冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

文字の大きさ
1,240 / 2,303

疲弊の回復は貢物で

しおりを挟む
差し伸べた手に乗せられたのは、犬の前足のような黒く毛むくじゃらで肉球のあるものだった。すぐに人間の手に戻ったけれど、手のひらと目が覚えている。

「大丈夫? コンちゃん、熱中症?」

「かもしれないな、換金したら涼しいところ行こうか」

「看板見た感じここ換金十万までだよ~」

ミタマを席に座らせ、俺達は換金に向かった。セイカとアキは千円当たりが二枚とも出たらしく、各二千円。ハルは五万円。ミタマの分を確認してみると二枚ともスカだったので、渡されたのは五万四千円……俺の百万円は後ほど銀行受け取りだ。

「当たってるくじの方が多いとかマジヤバ~、ショップの人も驚いてたね」

「確率何パーくらいなんだろ……」

「せーかそういうの気にするタイプぅ? はい、二千円」

ミタマは席に突っ伏してぐったりしている。異様に当たった宝くじ、宝くじを引こうと言い出したのはミタマ、そのミタマは疲れたと言っていた……まさか、ミタマが何かしたのか?

(ご利益、的な……?)

像を修理したお礼だったりするのだろうか。っと危ない、自然とミタマが狐像に関わる何かだと決め付けてしまっていた。思考からミタマは人間だと思い込まなければ態度に出てしまいかねない。蛤女房の話のように正体を察したら逃げてしまうタイプかもしれないのだ、気を付けなくては。

「コンちゃん、大丈夫?」

「こんなクソ暑いのにそんなクソ暑いカッコしてるからじゃ~ん、それ訪問着でしょ~? 襟巻きまで着けちゃってさぁ~」

机に突っ伏したミタマの首に巻いてある赤い布をハルが引っ張る。うなじが晒され、継ぎ目のある首が見えた。

「引っ張るでない! 首が絞まるじゃろうが全く……暑くなどない、少し疲れただけじゃ。金の受け取りは終わったのか?」

「ぁ……ご、ごめん。えっと、終わったよ、コンちゃんのは当たってなかった。みっつんちょっと分けてあげたら?」

「……言い出しっぺは、コンちゃんだしな」

首に継ぎ目があったとしても、人間ならば糸で縫った傷跡になるだろう。ミタマの首にあった跡は違う、石に入ったヒビのような傷跡だった。人間の身体なのに。強烈な違和感には流石にたじろぎ、声が上擦った。

「構わん。ヌシらが当たったのはヌシらの普段の行いが良いからじゃ、ヌシらへのご褒美と心得よ」

「え~やっぱり~? ありがとコンちゃん! スクラッチする提案してくれてさっ、コンちゃんのおかげだよ~」

「よいよい。次に行く場所は決まっておるのか?」

「どうしようかな~……ね、みっつん、みっつんちょっとこっち来てよ。内緒で相談しよ~」

ハルに手を引っ張られ、三人から離れる。

「…………みっつんさぁ、見た? コンちゃんの首の傷跡」

「……あぁ、見た」

「えぐかったね~、大怪我したんだろうね~。襟巻き巻いてるのって傷隠しなんだ……悪いことしちゃったなぁ~、怒ってないかな~……これじゃ俺アキくんのグラサン取ろうとした姉ちゃんと変わんないじゃん……」

ハルはミタマの正体を察していないのか。

「お姉さんはセイカの説明無視してやったらしいし、変わんなくはないよ。ハルはすぐ謝れてたし。コンちゃん怒ってなさそうだから、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかな?」

「そうかな~……公園でも結構な態度取っちゃったしさ~……はぁ、なんで威嚇しちゃうんだろ」

「毛ぇ逆立ててる仔猫みたいで可愛いよ」

「もぉ! 真面目に悩んでるのにぃ!」

照れを怒って誤魔化すハルの顔は真っ赤だ。可愛くて仕方なくて、思わず微笑みながら頬を撫でてしまうとハルは耳まで真っ赤にして黙り込んだ。

「ほんと可愛い……なぁ、この後どうする?」

「……っ、えと……コンちゃん、暑さにやられたかもだから……す、涼しいとこに」

「優しいな、ハルのそういうとこ大好き」

「……! 俺もぉ顔熱過ぎて倒れそぉ」

赤くなった頬に手の甲を当てて冷ましているハルを連れて三人の元に戻り、涼しいところへというハルの提案を話した。誰からも異論は出ず、俺達はショッピングモールへと向かった。

「コンちゃん、何か飲む~? 暑かったら冷たいの飲んだ方がいいよ~」

「暑くなどないと言うとろうに……む、これは……! タピオカか、こないだ流行っとったのぉ」

「だいぶ前だよ~」

「飲んでみたかったんじゃ、タピろうではないか」

スクラッチを勧めてくれた礼だと言ってタピオカ入りのミルクティーを一つ奢ってやった。可愛らしい笑顔で礼を言ったミタマは無邪気にストローを咥える。

「みっつん飲まないの~?」

「結構カロリー高いだろタピオカドリンクって、昼飯前に飲めないよ」

《タピオカ喉にドドドッてくるな》

《ちゃんと噛めよ、タピオカ自体もほんのり甘いぞ》

ハルはタピオカカフェオレを、アキとセイカはイチゴ味のタピオカミルクティーを買っていた。見ていると俺も一口くらい欲しくなってくるな……

「みっちゃん買っとらんのか。一口どうぞじゃ」

「いいの? ありがとうコンちゃん」

関節キスだとはしゃぎつつ、太めのストローを咥える。

(……なんか、獣臭い)

一瞬獣臭さを感じたが、吸った後はミルクティーの香りに全て上書きされた。タピオカの食感もなかなか楽しい。

「美味しい。コンちゃん、体調はどう?」

「上々じゃ。ヌシらがしっかり感謝してくれた上、ヌシに貢ぎ物をもろうたからの」

宝くじを当選させることに使ったご利益パワー的な何かは、感謝や捧げ物で回復出来るのか……お賽銭的なことなのかな?

(……つーか隠すならもっと隠せでそ、お稲荷さん丸出しじゃありゃあせんか)

疲れたからと前足だけ変身が一瞬解けていたし、ミタマはひょっとしたらかなり抜けているのかもしれない。

「ミツキ、ミツキ……私も飲みたい」

タピオカドリンクなんてサキヒコは初めて見るだろう。俺は黙ってミタマを指し、彼に頼むよう示した。

「…………こわい」

「もぉ……コンちゃん、サキヒコくんにも一口あげてくれない?」

「最後の一口でええなら構わんぞ」

「……だってさ」

「ありがとうミツキ。ミタマ……も、その、ありがとう」

祓わないと約束されてもまだ怯えているのか。ミタマの何がそんなに怖いんだ? 確かに顔はこの上なく胡散臭いけれど、割と間抜けだぞこの子。

「ん……最後の一口じゃ、ヌシらにやろう」

タピオカミルクティーを受け取って数秒後、未知の味に歓喜するサキヒコの声が聞こえてきた。

「んん……! これはまた独特な。うん、美味しかった……ごちそうさま」

見た目には全く減っていない。ストローを咥え啜ってみると、ほんのり甘いだけの水を飲んでいるようだった。
しおりを挟む
感想 530

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...