冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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誰が仕掛けた盗聴器

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盗聴器。その言葉が持つ重みを理解していたのはこの場で俺とヒトだけだった。従業員達はそれが俺のポケットから見つかったことを知らず、フタは──

「と、ちょー……き?」

──盗聴器自体を知らなかったからだ。緊迫感を持っているのは俺達だけだ。

「盗聴器……? 本当ですか?」

「あ、ヒトさん。はい、盗聴器っすよコレ。小さくて薄いから便利でぇ、ほら……鞄とかにコソッと入れたらまぁ気付かないんす」

鞄をひっくり返して中身を改めることなんてまずないし、こんな小さくて薄くて黒い物が鞄の底に落ちていたって絶対見つけられない。

「よく見つけましたね、フタ」

「なんかイチニィミィがうるさくてさ~」

「……はぁ? 相変わらずたまに何言ってるか分かりませんねあなたは……まぁ、お手柄です」

ミタマを通して超常的な存在を知った今のヒトなら、フタの霊感について話しても、彼に憑いている三匹の猫について話しても、受け入れてくれるんじゃないだろうか。まぁ、今は盗聴器事件の解決が先だが。

「問題は盗聴器が何故鳴雷さんのポケットに仕込まれていたか、です。心当たりはありませんか?」

「えっ、と……」

「……なさそうですね。その顔ならストーカーが生まれることも人並み以上にありそうですが」

「…………ちょっと、失礼します」

盗聴器と言えば、レイが俺の家に置いているテディベアにカメラと一緒に仕掛けられている。まさか二個目だろうかとスマホを持ち、レイにメッセージで聞いてみた。

『俺知らないっすよ!』
『他の子じゃないすかね』
『それかシンプル犯罪者』

返信はとても早かった。助かる。レイでないとすれば、誰だ? いつ入れられた?

「一体いつから……この大きさならポケットに入ったまま洗濯などをしても分かりませんよね」

「水没したら壊れるんじゃないですか?」

「壊れていないとしたら、盗聴器を見つけたことも聞かれている……鳴雷さん、以前このズボンを履いたのはいつですか?」

「え? えっと……別荘旅行のために買って、持ってって……それからは履いてないです」

「……怪しいのは買った店の店員、その別荘旅行とやらに居た者達、後は…………毎員電車には乗りましたか?」

「いえ……今日は空いてましたし、別荘は車移動だったので」

「すれ違いざまに平たいポケットに入れるのは難しそうですね。毎員電車なら可能かもしれませんが、すれ違いざまなどは難しいように思えます。やはり店員か旅行メンバーでしょう」

一応グループチャットで俺に盗聴器を仕掛けたかどうか聞いておくか。彼氏達ならいいのだが。

「……なんかシリアスっすね。犯人探しするんだったら、盗聴範囲そんな広くないんで頑張りゃ見つかると思いますけど」

「先に言いなさい! 聞いていたらこちらが見つけた時点で逃げていますよ。買った人間を調べることは出来ませんか?」

「ネットで買えるんでキツいっすね~」

「…………とりあえず、破壊しておきますか?」

「えっ結構高いんすよこれ。要らないんだったらください」

「ダメに決まってるでしょう! 本来の持ち主にウチの話が聞かれたり、ウチが盗聴しようとしている情報を盗まれたりしたらどうするんです」

建築業って盗聴の必要あるのかな……ヤクザの方かな……怖いな。

「あの、一旦壊すのは待ってもらっていいですか? 少しだけでいいので……それより、早く話しましょう。ヒトさん」

「……分かりました。部屋、行きましょうか」

盗聴器はヒトが持ったまま、今度こそ二人でエレベーターに乗る。

「…………何故、破壊を保留に?」

「今彼氏達にチャットで聞いてて……返事が出揃うまでは壊すのはなぁって。高いなら尚更」

「恋人になら盗聴をされていてもいいんですか?」

「カメラとマイク仕込んだぬいぐるみ一つ部屋にあって……他の彼氏連れ込む時なんかは部屋から出したりしてます。だから、場所が分かってて動かしてもいいのなら……してもいいよ、って感じですかね」

「……それ盗聴の意味あります? 隠していることをこっそり聞くために仕掛ける物では?」

「そういう理由で仕掛ける子はハーレムの時点で俺フると思いますよ。レイは会えない間もちょくちょく俺を見たいだけみたいなんで」

「…………なるほど」

エレベーターの扉が開く。ヒトに続いて降り、彼の部屋へ。

「コンちゃん、そろそろ出といて」

虚空に呼びかけると鈴の美しい音と共にミタマが現れる。金髪を掻き分けて生えた狐の耳をピクピクと震わせ、三本の尾を揺らし──

「コンちゃんっ、ヒトさんアレルギーだから狐引っ込めて引っ込めて人になって」

「こんっ……!? こ、こうかの?」

──ていたので慌てて耳と尾を消させた。まぁ、猫アレルギーが狐の毛にまで反応するとは思えないが……そもそも毛を散らされること自体嫌いそうだから、いい行動だったと思う。

「…………いつ見ても、自分の目を疑いますね……あなたは」

「神霊を信じとらんかったクチかの?」

「大半の人間はそうだと思いますよ」

「弟はよぅ見えとるのにのぅ」

俺が話そうと思っていたが、ミタマが話してくれるのならその方が説得力があるだろう。このまま任せていようかな。

「…………は? 弟? サン……ですか? 光を失った代わりにそういうものが見える……とか?」

「サン……誰じゃ? ワシゃ知らんのぅ、その子」

そういえばミタマはまだサンに会ったことがなかったな。レイと同じく資料として喜ぶだろうか。

「まさか、フタですか……?」

「うむ、あの子はよう見えとる。兄が知らんとなると修行はしとらんのか……何かを犠牲にして得た力か?」

「……制約と誓約的な?」

「昔から、一人で話していたり……人数が正しく数えられなかったり、変な子だとは思っていましたが……まさかアレは頭が弱いからじゃなかったんですか?」

「ほぅ? 生まれつきじゃったのか」

「……天与呪縛的な?」

「みっちゃん、やかましい」

怒られた。でも、ヒトからのフタへの誤解が少し解けたように思える。仲良しに……なんて高望みかもしれないから、怒鳴ったり殴ったりはしない仲になれたらいいな。
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