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初めてのフルコース
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ファミレスで席に着いた後のようにメニューを見て注文をするのではなく、既に出される物は決まっている。この夜景の見えるレストランで母が予約してくれたのはフルコース料理だ。もちろん追加注文も出来るだろうけど、その必要はないだろう。
「オードブル、季節の野菜のサラダでございます」
何か返事した方がいいのかな。
「どうも……」
出された皿の上には夏野菜で作られた少量のサラダがある。三口ほどで食べ終えられそうだ。
(これ……全部食べていいヤツなんでしょうか)
花、あるんだけど。食用花ってヤツ? それともただの飾り? 高級料理名物命中率の低いソースがちょっとかかってるから、やっぱり食用花なのかな、避けるには多いし……箸ならともかくフォークやスプーンで避けるのちょっと難しいし。
(えぇいもう考えていても仕方ない、食べまそ! もし食べちゃダメなヤツだったとしても、皿の上に食えない物載せた方が悪いのでそ!)
食用でないにしても毒のあるものではないだろう、そう考えて俺は花ごとサラダを食べた。
(……草臭っ! 花……草の味がすりゅ……他の野菜も草っぽい……ソースもっとかけて欲しいでそ。ぁ、トマト、トマトは普通にトマト……)
数百円のツナサラダの方がずっと美味いのだが……これは俺が高級料理に慣れていないからだろうか。
《味よく分かんないな……秋風はどうだ?》
《草って感じ》
次、次だ。美味しく食べられるものもあるはずだ。
「オードブル二品目、白身魚と野菜のテリーヌでございます」
テリーヌが何なのかはよく分からないが、白身魚なら味付けがあろうがなかろうが、どんなものだろうが美味しいはずだ。
(上品なかまぼこ……いえ、かまぼこに味が似てるとかそういう訳じゃないんですけど……)
テリーヌが何なのか食べても感覚を掴めなかったけれど、よかった、美味しい。
《美味い。何か分かんねぇけど》
《テリーヌ……鳥とか魚をペーストにして作る料理だ、これは魚だってさ》
《確かに魚っぽいわ》
食器が手元にたくさんあるのだが、これは料理ごとに使い分けるべきなのか? 母め、フルコース料理を予約したならそうと事前に言ってくれ、マナーが全く分からない。恥をかいているんじゃないだろうか。
「ポタージュ、ヴィシソワーズでございます」
ヴィ……何て?
(真っ白……ぁ、美味しい。何でしょうこれ、クリーミー……芋? 芋スープ?)
料理名は聞き取れなかったし食材もよく分からないが、美味しい。
《……持ち上げて口付けて飲んじゃダメか? やっぱり》
《ダメだろ、スプーンですくえ》
前菜が草感たっぷりであまり楽しめなかったのは単に俺が野菜をあまり好きではなかったからなのかな。テリーヌもヴィシ何とかも美味しかった。
「ポワソン、鯛のソテーでございます」
天気によって姿が変わりそうな名前だ。
(鯛はそりゃ当然美味しいでそ。ご丁寧に骨も全部抜いてあるみたいですな、安心して食べられまそ~)
個人的にはソースより塩焼きの方が好きだな、と庶民風な感想を抱いた。
《めっちゃ美味い》
《鯛だからな……魚の王様だぞ》
《魚の王様ってシャチじゃねぇの?》
《シャチは哺乳類だぞ》
アキの口数が多い、気に入ったのかな?
「フランボワーズのソルベでございます」
ソルベ……輪切りの? じゃなくて、シャーベットのことだな。冷たくて美味しい、まだ腹は膨れていないのだがフルコースはこれで終わりなのか? 肉料理は? 魚料理があったからナシ?
