冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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される側に回ると逃げるタイプ

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大阪に着いた。車椅子を開き、眠ってしまっているセイカをアキと協力してゆっくりと持ち上げ、車椅子に座らせた。

「……よし。やったなアキ」

セイカの目を覚まさせることなく車椅子に移せた満足感を噛み締める。

「乗り換えだ、ちゃんとお兄ちゃんに着いてくるんだぞ」

「だ」

テディベアが落ちないように気を付けつつ、やってきた寝台列車に乗り込む。もちろん席は予約済みなのでその席へ向かい、まずはセイカを寝台に移す。

「んっ……?」

「起きちゃったか? 着いたぞセイカ、寝台列車だ。ここで寝てくれ」

「ここ……? うん……おやすみ、鳴雷」

「はい、クマさん」

「クマ……」

テディベアを抱き締めるとセイカはまたすぐに寝息を立て始めた。頭を撫でてセイカの席を離れ、荷物を積み上げた。

「ふぅ……手伝ってくれてありがとうな、アキ。おやすみ」

「おやすみなさいです、にーにぃ」

アキとハグをしてそれぞれの席へ。縦に狭く、横に広い。泊まったことはないがカプセルホテルを思わせる。

「よいしょ……ぁー、秘密基地感あってワクワク感と寝やすさが同居してる」

「確かに狭いの。一晩くらいほてるで寝てみたかったぞぃ」

ぬ、とミタマの顔が突然目の前に現れた。叫ばずに堪えた自分を褒めたい。

「より狭い。何、なんで急に人間形態に……」

「なんじゃ、喜ぶ思うて人に化けてやったのに」

「狭いところで美少年と密着っていうのは確かに最高のシチュなんだけど、上下は……あまりにも息苦しい。横にズレらんない?」

「ワガママじゃのぅ……」

ため息をつきながらミタマは俺の隣にズリ落ちた。俺も身体を端に寄せ、狭い寝台の上で二人向かい合わせに見つめ合う。と言っても真っ暗だから何も見えないけれど。

「そうじゃ、腕枕をしてやろうぞ。近頃の若者は交際関係にある男に腕枕をされたがるのじゃろう?」

「え……俺が?」

「いらんのか? ワシの腕」

俺は腕枕をする側だ、ハーレム主なのだから当然のことだ。しかし腕枕をされたい願望がない訳ではない、当然されたい、甘やかしてくれるのなら甘やかされたい。

「いりゅ~」

ミタマママ~、と叫びそうになったが堪えてミタマの腕に頭を乗せた。

「……カカカッ、なかなかめんこいもんじゃのぅ」

「おやすみ、コンちゃん」

「うむ、おやすみなのじゃ。だぁりん」

前髪にキスをしてもらえた。オールバックにしておけば額だったのかな、惜しいことをした。しかし連日の旅行のせいか眠いな、せっかく隣に美少年が居るのだからもっと香りや感触を楽しみたいのに瞼が落ちてきた。

「キャンッ……!?」

眠気を覚ますには何か強烈な刺激が必要だ。ぼやけた意識で結論が出て、俺の意思があまり乗っていない手がミタマの尻を鷲掴みにした。

「……ちょっと獣臭い」

ミタマの胸に顔を押し付けて深呼吸をすると、たった今まで大型犬にじゃれつかれていた清潔な男性のような香りがした。

「な、何をしとるんじゃっ、どこを触っとるんじゃ不埒者! そういうのはまだ早い! 出会ってから何日目じゃと思うとるんじゃ!」

「えぇ……おしゃぶりはしてくれたのに、お尻触るのはダメなの? 揉むだけだから、これ以上変なことしないから……割れ目には触らない、弾力楽しむだけ。ダメ?」

「爛れておる! 当代の人間は爛れておるぅ!」

そう叫んだ直後、ミタマの姿は人間から狐へと変わった。あの仔狐とも違う、普通の狐より大きな三尾の狐だ。

「ぉ……これが霊体での真の姿的な感じ?」

もっふもふだ。狐とはこんなにも柔らかい毛をしているものなのか? 獣ならもっと硬いのでは? 食事を楽しみにして尻尾を振ったり、油揚げが好物だったりと、実際の狐とは習性が違うようだし、毛並みもそうなのかもしれないな。

「俺が腕枕する番だね。尻尾三つあるけど……付け根どうなってるの? ぁー……付け根の骨は一本なんだ、途中で分かれて……なるほどね。ぁ、お尻の毛背中よりなんかふわふわしてて……」

もふもふふわふわの温かい狐が消える。慌てて探れば腹の前に狐のぬいぐるみが落ちていた。

「コンちゃん? ご、ごめん……またお尻触っちゃって。普通に寝るって約束するから人間に戻ってくれないかな? 君がここに居るのは分かってるけど、なんか寂しいよ……」

手のひらに収まるぬいぐるみに向かって語りかけるも、返事はない。俺はぬいぐるみをそっと顔に近付けた。

「…………」

ぬいぐるみに鼻を押し付けて思い切り息を吸う。

「……興奮してきた」

ほんの少しの獣臭さの他はぬいぐるみらしく布と綿の匂いしかしないのだが、それでもミタマという美少年が身動きを取らず俺にされるがまま嗅がれていると思うと興奮が止まらない。

「もうやじゃあ! みっちゃんの変態!」

「ぅぐっ!?」

また人の姿へと変わったミタマは俺の腹を踏み付けて外へと飛び出して行った。

「コ、コンちゃんっ? コンちゃん!」

セイカの寝台へと飛び込んでいく姿が見えた。慌てて後を追い、覗くと、テディベアを抱き締めて眠るセイカとその枕元にこてんと置かれた狐のぬいぐるみがあった。

「コンちゃん……もう変なことしないように気を付けるから、俺にチャンスくれる気になれたら……その、俺のとこに戻ってきて欲しい。じゃあ……おやすみ」

狐のぬいぐるみの頭を撫で、自分の寝台に戻った。全身に伝わるガタンゴトンという振動が心地いい、電車の中で眠るという非日常が幼い子供の頃のようなワクワク感を産む。結果、眠いのに興奮してしまって眠れず、心地いい微睡みが長く続いた。



停車二十分前のアナウンスで目を覚ます。いつの間にか眠っていたようだ。起き上がると天井に頭をぶつけた。

「狭い……」

身を縮め四つん這いで寝台から降り、まず畳んでいた車椅子を開いてブレーキをかけておく。次に義足を準備し、セイカを揺り起こす。

「ん……?」

「着いたよ、義足ここに置いておくからな」

「うん……」

「アキ起こしてやってくれ」

生返事のセイカから離れ、荷物の準備をする。のそのそと起き出して義足を履いているセイカが視界の端に見える。

「ん……? 鳴雷、この狐……」

セイカは枕の隣にある狐のぬいぐるみを優しく抱き上げると、ふらふらと立ち上がって俺の前に差し出した。

「なんで俺のとこ置いとくんだよ。お前のだろ? 大事にしてやれってば」

「……あ、あぁ」

「俺別にぬいぐるみなら何でも好きって訳じゃないからな、お前が気に入って買ったんならお前が持ってろよ」

「うん……」

「その狐もお前と一緒に寝たかっただろうに、可哀想に」

「…………ふふ、うん。今度から気を付けるよ」

セイカはミタマの正体を知らない、この態度はただのぬいぐるみに対してのもの、そう思うと微笑ましくて自然と笑顔になった。

「……ごめんな、コンちゃん。家に着いたらゆっくり話そう」

セイカがアキを起こしに向かったので、そっとぬいぐるみに向かって囁いた。
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