ俺頷いてませんけど!?」
「いやあなたの意思とか関係ないんで」
酷過ぎる。
「その一、家の外では絶対に濡らさない。家の中では一日四時間以上は必ず水に漬ける」
「えっ、まっ、待ってメモする……」
「その二! ナマモノは絶対与えない。火の通っていない魚、肉は与えちゃいけません。血や生の肉の味覚えちゃうと人殺して食いかねないので」
「怖っ!?」
「その三! 彼の髪、皮膚、肉、あらゆる身体の一部を一切食べないこと。実験がまだなので何も分かりませんけど、彼を食べたら未来永劫呪われかねません」
「わァ………………ぁ……」
「泣いちゃった。とりあえず上記三つを守ってください。では、俺そろそろ帰りますんで」
「待って待って待ってぇ! せめてこの子が何の妖怪なのかとか名前とか色々教えてぇ!」
「自分で聞いてください。これからしばらく育てるんですからコミュニケーション取らないと。ガンバ! 何かあったらすぐ連絡ください、どんなに小さなことでもね。では、俺忙しいので」
男は俺を乱暴に振り払い、帰って行った。何だ……何なんだ……夢か? そうか、夢か……俺はまだ紅葉邸に居るんだ、目を閉じて、開けたらきっと、カンナとカミアと大きなベッドで眠っているんだ。
「……? 何これ、下駄?」
靴を脱ぎつつ下を見ると下駄があった。台も鼻緒も黒い、変わった下駄だ。
「鳴雷のじゃないのか? 今日着物着ていくんだろ?」
「浴衣な。うん、でも俺こんな黒いの持ってなかったと思うんだけど……え、うわ、これすごい、爪先? と踵? に鉄板貼ってある。あと、なんだっけ、歯って言うんだっけ? これも鉄っぽい、キンキン言う」
「……知らない靴ベタベタ触るなよ、汚いな」
「重いなぁ……俺履きたくないよこんなの」
まぁ、下駄なんかどうでもいいや。荷物を部屋に置き、手を洗う。セイカにじっとり睨まれたのでいつもよりしっかりと。
「ただいまぁ~」
「おかえり、水月」
「おかえりなさい、お邪魔してます」
ダイニングには母が居た。その向かいには黒い着物と少しの包帯に身を包んだ色黒の男……見覚えがある、めっちゃある。
「あ、えっと……お久しぶりです」
レイの元カレの従兄であり、穂張事務所を支配する真の頭であり、母が勤める製薬会社の社長秘書の男だ。年齢の分かりにくい強面だが、見た感じの肌のハリから分析するとヒトよりは確実に若いと思う。って何分析してんだ、俺。
「セイカ、アキと部屋に帰ってろ…………何かご用でしょうか」
彼はオカルトにも造詣が深い。個人を気に入って取り憑いている狛狐の付喪神は珍しいとか言って、ミタマを調べたがっていた。それでなくともサキヒコとミタマは母の勤める会社に怯えていた、警戒心が高まってしまう。
(そういえばネイさんに、彼からなんか……新興宗教? でしたっけ、の話聞きたいとか言ってましたな。聞き出せたらネイさんに褒めてもらえそうですが、うーむ……)
ネイ、俺の恋心未満の憧れ裏切ったしなぁ。あんまり協力する気になれないんだよなぁ。
「そう警戒しないでくださいよ」
「……俺も出来ればそうしたいんですけどね」
「仕方ないですねぇ……ほら」
「おおっ!?」
男は着物の胸元を少しくつろげた。歌見の日焼け肌とはまた別種の萌えがある褐色肌の谷間がチラリと見えて、俺の足は思わず前に進む。
「ほぅら」
「おぉおっ!」
男は続けて着物の裾を僅かに持ち上げる。普段は足首まで隠れているから、ふくらはぎが顕になるだけで俺の興奮は高まる。着物というお堅い印象に、はだけるという淫らな仕草のギャップがたまらない。
「もっと見たい?」
「見たい見たい!」
「人の息子にストリップ仕掛けんじゃないわよド変態!」
「ド変態はあなたの息子の方でしょう……どういう教育したらこうなるんですか」
男は着物を整え、母の方を向く。
「こほん……あの、本当に何の用でいらっしゃったんですか? コンちゃん……ミタマのことでは、ない?」
「ミタマ。あぁ、狐の……今日は別件です。あなた、幽霊と神様を恋人にしてるんですよね」
「え、ええ、まぁ……」
「もう一種類欲しくないですか? 神、霊、と来たらあと一つは?」
「えっ? あと一つ?」
「妖怪でしょ!」
まぁ、そうかも。とゲームやアニメの知識を引っ張り出して納得する。
「なので妖怪をあげようかと」
「は?」
「かまァーん!」
男はリビングに向かって呼びかけた。すると、ソファに座っていた少年がぺたぺたとこちらへやってくる。何の変哲もないシャツとデニムを身につけた少年は、ミタマのように獣の耳や尾を持つ訳ではない。うねった黒髪の内側には深い海色の輝きが見えたが、これはまぁただのインナーカラーと判断出来る。彼が妖怪? 人間にしか見えない。
「こちら、日本神秘生類創成会にて造られたと思われる養殖妖怪です。その組織は富裕層向けの新しい愛玩動物として、あるいは兵器として売買するために色々怪異を作ってるんですが……この度競売的なのを一つぶち壊しましてね。ちなみに、この怪我はその時のアレです」
男は頭や腕に巻いた包帯を指す。
「競売……」
「五億で買うえ~って感じのとこです。商品の怪異はほとんど人を数人殺したヤツばかりで、祓わざるを得なかったんですが……あぁ、人殺した怪異は殺さなきゃいけないんですよ、人の味知ったクマみたいなもんでね、ほとんどの怪異は人を殺すことで効率良く強くなれるのでメリット理解しちゃったらどんどん殺すようになるんですよ」
「…………はぁ、それで、じゃあこの子は」
「殺人童貞。まだ無害。そういう怪異は害怪異駆除に役立てられる益怪異になる可能性があるので、俺は積極的に保護してるんですが……何せ俺忙しいので、預かって育てて欲しいんですよ。あなた怪異に好かれやすいみたいだし、ちょうどいいかなって」
男はミタマとサキヒコを指して笑う。
「えっ……い、いやいやいや! 無理ですよそんなっ、俺一般高校生ですよ!? 育てるって何ですか……!」
「道徳とか倫理とか身に付けさせて欲しいなって」
「無茶言わないでくださいどうすればいいか分かりませんよ!」
「いやぁ、適当に仲良くなればなんか人間の尊さとか言って人間の味方になるでしょ」
なんて雑な……!
「俺人間尊いと思ったことないんで、向いてないんですよねぇ。だから愛情深そうなあなたに任せたくて」
道徳も倫理もなさそうだもんな、この人。レイの元カレとそっくりだ。
「な、なんかないんですか? 妖怪の保護施設とか学校的なの。たまに保護するんでしょう? 妖怪……」
「基本もう少し育った状態で捕まえるので、ぶん殴って躾けますけど……その子生まれたてっぽいんですよ。分かりやすく言うと、普段やってるのは新人研修であって……ベビーシッターや保母さんボブさんは居ないって言うか」
「俺はベビーシッターでも保育士でもありませんよ! っていうかボブって誰ですか!? ボブは子育て得意なんですか!?」
「お母さんの許可はもらってますし」
「母さん!?」
「この子預かったらすっごいお金くれるのよ」
それだけリスクがあるということじゃないのか!? そんな守銭奴キャラじゃなかったろ!? 普段の聡明さはどこへやったんだ母よ!
「じゃ、注意事項伝えますね」
「まだ俺頷いてませんけど!?」
「いやあなたの意思とか関係ないんで」
酷過ぎる。
「その一、家の外では絶対に濡らさない。家の中では一日四時間以上は必ず水に漬ける」
「えっ、まっ、待ってメモする……」
「その二! ナマモノは絶対与えない。火の通っていない魚、肉は与えちゃいけません。血や生の肉の味覚えちゃうと人殺して食いかねないので」
「怖っ!?」
「その三! 彼の髪、皮膚、肉、あらゆる身体の一部を一切食べないこと。実験がまだなので何も分かりませんけど、彼を食べたら未来永劫呪われかねません」
「わァ………………ぁ……」
「泣いちゃった。とりあえず上記三つを守ってください。では、俺そろそろ帰りますんで」
「待って待って待ってぇ! せめてこの子が何の妖怪なのかとか名前とか色々教えてぇ!」
「自分で聞いてください。これからしばらく育てるんですからコミュニケーション取らないと。ガンバ! 何かあったらすぐ連絡ください、どんなに小さなことでもね。では、俺忙しいので」
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