冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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秋服は暑いうちに

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ミタマが途中で分けずに最後の一口になってからサキヒコに飲ませたのは、幽霊が飲み食いした物は味や香りだけが失われるということを分かっていたからだろうか。

「コンちゃん元気になった~? じゃ、服見に行こっ、服っ」

タピオカドリンクを飲み終わった俺達は店内地図を撮ったハルの先導に従って歩いた。

「階段が動いておる……ええのうこれ」

「……コンちゃんエスカレーター初めて?」

「うむ、知ってはおったが実際に使うのは初めてじゃ。楽でいいのう」

「初体験かぁ……ふへっ」

「みっつんキモいよ」

サキヒコもエスカレーターは初めてじゃないか? 取り憑かれてから使ったことあったっけ。どっちにしろ浮いている彼にはあまり関係がないのかな。

「そろそろ秋物の準備しとかないとなんだよね~」

「気が早くないか?」

「秋んなってから探してちゃ手遅れじゃん、服買いに行く服がないっての。秋服は夏の間に準備しとくもんだよ」

「ふーん」

「みっつんまだ買ってないんならみっつんのも探そっか」

と言われてもここはレディースの店だ。俺が着られる服なんてある訳がない。

「これデザインいいな~、でも色……他の色ないのかな~……」

今はハルが服を選ぶのを見守ろう。

「ん~……ねぇねぇみっつん、この服とこの服、どっちがいいかな~」

来た、究極の二択。既に質問者の中では選ぶ方が決まっているというのがよくある話ではあるけれど、アレは女性の場合だ。いくらハルに言っても心は男、対処法が違うかもしれない。

「うーん……ハルならどっちでも似合うと思うけど」

「そりゃ何でも似合わせるけど~……どっちのがいい? みっつんどっちが好き~?」

正直、俺は服にあまり興味がない。ダサいとオシャレの区別くらいは人並みに付くし、和服美人なハルにはしゃぐくらいはするけれど、似たようなデザイン似たような色の服をどっちがいいなんて言われてもなぁ。

「…………こっち、かな」

「こっち? じゃあこっちにしよ~っと」

何となく右側の服を指差すと、ハルはそちらを腕にかけもう片方を棚に戻した。

「俺が選んだ方でいいのか? あんまりファッションとか自信ないんだけど」

「みっつん俺のことすごくよく見てくれてるから自然と俺により似合う方選んでくれるんじゃないかな~って」

「確かにハルのことは見てるし可愛いと思ってるし、どっちかと言えばこっちの服着てるとこ見たいと思って選んだけど……それでよかったのか」

「うん! みっつんだ~いすき! 次パンツ選びに行こ~」

「パ、パンツか……よし、頑張るぞ」

「……ズボンのことね?」

「わわわ分かってるよ」

下着の方を選んでみたかったなと内心残念がりなからハルに着いていく。

「タイトなの……ん~、最近結構食べてるしぃ、秋って色々美味しいからついつい太っちゃうんだよね~。シルエット誤魔化せるヤツのがいいかな?」

「ハル基準で太ってても傍から見れば痩せてる方だし、別にぴっちりしててもいいんじゃないか?」

「え~、普段俺見てる人からすると「初春ちょっと太った? いや平均から見れば十分痩せてるけどさ」ってなるっしょ~? やだな~」

「……シルエット誤魔化してたら体型戻せないんじゃないのか」

セイカがボソッと呟いた。

「ぅ……た、確かに、自分を追い込むためのタイトかぁ……えーでも、う~ん…………二本買っちゃえ! 臨時収入あったし!」

五万、すぐ使い切りそうだな。腕にかけられた二つのズボンを見て苦笑いを浮かべた。

「コンちゃんは普段洋服着るの?」

「着んなぁ」

「え、そうなの? 着てみたら? 洋服のが楽だし組み合わせしやすいし~、アクセとかも洋服基準のが多いしね~」

「ふむ……みっちゃんは和装と洋装どっちが好きじゃ?」

「どっちも好き! 今度ぜひ洋装して欲しいな」

「そうか……うむ、考えておこう」

サキヒコも着替えられたらいいのに、というかサキヒコの姿を見たい。今どの辺に浮いているんだろう。

「買ってきたよ~。じゃ、みっつんの服見に行こっか。みっつんはメンズしか入んないもんね~……せーか体型的にはレディースもイケそうだけど、着ない?」

「レディースって……女物ってことだよな? 着ないよ……女物着て悲惨なことにならないのは、お前みたいに顔の良いヤツだけだ」

「そりゃ俺ほどレディース似合う男は居ないけど~、せーかも顔悪くはないよね? ねぇコンちゃん」

「幸薄顔じゃの。世話焼きな者に好かれやすいじゃろ」

不健康な青白い肌に目立つ隈、死んだ魚のようなジトっとした瞳、それらは薄幸を通り越してもはや死人や病人を思わせる。

「世話焼き……確かに鳴雷も秋風もそういうとこある」

「みっつんはともかくアキくんが世話焼いてんのアンタだけでしょ」

「そうかな……そうかも」

「コンちゃん体型よく分かんないけど、レディースどう? スカート履けとまでは言わないけどさ~」

「当代の服装はよく分からんが……そうじゃな、みっちゃんが見たがるのなら着てもよいぞ」

「健気~!」

細い目を更に細めてにっこりと笑う。ミタマは案外俺の好みに合わせてくれるタイプのようだ。

「着いた着いた、メンズのショップ~。よしよし秋物出てるね~、みっつん何系が好き~? ストリート系絶対嫌いだよねみっつん」

「別に服に好きも嫌いもないけど……」

「アキくんはUVカットのヤツじゃなきゃダメだから~……んー、秋物にはそういうのあんまないよね~……そういえばさ~、せーかってぶかぶかのばっか履いてるけどピタッとしたのは嫌いなの~?」

「ぴったりした服だと義足の付け外ししにくいから……」

「なるほど~。コンちゃんは肌出したくないとかある~?」

「特にはないが……あぁ、首は隠しておきたいの。首に何か巻いても不自然でない服がよい」

「おけおけ。こういうふうに言ってくれたら選びやすいんだけどな~?」

何か言いたげなハルの視線が俺に注がれている。しかし、俺は本当に心底ファッションに興味がないし、タイトな服でもオーバーサイズな服でも着心地が極端に悪くなければどっちだっていいのだ。

「…………ごめんな?」

考えても何も浮かばないため、はにかんで謝った。
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