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あの子は特別 (〃)
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バッと飛び起き、心臓が激しく脈打つのを感じる。
「あ、おはようみぃくん」
俺が起きた理由は物音だ。カミアが朝支度を始めた音。
「カ、カミアっ……」
ぐっすり眠っているカンナの頭の下から腕を抜き、着替えを済ませているカミアの元へ。
「カミア、まさかもう行くのか?」
「うん、そろそろ時間だから……」
「そんなっ……クソ、俺いつの間に寝てたんだ!? カンナ抱いて、それから……ぁー、覚えてない、カンナ抱いた後カミアめちゃくちゃにしてやるつもりだったのに!」
「僕今日お仕事だから寝落ちしちゃって正解だよ……みぃくんはね、お兄ちゃんとシて、ピロートークの最中で寝落ちしたんだよ」
何か話したっけ、何も覚えてないぞ。
「かるーく身体拭いて毛布かけたけど、まだ全然だと思うから、服着る前にお兄ちゃんとシャワー浴びてね」
「……あぁ、ごめんな? カミア……あんまり会えないのに、なんか、あんまり」
「いいよ、来週は僕がみぃくん独り占めだし」
カンナはカミアより高頻度で俺を独り占めしている。昨日はカミアを優先してやるべきだったのだ、それなのに俺は…………俺はハーレム主失格だ、全然平等に接してやれていない。
「それにね、お兄ちゃんすごく幸せそうだったから、それでいいんだ」
「カミア……」
「お兄ちゃんはスターになるはずだった、日本だけじゃなく世界で。お兄ちゃんが大火傷したのは世界的損失なんだ、世界遺産がテロリストに壊されたくらいの悲劇なんだ。でも僕にとっては損失なんかどうでもいい、歌うことが大好きなお兄ちゃんが……みんなを熱狂させることが生きがいだったお兄ちゃんが、人前に立てなくなったのが、苦しかった」
「…………」
「お兄ちゃんがすごく苦しがってるの、僕分かってた。双子だもん……ずっと一緒に居たんだもん。僕のこと庇ったの、お兄ちゃんの人生唯一で最大の失敗だよ……僕庇ったから、お兄ちゃん大好きなこと出来なくなって、自分の名前まで奪われて……でも、でもねっ、でもねみぃくん……みぃくんが、居るんだ、お兄ちゃんには」
「……俺?」
「お兄ちゃんすごく幸せそうなんだぁ……生きがいなくなって、名前も交換させられちゃって、家族もバラバラになって…………みぃくんのおかげで、お兄ちゃん笑えてる。お兄ちゃん、幸せになってる。みぃくん……ね、みぃくん、お兄ちゃんのこと、好き?」
カミアの瞳に宿る星空のような輝きは、潤んだことで増していた。
「……あぁ、大好きだよ」
「だよねっ。うん、分かってた」
「まだ時間あるか? 聞いて欲しいんだ」
「うん、もう少しなら。何お話してくれるの?」
「カンナのこと。カンナはな、特別なんだよ。一番最初の彼氏なんだ。初恋は別の人だし、童貞捧げた……奪われた? のも別の人。でも俺が一番最初に好きになって、俺のこと一番最初に好きになってくれたのは、カンナなんだ」
「お兄ちゃんもみぃくんも見る目あるよねっ」
「……あぁ。カミア、俺な、中学生の頃はみんなに嫌われてたんだ」
「えっ?」
「信じられないかもしれないけど、本当に。だから元同級生とかが居なさそうな高校に進んで……見た目に気を遣ってさ、色々頑張って、今度こそ人に好かれたかった、上手くいくか不安で……そんな中でカンナが俺のこと好きになってくれて、救われたんだよ。カンナのおかげでかなり自信ついた。だから、特別」
「そうなんだ……正直みぃくんが嫌われてたとか全然想像出来ないんだけど……何、給食のカレー連続で零したりした?」
「ははっ、俺の中学給食なかったけど……まぁ、近いかもな」
「……そっちのお話はしてくれないの?」
「………………ごめん」
「あっ、ごめんねっ? 嫌なこと思い出しちゃったよね、今そんな顔したよぉ……大丈夫大丈夫、もうみんなみぃくんのこと大好きだからねっ?」
励まされてしまった。情けない。軽く頬を叩いて気分を切り替えて、表情を整えて、カミアを抱き締める。
「ひゃっ!?」
「……カミアも、か?」
「へっ? えっ、ぁ……ぅん……僕も、みぃくん大好き」
「嬉しいな。なぁカミア、お前のこと大好きな人間は山ほど居るし、お前に話しかけられるだけで失神するような……ハル以上のヤツもいっぱい居ると思う。でも俺には、そこまでのリアクションは出来ない。けど俺の愛情がそいつらより薄いとは思って欲しくない」
「お、思ってないよぉ……みぃくんがあんまりテレビとか見ないから、緊張してないってだけだよ。みんなはアイドルのカミアが好きなの、それも僕だけど……時雨 神無だった僕を愛してくれるのは、みぃくんだけだもん。みぃくんからの愛情が特別なのは分かってるよ」
「……そうか、よかった」
「うん……あっ、カンナとして愛してくれるのはお兄ちゃんもかも、お父さんとかも……で、でも恋愛的なアレはみぃくんだけだからっ、みぃくんだけって言ってていいよねっ?」
アイドルに何度も何度も「みぃくんだけ」と言ってもらえることに優越感……なんて、本気だと思ったか? そんな優越感の覚え方、冗談交じりだ。本音を話すなら「好きな人に何度も「みぃくんだけ」と言ってもらえて嬉しい」だな。あぁ、本音を語るのは恥ずかしい。
「あぁ、カミアの特別は俺だけだ。俺の特別もカミアだけだよ」
「みぃくんの特別はお兄ちゃんでしょ?」
「別の特別。ピザも特別だし、プール授業の後の授業中に窓から入ってくるぬるい風とかも特別」
「特別多いなぁ~」
「一個じゃなきゃダメなんて言われてないからな。カミアだってカンナは特別だろ?」
「うん! お兄ちゃんは特別! ふふ……あっ、そ、そろそろ本当に時間ヤバい……また来週ねみぃくん!」
「あぁ、行ってらっしゃいカミア。お仕事頑張ってな」
「はーい! いってきまーす!」
キスをして、部屋を去る彼を見送り、寂しさを隠すようにバスローブを羽織る。
「……カンナ、シャワー浴びよっか」
内腿に垂れた精液の跡から目を逸らし、カンナを抱き上げた。
「あ、おはようみぃくん」
俺が起きた理由は物音だ。カミアが朝支度を始めた音。
「カ、カミアっ……」
ぐっすり眠っているカンナの頭の下から腕を抜き、着替えを済ませているカミアの元へ。
「カミア、まさかもう行くのか?」
「うん、そろそろ時間だから……」
「そんなっ……クソ、俺いつの間に寝てたんだ!? カンナ抱いて、それから……ぁー、覚えてない、カンナ抱いた後カミアめちゃくちゃにしてやるつもりだったのに!」
「僕今日お仕事だから寝落ちしちゃって正解だよ……みぃくんはね、お兄ちゃんとシて、ピロートークの最中で寝落ちしたんだよ」
何か話したっけ、何も覚えてないぞ。
「かるーく身体拭いて毛布かけたけど、まだ全然だと思うから、服着る前にお兄ちゃんとシャワー浴びてね」
「……あぁ、ごめんな? カミア……あんまり会えないのに、なんか、あんまり」
「いいよ、来週は僕がみぃくん独り占めだし」
カンナはカミアより高頻度で俺を独り占めしている。昨日はカミアを優先してやるべきだったのだ、それなのに俺は…………俺はハーレム主失格だ、全然平等に接してやれていない。
「それにね、お兄ちゃんすごく幸せそうだったから、それでいいんだ」
「カミア……」
「お兄ちゃんはスターになるはずだった、日本だけじゃなく世界で。お兄ちゃんが大火傷したのは世界的損失なんだ、世界遺産がテロリストに壊されたくらいの悲劇なんだ。でも僕にとっては損失なんかどうでもいい、歌うことが大好きなお兄ちゃんが……みんなを熱狂させることが生きがいだったお兄ちゃんが、人前に立てなくなったのが、苦しかった」
「…………」
「お兄ちゃんがすごく苦しがってるの、僕分かってた。双子だもん……ずっと一緒に居たんだもん。僕のこと庇ったの、お兄ちゃんの人生唯一で最大の失敗だよ……僕庇ったから、お兄ちゃん大好きなこと出来なくなって、自分の名前まで奪われて……でも、でもねっ、でもねみぃくん……みぃくんが、居るんだ、お兄ちゃんには」
「……俺?」
「お兄ちゃんすごく幸せそうなんだぁ……生きがいなくなって、名前も交換させられちゃって、家族もバラバラになって…………みぃくんのおかげで、お兄ちゃん笑えてる。お兄ちゃん、幸せになってる。みぃくん……ね、みぃくん、お兄ちゃんのこと、好き?」
カミアの瞳に宿る星空のような輝きは、潤んだことで増していた。
「……あぁ、大好きだよ」
「だよねっ。うん、分かってた」
「まだ時間あるか? 聞いて欲しいんだ」
「うん、もう少しなら。何お話してくれるの?」
「カンナのこと。カンナはな、特別なんだよ。一番最初の彼氏なんだ。初恋は別の人だし、童貞捧げた……奪われた? のも別の人。でも俺が一番最初に好きになって、俺のこと一番最初に好きになってくれたのは、カンナなんだ」
「お兄ちゃんもみぃくんも見る目あるよねっ」
「……あぁ。カミア、俺な、中学生の頃はみんなに嫌われてたんだ」
「えっ?」
「信じられないかもしれないけど、本当に。だから元同級生とかが居なさそうな高校に進んで……見た目に気を遣ってさ、色々頑張って、今度こそ人に好かれたかった、上手くいくか不安で……そんな中でカンナが俺のこと好きになってくれて、救われたんだよ。カンナのおかげでかなり自信ついた。だから、特別」
「そうなんだ……正直みぃくんが嫌われてたとか全然想像出来ないんだけど……何、給食のカレー連続で零したりした?」
「ははっ、俺の中学給食なかったけど……まぁ、近いかもな」
「……そっちのお話はしてくれないの?」
「………………ごめん」
「あっ、ごめんねっ? 嫌なこと思い出しちゃったよね、今そんな顔したよぉ……大丈夫大丈夫、もうみんなみぃくんのこと大好きだからねっ?」
励まされてしまった。情けない。軽く頬を叩いて気分を切り替えて、表情を整えて、カミアを抱き締める。
「ひゃっ!?」
「……カミアも、か?」
「へっ? えっ、ぁ……ぅん……僕も、みぃくん大好き」
「嬉しいな。なぁカミア、お前のこと大好きな人間は山ほど居るし、お前に話しかけられるだけで失神するような……ハル以上のヤツもいっぱい居ると思う。でも俺には、そこまでのリアクションは出来ない。けど俺の愛情がそいつらより薄いとは思って欲しくない」
「お、思ってないよぉ……みぃくんがあんまりテレビとか見ないから、緊張してないってだけだよ。みんなはアイドルのカミアが好きなの、それも僕だけど……時雨 神無だった僕を愛してくれるのは、みぃくんだけだもん。みぃくんからの愛情が特別なのは分かってるよ」
「……そうか、よかった」
「うん……あっ、カンナとして愛してくれるのはお兄ちゃんもかも、お父さんとかも……で、でも恋愛的なアレはみぃくんだけだからっ、みぃくんだけって言ってていいよねっ?」
アイドルに何度も何度も「みぃくんだけ」と言ってもらえることに優越感……なんて、本気だと思ったか? そんな優越感の覚え方、冗談交じりだ。本音を話すなら「好きな人に何度も「みぃくんだけ」と言ってもらえて嬉しい」だな。あぁ、本音を語るのは恥ずかしい。
「あぁ、カミアの特別は俺だけだ。俺の特別もカミアだけだよ」
「みぃくんの特別はお兄ちゃんでしょ?」
「別の特別。ピザも特別だし、プール授業の後の授業中に窓から入ってくるぬるい風とかも特別」
「特別多いなぁ~」
「一個じゃなきゃダメなんて言われてないからな。カミアだってカンナは特別だろ?」
「うん! お兄ちゃんは特別! ふふ……あっ、そ、そろそろ本当に時間ヤバい……また来週ねみぃくん!」
「あぁ、行ってらっしゃいカミア。お仕事頑張ってな」
「はーい! いってきまーす!」
キスをして、部屋を去る彼を見送り、寂しさを隠すようにバスローブを羽織る。
「……カンナ、シャワー浴びよっか」
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