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祠を考える間

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ヒトはフタに霊感があると知って酷くショックを受けたようだった。これまで意味のない奇行だと思い込み蔑んできたものが、自分に才がないために理解出来なかっただけだと分かったのだ、プライドの高いヒトには相当な衝撃だろう。

「………………今日は、フタの話をしに来た訳じゃないでしょう」

「うむ、そうじゃな。ワシの祠を建ててくれはるそうで……ありがたいのぅ、どんなの建ててくれるんじゃ?」

「何パターンか用意しました。我が社の制作ではありませんが、実際の祠の写真と……デッサン、イラスト、設計図等……」

「おぉ……ワシの理想の祠を注文していいんじゃな? ふむふむ」

俺はミタマと共にヒトの向かいに座っていたが、ミタマが設計図等に集中し始めたので俺はヒトの隣に移った。

「……鳴雷さん?」

太腿が触れ合う近さに腰を下ろし、膝の上に置かれたヒトの手に手を重ねる。

「約束をしてからずっと、ヒトさんに会える日を心待ちにしていました。眠れないくらいに……」

「…………フタに会えたことの方が嬉しいんじゃないですか?」

「どうしてそんなふうに言うんです、俺はヒトさんに会いにここに来たんですよ?」

「ワシの祠のためじゃなかったのか」

「それは割と建前感があって……祠の詳細決めるのコンちゃんとヒトさんだし、俺は見積り以外は聞かなくてもいいし……ヒトさんとイチャつくことしか正直考えてなかった」

ミタマは見せつけるように呆れのため息をついた。

「はぁ……しようのないヤツじゃ、いつもいつも男のことしか考えておらん。分かった分かった、ワシはもうしばらく資料とにらめっこしておるから、好きなだけ乳繰り合うがよい」

「ち、乳繰り合う…………まぁ、じゃあ、お言葉に甘えて。ヒトさん、ヒトさんは俺に会いたいって思ってくれてましたか? 会う約束をした時は、そんな雰囲気でしたけど……気分が変わっていないといいのですが」

「…………変わっていませんよ」

ミタマの存在が気になるようだ。ヒトはやはり二人きりの方がいい顔を見せてくれるのだろう。

「ねぇヒトさん、二人きりになれませんか?」

「一応仕事中ですので……」

「商談相手のお願いですよ、ダメですか?」

「枕仕事はお断りします」

そうは言っているがヒトは自身の手の甲を撫でる俺の手を振り払いはしないし、それどころか指先をきゅっと指の間に挟んだ。

「今日の服装はまさか……私を意識したものですか?」

「分かります?」

「ええ、もちろん……普段のあなたのように髪に跳ねなどを作らず、いつも隠している額を出して……服も、ふふ、まるで正装です」

「ヒトさんの好み、まだよく分からないので……とりあえず真面目な感じに仕上げてみたんです。どう……ですか?」

「賢そうで大変好感が持てますね」

やっぱり賢い人がタイプなんだな、その情報だけで勉強にやる気が出せそうだ。

「よかったぁ……ヒトさんも今日はなんか、いつも以上にカッチリしてると言うか……髪がまとまっているような。ワックス増やしてみたとかですか? お、俺に会うからオシャレしたってことですかね……」

「あぁ、これは……私の髪はクセが強いので、固めてから時間が経つとぴょこぴょこ跳ねてくるんですよ。前髪が一、二本垂れたり……後ろ髪がふわっとしてしまっているのは、固めてからしばらく経った私ですね」

「あ……そうなんですか。はは……自惚れちゃったかな」

「……いえ、あなたに会うと分かっていたから、朝食の後ゆっくりとシャワーを浴びて……それで、髪を固めたばかりなんです。こういうオシャレのつもりはなかったんですが、あなたに会うからこの髪になったというのは正解ですよ」

シャワーというたった一つの単語で俺の脳は無限の妄想の世界へと旅立つ。何故俺に会うからとシャワーを浴びたのか、石鹸の匂いを漂わせるため? 単に清潔にしておきたかっただけ? それとも、俺とのセックスを想定して? だとしたらシャワー中にヒトは後孔を念入りに洗ったりしたのだろうか、どんなふうに?

「……鳴雷さん?」

「あっ、すっ、すいません! ヒトさんがシャワー浴びてるとこつい想像しちゃって……きっとすごく、俺には刺激的な光景なんだろうなって……」

「想像なんてしなくたって、直接目にする機会なんてすぐにやってきますよ」

それはセックス後のシャワーだとかを指していると判断してよろしいか!? あぁ、顔が熱い、股間が痛い、鼻血が出そうだ。

「待ち遠しい……!」

「……そんなに私が好きですか? あなたと話していると救われます」

「屋根は黒かのぅ……思い切って赤もええのぅ……柱は……うーむ」

ミタマはまだ悩んでいる。人間の感覚で言えば家選びに近いのだろう、今日一日で決めろというのが無理な話だったかな。

「コンちゃん、決められそうになかったら」

「決めたのじゃ! ん……? なんじゃ、みっちゃん」

「な、なんでもない……決まったんだね」

「お聞きします」

ヒトがポールペンを持ってミタマを見つめる。ミタマは写真や設計図を指しながら、理想の祠を丁寧に説明していった。

(マイホーム選びみたいなもんなんだろうと納得したつもりでいましたが、やっぱりよく分かりませんな。中の御神体的な何かが雨風に晒されない以外の機能はないのに、何をそんなにこだわるところが……)

祠を建ててもらえるような神霊でなければ、祠を管理したり参ったりするような信者でもないため、ミタマの可愛らしい夢中さの根源を理解することは出来なかった。
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