冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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名誉ダディ

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俺達が夕飯を終えた後、食卓には稲荷寿司が一貫並ぶ。

「いただきます! なのじゃ」

ミタマの食事は特別なことがない限り二日に一度、みんなの夕飯の後。そう母と相談して決めたらしい。共に食卓を囲まない理由は「サキヒコが独りになるから」だそうだ。ちなみにサキヒコは俺の食事をちびちびつまんでいる。

「ねぇコンちゃん、私の会社着いてこなかったでしょ」

「……あぁ、そういえばそうだったね。どうしたの? コンちゃん」

「ゆーちゃんの会社? あぁ……怖い気配がしたのじゃ、怖ぁて着いていけんかった。何かあったのか?」

「ウチの会社、心霊研究やってたらしいのよ……結構勤めてるのに今日初めて知ったわ。地下でやってるのはてっきり違法な治験や臓器売買、クローン研究とかだと思ってたから」

そう思っている会社でよく働いていたな。

「こないだ秘書の真尋くんに会ったでしょ。彼から話が行ってたみたいで、社長がコンちゃん調べたがってたのよ。今度はぜひ一緒に来てね」

「……嫌じゃ。怖い。この間の秘書というと、いきなり殴りかかってきたヤツじゃろ? その後寿司奢ってもろうたが……苦手じゃ、怖い」

「大丈夫そうだって俺は思ったけどなぁ……」

「そうか? みっちゃんがそう感じたなら、いや……やはり恐ろしい。ゆーちゃんの進退に関わると言うのじゃったら、頑張ってみるが……」

母と顔を見合わせる。ミタマがこんなにも嫌がるとは思っていなかった、母もそうなのだろう。

「最悪ワシが除霊のような行為を受けたとしても、ここに居るワシは分霊じゃから、京都の本霊からまた分ければいいだけじゃし……うむ、頑張ってみるぞぃ! 怖いがな!」

「そ、そんなに嫌なら無理しなくてもいいよ……ねぇ母さん」

「ええ、社長も来てくれたらラッキーくらいで、そんなに差し迫った感じじゃなかったしね」

「……そうなのか? なら行っても安全かのぅ」

「そんなに怖いの? あそこ」

「場所ではなく……何か、恐ろしい者が居る気配がしたのじゃ。のぅ、さっちゃん」

ミタマの視線は俺の背後に向いている。

「……はい。あんな場所に入れなど……地雷原を歩けとでも言うようなもの。思い出しただけで身が震えてしまいます」

「そうなんだ……」

「……? 私そのさっちゃんって子の声聞こえないんだけど」

「さっちゃんはまだ未熟で、一人以上に声を届けるのは難しいようだからのぅ」

「……っ!? なんか男の子っぽい声で「すみません」って聞こえたっ、あっ……挨拶してくれてる……あらぁ丁寧。いえ、こちらこそ……水月の母ですー……どうも、ええ……」

「母さん完璧超人だから霊感くらいあるんじゃないかと思ってたよ」

サキヒコと話しているらしい母に、買い被りの言葉を雑に投げて立ち上がる。俺はまだ自由研究を終わらせていないのだ。

「じゃ、俺自由研究の続きやるよ」

「あら、やるの決まったの? もう始業式明後日だけど、間に合うかしらね」

「明日丸一日あるんだ、間に合うよ」

確信を持ってそう返事をし、部屋に引っ込んだ。自由研究の作業中カンナの作った歌を聞いていようかとも思ったが、歌に心が持っていかれて手を止めてしまうので泣く泣くイヤホンを引っこ抜いた。

「ふぅ……レイぃ、俺は頑張ってるぞ~。あー……会いたい」

時折作業の手を止めてレイに贈られたテディベアに話しかけて休憩を取った。



流石に二日連続での徹夜は辛い。日付が変わる少し前、サキヒコに言われてベッドに横たわった。

「おやすみ、ミツキ」

「おやすみ……サキヒコくん、今日は夢の中来てくれる?」

「……今日のミツキは疲れていてきっと夢は見ないだろうから、霊力をつけるためにも散歩に行こうと思っている」

「そっかぁ。サキヒコくんの顔、見たかったんだけどなぁ……行ってらっしゃい、気を付けてね」

声がする方へと手を振り、目を閉じた。課題を溜め込んだせいで夏休みの終わりに彼氏達と戯れられず、ほんの少しだけれど寂しい思いをし、過去の自分を罵りながら眠りの底へと落ちていった。



夏休み最後の日、俺は起きた瞬間から机に向かって自由研究の作業を再開し、朝食を終えたらまたすぐに部屋に戻った。



完成を目前に控えた午前の終わり、インターホンが鳴った。母と義母はデートに行くと今朝聞いた、セイカ達はアキの部屋でイチャコラやってやがるかもしれない、出られるのは俺しか居ない。

「はぁ……」

少々苛立ちながら玄関の覗き窓から来客を確認し、俺は慌てて笑顔を作って扉を開けた。

「ネイさん! ノヴェムくん! どうしたんですか?」

「おや……聞いていませんデスか? 今日は子供を除け者にしておデート致すので、平日の恩返しに今日はお前が子供達の面倒を見ろと……唯乃サンから」

「全然聞いてない……! もう母さんったら、すいませんネイさん疲れてるでしょうに」

「いえいえ」

「とりあえず上がってください。どうぞくつろいで」

自由研究の続きがしたい、けれど客を放っておく訳にはいかない。俺はネイを呼んだ母を恨みながら彼らをダイニングへ通した。

《お兄ちゃん、お兄ちゃんっ》

「すいません、俺ちょっと部屋に一瞬戻らせてもらいますね」

「ええ。ノヴェム、ほら……お兄ちゃんを困らせちゃダメですよ」

《あぁあ……お兄ちゃあんっ》

今にも泣き出しそうな声で俺を呼んでいるノヴェムに背を向け、部屋へと急ぐ。机の上に置いてある水色のモールで作られた指輪を左手薬指にはめる。

「ただいま~……ごめんねノヴェムくん。よしよし、抱っこしたげるから泣き止んでね~」

椅子に座っているネイの太腿に突っ伏すようにしていたノヴェムの前に屈んで両手を広げると、彼はあっさりと俺に抱きついてきた。振り返りもしなかった俺に対して拗ねていないかと心配していたが、ノヴェムはやはり扱いやすい。子供の面倒なところを全て抜いたような子だ、だから俺のような子供嫌いでも懐かせていられる。

「よしよし……ふふふ」

「名誉ダディ鳴雷 水月氏……」

「や、やめてくださいよぉ、もぉ」

俺の腕の中で泣き止んでいくノヴェムを見つめ、聖母のような微笑みを見せたネイの目の下には色濃いクマがくっきりと刻まれていた。
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