《美味い、ラズベリーかな?》
《イチゴだと思ってた》
もう終わりなら追加注文がしたいなぁと思っていると、待ちに待った肉料理が運ばれてきた。
「アントレ、骨付き肉のステーキでございます」
そういう分かりやすいご馳走を待っていたんだよ! と内心はしゃぎながら皿が目の前に置かれるのを待つ。
「フィンガーボールでございます」
水が入ったボウルも置かれた。これは小学生の時に道徳の教科書で見た「女王のフィンガーボール」に出てきていたあのフィンガーボールじゃないか。飲み水じゃなくて指を洗うヤツなんだよな、ってことはこの骨付き肉は手掴みで食べていいのか。
《あっこら秋風それ飲むもんじゃない!》
《えっ、口直し用じゃねぇの》
《指洗うヤツだよ……女王のフィンガーボールって話知らないか? 全部飲んじゃったのか、マジかよ。俺の水使っていいぞ》
アキ、飲まなかったか? あぁ、セイカと共用になった……
(やっぱりステーキが最高のご馳走でそ! 肉、最高! どんなに手の込んだ料理も焼いた肉には敵いませんよな~)
まぁ、一言に焼くと言っても下拵えや焼き方には結構手が込んでいるステーキもあるのだが。
「アントルメ、ムースショコラでございます」
とうとうデザートが現れた。ケーキのように見えるが、ムースと言っていたからスポンジはないんだな。
(う~ん、クリーミィ! 美味しいでそ~)
甘くて美味しい。スイーツ好きのセイカも喜んでいるはずだと視線をやってみる。
《甘~、美味いなぁ》
《うん、幸せ……》
アキもセイカも口角を上げて幸せそうな表情になっている。可愛い。
「フルーツタルトでございます」
まさかデザートが二段構えだとは……セイカが珍しく目を輝かせている。いつも死んだ魚のような目をしているのに。
《チョコも美味かったけどフルーツもいいな》
《幸せ過ぎて死にそう》
みずみずしいフルーツはもちろん、サクサクとした生地も美味しい。ビスケット生地とフルーツを繋ぐクリームも美味しい、果汁を吸っているのがまた、イイ!
「カフェ・ブティフールでございます」
コーヒーとカヌレが二つ出された。フルコース料理ってデザート多めなんだなぁ、なんて単純過ぎる感想を抱きつつ食後のコーヒーを飲む。
(にっっがぁっ! 苦いでそ苦いでそカヌレカヌレ……ふぅ、コーヒーもうちょいミルクとお砂糖入れて欲しいですな)
苦いコーヒーを眉を顰めて飲み干し、最後にカヌレで後味を整えた。
「オードブル、季節の野菜のサラダでございます」
何か返事した方がいいのかな。
「どうも……」
出された皿の上には夏野菜で作られた少量のサラダがある。三口ほどで食べ終えられそうだ。
(これ……全部食べていいヤツなんでしょうか)
花、あるんだけど。食用花ってヤツ? それともただの飾り? 高級料理名物命中率の低いソースがちょっとかかってるから、やっぱり食用花なのかな、避けるには多いし……箸ならともかくフォークやスプーンで避けるのちょっと難しいし。
(えぇいもう考えていても仕方ない、食べまそ! もし食べちゃダメなヤツだったとしても、皿の上に食えない物載せた方が悪いのでそ!)
食用でないにしても毒のあるものではないだろう、そう考えて俺は花ごとサラダを食べた。
(……草臭っ! 花……草の味がすりゅ……他の野菜も草っぽい……ソースもっとかけて欲しいでそ。ぁ、トマト、トマトは普通にトマト……)
数百円のツナサラダの方がずっと美味いのだが……これは俺が高級料理に慣れていないからだろうか。
《味よく分かんないな……秋風はどうだ?》
《草って感じ》
次、次だ。美味しく食べられるものもあるはずだ。
「オードブル二品目、白身魚と野菜のテリーヌでございます」
テリーヌが何なのかはよく分からないが、白身魚なら味付けがあろうがなかろうが、どんなものだろうが美味しいはずだ。
(上品なかまぼこ……いえ、かまぼこに味が似てるとかそういう訳じゃないんですけど……)
テリーヌが何なのか食べても感覚を掴めなかったけれど、よかった、美味しい。
《美味い。何か分かんねぇけど》
《テリーヌ……鳥とか魚をペーストにして作る料理だ、これは魚だってさ》
《確かに魚っぽいわ》
食器が手元にたくさんあるのだが、これは料理ごとに使い分けるべきなのか? 母め、フルコース料理を予約したならそうと事前に言ってくれ、マナーが全く分からない。恥をかいているんじゃないだろうか。
「ポタージュ、ヴィシソワーズでございます」
ヴィ……何て?
