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萌え萌えキュン

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ミタマの存在がバレた件も、アキが貸し出されそうになった件も、何とかなかった。

「ヒト? 戻ってきていいぞ」

ボスは一度部屋から追い出したヒトを呼び戻した。横暴だが、ヒトが抱いているだろう印象とは正反対の本性を知らせないためのようなので、少し可愛げが出てきた気がする。

「アンタの旦那が見つからないとなると困るな……アンタらはともかく、張本人だけは必ず殺す」

「向こうは見つけてくるのに探すと見つからないのね」

「元軍人なんでしたっけ?」

「違う違う、軍大好きなだけ。タチ悪めのミリオタ」

「あ、そうでしたっけ……」

好きなだけで息子をここまで鍛えられるのか、とアキを見やる。目元に包帯を巻いた彼は俺の視線に気付かず、退屈そうにセイカの巻き髪を弄っている。

「真尋くん勝てそう?」

「……下手の横好きの素人如き、どうにでもなります。軍に入ってこそいませんが、俺が受けた訓練は特殊部隊のそれですよ」

「特殊部隊って言っても色々あるじゃない。何するヤツ?」

「あまり詳しくは言えませんが、潜入、脱出、暗殺、迎撃、狙撃、護衛……その他諸々ですね。毒物、銃器の知識も叩き込まれています。殺した上で死体が欲しい場合がありましたら検出されない毒をご用意します。効果や時間なども調合次第である程度弄れますので、いつでもご相談ください」

「そんな話子供に聞かせないで」

「殺した上で死体が欲しい場合って何なんすか?」

「死体がないと死亡届出せないでしょう?」

恐ろしい会話だ。

「なるほどー……アングラ系の創作のネタになりそうな予感っす。メモっとこ……」

「レイ、イラストレーターだろ?」

「やれることは増やしといた方がいいんすよ。それよりせんぱい……ミタマくんのこと隠しておくなんて酷いっす! 化けられるってことは、あらゆる性別年齢体型の資料が好きなだけ手に入るってことなんすよ……!?」

「ご、ごめんごめん……」

どんなことでも自分の糧にしようとするレイの姿勢は素晴らしいと思う反面、少し怖くもある。

「…………兄ちゃん?」

扉をくぐって巨体が姿を現す。ガーゼと包帯まみれの痛々しい様を見て自然と顔が歪む。

「よぉ、國行」

「……なんで。アンタが呼んだのか?」

「坊ちゃんに何かあれば連絡するようにと仰せつかっておりますので」

ボスを呼んだのはヒトなのか。

「…………そうか」

「事情は聞いたぜ國行」

「……! あぁ、兄ちゃん……俺は、兄ちゃんのお気に入りに傷一つ付けさせなかったぞ。勝てなくて……情けなくは、あるが。最低限の責務は果たした」

レイが俺に「くーちゃん褒めて欲しそうっすね」と耳打ちする。自分を苦しめた元カレの子供っぽい一面は面白いものなのだろうか、くすくすと笑っている。

「責務、ね。お前の責務は日々を安全に幸福に過ごしてお兄ちゃんをほっこりさせることなんだが?」

「…………怪我をしたのは、だから……情けないとは思ってる」

「いいか國行、お前の幸福は義務だ。対して仲がいい訳でもない他人のために怪我を負うのはとても愚かなことだ」

「……でも、俺は……兄ちゃんのお気に入りを、守ったんだ」

「よく見かける野良猫と可愛い弟なら弟の安全を取るだろ。いいか國行、今回のことでお前を褒める気なんて欠片もない、全く誇らしくない、反省しろバカ」

「………………悪かった」

レイがまた俺に耳打ちする。今度の内容は「だいたい俺がせんぱいに言いたかったことと同じっすよ、俺からせんぱいへの説教だと思って心に刻むっす」だ。

「悪かったよ……」

「…………ん? 鳴雷……早い再会だな」

「形州……先輩。病院行ったか?」

「……いや」

仕事場の入口のところにレイの元カレが立っていた。鼻を主としたガーゼや包帯が痛々しい。

「なんでだよ、行けよ」

「…………シェパードの応急手当は確実だ」

「あの日本語上手い人だっけ? 確実だか正確だか知らないけどな、応急って言ってんだから病院行くまでのもんだよ。看板支えるもん作っといてカバンダに話しかけずに進むのかお前は!」

「せんぱい、そのたとえ多分くーちゃん分かんないっす」

「病院に行かないのは許されザルことだな」

「お兄さんの方に分かられちゃったっすね」

「ヒト、國行を病院まで送ってやれ」

「はい。坊ちゃん、行きましょう」

ヒトは俺に小さく手を振って出ていった。恋人になってからあらゆる仕草が可愛くなった気がするのは、俺がそういう目で見始めたからと言うだけではないだろう。ヒトは明らかに可愛くなっている。

「國行も居ない、フタも居ない……退屈です。秋風くん、俺にお茶入れてください」

「ウチの子に変なことさせないでってば!」

「これをここに……」

ボスは500ミリのペットボトル入りの麦茶と、たった今棚から取ってきたコップを差し出した。

「直飲みしなさいよそんなもん!」

「まぁまぁよーちゃん、そうカッカせんと……綺麗どころに茶を注いで欲しいんじゃろ? 好みの美人の手が加わっていると、何故か美味しく感じるもんじゃからのぅ」

うんうんと頷きながらミタマはアキに化け、麦茶をコップに注いだ。

「美味しくなーれ、萌え萌えキュ~ンなーのじゃ~」

「どこで覚えたのそんなセリフ」

「……めっちゃ美味しい」

「疲れてるんですか?」

目頭を押さえるほど美味しくなるものなのだろうか。

「…………コ、コンちゃん、俺にもして……いつものコンちゃんでお願い」

「はーいなのじゃ~」

金髪糸目美少年の姿に戻ったミタマはコップに水道水を注いで氷を入れ、渡してくれた。

「萌えキュンもやってよ」

「美味しくなーれ、萌え萌えキュ~ンなーのじゃ~」

「めっちゃ美味しい……!」

「冷えた水道水は意外と美味しいっすよ」

拗ねたように呟くレイにも俺は萌えている、キリッとした顔でそう言うと彼は「顔がいいのずるいっす」と拗ねて照れて俯いた。
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