冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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疲弊の回復は貢物で

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差し伸べた手に乗せられたのは、犬の前足のような黒く毛むくじゃらで肉球のあるものだった。すぐに人間の手に戻ったけれど、手のひらと目が覚えている。

「大丈夫? コンちゃん、熱中症?」

「かもしれないな、換金したら涼しいところ行こうか」

「看板見た感じここ換金十万までだよ~」

ミタマを席に座らせ、俺達は換金に向かった。セイカとアキは千円当たりが二枚とも出たらしく、各二千円。ハルは五万円。ミタマの分を確認してみると二枚ともスカだったので、渡されたのは五万四千円……俺の百万円は後ほど銀行受け取りだ。

「当たってるくじの方が多いとかマジヤバ~、ショップの人も驚いてたね」

「確率何パーくらいなんだろ……」

「せーかそういうの気にするタイプぅ? はい、二千円」

ミタマは席に突っ伏してぐったりしている。異様に当たった宝くじ、宝くじを引こうと言い出したのはミタマ、そのミタマは疲れたと言っていた……まさか、ミタマが何かしたのか?

(ご利益、的な……?)

像を修理したお礼だったりするのだろうか。っと危ない、自然とミタマが狐像に関わる何かだと決め付けてしまっていた。思考からミタマは人間だと思い込まなければ態度に出てしまいかねない。蛤女房の話のように正体を察したら逃げてしまうタイプかもしれないのだ、気を付けなくては。

「コンちゃん、大丈夫?」

「こんなクソ暑いのにそんなクソ暑いカッコしてるからじゃ~ん、それ訪問着でしょ~? 襟巻きまで着けちゃってさぁ~」

机に突っ伏したミタマの首に巻いてある赤い布をハルが引っ張る。うなじが晒され、継ぎ目のある首が見えた。

「引っ張るでない! 首が絞まるじゃろうが全く……暑くなどない、少し疲れただけじゃ。金の受け取りは終わったのか?」

「ぁ……ご、ごめん。えっと、終わったよ、コンちゃんのは当たってなかった。みっつんちょっと分けてあげたら?」

「……言い出しっぺは、コンちゃんだしな」

首に継ぎ目があったとしても、人間ならば糸で縫った傷跡になるだろう。ミタマの首にあった跡は違う、石に入ったヒビのような傷跡だった。人間の身体なのに。強烈な違和感には流石にたじろぎ、声が上擦った。

「構わん。ヌシらが当たったのはヌシらの普段の行いが良いからじゃ、ヌシらへのご褒美と心得よ」

「え~やっぱり~? ありがとコンちゃん! スクラッチする提案してくれてさっ、コンちゃんのおかげだよ~」

「よいよい。次に行く場所は決まっておるのか?」

「どうしようかな~……ね、みっつん、みっつんちょっとこっち来てよ。内緒で相談しよ~」

ハルに手を引っ張られ、三人から離れる。

「…………みっつんさぁ、見た? コンちゃんの首の傷跡」

「……あぁ、見た」

「えぐかったね~、大怪我したんだろうね~。襟巻き巻いてるのって傷隠しなんだ……悪いことしちゃったなぁ~、怒ってないかな~……これじゃ俺アキくんのグラサン取ろうとした姉ちゃんと変わんないじゃん……」

ハルはミタマの正体を察していないのか。

「お姉さんはセイカの説明無視してやったらしいし、変わんなくはないよ。ハルはすぐ謝れてたし。コンちゃん怒ってなさそうだから、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかな?」

「そうかな~……公園でも結構な態度取っちゃったしさ~……はぁ、なんで威嚇しちゃうんだろ」

「毛ぇ逆立ててる仔猫みたいで可愛いよ」

「もぉ! 真面目に悩んでるのにぃ!」

照れを怒って誤魔化すハルの顔は真っ赤だ。可愛くて仕方なくて、思わず微笑みながら頬を撫でてしまうとハルは耳まで真っ赤にして黙り込んだ。

「ほんと可愛い……なぁ、この後どうする?」

「……っ、えと……コンちゃん、暑さにやられたかもだから……す、涼しいとこに」

「優しいな、ハルのそういうとこ大好き」

「……! 俺もぉ顔熱過ぎて倒れそぉ」

赤くなった頬に手の甲を当てて冷ましているハルを連れて三人の元に戻り、涼しいところへというハルの提案を話した。誰からも異論は出ず、俺達はショッピングモールへと向かった。

「コンちゃん、何か飲む~? 暑かったら冷たいの飲んだ方がいいよ~」

「暑くなどないと言うとろうに……む、これは……! タピオカか、こないだ流行っとったのぉ」

「だいぶ前だよ~」

「飲んでみたかったんじゃ、タピろうではないか」

スクラッチを勧めてくれた礼だと言ってタピオカ入りのミルクティーを一つ奢ってやった。可愛らしい笑顔で礼を言ったミタマは無邪気にストローを咥える。

「みっつん飲まないの~?」

「結構カロリー高いだろタピオカドリンクって、昼飯前に飲めないよ」

《タピオカ喉にドドドッてくるな》

《ちゃんと噛めよ、タピオカ自体もほんのり甘いぞ》

ハルはタピオカカフェオレを、アキとセイカはイチゴ味のタピオカミルクティーを買っていた。見ていると俺も一口くらい欲しくなってくるな……

「みっちゃん買っとらんのか。一口どうぞじゃ」

「いいの? ありがとうコンちゃん」

関節キスだとはしゃぎつつ、太めのストローを咥える。

(……なんか、獣臭い)

一瞬獣臭さを感じたが、吸った後はミルクティーの香りに全て上書きされた。タピオカの食感もなかなか楽しい。

「美味しい。コンちゃん、体調はどう?」

「上々じゃ。ヌシらがしっかり感謝してくれた上、ヌシに貢ぎ物をもろうたからの」

宝くじを当選させることに使ったご利益パワー的な何かは、感謝や捧げ物で回復出来るのか……お賽銭的なことなのかな?

(……つーか隠すならもっと隠せでそ、お稲荷さん丸出しじゃありゃあせんか)

疲れたからと前足だけ変身が一瞬解けていたし、ミタマはひょっとしたらかなり抜けているのかもしれない。

「ミツキ、ミツキ……私も飲みたい」

タピオカドリンクなんてサキヒコは初めて見るだろう。俺は黙ってミタマを指し、彼に頼むよう示した。

「…………こわい」

「もぉ……コンちゃん、サキヒコくんにも一口あげてくれない?」

「最後の一口でええなら構わんぞ」

「……だってさ」

「ありがとうミツキ。ミタマ……も、その、ありがとう」

祓わないと約束されてもまだ怯えているのか。ミタマの何がそんなに怖いんだ? 確かに顔はこの上なく胡散臭いけれど、割と間抜けだぞこの子。

「ん……最後の一口じゃ、ヌシらにやろう」

タピオカミルクティーを受け取って数秒後、未知の味に歓喜するサキヒコの声が聞こえてきた。

「んん……! これはまた独特な。うん、美味しかった……ごちそうさま」

見た目には全く減っていない。ストローを咥え啜ってみると、ほんのり甘いだけの水を飲んでいるようだった。
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