1,382 / 1,941
染み付いた締め技
しおりを挟む
セイカの幻肢痛への現状唯一の対抗手段、アキに絞め落としてもらうこと。それはアキに化けたミタマにも行えた。
「……せーか? おねむ……? すっ…………ごぉ~い! ヤバいコンちゃんマジヤバい! 化けるってアレなんだ、技術までコピーなんだ!」
「記憶の完全こぴぃなどは出来んが……口調や仕草、表面の性格、身に染み付いた技術などなら再現出来るようじゃの」
「出来るようじゃの、って……」
「ワシ自由行動始めて数週間じゃし、ワシがどこまで出来るかワシも知らんよ」
「水月がバケモンまで誑かすバケモンでよかったです。しかし意識を失うとはあまりいい状況ではありませんし……どちらにせよ保健室には連れて行くべきでは?」
最近は幻肢痛に悶えるセイカを見なくなったと思っていたが、彼とアキの二人が俺と一緒に居ない時間も長い、単に俺の目の前で発症していなかっただけなのだろう。昔見た記憶を参考にしていいのなら、アキはセイカを寝かしていただけだったと思う。特にどこかを冷やしたり、検温をしたりなんてことはなかった。
「アキはそのままほっといてたし、いいんじゃないか? 説明難しいし……」
「せやな、急に意識失ったんです言うたら病院送り精密検査コース。絞め落としました言うたらド説教コースや」
「狭雲さんの体調よりも保身ですか」
「なんでそうバチるのしゅ~、アキくんがほっといたんだったらほっといていいんじゃないの? そういう締め方なんだよきっと」
「……そうですかね」
シュカはジロっと睨むようにミタマを見る。彼がセイカの体調をここまで気遣ってくれるなんて意外だ。
「ワシゃ知らんよ、身体に染み付いとった通りに動いただけじゃし」
「おかげで助かったとはいえ、人間の意識の失わせ方が染み付いている秋風さん……ちょっと、どうかと思いますね」
分かる。でも、原因を目の当たりにしたから頷けない。
「起きるまでどれくらいかかるかな~」
「幸い、車椅子は下駄箱前に置いていますから、運搬に苦労はしなさそうですね」
「先公になんぞ聞かれたらやることのぉて暇やから寝てしもたとか言うとこか」
「その頭の回転助かるよ、リュウ。とりあえず枕に俺の体操服使っててもらうか……」
ダンスルームの使用時間が終わるまでの間だけでも、硬い床に寝かせておきたくはなかったので頭だけでも保護しようと体操服を脱いだ。
「きゃ……! って肌着着てるんだ……つまんないの」
「雄っぱい系やメス系じゃないイケメンは乳首浮かせちゃダメなんだよ」
「メス系って……霞染さんとかですか?」
「ハルの乳首が浮くのはハルが海パン一丁で歩いてるの見た時くらいの見てはいけないものを見てしまった感を与えるからよくないと思う。ハルはメス系じゃなくて美少女系だし……メス系ってのはもっとこう、男に抱かれ慣れて性的に熟した……レイとか、あの辺だよ」
「しっかりした解説キモ~い。しぐしぐぅ、ダンス続きしよっ」
「う、ぅん……」
「……時雨さんはどうなんです?」
「メカクレ気弱系は歳に関係なくショタ感出るからなぁ。んー、メスショタってのもあるし、カンナはケツがイイし俺に対してはメスの顔をするとはいえ……いや……」
「ダンスするよ~!」
パンパンとハルが手を叩き、カンナがCDプレイヤーを操作して音楽を鳴らす。俺達は慌てて鏡の前に並び直し、一通りダンスを踊った。
体操服を着直し、セイカを車椅子に乗せ、靴を履き替える。
「ぐったりしたまま炎天下置いとくのアレだしさ~……日陰に置いといたげよ~?」
「そうだな」
運動場に日陰はない。しかし下駄箱近くに置いて行っては砂埃を被ったり吸ったりしてしまう。妥協点として俺達はセイカを渡り廊下に放置し、体育祭の練習に戻った。
チャイムが鳴り、挨拶を終え、すぐに走った。渡り廊下まで走ると、まだ眠ったままのセイカがポツンと佇んでいた。
「よかった~。見回りのセンセーとかに回収されてないかな~ってちょっと不安だったんだよね~」
「起きてもないみたいだな。このまま連れて行こう」
車椅子を押して更衣室へ。着替えている最中にセイカは目を覚ました。
