冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

過保護？ 適正？

それぞれ弁当を持って、けれど俺だけは手ぶらで、生徒会室へ。ミフユの愛妻弁当、おっと、まだ妻ではなかったな。愛妻（予定）弁当とでも言っておくか、ミフユから愛妻（予定）弁当を受け取った。

「ありがとうございます！　あぁ……弁当の底から伝わる確かな重さ……たまらない」

弁当とは開ける前から楽しめるものなのだ。

「……この重さ全て、ミフユさんが触れた食材の重さなんですね。ミフユさんが触れた物を腹に納めてやがて栄養として吸収するなんてそんなんもうセックスじゃん」

「米とか直接触ってはないんじゃない？」

「米とぎの際でよければ触れているぞ。おにぎりにしてはいないから、温めた後だけで数えるなら触ってはいないが」

「あっ……あはは、俺パックご飯で考えてました～。フユさんがんなもん使う訳ないよね～……」

……今の発言に特にツッコミがなくなるほど、俺は気持ち悪い言動をしてきたのだろうか。ちょっと気を付けようかな。

「あなた今日もおかずの味付けソースなんですね」

「ええやろがいソース」

「いいですけど……毎日はちょっと」

「俺今日はサラダとサラダチキ～ン！　菓子パン一個、散々文句言われたからね～」

「米かパンも食えよ」

「やだ、炭水化物は太るもん。手軽にちょっとお腹膨らむ菓子パン惣菜パン以外では～、そういうのはお腹に入れないの～」

カンナもシュカも米を食べているけれど太っていないぞ、とは言えない。太りやすさは人によって違うのだ、俺はそれが身に染みて分かっている。

「体育祭、一年生は確か創作ダンスだったよね。もう振り付けとかは考えてあるのかい？」

「はい、カンナが全部考えてくれました。ちょっと難し過ぎるところもあったので、情けない話かなり簡単にしてもらったんですけど……」

「そうかい、楽しみにしているよ」

「一年生はって……二年はダンスじゃないんですか？」

「二年生は民族舞踊だよ。本番では法被を着て裸足で踊るんだ」

「ネザメ様には肌と同じ色の靴下か、透明の靴下を用意する予定だ」

レギンスでいいんじゃないかな。いや、ミフユの過保護っぷりならレギンス程度では薄くてダメだとか言いそうだな。

（こういう場合、アニメや漫画だと嫌味キャラではない御曹司キャラは「特別扱いはやめて」「みんなと同じように裸足でやるよ」とか言いがちなんですが、ネザメちゃまはニコニコしているだけなんですよな）

庶民扱いを好む御曹司など、庶民が産んだ幻想にしか過ぎないのだろうか。

「ミフユ」

おっ？　ミフユの過保護に物申すか？

「法被に合わせて足袋だとかを履くのではダメなのかな。それなら裏や中に布を増やせばいいだけだから、血色の差で不自然に見えそうな肌色の靴下や、存在したとしても薄っぺらで役に立たなさそうな透明の靴下なんかより、よっぽどいいと思うのだけれど」

温室を鳥籠と思っていないタイプの御曹司だ。これが本物……

「はっ！　学年主任等に提案してみます」

「よろしく頼むよ」

「……裸足でやればいいじゃないですか。ちょっと甘やかし過ぎなんじゃないですか、年積さん」

「無礼を申すな鳥待一年生！　ネザメ様に裸足で土を踏ませるような不衛生で危険な行為、させられる訳がないだろう！」

「体育祭前は運動部が普段以上に掃除頑張って小石とか片付けるそうじゃないですか」

「……鳥待くん」

「はい？」

「僕、痛いのも汚れるのも、嫌だな」

「当然ですネザメ様！　ミフユがそのような行為をする機会全てを排除致しますのでご安心ください！」

「頼れるねぇ」

「……！　はい！」

ダメだコイツら、とでも言いたげな目をシュカがしている。過酷な環境で育ってきたシュカにとって、ぬっくぬくの温室育ちのネザメには物申したいところがあったのだろうか。

「そうだ……狭雲一年生」

「……っ！　は、はい……なに、ですか」

セイカが敬語下手なの、意外で可愛いよね。尊敬語と謙譲語の使い分け完璧っぽいのに、丁寧語すらままならないとか。

「貴様、授業中にミフユにメッセージを送ってきただろう。休み時間ならいいと言う訳でもないが……授業中など言語道断だ！」

「ご、ごめんなさい……」

俺が頼んだ撮影やＣＤプレイヤーの操作の合間にメッセージを送っていたのか。

「すいませんミフユさん、体育祭の練習中はセイカ暇で……」

「む……そうか。まぁ、授業を聞かずスマホにうつつを抜かしていた訳ではないのなら、まだマシだ。しかし褒められた行為ではないのは事実だからな」

「ごめんなさい……」

「……セイカ、なんて送ったんです？」

話が説教と謝罪だけで終わってしまいそうだったので、思い切って聞いてみた。まぁ、後から監視アプリで見られるんだけどさ。

「あぁ、繰言二年生の所在を問うものだった」

「………………へー」

「この場で返事をしておこう、狭雲一年生。今日ヤツは休みだ。そもそも繰言二年生は二学期が始まったばかりの今既に進級が危ぶまれているような者、昼休みの後も学校に居た昨日が珍しかったのだ」

「そうなんですか……またなって言ったんだけどな。なぁ、鳴雷……ゲーム」

「シーッ！」

「えっ？　えっ……？　何？」

「……何、ゲーム？　まさか狭雲一年生、鳴雷一年生……貴様ら繰言二年生に毒されてゲーム機を学校に持ち込んだりしているのではあるまいな」

「まさか！　ゲームの話、続きしようねって約束したのにねって話です！」

「…………そうか。話だけで留めるんだぞ、持ち込みは禁止だからな」

セーフ、だな。何故黙らされたのかセイカも今の会話で察したのか口を噤んでいるし、俺の鞄にゲーム機が入っているのはバレていなさそうだ。

（あの無免許天才外科医ヘア野郎～！　セイカ様が言うから嫌々ゲーム機持ってきてやったのに！　交換用のモンスターも昨日捕まえておいたのに！　学校来てないとかふざけんなでそ！）

たとえセイカに頭を下げられたって、もう二度と大切なゲーム機を学校に持ち込んだりしないぞと俺は密かに意志を固めた。