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お仕事ですよ (水月+フタ・サキヒコ)
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フタは物忘れが激しい、シャンプーやリンスを終えたことを忘れてもう一度頭を洗ったりしないだろうか? 俺はあるぞ、ボーッとしてリンスの後にまたシャンプーを使ったこと。
「…………」
俺でも起こることならフタには毎度起きているのでは、と俺はフタの動きを見守ることにした。
「ふー……次どれ~?」
シャンプーを使って頭を洗うとフタはそう言った。俺と一緒に入っていると俺に頼ってしまうのか、普段の様子を見てみたかったのだが……と思いつつリンスに手を伸ばそうとしたその時、フタはリンスに手を伸ばした。
「ありがと~」
俺はまだ何も……と不思議に思いつつ、俺も泡を洗い流しリンスに移る。しばらくしてリンスを流したフタはまた「次どれ?」と言い、ボディソープを取った。
「フタさんっ、先にトリートメントしません?」
「何それ……」
「髪がとぅるんっとぅるんになるヤツです。ほら手ぇ出して」
ボディソープを置いたフタの手のひらにトリートメントを絞った。そして、フタが誰に聞いていたのかもわかった。今俺はボディソープに手を伸ばしていなかった、トリートメントを取ろうとしていた。だから、俺の手の動きで次を察した訳じゃない。となればフタは誰に聞いたのか? フタの傍に常に居るモノだ。
(猫ちゃん達の誰かですな)
フタに憑いた三匹の猫の幽霊達は、フタの生活を手助けしている。フタが自立出来ているのは猫のおかげだろう。リンスボトルだとかに前足をてしっと置いたりしていたのかな? 見たかったな。
シャワーを終え、フタに俺の服を貸した。
「ちっちゃい……」
微妙な寸足らずが何だか悔しい。
「着心地どうです? オーバーサイズのだから、キツくはないと思うんですけど」
「キツくはないけど~……長さ足りない」
長袖のはずなのに七分丈。くるぶしまであるはずのズボンなのに足首丸出し。
「……そっ、そういう服なんです!」
「そうなんだ~。オシャレは奥深いね~」
「フタさんいつもタンクトップですけど、何かこだわりあるんですか?」
「たんくとっぷ……?」
「フタさんがいつも着てる袖なしのヤツですよ」
歌見もタンクトップが多いな。彼は筋肉が袖の邪魔になるのかな? 羽織っている上着も大きめだし。
「あー……袖、嫌い」
「そうなんですね。すいません、俺が持ってる袖なしピチッとしたのばっかりで、お臍出ちゃうので……」
「…………ミツキ、話している場合ではないのではないか?」
背後からサキヒコが現れた。責めるような口調ではなく、心配しているような声色と表情だ。
「ですね。フタさん、そろそろ行かないと」
「……どこに? ぁ、デート? デートする?」
「フタさんお仕事でしょう? ヒトさんが呼んでましたよ」
「えー……デートは?」
「デートはまた今度ですね。ふふ……そんなに俺とデートしたいんですか? 嬉しい」
「どしたのみつき、機嫌いいねぇ。可愛い可愛い」
乾かしたばかりの髪を掻き混ぜるように頭を撫で回される。愛おしげに細められた視線が嬉しい。
「フタさん、お仕事行かないと」
「あーそうなの? 行ってらっしゃい」
「俺は学校です。お仕事行くのはフタさん。車停めてましたよね?」
「俺今日仕事かぁ、みつきと一緒に居るから休みだと思ってた~」
「すいません、引き止めちゃって……」
フタはぽてぽてと玄関へ向かう。見送りのために着いて行く途中でフタの短刀を取り上げたままだったことを思い出し、取りに行った。
「フタさん待って!」
迷惑な位置に停められている厳つい車の前に居るフタを呼び止め、しっかりと鞘に納めた短刀を手渡す。
「忘れ物です!」
