冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

文字の大きさ
1,606 / 2,303

妖シッター (水月・セイカ)

しおりを挟む
彼氏達と抱擁を交わして別れを惜しみ、車に揺られて帰宅。運転手に礼を言って手を振り、玄関扉を開ける。

「……? 何これ、下駄?」

靴を脱ぎつつ下を見ると下駄があった。台も鼻緒も黒い、変わった下駄だ。

「鳴雷のじゃないのか? 今日着物着ていくんだろ?」

「浴衣な。うん、でも俺こんな黒いの持ってなかったと思うんだけど……え、うわ、これすごい、爪先? と踵? に鉄板貼ってある。あと、なんだっけ、歯って言うんだっけ? これも鉄っぽい、キンキン言う」

「……知らない靴ベタベタ触るなよ、汚いな」

「重いなぁ……俺履きたくないよこんなの」

まぁ、下駄なんかどうでもいいや。荷物を部屋に置き、手を洗う。セイカにじっとり睨まれたのでいつもよりしっかりと。

「ただいまぁ~」

「おかえり、水月」

「おかえりなさい、お邪魔してます」

ダイニングには母が居た。その向かいには黒い着物と少しの包帯に身を包んだ色黒の男……見覚えがある、めっちゃある。

「あ、えっと……お久しぶりです」

レイの元カレの従兄であり、穂張事務所を支配する真の頭であり、母が勤める製薬会社の社長秘書の男だ。年齢の分かりにくい強面だが、見た感じの肌のハリから分析するとヒトよりは確実に若いと思う。って何分析してんだ、俺。

「セイカ、アキと部屋に帰ってろ…………何かご用でしょうか」

彼はオカルトにも造詣が深い。個人を気に入って取り憑いている狛狐の付喪神は珍しいとか言って、ミタマを調べたがっていた。それでなくともサキヒコとミタマは母の勤める会社に怯えていた、警戒心が高まってしまう。

(そういえばネイさんに、彼からなんか……新興宗教? でしたっけ、の話聞きたいとか言ってましたな。聞き出せたらネイさんに褒めてもらえそうですが、うーむ……)

ネイ、俺の恋心未満の憧れ裏切ったしなぁ。あんまり協力する気になれないんだよなぁ。

「そう警戒しないでくださいよ」

「……俺も出来ればそうしたいんですけどね」

「仕方ないですねぇ……ほら」

「おおっ!?」

男は着物の胸元を少しくつろげた。歌見の日焼け肌とはまた別種の萌えがある褐色肌の谷間がチラリと見えて、俺の足は思わず前に進む。

「ほぅら」

「おぉおっ!」

男は続けて着物の裾を僅かに持ち上げる。普段は足首まで隠れているから、ふくらはぎが顕になるだけで俺の興奮は高まる。着物というお堅い印象に、はだけるという淫らな仕草のギャップがたまらない。

「もっと見たい?」

「見たい見たい!」

「人の息子にストリップ仕掛けんじゃないわよド変態!」

「ド変態はあなたの息子の方でしょう……どういう教育したらこうなるんですか」

男は着物を整え、母の方を向く。

「こほん……あの、本当に何の用でいらっしゃったんですか? コンちゃん……ミタマのことでは、ない?」

「ミタマ。あぁ、狐の……今日は別件です。あなた、幽霊と神様を恋人にしてるんですよね」

「え、ええ、まぁ……」

「もう一種類欲しくないですか? 神、霊、と来たらあと一つは?」

「えっ? あと一つ?」

「妖怪でしょ!」

まぁ、そうかも。とゲームやアニメの知識を引っ張り出して納得する。

「なので妖怪をあげようかと」

「は?」

「かまァーん!」

男はリビングに向かって呼びかけた。すると、ソファに座っていた少年がぺたぺたとこちらへやってくる。何の変哲もないシャツとデニムを身につけた少年は、ミタマのように獣の耳や尾を持つ訳ではない。うねった黒髪の内側には深い海色の輝きが見えたが、これはまぁただのインナーカラーと判断出来る。彼が妖怪? 人間にしか見えない。

