1,422 / 2,057
かわりばんこヘアケア (〃)
しおりを挟む
泡の滑りを利用した手コキには俺もヒトも弱かったようであっという間に射精してしまった。ヒトはもうほとんど精液が出ていなかった。
「はぁ……疲れました。私、来年三十なんですよ。若いあなたとはやっぱり装填数が違いますね」
「お詫びに髪も俺が洗いますよ」
穂張三兄弟は全員母親が違うくせに似ている部分が多い、その最たる部分は髪だ。みんな髪質が一緒。太くて固くて強情な外ハネの癖毛、毛量の多さもよく似ている。
「ワックス落ちると……なんか、跳ね返りが」
シャンプーを流すと濡れた黒髪の毛先が僅かにハネているのが分かった。
「リンスは……これですね」
ヒトの髪を洗い終えたらもう浴室に用はない。脱衣所に出てホテル備え付けのバスローブを羽織り、髪を乾かす。
「ヒトさん、座ってください」
「え?」
「髪乾かすので。あ、ヘアオイル持ってますか? 乾かす前……タオルでちょっと水気取った後に塗るのがいいらしいんです。今持ってらっしゃらなかったら俺の使いますけど、合うかなぁ……」
「……髪、乾かしてくれるんですか? あなたが? 私の?」
ヒトは指を差して確認する。俺は何故ヒトがそんなに念入りに確認するのか分からなくて、困惑しながら頷いた。
「あなた自身の髪を乾かすのは後回しにして、私の髪を先に?」
「は、はい……そんなに不思議ですか?」
「…………はい」
「そ、そうですか。俺、好きな人のお世話したいタイプなので。やらせてくれると嬉しいなぁ……と、思ったり」
「……分かりました。どうぞ」
ヒトは俺に背を向け、僅かに俯いた。俺はそんな彼の髪を丁寧に拭い、ヘアオイルを塗り、ドライヤーを当てた。先程サンにしたのとだいたい同じだ、労力と時間は段違いだが。
「よし……乾きましたよ、ヒトさん」
完全に乾いたヒトの髪は酷い外ハネで、オールバックだった数十分前までのキッチリとした印象は失われていた。
「…………ありがとうございます」
フタに似ている。でもそんなこと口に出したりしない。
「ぴょんぴょんつんつんなヘアスタイルも似合いますね。オールバックのヒトさんを知ってると、何だか隙が生まれたというか……プライベートな一面も俺は見られるんだぞって優越感、すごいです」
「……抱いたくせに、髪型一つで優越感があるんですか?」
「確かにセックスした仲って方が大きいですけど、油断した姿を見る悦びは何度味わっても足りません」
「…………そうですか。では、鳴雷さん、次はあなたの番ですよ」
「あ、はい。すぐ乾かしますから向こうででもゆっくりくつろいでてください」
そう言って俺はドライヤーのスイッチに指をかけ、ドライヤーを頭の横に持ち上げたが、ヒトにドライヤーを奪われた。
「座ってください」
「……? えっと……ドライヤー、返してください。今から俺が使うので……あっ、乾かし足りないとこありました? すいません」
「鈍い人ですね。お返しに私が手入れをしてあげるんですよ。サンにやらされて十余年……私のヘアケア技術を見せてあげます」
タオルを被せておいたのでもう水気は随分取れている。タオルで拭われる時間は短く、ヒトはすぐにヘアオイルを塗り始めた。やがて轟音と共に温風が髪にかかる、熱くはない、遠くから当ててくれている。
「……気持ちいい」
左手で髪を梳かれながら、右手に握られたドライヤーに水分を飛ばされていく。俺もサンとヒトにそうしてやっていたのだが、される側に回るとここまで気持ちがいいものとは……髪を梳かれるのも、頭皮を撫でられるのもたまらない。心地いい。
「ふあ……」
ボーッとして情けない声が漏れた。慌てて口を噤み、愛撫を受ける。また頭がぼんやりしてきた。
「……鳴雷さんの髪は細くて柔らかいですね。ちょっと濡らしてドライヤーを当てるだけで簡単に髪型が変えられそうな素直な髪です。見る度に違う髪型になっているのはこういうことだったんですね」
「えへへ……まぁ、ワックス使うことのが多いんですけどね」
「羨ましいです。私の髪はしっかり固めても夕方頃には浮いてきてしまって」
「大変そうですねぇ。見てる分にはくせっ毛可愛いんですけどね」
「……あなたがそう言ってくれるなら、髪質のコンプレックスなんてなくなってしまいます」
そうやって髪の話をして過ごした。すっかり乾いた髪は何だか普段よりもサラサラしているように感じた。気のせいだろうか、いや、ドライヤーを当てる距離や梳く丁寧さが違ったのだ、多少の変化は当然だろう。
「ふふ、サラサラ。ありがとうございますヒトさん」
「……髪を下ろした鳴雷さんは何だか色っぽく見えますね」
「そうですか? 下ろしたってほど変わってないと思いますけど」
「いえ……変わりましたよ。私の上で腰を振って雄の顔をしていた時とはやっぱり違います。今は何だか、穏やかに見えます」
「そうなんですかねぇ」
「……この後、どうします? すぐに帰るのは……嫌です。もう少しだけ二人で……いいですか?」
「はい、もちろん」
この部屋は眺めがいい。そんな部屋をヒトが選んでくれたんだ。俺達は窓から街が一望出来る位置に置かれた椅子に腰掛け、景色や互いの顔を楽しみながら穏やかな時間を過ごした。
