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お礼はシンプルに

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ミタマが人間である可能性の方が低くなってきた気がする。

「ハル、今日はどっか行きたいとこあるのか?」

「ハッキリとはないかな~。みっつんは? みっつんの観光を俺が案内したげるってのがそもそもじゃん?」

「そういえばそうだったな、でも神社はもう行ったし……お土産もホテルにある店で十分、ぁ、そうだ」

鞄に入れておいた、昨日買ったばかりのつげの櫛を取り出した。

「ハル、これプレゼント」

「えっ? なになに~? えっ!? つげ櫛じゃん!」

「欲しがってたろ?」

「欲しいなーとは思ってたけど~、言ったことないよね~……?」

ネザメに連れられて行った別荘でハルがサンの髪を弄っている時、サンの私物であるつげ櫛をハルは憧れの目で見ていたように感じた。俺の勘は当たっていたようだ。

「サンさんの櫛見てる時の目で何となく、な」

「え~、そんな物欲しそうな顔してたかなぁ、えへへ……ありがとみっつん、大好き!」

櫛のプレゼントを喜ぶのは髪の長いハルかサンくらいだろう、サンはもう兄から贈られた櫛を持っているから贈るのならハルしかない。一度櫛を贈ってみたかったんだ、小さな夢だったが叶ってよかった。

(レイどのも髪長いですし、わたくしが贈れば何でも喜びそうなのですが……あの方、髪の扱い割と雑なんですよな。服の中に突っ込んだままにしてたり、寝ぐせ放っておいたり、乾かすの中途半端にしてたり……)

早速前髪を梳いて使い心地を試しているハルをほっこりしながら見守る。

「えへへへ……超嬉しい…………あっ、ごめんごめんどこ行くかって話してたよね~。アキくん行きたいとこある?」

「…………さっき食ったばっかだからないってさ」

「あははっ、お店はご飯屋さんだけじゃないんだよ~? でもな~、アキくん洒落っ気ないからなぁ~……オシャレ興味ない? 可愛い服とかさ~」

アキは首を横に振っている。

「そっかぁ~、せーかは? 何かある?」

「えっ、ゃ……ない、かな」

「あっそぉ。んじゃ、えっと、ミタマだっけ?」

「コンちゃんと呼んどくれ」

「……じゃあコンちゃん、何か行きたいとこある?」

「そうじゃな、スクラッチとかどうじゃ? 近くにあるじゃろ、運試ししとぉないか?」

「スクラッチぃ? コンちゃんそういうの好きなの? まぁ~……数百円くらいなら付き合ってもいいかな~、行ってみよみっつん」

ぎゅ、とハルが俺の腕に抱きつく。昨日よりも生地が薄い服であることがハッキリ分かって、心臓が跳ねた。

「……こっちじゃの」

ミタマに先導され、猛暑の街を歩いていく。ハルに抱きつかれている腕が特に熱い、けれど昨日ハルの姉達に抱きつかれていた時のような不快感はない。

「ねっねっみっつん、俺ら昨日いいことしたからさ~……当たるんじゃない!? 宝くじ……!」

「……欲出すとダメだったりするけどな?」

「あっ、無欲無欲……ふふふ」

スクラッチに乗り気だった理由はそれか。

「こんなとこに宝くじあったんだ~。どうする? 一枚二百円で、十枚から……ぁ、数百円のとかないんだ~」

「五人居るから一人二枚ずつじゃの」

「みんなで買うの? 当たったらモメそ~」

「当たったらお昼ご飯にでも当てればいいんじゃないか?」

なんて話しながら四百円ずつ出し合ってスクラッチの宝くじ十枚セットを一組買った。売り場の脇に置いてある机を借り、二枚ずつ分ける。

「どれする? 俺は……これにしようかな」

「ん~……これとこれ!」

《俺これ》

「……ぁ、どうぞ、先選んで」

「ええのか? 優しい子じゃの」

ミタマにわしゃわしゃと頭を撫でられたセイカは最後に残った二枚を取った。十円玉を持ち、それぞれスクラッチを削っていく。

「おっ、二個並んだ……ぁー三つ目違う、なかなか当たんないよね~」

「あの、俺……当たった」

セイカが恐る恐る手を挙げた。スクラッチはビンゴと同じ形式を取っており、三つずつ三段並んだ九つある様々なマークの縦横斜めが同じマークなら当たりとなり、更にマークごとに当選額が変わる。

「これは……千円だな。すごいぞセイカ、運いいなぁ」

「でも、鳴雷にお金出してもらったし……これは鳴雷の……」

「セイカが選んだヤツなんだからセイカのだよ」

《スェカーチカ、これ同じマーク並びゃいいんだよな? 並んだぜ》

「え? あっ……秋風も千円当たってる」

下から二番目の額とはいえ十枚組の中から二枚も当たりが出るものなのか? スクラッチをやったのは初めてだからどれほど珍しいことなのかはよく分からないが、すごいことだと思っておこう。

「一枚目スカ~」

「はは、俺もだよ」

「ね~、アキくんとせーかいいな~……ぉ、ミカン二個並んだ……でも残り一個がな~、ぁ? ミカン……みかぁん! みっつんみっつんミカン三つ並んだぁ! 五万! 五万!」

「えっ……!? いや千円二つに五万一つの十枚組とかおかしいだろ流石に」

「だって同じマーク三つ並んだもん、ミカン!」

「一つハッサクとかじゃないか?」

「そんなややこしいの混じってないし~!」

確認させてもらうと確かに同じマークが三つ並んでいた。

「五万、五万かぁ……えへへっ、どうしよ、ヘアアクセも服もぉ~、ライブチケットも欲しいんだよね~。チケット販売まだ先だし、服にしちゃおっかな~」

ハルは早速五万円の使い方について考え始めた。俺は楽しそうな笑顔を見ているだけでいい、この二枚目もスカだったとしても悔しくないな。

「ん……? あれ」

「みっつんも当たった~?」

「……三つ並びました」

「マジ!? すごいじゃん、いくらいくら~?」

「ひゃく、ん……」

「百円? 最低当選額二百円じゃなかった?」

「百万……」

ハルが笑顔のまま固まる。セイカが俺の手元を覗き込む。

「……っそでしょ!? ホントに!? 百万はドクロ三つだよ? ホントにちゃんと三つある? アフロ生えてたりしない?」

「ちゃんと三つとも帽子被ったドクロだよ!」

俺のカードを奪い取って何度も確認し、ハルは驚嘆の顔のまま俺にカードを返した。

「ヤバ……」

自分の五万のことなんて忘れているんじゃないだろうか。

「コンちゃんは……コンちゃん?」

ミタマも当たったのではないかとハルが彼を探すも、席に座ったはずの彼の姿はない。立ち上がって回り込んでみると地面にへたり込んだミタマの姿があった。

「はぁっ……はぁっ……」

「コンちゃん!? どうしたの、大丈夫!?」

「つ、疲れた……この程度で疲れるなど、情けない……大丈夫じゃ、すまんの心配かけて……」

「立てる? 手ぇ貸すよ」

「む……すまんの」

差し伸べた手の上に置かれた手は小さく、黒い毛だらけで、鋭い爪があり、手のひらには肉球の感触がある。ネザメの家で飼っている犬にお手をさせた時と似た感触だ。

「む? どうしっ……!?」

ポンっ、と卒業証書を入れる筒の蓋を外したような音が鳴り、犬のような手が人間のものへと変わった。

「………………見たか?」

「何を?」

俺は微笑んで誤魔化し、ミタマの手を引いて立ち上がらせた。
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