「おはようございます、気分はどうですか?」
「ここ……あれ? ダンスの練習……えっと、なんか…………秋風? 秋風居なかったか?」
「……あなたは私達がダンスの練習をしている際に寝てしまったんですよ」
「そう……だっけ。そっか、ごめん……」
「…………失神の直前の記憶って失われるんですね」
セイカに視線を合わせるため曲げていた背を伸ばし、シュカが背後で囁く。
「……すごく痛がってたし、覚えてなくてよかったよ」
「…………ですね」
「……シュカは優しいな。セイカのことそんなに心配してくれてるなんてさ」
「……! 違います、優しさとか……そんなんじゃ、ありませんから」
照れたらしいシュカは俺に背を向けて着替え始めた。傷だらけの肉体がよく見える。一つ一つなぞって、舐めて、覚えていきたい。
「なんか、すごく……怖いって言うか、痛いって言うか、嫌な目に遭ってさ、でも……秋風が助けに来てくれた。そんな感じの夢見てた気がする」
「ほーん、アキくんヒーローやなぁ」
「セイカ、俺は俺は?」
「……一緒に嫌な目遭ってたような、俺庇ってたような……オロオロしてたような。よく、覚えてない。ごめん……鳴雷」
苦しむ彼に胸を痛めて声をかけていたのと、せめて少しでも慰めにならないかと抱き締めていたのと、終始オロオロと慌てていたの……を、うっすら覚えていたのかな?
「でも、心配してくれてた気がする……ありがとう」
「……夢の話だろ?」
「うん。でも……鳴雷が普段からそうやって俺に優しいから、そんな夢見たんだ。だから……いつも、ありがとう……かな」
「セイカ……いいんだよそんな、俺が好きでやってることなんだから」
なんてテンプレ台詞で返しながらも俺は仄暗い安堵を覚えていた。そうやって俺に恩義を感じている間は、彼が俺の手元を離れることはないな……と。
「……せーか? おねむ……? すっ…………ごぉ~い! ヤバいコンちゃんマジヤバい! 化けるってアレなんだ、技術までコピーなんだ!」
「記憶の完全こぴぃなどは出来んが……口調や仕草、表面の性格、身に染み付いた技術などなら再現出来るようじゃの」
「出来るようじゃの、って……」
「ワシ自由行動始めて数週間じゃし、ワシがどこまで出来るかワシも知らんよ」
「水月がバケモンまで誑かすバケモンでよかったです。しかし意識を失うとはあまりいい状況ではありませんし……どちらにせよ保健室には連れて行くべきでは?」
最近は幻肢痛に悶えるセイカを見なくなったと思っていたが、彼とアキの二人が俺と一緒に居ない時間も長い、単に俺の目の前で発症していなかっただけなのだろう。昔見た記憶を参考にしていいのなら、アキはセイカを寝かしていただけだったと思う。特にどこかを冷やしたり、検温をしたりなんてことはなかった。
「アキはそのままほっといてたし、いいんじゃないか? 説明難しいし……」
「せやな、急に意識失ったんです言うたら病院送り精密検査コース。絞め落としました言うたらド説教コースや」
「狭雲さんの体調よりも保身ですか」
「なんでそうバチるのしゅ~、アキくんがほっといたんだったらほっといていいんじゃないの? そういう締め方なんだよきっと」
「……そうですかね」
シュカはジロっと睨むようにミタマを見る。彼がセイカの体調をここまで気遣ってくれるなんて意外だ。
「ワシゃ知らんよ、身体に染み付いとった通りに動いただけじゃし」
「おかげで助かったとはいえ、人間の意識の失わせ方が染み付いている秋風さん……ちょっと、どうかと思いますね」
分かる。でも、原因を目の当たりにしたから頷けない。
「起きるまでどれくらいかかるかな~」
「幸い、車椅子は下駄箱前に置いていますから、運搬に苦労はしなさそうですね」
「先公になんぞ聞かれたらやることのぉて暇やから寝てしもたとか言うとこか」
「その頭の回転助かるよ、リュウ。とりあえず枕に俺の体操服使っててもらうか……」
ダンスルームの使用時間が終わるまでの間だけでも、硬い床に寝かせておきたくはなかったので頭だけでも保護しようと体操服を脱いだ。
「きゃ……! って肌着着てるんだ……つまんないの」
「雄っぱい系やメス系じゃないイケメンは乳首浮かせちゃダメなんだよ」
「メス系って……霞染さんとかですか?」
「ハルの乳首が浮くのはハルが海パン一丁で歩いてるの見た時くらいの見てはいけないものを見てしまった感を与えるからよくないと思う。ハルはメス系じゃなくて美少女系だし……メス系ってのはもっとこう、男に抱かれ慣れて性的に熟した……レイとか、あの辺だよ」
「しっかりした解説キモ~い。しぐしぐぅ、ダンス続きしよっ」
「う、ぅん……」
「……時雨さんはどうなんです?」
「メカクレ気弱系は歳に関係なくショタ感出るからなぁ。んー、メスショタってのもあるし、カンナはケツがイイし俺に対してはメスの顔をするとはいえ……いや……」
「ダンスするよ~!」
パンパンとハルが手を叩き、カンナがCDプレイヤーを操作して音楽を鳴らす。俺達は慌てて鏡の前に並び直し、一通りダンスを踊った。
体操服を着直し、セイカを車椅子に乗せ、靴を履き替える。
「ぐったりしたまま炎天下置いとくのアレだしさ~……日陰に置いといたげよ~?」
「そうだな」
運動場に日陰はない。しかし下駄箱近くに置いて行っては砂埃を被ったり吸ったりしてしまう。妥協点として俺達はセイカを渡り廊下に放置し、体育祭の練習に戻った。
チャイムが鳴り、挨拶を終え、すぐに走った。渡り廊下まで走ると、まだ眠ったままのセイカがポツンと佇んでいた。
「よかった~。見回りのセンセーとかに回収されてないかな~ってちょっと不安だったんだよね~」
「起きてもないみたいだな。このまま連れて行こう」
車椅子を押して更衣室へ。着替えている最中にセイカは目を覚ました。
「おはようございます、気分はどうですか?」
「ここ……あれ? ダンスの練習……えっと、なんか…………秋風? 秋風居なかったか?」
「……あなたは私達がダンスの練習をしている際に寝てしまったんですよ」
「そう……だっけ。そっか、ごめん……」
「…………失神の直前の記憶って失われるんですね」
セイカに視線を合わせるため曲げていた背を伸ばし、シュカが背後で囁く。
「……すごく痛がってたし、覚えてなくてよかったよ」
「…………ですね」
「……シュカは優しいな。セイカのことそんなに心配してくれてるなんてさ」
「……! 違います、優しさとか……そんなんじゃ、ありませんから」
照れたらしいシュカは俺に背を向けて着替え始めた。傷だらけの肉体がよく見える。一つ一つなぞって、舐めて、覚えていきたい。
「なんか、すごく……怖いって言うか、痛いって言うか、嫌な目に遭ってさ、でも……秋風が助けに来てくれた。そんな感じの夢見てた気がする」
「ほーん、アキくんヒーローやなぁ」
「セイカ、俺は俺は?」
「……一緒に嫌な目遭ってたような、俺庇ってたような……オロオロしてたような。よく、覚えてない。ごめん……鳴雷」
苦しむ彼に胸を痛めて声をかけていたのと、せめて少しでも慰めにならないかと抱き締めていたのと、終始オロオロと慌てていたの……を、うっすら覚えていたのかな?
「でも、心配してくれてた気がする……ありがとう」
「……夢の話だろ?」
「うん。でも……鳴雷が普段からそうやって俺に優しいから、そんな夢見たんだ。だから……いつも、ありがとう……かな」
「セイカ……いいんだよそんな、俺が好きでやってることなんだから」
なんてテンプレ台詞で返しながらも俺は仄暗い安堵を覚えていた。そうやって俺に恩義を感じている間は、彼が俺の手元を離れることはないな……と。
0
お気に入りに追加
1,208
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
【R18】保健室のケルベロス~Hで淫らなボクのセンセイ 【完結】
瀬能なつ
BL
名門男子校のクールでハンサムな保健医、末廣司には秘密があって……
可愛い男子生徒を罠にかけて保健室のベッドの上でHに乱れさせる、危ないセンセイの物語 (笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる