冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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自分のことは忘れがち (水月+シュカ・ハル・ヒト・フタ・サン)

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ハルと入れ替わりにシュカがヒトとフタの前に立つ。彼らが着いた頃からシュカはずっとフタを睨んでいる、今もそれは変わらない。シュカとフタの初対面は学校の前での殴り合い、それもシュカは負けかけていた、恨みや苛立ちはあって当然だ。

「……鳥待 首夏です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします、鳥待さん…………フタ、おい、フタ」

「何~?」

「はぁ…………よろしくお願いします、と言いなさい」

「よろしくおねがいしますー……?」

ヒトの言葉をなぞったフタは「これでいい?」とでも言いたげにヒトを見つめる。

「はい……では、私はこれで」

「……クールな子ですね。少し強面で……私と同じタイプです。色々な子が居るので鳴雷さんは好みのタイプが一つだけという訳ではなさそうですが、強面クールがあるのは確かでしょう?」

「えっ、さぁ……俺あんまり好きなタイプとか考えたことなくて」

ヒトとシュカは同じタイプじゃないと思う、とは言わないでおこうかな。ヒトが不機嫌になると面倒だし、フタが痛い目に遭うかもしれない。

「ヒト兄ぃ~、あっちの何~?」

「お寿司を握ってくれるところ……ですかね? これが個人の誕生日パーティと言うのですから驚きです」

「見に行こ~」

「ちょっとフタ……まだ全員揃っていないからダメです!」

「見に行くくらいいいですよ。先に見ておいた方が考える手間省けて早く決められますし。ヒトさんも見てきたらどうです? 美味しそうなのいっぱいありますよ」

「…………そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて……ずっと押さえておくのも辛いんですよね。フタ、見に行くだけなら大丈夫だそうです。食べたり触ったりしちゃダメですよ」

「……? おー……」

フタに暴力を振るっていたことなどから、ヒトに兄の資格はないと思っていたが、こうしてフタの手を引いて面倒を見ているところを見ると兄らしいと思ってしまう。フタの怪我を思い出し、なんだか悔しくなる。

「…………水月、ちょっと」

「ん? どうしたシュカ、に……ハルも?」

小声で呼ばれ、二人に向き直る。シュカもハルも暗い顔をしている。

「みっつん……あの人なんだよね? フタって」

「あなたを殺そうとした人……分野さんを切りつけた人、なんですよね」

「……あぁ! それでお前らなんか変だったのか! いやぁ、シュカは前に校門のとこで殴り合ったからだと思ってたよ。ハルはなんか単に怖がってるのかなーって」

「は……?」

眉を顰めた後、シュカはため息をついて呆れたように俺を睨んだ。

「何なんですか、あなた……忘れてたって言うんですか? 自分が殺されかけたのに?」

「いや、忘れてたって言うか……他のことで頭がいっぱいで、それを掘り出せなかったって言うか、結びつかなかったっていうか」

「それを忘れてたって言うんじゃん! もぉ~……こっちは怖いんだよ? みっつんがいつ何されるかってぇ!」

「警戒してた私が……私達がバカみたいじゃないですか」

「それでかぁ。フタさん近寄る度にシュカが変な顔するから慌てて離れたりしてたんだよ。もう大丈夫だよ、こないだフタさん説得したから。俺は死んだらフタさん嫌いになって二度と近寄らないから殺さない方がいいですよって」

「そんなことでいいのぉ!?」

「……良さそうですね。だいぶ頭弱いでしょう、彼……一言言って殴ってやろうと思ってたんですけど、そんな気も失せました。嫌いです、あの人」

「仲良くして欲しいんだけど……」

「嫌です。嫌なものを思い出すんです」

フタはふいっと顔を背け、俺から離れていった。

「あっ、しゅー! 待って……ぁ、ねぇみっつん……本当に大丈夫なんだよね? もうみっつん危なくないんだよね?」

「あぁ、大丈夫だよ。みんながコンちゃんにお願いしてくれてるおかげで、きっと俺はもう怪我もしないぞ」

「……そっか。なら、うん……フタさん? とも俺は仲良くするよう頑張るね。じゃあねみっつん。しゅー待ってぇ~」

ハルはシュカを追っていった。そうか、フタは俺を殺そうとしたんだったな……つい最近のことなのに、解決したからか忘れてしまっていた。

「はぁ……」

シュカがフタを嫌うのは、俺を殺そうとしたこと以外の理由もあるみたいだ。そっちは多分、俺には解決出来ない。

「水月? なんか今ため息ついてなかった?」

背後から両肩を掴まれて引き寄せられ、たくましい胸に後頭部がぶつかる。幸せな感触に自然と笑顔になった。

「サン……ふふ、耳いいなぁサンは」

「どうしたのさ、めでたい日だろ? それに君の好きな子ばっかりの部屋だ、何落ち込んでるの? さっきボクのお尻嗅いでた時は機嫌良かったのに」

「んー……」

「言ってごらんよ」

肩を掴んでいた手がするりと降り、俺を抱き締める。後頭部に押し付けられている胸も、俺を離さない腕も筋肉質で、落ち着く。俺も結構身長が高い方だから自分よりも大きな男に抱き締められる経験なんて本来滅多に出来ないはずなんだ。子供に戻ったような気分になる、甘えたくなる。

「彼氏にはみんな仲良くして欲しいんだけど、そうもいかないかもしれなくて……ちょっと落ち込んじゃった。でも大丈夫だよ、こんなに居れば噛み合わない同士も出るって分かってる。だから別に……大丈夫」

「……そう? 賢いねぇ水月は、自分の願いが叶わないことってちゃんと納得出来るんだ。ボクは叶うまで駄々こねちゃうなぁ」

「えー? ふふ……そんなことないでしょ、サン大人なんだし」

「だってワガママ言ったら兄貴達がどうにかしてくれるもん。一目惚れしたカッコいい子探して~、とかでもね」

「……俺のこと? ちょっと怖かったんだからね、アレ」

「兄貴達もデカいもんね~。水月ちっちゃいから怖いかぁ、ふふ」

「俺ちっちゃくないってば!」

穂張三兄弟の背が高過ぎるだけで、俺だって高身長と呼ばれる方なのだ。そう主張したってサンは「でもボクよりちっちゃいだろ?」とまた俺を可愛がる。恥ずかしいけれど、嫌な気はしない。
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