冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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二足歩行の獣

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シュカと共にシーツも敷いていないベッドで眠り、ぽむぽむと頬を柔らかいもので叩かれて目を覚ます。

「おはよう!」

目を細めてにぱーっと笑う、狐。衝撃的な光景にガバッと身体を起こし、目を擦る。

「みっちゃん?」

肉球があり黒い毛に覆われてはいるものの、太短い五本の指がハッキリとあり犬の前足よりは人間の手に近い手、あの肉球で俺は頬をぽむられ、起こされたのか。

「食事が出来とるぞ」

見上げれば狐そのものの顔。いや、何となく表情が読めるから、アニメのように人間に寄ったディフォルメが若干入っているのだろうか? 少なくとも俺にはよく分からない、狐そのものに見える。

「みっちゃん、おーい、寝ぼけとるのか?」

首から下は人間の形をしている。いつもの和装だ、季節外れのマフラーも巻いている。尻尾は三本垂れている。足は……やはり人間のそれに形が似ているが、黒い毛に覆われているし爪も見える。足の裏には肉球もあるのだろう。

「あ、あぁ……うん、ほぼ二足歩行になっただけの獣っていう上級ケモナー御用達ドチャシコビジュを急にお出しされたから、びっくりしちゃって」

「…………みっちゃん、ワシ……人間と違うて知らぬ言語じゃろうと言霊で意味は分かるのじゃよ。朝からそのような、いや、夜じゃろうとも……そこまで下品な発言は控えた方がよいぞ。母上が食事の準備を済ませとるからしゅーちゃんを起こして早う来るのじゃぞ、ではな」

淡々と注意をし、ミタマは部屋を出ていった。俺は罵られても平気だが、冷静に叱られるのは辛い、すごくつらい。

「ぅうぅ……」

「ん、んん……水月?」

羞恥と後悔から頭を抱えて唸っていると、シュカが目を覚ました。

「水月? どうしたんです、頭痛ですか?」

片目を閉じて俺の顔にピントを合わせ、心配そうに眉を歪める。

「……起こしに来てくれたコンちゃんにセクハラ発言したら普通に注意された。変態! って罵られたら興奮するし、ドン引きされても興奮出来るんだけど……なんか、ダダスベりしたみたいで、ツラい」

「自業自得じゃないですか」

ぽこんと俺の頭を叩き、冷たい視線を俺に向け、シュカは部屋を去った。俺は深いため息をついて立ち上がり、ダイニングに向かった。

「鳥待、秋風の部屋に眼鏡忘れていってたぞ」

「ありがとうございます……っ!? な、何ですかそこのバケモノ」

「分野だよ。狐の姿の方が楽なんだけど、それだと人間の言葉話せないから、ちょっと人に近付けてんの。昨日借りてきた本使って俺が考えたんだぞ。まず見ての通り首から下は毛が生えてるだけでほぼ人間と一緒なんだ。で、舌と頬の皮、唇がな……」

「あー、細かい説明はいいです。分野さんなんですね、だろうとは思っていたんですが……」

シュカはアキに尻尾をモフられているミタマをジロっと睨む。

「……不気味ですね」

「やっぱり? 俺もそう思う……」

ポンっ、と軽い音が鳴り、ミタマは狐耳と尻尾を生やした美少年の姿に変わる。

「霊力が節約出来る代わりに絶妙な調整に苦労する上気味悪がられるとはな……せっちゃん、考えてもろうたのに悪いがあの形態はあまり使わんかもしれん」

「あぁ、うん……俺こそなんかごめん」

俺はあの姿めちゃくちゃ好きだったのになぁ。ケモ度の濃い絵って描いてる人少ないし。海外には多いけれど、イラストならともかく漫画となるとやっぱり日本語で見たくて……国産の方が絵柄に馴染みがあるからか魅力的に見えるしね。

「みんな、先食べといていいわよ」

インターホンに呼ばれて母は玄関へ向かい、俺達は母の指示通り手を合わせて食事を始めた。

《こんな朝から誰だろうな》

《さぁ、常識がないのは確かだな》

しばらく経つと母が戻ってきた。その後ろには長い前髪で目元が隠れた小さな子供が居た。ふわふわの金髪が愛らしいその子は俺を見つけるとぱぁっと笑顔になる。

《お兄ちゃん!》

「えっ、やだ、ノヴェムくん? なんで……」

「今日預かる約束してたのよ」

「はぁ~? あんなクズ男と近所付き合いするのやめてよ、話したでしょ? アキ殴られたって」

「ノヴェムくんは関係ないでしょ、こんな小さい子一人じゃ可哀想じゃない」

義母は露骨に嫌そうな態度を取っている。以前、義母がノヴェムの父親のネイに好意を抱き強引に迫っていたから、母のご機嫌取りのためネイにアキを殴ったフリをさせて無理矢理嫌わせたのだ。ネイも義母に言い寄られるのは嫌だったらしくノリノリで対応してくれて……まぁ、そんな訳で、義母はノヴェムを見て機嫌を悪くしているのだ。

「よしよし、久しぶりだなぁノヴェムくん」

「み、みっちゃん……なんじゃ、なんじゃその子は!」

「え? ノヴェムくん……近所の子。シングルファーザーで家に一人になっちゃうから、ウチでたまに預かってて」

「めんこい! 可愛過ぎるじゃろ人間の幼体……! あぁなんと小さい、頼りない……愛らし過ぎるのじゃ~!」

「人間フェチか……」

「うわ人外っぽくていいなそれ」

おっと、セイカの呟きに思わずノってしまった。異様な見た目の上に騒がしいミタマにノヴェムがすっかり怯えてしまっている。慰めなければ。

「よしよし、大丈夫だよノヴェムくん。この子はね、コンちゃんって言って……コスプレイヤーだよ」

「……コスプレでいいのか?」

「まだちっちゃいし……あんまり身内以外にコンちゃんの正体知らせるのは危ないかなって。ノヴェムくんを信用してない訳じゃないんだけど、ちっちゃいから秘密守れるか微妙だし……」

「そうだな……分かった」

納得したらしいセイカは英語でノヴェムにミタマのことを紹介してくれた。しかしノヴェムの警戒が解けることはなく、俺の膝の上に対面で座った彼は俺の胸に顔を押し付けて動かなくなった。

「……ワシ、人間に怖がられるのぅ」

ミタマはしゅんと落ち込んでいる。まるで騒ぎ過ぎて犬猫に避けられる動物好きの子供のようだ。付喪神から見た人間は愛玩対象でしかないのだろうか、ちゃんと俺との恋に目覚めてくれているのだろうか。
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