「はぁ……疲れました。私、来年三十なんですよ。若いあなたとはやっぱり装填数が違いますね」
「お詫びに髪も俺が洗いますよ」
穂張三兄弟は全員母親が違うくせに似ている部分が多い、その最たる部分は髪だ。みんな髪質が一緒。太くて固くて強情な外ハネの癖毛、毛量の多さもよく似ている。
「ワックス落ちると……なんか、跳ね返りが」
シャンプーを流すと濡れた黒髪の毛先が僅かにハネているのが分かった。
「リンスは……これですね」
ヒトの髪を洗い終えたらもう浴室に用はない。脱衣所に出てホテル備え付けのバスローブを羽織り、髪を乾かす。
「ヒトさん、座ってください」
「え?」
「髪乾かすので。あ、ヘアオイル持ってますか? 乾かす前……タオルでちょっと水気取った後に塗るのがいいらしいんです。今持ってらっしゃらなかったら俺の使いますけど、合うかなぁ……」
「……髪、乾かしてくれるんですか? あなたが? 私の?」
ヒトは指を差して確認する。俺は何故ヒトがそんなに念入りに確認するのか分からなくて、困惑しながら頷いた。
「あなた自身の髪を乾かすのは後回しにして、私の髪を先に?」
「は、はい……そんなに不思議ですか?」
「…………はい」
「そ、そうですか。俺、好きな人のお世話したいタイプなので。やらせてくれると嬉しいなぁ……と、思ったり」
「……分かりました。どうぞ」
ヒトは俺に背を向け、僅かに俯いた。俺はそんな彼の髪を丁寧に拭い、ヘアオイルを塗り、ドライヤーを当てた。先程サンにしたのとだいたい同じだ、労力と時間は段違いだが。
「よし……乾きましたよ、ヒトさん」
完全に乾いたヒトの髪は酷い外ハネで、オールバックだった数十分前までのキッチリとした印象は失われていた。
「…………ありがとうございます」
フタに似ている。でもそんなこと口に出したりしない。
「ぴょんぴょんつんつんなヘアスタイルも似合いますね。オールバックのヒトさんを知ってると、何だか隙が生まれたというか……プライベートな一面も俺は見られるんだぞって優越感、すごいです」
「……抱いたくせに、髪型一つで優越感があるんですか?」
「確かにセックスした仲って方が大きいですけど、油断した姿を見る悦びは何度味わっても足りません」
「…………そうですか。では、鳴雷さん、次はあなたの番ですよ」
「あ、はい。すぐ乾かしますから向こうででもゆっくりくつろいでてください」
そう言って俺はドライヤーのスイッチに指をかけ、ドライヤーを頭の横に持ち上げたが、ヒトにドライヤーを奪われた。
「座ってください」
「……? えっと……ドライヤー、返してください。今から俺が使うので……あっ、乾かし足りないとこありました? すいません」
「鈍い人ですね。お返しに私が手入れをしてあげるんですよ。サンにやらされて十余年……私のヘアケア技術を見せてあげます」
タオルを被せておいたのでもう水気は随分取れている。タオルで拭われる時間は短く、ヒトはすぐにヘアオイルを塗り始めた。やがて轟音と共に温風が髪にかかる、熱くはない、遠くから当ててくれている。
「……気持ちいい」
左手で髪を梳かれながら、右手に握られたドライヤーに水分を飛ばされていく。俺もサンとヒトにそうしてやっていたのだが、される側に回るとここまで気持ちがいいものとは……髪を梳かれるのも、頭皮を撫でられるのもたまらない。心地いい。
「ふあ……」
ボーッとして情けない声が漏れた。慌てて口を噤み、愛撫を受ける。また頭がぼんやりしてきた。
「……鳴雷さんの髪は細くて柔らかいですね。ちょっと濡らしてドライヤーを当てるだけで簡単に髪型が変えられそうな素直な髪です。見る度に違う髪型になっているのはこういうことだったんですね」
「えへへ……まぁ、ワックス使うことのが多いんですけどね」
「羨ましいです。私の髪はしっかり固めても夕方頃には浮いてきてしまって」
「大変そうですねぇ。見てる分にはくせっ毛可愛いんですけどね」
「……あなたがそう言ってくれるなら、髪質のコンプレックスなんてなくなってしまいます」
そうやって髪の話をして過ごした。すっかり乾いた髪は何だか普段よりもサラサラしているように感じた。気のせいだろうか、いや、ドライヤーを当てる距離や梳く丁寧さが違ったのだ、多少の変化は当然だろう。
「ふふ、サラサラ。ありがとうございますヒトさん」
「……髪を下ろした鳴雷さんは何だか色っぽく見えますね」
「そうですか? 下ろしたってほど変わってないと思いますけど」
「いえ……変わりましたよ。私の上で腰を振って雄の顔をしていた時とはやっぱり違います。今は何だか、穏やかに見えます」
「そうなんですかねぇ」
「……この後、どうします? すぐに帰るのは……嫌です。もう少しだけ二人で……いいですか?」
「はい、もちろん」
この部屋は眺めがいい。そんな部屋をヒトが選んでくれたんだ。俺達は窓から街が一望出来る位置に置かれた椅子に腰掛け、景色や互いの顔を楽しみながら穏やかな時間を過ごした。
11
お気に入りに追加
1,246
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる