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染み付いた締め技

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セイカの幻肢痛への現状唯一の対抗手段、アキに絞め落としてもらうこと。それはアキに化けたミタマにも行えた。

「……せーか? おねむ……? すっ…………ごぉ~い! ヤバいコンちゃんマジヤバい! 化けるってアレなんだ、技術までコピーなんだ!」

「記憶の完全こぴぃなどは出来んが……口調や仕草、表面の性格、身に染み付いた技術などなら再現出来るようじゃの」

「出来るようじゃの、って……」

「ワシ自由行動始めて数週間じゃし、ワシがどこまで出来るかワシも知らんよ」

「水月がバケモンまで誑かすバケモンでよかったです。しかし意識を失うとはあまりいい状況ではありませんし……どちらにせよ保健室には連れて行くべきでは?」

最近は幻肢痛に悶えるセイカを見なくなったと思っていたが、彼とアキの二人が俺と一緒に居ない時間も長い、単に俺の目の前で発症していなかっただけなのだろう。昔見た記憶を参考にしていいのなら、アキはセイカを寝かしていただけだったと思う。特にどこかを冷やしたり、検温をしたりなんてことはなかった。

「アキはそのままほっといてたし、いいんじゃないか? 説明難しいし……」

「せやな、急に意識失ったんです言うたら病院送り精密検査コース。絞め落としました言うたらド説教コースや」

「狭雲さんの体調よりも保身ですか」

「なんでそうバチるのしゅ~、アキくんがほっといたんだったらほっといていいんじゃないの? そういう締め方なんだよきっと」

「……そうですかね」

シュカはジロっと睨むようにミタマを見る。彼がセイカの体調をここまで気遣ってくれるなんて意外だ。

「ワシゃ知らんよ、身体に染み付いとった通りに動いただけじゃし」

「おかげで助かったとはいえ、人間の意識の失わせ方が染み付いている秋風さん……ちょっと、どうかと思いますね」

分かる。でも、原因を目の当たりにしたから頷けない。

「起きるまでどれくらいかかるかな~」

「幸い、車椅子は下駄箱前に置いていますから、運搬に苦労はしなさそうですね」

「先公になんぞ聞かれたらやることのぉて暇やから寝てしもたとか言うとこか」

「その頭の回転助かるよ、リュウ。とりあえず枕に俺の体操服使っててもらうか……」

ダンスルームの使用時間が終わるまでの間だけでも、硬い床に寝かせておきたくはなかったので頭だけでも保護しようと体操服を脱いだ。

「きゃ……! って肌着着てるんだ……つまんないの」

「雄っぱい系やメス系じゃないイケメンは乳首浮かせちゃダメなんだよ」

「メス系って……霞染さんとかですか?」

「ハルの乳首が浮くのはハルが海パン一丁で歩いてるの見た時くらいの見てはいけないものを見てしまった感を与えるからよくないと思う。ハルはメス系じゃなくて美少女系だし……メス系ってのはもっとこう、男に抱かれ慣れて性的に熟した……レイとか、あの辺だよ」

「しっかりした解説キモ~い。しぐしぐぅ、ダンス続きしよっ」

「う、ぅん……」

「……時雨さんはどうなんです?」

「メカクレ気弱系は歳に関係なくショタ感出るからなぁ。んー、メスショタってのもあるし、カンナはケツがイイし俺に対してはメスの顔をするとはいえ……いや……」

「ダンスするよ~!」

パンパンとハルが手を叩き、カンナがCDプレイヤーを操作して音楽を鳴らす。俺達は慌てて鏡の前に並び直し、一通りダンスを踊った。



体操服を着直し、セイカを車椅子に乗せ、靴を履き替える。

「ぐったりしたまま炎天下置いとくのアレだしさ~……日陰に置いといたげよ~?」

「そうだな」

運動場に日陰はない。しかし下駄箱近くに置いて行っては砂埃を被ったり吸ったりしてしまう。妥協点として俺達はセイカを渡り廊下に放置し、体育祭の練習に戻った。



チャイムが鳴り、挨拶を終え、すぐに走った。渡り廊下まで走ると、まだ眠ったままのセイカがポツンと佇んでいた。

「よかった~。見回りのセンセーとかに回収されてないかな~ってちょっと不安だったんだよね~」

「起きてもないみたいだな。このまま連れて行こう」

車椅子を押して更衣室へ。着替えている最中にセイカは目を覚ました。

「おはようございます、気分はどうですか?」

「ここ……あれ? ダンスの練習……えっと、なんか…………秋風? 秋風居なかったか?」

「……あなたは私達がダンスの練習をしている際に寝てしまったんですよ」

「そう……だっけ。そっか、ごめん……」

「…………失神の直前の記憶って失われるんですね」

セイカに視線を合わせるため曲げていた背を伸ばし、シュカが背後で囁く。

「……すごく痛がってたし、覚えてなくてよかったよ」

「…………ですね」

「……シュカは優しいな。セイカのことそんなに心配してくれてるなんてさ」

「……! 違います、優しさとか……そんなんじゃ、ありませんから」

照れたらしいシュカは俺に背を向けて着替え始めた。傷だらけの肉体がよく見える。一つ一つなぞって、舐めて、覚えていきたい。

「なんか、すごく……怖いって言うか、痛いって言うか、嫌な目に遭ってさ、でも……秋風が助けに来てくれた。そんな感じの夢見てた気がする」

「ほーん、アキくんヒーローやなぁ」

「セイカ、俺は俺は?」

「……一緒に嫌な目遭ってたような、俺庇ってたような……オロオロしてたような。よく、覚えてない。ごめん……鳴雷」

苦しむ彼に胸を痛めて声をかけていたのと、せめて少しでも慰めにならないかと抱き締めていたのと、終始オロオロと慌てていたの……を、うっすら覚えていたのかな?

「でも、心配してくれてた気がする……ありがとう」

「……夢の話だろ?」

「うん。でも……鳴雷が普段からそうやって俺に優しいから、そんな夢見たんだ。だから……いつも、ありがとう……かな」

「セイカ……いいんだよそんな、俺が好きでやってることなんだから」

なんてテンプレ台詞で返しながらも俺は仄暗い安堵を覚えていた。そうやって俺に恩義を感じている間は、彼が俺の手元を離れることはないな……と。
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