「こちら、日本神秘生類創成会にて造られたと思われる養殖妖怪です。その組織は富裕層向けの新しい愛玩動物として、あるいは兵器として売買するために色々怪異を作ってるんですが……この度競売的なのを一つぶち壊しましてね。ちなみに、この怪我はその時のアレです」

男は頭や腕に巻いた包帯を指す。

「競売……」

「五億で買うえ~って感じのとこです。商品の怪異はほとんど人を数人殺したヤツばかりで、祓わざるを得なかったんですが……あぁ、人殺した怪異は殺さなきゃいけないんですよ、人の味知ったクマみたいなもんでね、ほとんどの怪異は人を殺すことで効率良く強くなれるのでメリット理解しちゃったらどんどん殺すようになるんですよ」

「…………はぁ、それで、じゃあこの子は」

「殺人童貞。まだ無害。そういう怪異は害怪異駆除に役立てられる益怪異になる可能性があるので、俺は積極的に保護してるんですが……何せ俺忙しいので、預かって育てて欲しいんですよ。あなた怪異に好かれやすいみたいだし、ちょうどいいかなって」

男はミタマとサキヒコを指して笑う。

「えっ……い、いやいやいや! 無理ですよそんなっ、俺一般高校生ですよ!? 育てるって何ですか……!」

「道徳とか倫理とか身に付けさせて欲しいなって」

「無茶言わないでくださいどうすればいいか分かりませんよ!」

「いやぁ、適当に仲良くなればなんか人間の尊さとか言って人間の味方になるでしょ」

なんて雑な……!

「俺人間尊いと思ったことないんで、向いてないんですよねぇ。だから愛情深そうなあなたに任せたくて」

道徳も倫理もなさそうだもんな、この人。レイの元カレとそっくりだ。

「な、なんかないんですか? 妖怪の保護施設とか学校的なの。たまに保護するんでしょう? 妖怪……」

「基本もう少し育った状態で捕まえるので、ぶん殴って躾けますけど……その子生まれたてっぽいんですよ。分かりやすく言うと、普段やってるのは新人研修であって……ベビーシッターや保母さんボブさんは居ないって言うか」

「俺はベビーシッターでも保育士でもありませんよ! っていうかボブって誰ですか!? ボブは子育て得意なんですか!?」

「お母さんの許可はもらってますし」

「母さん!?」

「この子預かったらすっごいお金くれるのよ」

それだけリスクがあるということじゃないのか!? そんな守銭奴キャラじゃなかったろ!? 普段の聡明さはどこへやったんだ母よ!

「じゃ、注意事項伝えますね」

「まだ俺頷いてませんけど!?」

「いやあなたの意思とか関係ないんで」

酷過ぎる。

「その一、家の外では絶対に濡らさない。家の中では一日四時間以上は必ず水に漬ける」

「えっ、まっ、待ってメモする……」

「その二! ナマモノは絶対与えない。火の通っていない魚、肉は与えちゃいけません。血や生の肉の味覚えちゃうと人殺して食いかねないので」

「怖っ!?」

「その三! 彼の髪、皮膚、肉、あらゆる身体の一部を一切食べないこと。実験がまだなので何も分かりませんけど、彼を食べたら未来永劫呪われかねません」

「わァ………………ぁ……」

「泣いちゃった。とりあえず上記三つを守ってください。では、俺そろそろ帰りますんで」

「待って待って待ってぇ! せめてこの子が何の妖怪なのかとか名前とか色々教えてぇ!」

「自分で聞いてください。これからしばらく育てるんですからコミュニケーション取らないと。ガンバ! 何かあったらすぐ連絡ください、どんなに小さなことでもね。では、俺忙しいので」

男は俺を乱暴に振り払い、帰って行った。何だ……何なんだ……夢か? そうか、夢か……俺はまだ紅葉邸に居るんだ、目を閉じて、開けたらきっと、カンナとカミアと大きなベッドで眠っているんだ。
しおりを挟む
感想 530

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...