「……なんでこれ、みつきが持ってんの」
声色が一段下がる。普段温和なフタの冷たい表情に身体が固まり、話そうとしたことが喉の手前でつっかえる。
「え、いや……忘れ物です。フタさんが持ってきて、置いてたヤツ……」
「俺が持ってきた? えぇ、マジぃ? 危ないな~……みつき、コレ見たこと忘れてね?」
「は、はい……頑張ります」
走り去っていく乱雑な運転の車を見送り、あの刀は本来俺に知られたくないものだったのか……とフタの思いについて考えた。
「…………愛されてるよね、俺」
家に入り、呟く。隣に立つサキヒコが不思議そうな顔で俺を見上げる。
「危ない物近付けたくないってことだろ? 忘れてってことは、知らせたくもなかったってことでさ」
「あのような物を持っていると知られたくなかった、というふうに感じた」
「それも俺にいいように思ってて欲しいってことでさ、俺のこと好きな訳で……フタさんって本当可愛いよね~! 俺のこと大好きでさぁ、ふふふ……特にエピソードないのに」
あれほど深く激しく俺を愛してくれているのなら、付き合うまでに何かしらエピソードがあるのが自然だと思う。だが、特にないのだ。
「……フタさんなんで俺のこと好きなの?」
「何故その顔でそんなにも自信がないのか理解に苦しむ」
この顔になったのが最近だからだな。
「確かにフタさん可愛い可愛い言うよね……俺可愛くはないと思うんだよ、カッコイイけどさ」
「……ゾッとするほどの美しさ、とはよく聞く表現だが、それが誇張でないのはミツキくらいだ」
「ふふ、ありがと」
知らないうちに形州は帰ったようだ。俺はサキヒコと共にアキの部屋に戻り、スマホを持った。
「ミツキ、学校は……」
「もちろん行くよ」
通知が一件ある。カサネからの欠席報告だ。昨日ミフユに叱られたのが効いたのかな。
「制服でウロついてると目立つよね? 私服で行って、学校で着替え……あれ、どうやって入れ替わればいいのこれ」
「……? こっそり侵入すればいいだけの話だろう。塀くらいよじ登ればいい」
そんなことをすれば警報が鳴る。十二薔薇高校のセキュリティは都内トップレベル、侵入方法なんてない。
「…………」
俺でも起こることならフタには毎度起きているのでは、と俺はフタの動きを見守ることにした。
「ふー……次どれ~?」
シャンプーを使って頭を洗うとフタはそう言った。俺と一緒に入っていると俺に頼ってしまうのか、普段の様子を見てみたかったのだが……と思いつつリンスに手を伸ばそうとしたその時、フタはリンスに手を伸ばした。
「ありがと~」
俺はまだ何も……と不思議に思いつつ、俺も泡を洗い流しリンスに移る。しばらくしてリンスを流したフタはまた「次どれ?」と言い、ボディソープを取った。
「フタさんっ、先にトリートメントしません?」
「何それ……」
「髪がとぅるんっとぅるんになるヤツです。ほら手ぇ出して」
ボディソープを置いたフタの手のひらにトリートメントを絞った。そして、フタが誰に聞いていたのかもわかった。今俺はボディソープに手を伸ばしていなかった、トリートメントを取ろうとしていた。だから、俺の手の動きで次を察した訳じゃない。となればフタは誰に聞いたのか? フタの傍に常に居るモノだ。
(猫ちゃん達の誰かですな)
フタに憑いた三匹の猫の幽霊達は、フタの生活を手助けしている。フタが自立出来ているのは猫のおかげだろう。リンスボトルだとかに前足をてしっと置いたりしていたのかな? 見たかったな。
シャワーを終え、フタに俺の服を貸した。
「ちっちゃい……」
微妙な寸足らずが何だか悔しい。
「着心地どうです? オーバーサイズのだから、キツくはないと思うんですけど」
「キツくはないけど~……長さ足りない」
長袖のはずなのに七分丈。くるぶしまであるはずのズボンなのに足首丸出し。
「……そっ、そういう服なんです!」
「そうなんだ~。オシャレは奥深いね~」
「フタさんいつもタンクトップですけど、何かこだわりあるんですか?」
「たんくとっぷ……?」
「フタさんがいつも着てる袖なしのヤツですよ」
歌見もタンクトップが多いな。彼は筋肉が袖の邪魔になるのかな? 羽織っている上着も大きめだし。
「あー……袖、嫌い」
「そうなんですね。すいません、俺が持ってる袖なしピチッとしたのばっかりで、お臍出ちゃうので……」
「…………ミツキ、話している場合ではないのではないか?」
背後からサキヒコが現れた。責めるような口調ではなく、心配しているような声色と表情だ。
「ですね。フタさん、そろそろ行かないと」
「……どこに? ぁ、デート? デートする?」
「フタさんお仕事でしょう? ヒトさんが呼んでましたよ」
「えー……デートは?」
「デートはまた今度ですね。ふふ……そんなに俺とデートしたいんですか? 嬉しい」
「どしたのみつき、機嫌いいねぇ。可愛い可愛い」
乾かしたばかりの髪を掻き混ぜるように頭を撫で回される。愛おしげに細められた視線が嬉しい。
「フタさん、お仕事行かないと」
「あーそうなの? 行ってらっしゃい」
「俺は学校です。お仕事行くのはフタさん。車停めてましたよね?」
「俺今日仕事かぁ、みつきと一緒に居るから休みだと思ってた~」
「すいません、引き止めちゃって……」
フタはぽてぽてと玄関へ向かう。見送りのために着いて行く途中でフタの短刀を取り上げたままだったことを思い出し、取りに行った。
「フタさん待って!」
迷惑な位置に停められている厳つい車の前に居るフタを呼び止め、しっかりと鞘に納めた短刀を手渡す。
「忘れ物です!」
「……なんでこれ、みつきが持ってんの」
声色が一段下がる。普段温和なフタの冷たい表情に身体が固まり、話そうとしたことが喉の手前でつっかえる。
「え、いや……忘れ物です。フタさんが持ってきて、置いてたヤツ……」
「俺が持ってきた? えぇ、マジぃ? 危ないな~……みつき、コレ見たこと忘れてね?」
「は、はい……頑張ります」
走り去っていく乱雑な運転の車を見送り、あの刀は本来俺に知られたくないものだったのか……とフタの思いについて考えた。
「…………愛されてるよね、俺」
家に入り、呟く。隣に立つサキヒコが不思議そうな顔で俺を見上げる。
「危ない物近付けたくないってことだろ? 忘れてってことは、知らせたくもなかったってことでさ」
「あのような物を持っていると知られたくなかった、というふうに感じた」
「それも俺にいいように思ってて欲しいってことでさ、俺のこと好きな訳で……フタさんって本当可愛いよね~! 俺のこと大好きでさぁ、ふふふ……特にエピソードないのに」
あれほど深く激しく俺を愛してくれているのなら、付き合うまでに何かしらエピソードがあるのが自然だと思う。だが、特にないのだ。
「……フタさんなんで俺のこと好きなの?」
「何故その顔でそんなにも自信がないのか理解に苦しむ」
この顔になったのが最近だからだな。
「確かにフタさん可愛い可愛い言うよね……俺可愛くはないと思うんだよ、カッコイイけどさ」
「……ゾッとするほどの美しさ、とはよく聞く表現だが、それが誇張でないのはミツキくらいだ」
「ふふ、ありがと」
知らないうちに形州は帰ったようだ。俺はサキヒコと共にアキの部屋に戻り、スマホを持った。
「ミツキ、学校は……」
「もちろん行くよ」
通知が一件ある。カサネからの欠席報告だ。昨日ミフユに叱られたのが効いたのかな。
「制服でウロついてると目立つよね? 私服で行って、学校で着替え……あれ、どうやって入れ替わればいいのこれ」
「……? こっそり侵入すればいいだけの話だろう。塀くらいよじ登ればいい」
そんなことをすれば警報が鳴る。十二薔薇高校のセキュリティは都内トップレベル、侵入方法なんてない。
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