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絶対に起きる必殺技 (水月+ヒト・フタ・サン・アキ・カサネ・リュウ)
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またベッドの中に引きずり込まれかねないフタとサンを後回しにしヒトに二人を起こすのを手伝ってもらうか、二人を先に起こしてサンの悪質な煽りでヒトを起こしてもらうか……ヒトの機嫌が悪くなりそうだから前者だな。ヒトを先に起こそう。
「ヒトさん、起きてください」
「んー……」
「アキ、ちょっとどいてくれ」
いつまでもアキが乗っていたら意固地になって起きないかもしれない。俺はアキをヒトの上から下ろし、彼の肩を揺すった。
「……にーにぃ」
「アキはセイカの朝支度手伝ってやってくれるか。えー……セイカ、手伝う、頼む」
「だ!」
にっこりと笑顔になったアキは俺の元を去っていく。さて、頭を腕で抱え込んでしまったヒトをどう起こすか──ん? アキ帰ってきたな。
「アキ? どうした?」
「すぇかーちか、居るしないです」
「……え? あれ、ホントだ……カサネ先輩! セイカ知ってます?」
「さ、早苗ちゃんならっ……えと、あの、ぅ、歌見さん? だっけ、おっきい人とどっか行ったけど」
歌見とどこかへ行った? 何故。いや、朝支度か。穂張兄弟を除いて彼氏達の中で一番ガタイがいい歌見を補助に選ぶのは当然だ。
「そっか……アキ、セイカ、歌見先輩と行ったってさ。歌見先輩分かるか? うーたーみ」
「…………」
アキは黙っている。歌見の名前を覚えていない訳はないと思うが……パッチリ目が開いてるから眠くてボーッとしているということはないと思うし……なんで返事しないんだろ。
「えっと、誰か、ぁ、リュウ、アキと一緒に洗面所行ってやってくれ。顔洗わせて、寝癖はまぁ……アキの好きに」
「まだ腹ズクズクするぅ……」
「知るか、さっさと行け」
「ぁん……水月のいけずぅ…………へへへ」
軽く背を押してやるとリュウは嬉しそうに笑いながらアキの手を引いた。
「行こか、アキくん」
「……だ」
アキは素直にリュウに着いて行った。部屋に残っているのは朝支度が済んでいる俺とカンナ、カサネ、まだ起きていない穂張兄弟の三人、計六人だ。
「ヒトさん、ヒトさん……ふーっ」
カンナとカサネは協力してくれない。俺はヒトの耳に息を吹き込んだ。
「ひゃうっ!?」
「おはようございますヒトさん!」
「えっ、ぁ……お、おはようございます?」
「もう、ヒトさんったらしっかり二度寝しちゃって。もうみんな起きてますよ」
「えっ嘘……」
「フタさんとサンさんはまだ寝てますけど」
「……他の子は、みんな?」
頷くとヒトは深いため息をついた。最年長としての威厳がどうだとか、色々考えているんだろうな。
「二人を起こすの手伝ってくれませんか?」
「ええ、もちろん……」
起き上がったヒトは鬱陶しそうに髪をかき上げた。外ハネの激しい髪は放っておいても目や口の邪魔はしないのでフタは放置しているが、ヒトは視界に髪が入ること自体が嫌らしい。
「ヒトさん、よければこれ使ってください」
「これは……?」
「俺が洗顔の時に使ってるヘアバンドです」
「……ありがとうございます」
ヒトが俺のヘアバンドをはめる。くせっ毛が後ろへ追いやられた様は、パイナップルを思い起こさせ俺の肩を震わせた。
「ふっ……ふふ……」
「鳴雷さん? どうしたんです、急に……私おかしいですか? 似合いません……か?」
「いえいえ! ヒトさんが俺のを身に付けてることに独占欲とかその他諸々のほの暗い欲望がムラムラとって感じの笑いです!」
「あぁ、彼シャツとかいうのと同じ感覚ですかね。ふふ、あなたの物を身に付けられて私も嬉しいです。サイズが合うものならどんどん貸してください」
扱いやすさと厄介さが同居する独特な男、ヒト。言わずもがな今回は前者。
「ところでヒトさん、弟達を起こす必殺技とかあったり? 俺は弟との付き合いがまだ短いのでそういうのまだないんですけど」
俺の弟、床軋ませただけで起きるし。
「あぁ、ありますよ必殺技。フタのだけですけど」
「わ、すごい。暴力じゃないですよね?」
「……違いますよ」
ムッとさせてしまった。いやでも俺そんなに悪くないよね? 日頃の行いが悪いのはヒトだし……
「よく聞いていてください。あなたも覚えた方がいい。フタ! 仔猫がカラスに襲われていますよ!」
「……っ!? どこっ、どこ……」
「痛っ」
フタが寝ぼけ眼のまま飛び起きて膝立ちでベッドの上を移動し、サンを踏んだ。重さと痛みに呻いたサンが動き、バランスを崩したフタがベッドから落ちる。
「危ないっ!」
俺は咄嗟に床とフタの間に滑り込んだが、いつまで経ってもフタが落ちてこない。恐る恐る目を開け、ボーッとしたフタの目と目が合った。
「……っ、しょっ……と。はぁ、重い」
フタの顔が離れていった。ヒトがフタの服を掴んで落下を阻止したようだ。俺がクッションになる必要はなかったらしい、慌てて倒れて滑り込んだから背中とか色々痛い。無駄な痛みだったな。
「ヒト兄ぃ、おはよぉ~」
「おはようございます」
「…………なんだっけぇ、なんか、急がなきゃいけないことがあった気がするんだけどぉ~……兄貴なんか知らない?」
ヒトがついた嘘のことかな? 仔猫のピンチに飛び起きるなんて、フタはやっぱりいい人だ。
「そろそろ朝食の時間ですので、サンを起こしてください」
「んぁ? サンちゃん? あ、サンちゃん寝てる。サンちゃーん」
「……兄貴さっき俺の腹踏んだろ」
普段のサンからは考えられない声の低さだ。寝起きで怒っているとこうなるんだな、彼氏の新しい一面が見られて嬉しい。
「痛かったんだけど」
サンは睨むように目を細めているが、視線はフタから微妙にズレている。
「……? サンちゃんなんか怒ってる? どったの?」
「あなたが踏んだからですよ」
「ヒト兄貴が変な嘘つくからだろ。はぁ~あ、せっかくうつうつ一番気持ちいい時間だったのに……ま、ご飯じゃしょうがないか、他人ん家だしね。あーぁ、家ならいつまででも寝られるのにな」
身体を起こしこそしていなかったものの、サンの意識はしばらく前から明瞭だったらしい。
「ほらさっさと顔洗いに行く! 鳴雷さんを困らせない!」
「い、いや俺は別に……」
「水月? 水月っ、洗面所まで連れてって~」
「私が責任を持って二人共連れて行きますよ」
「やだ、水月がいい」
「まぁまぁまぁ……手分けしましょ手分け。ヒトさんはフタさんお願いします、優しくね」
暴力を振るわないよう念押しするとヒトは不愉快そうに眉を顰めたものの、何も言わずフタの腕を掴んだ。俺はサンに肩を掴ませ、俺とヒトは二人で彼らを洗面所まで案内した。
「ヒトさん、起きてください」
「んー……」
「アキ、ちょっとどいてくれ」
いつまでもアキが乗っていたら意固地になって起きないかもしれない。俺はアキをヒトの上から下ろし、彼の肩を揺すった。
「……にーにぃ」
「アキはセイカの朝支度手伝ってやってくれるか。えー……セイカ、手伝う、頼む」
「だ!」
にっこりと笑顔になったアキは俺の元を去っていく。さて、頭を腕で抱え込んでしまったヒトをどう起こすか──ん? アキ帰ってきたな。
「アキ? どうした?」
「すぇかーちか、居るしないです」
「……え? あれ、ホントだ……カサネ先輩! セイカ知ってます?」
「さ、早苗ちゃんならっ……えと、あの、ぅ、歌見さん? だっけ、おっきい人とどっか行ったけど」
歌見とどこかへ行った? 何故。いや、朝支度か。穂張兄弟を除いて彼氏達の中で一番ガタイがいい歌見を補助に選ぶのは当然だ。
「そっか……アキ、セイカ、歌見先輩と行ったってさ。歌見先輩分かるか? うーたーみ」
「…………」
アキは黙っている。歌見の名前を覚えていない訳はないと思うが……パッチリ目が開いてるから眠くてボーッとしているということはないと思うし……なんで返事しないんだろ。
「えっと、誰か、ぁ、リュウ、アキと一緒に洗面所行ってやってくれ。顔洗わせて、寝癖はまぁ……アキの好きに」
「まだ腹ズクズクするぅ……」
「知るか、さっさと行け」
「ぁん……水月のいけずぅ…………へへへ」
軽く背を押してやるとリュウは嬉しそうに笑いながらアキの手を引いた。
「行こか、アキくん」
「……だ」
アキは素直にリュウに着いて行った。部屋に残っているのは朝支度が済んでいる俺とカンナ、カサネ、まだ起きていない穂張兄弟の三人、計六人だ。
「ヒトさん、ヒトさん……ふーっ」
カンナとカサネは協力してくれない。俺はヒトの耳に息を吹き込んだ。
「ひゃうっ!?」
「おはようございますヒトさん!」
「えっ、ぁ……お、おはようございます?」
「もう、ヒトさんったらしっかり二度寝しちゃって。もうみんな起きてますよ」
「えっ嘘……」
「フタさんとサンさんはまだ寝てますけど」
「……他の子は、みんな?」
頷くとヒトは深いため息をついた。最年長としての威厳がどうだとか、色々考えているんだろうな。
「二人を起こすの手伝ってくれませんか?」
「ええ、もちろん……」
起き上がったヒトは鬱陶しそうに髪をかき上げた。外ハネの激しい髪は放っておいても目や口の邪魔はしないのでフタは放置しているが、ヒトは視界に髪が入ること自体が嫌らしい。
「ヒトさん、よければこれ使ってください」
「これは……?」
「俺が洗顔の時に使ってるヘアバンドです」
「……ありがとうございます」
ヒトが俺のヘアバンドをはめる。くせっ毛が後ろへ追いやられた様は、パイナップルを思い起こさせ俺の肩を震わせた。
「ふっ……ふふ……」
「鳴雷さん? どうしたんです、急に……私おかしいですか? 似合いません……か?」
「いえいえ! ヒトさんが俺のを身に付けてることに独占欲とかその他諸々のほの暗い欲望がムラムラとって感じの笑いです!」
「あぁ、彼シャツとかいうのと同じ感覚ですかね。ふふ、あなたの物を身に付けられて私も嬉しいです。サイズが合うものならどんどん貸してください」
扱いやすさと厄介さが同居する独特な男、ヒト。言わずもがな今回は前者。
「ところでヒトさん、弟達を起こす必殺技とかあったり? 俺は弟との付き合いがまだ短いのでそういうのまだないんですけど」
俺の弟、床軋ませただけで起きるし。
「あぁ、ありますよ必殺技。フタのだけですけど」
「わ、すごい。暴力じゃないですよね?」
「……違いますよ」
ムッとさせてしまった。いやでも俺そんなに悪くないよね? 日頃の行いが悪いのはヒトだし……
「よく聞いていてください。あなたも覚えた方がいい。フタ! 仔猫がカラスに襲われていますよ!」
「……っ!? どこっ、どこ……」
「痛っ」
フタが寝ぼけ眼のまま飛び起きて膝立ちでベッドの上を移動し、サンを踏んだ。重さと痛みに呻いたサンが動き、バランスを崩したフタがベッドから落ちる。
「危ないっ!」
俺は咄嗟に床とフタの間に滑り込んだが、いつまで経ってもフタが落ちてこない。恐る恐る目を開け、ボーッとしたフタの目と目が合った。
「……っ、しょっ……と。はぁ、重い」
フタの顔が離れていった。ヒトがフタの服を掴んで落下を阻止したようだ。俺がクッションになる必要はなかったらしい、慌てて倒れて滑り込んだから背中とか色々痛い。無駄な痛みだったな。
「ヒト兄ぃ、おはよぉ~」
「おはようございます」
「…………なんだっけぇ、なんか、急がなきゃいけないことがあった気がするんだけどぉ~……兄貴なんか知らない?」
ヒトがついた嘘のことかな? 仔猫のピンチに飛び起きるなんて、フタはやっぱりいい人だ。
「そろそろ朝食の時間ですので、サンを起こしてください」
「んぁ? サンちゃん? あ、サンちゃん寝てる。サンちゃーん」
「……兄貴さっき俺の腹踏んだろ」
普段のサンからは考えられない声の低さだ。寝起きで怒っているとこうなるんだな、彼氏の新しい一面が見られて嬉しい。
「痛かったんだけど」
サンは睨むように目を細めているが、視線はフタから微妙にズレている。
「……? サンちゃんなんか怒ってる? どったの?」
「あなたが踏んだからですよ」
「ヒト兄貴が変な嘘つくからだろ。はぁ~あ、せっかくうつうつ一番気持ちいい時間だったのに……ま、ご飯じゃしょうがないか、他人ん家だしね。あーぁ、家ならいつまででも寝られるのにな」
身体を起こしこそしていなかったものの、サンの意識はしばらく前から明瞭だったらしい。
「ほらさっさと顔洗いに行く! 鳴雷さんを困らせない!」
「い、いや俺は別に……」
「水月? 水月っ、洗面所まで連れてって~」
「私が責任を持って二人共連れて行きますよ」
「やだ、水月がいい」
「まぁまぁまぁ……手分けしましょ手分け。ヒトさんはフタさんお願いします、優しくね」
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