(真っ白……ぁ、美味しい。何でしょうこれ、クリーミー……芋? 芋スープ?)
料理名は聞き取れなかったし食材もよく分からないが、美味しい。
《……持ち上げて口付けて飲んじゃダメか? やっぱり》
《ダメだろ、スプーンですくえ》
前菜が草感たっぷりであまり楽しめなかったのは単に俺が野菜をあまり好きではなかったからなのかな。テリーヌもヴィシ何とかも美味しかった。
「ポワソン、鯛のソテーでございます」
天気によって姿が変わりそうな名前だ。
(鯛はそりゃ当然美味しいでそ。ご丁寧に骨も全部抜いてあるみたいですな、安心して食べられまそ~)
個人的にはソースより塩焼きの方が好きだな、と庶民風な感想を抱いた。
《めっちゃ美味い》
《鯛だからな……魚の王様だぞ》
《魚の王様ってシャチじゃねぇの?》
《シャチは哺乳類だぞ》
アキの口数が多い、気に入ったのかな?
「フランボワーズのソルベでございます」
ソルベ……輪切りの? じゃなくて、シャーベットのことだな。冷たくて美味しい、まだ腹は膨れていないのだがフルコースはこれで終わりなのか? 肉料理は? 魚料理があったからナシ?
《美味い、ラズベリーかな?》
《イチゴだと思ってた》
もう終わりなら追加注文がしたいなぁと思っていると、待ちに待った肉料理が運ばれてきた。
「アントレ、骨付き肉のステーキでございます」
そういう分かりやすいご馳走を待っていたんだよ! と内心はしゃぎながら皿が目の前に置かれるのを待つ。
「フィンガーボールでございます」
水が入ったボウルも置かれた。これは小学生の時に道徳の教科書で見た「女王のフィンガーボール」に出てきていたあのフィンガーボールじゃないか。飲み水じゃなくて指を洗うヤツなんだよな、ってことはこの骨付き肉は手掴みで食べていいのか。
《あっこら秋風それ飲むもんじゃない!》
《えっ、口直し用じゃねぇの》
《指洗うヤツだよ……女王のフィンガーボールって話知らないか? 全部飲んじゃったのか、マジかよ。俺の水使っていいぞ》
アキ、飲まなかったか? あぁ、セイカと共用になった……
(やっぱりステーキが最高のご馳走でそ! 肉、最高! どんなに手の込んだ料理も焼いた肉には敵いませんよな~)
まぁ、一言に焼くと言っても下拵えや焼き方には結構手が込んでいるステーキもあるのだが。
「アントルメ、ムースショコラでございます」
とうとうデザートが現れた。ケーキのように見えるが、ムースと言っていたからスポンジはないんだな。
(う~ん、クリーミィ! 美味しいでそ~)
甘くて美味しい。スイーツ好きのセイカも喜んでいるはずだと視線をやってみる。
《甘~、美味いなぁ》
《うん、幸せ……》
アキもセイカも口角を上げて幸せそうな表情になっている。可愛い。
「フルーツタルトでございます」
まさかデザートが二段構えだとは……セイカが珍しく目を輝かせている。いつも死んだ魚のような目をしているのに。
《チョコも美味かったけどフルーツもいいな》
《幸せ過ぎて死にそう》
みずみずしいフルーツはもちろん、サクサクとした生地も美味しい。ビスケット生地とフルーツを繋ぐクリームも美味しい、果汁を吸っているのがまた、イイ!
「カフェ・ブティフールでございます」
コーヒーとカヌレが二つ出された。フルコース料理ってデザート多めなんだなぁ、なんて単純過ぎる感想を抱きつつ食後のコーヒーを飲む。
(にっっがぁっ! 苦いでそ苦いでそカヌレカヌレ……ふぅ、コーヒーもうちょいミルクとお砂糖入れて欲しいですな)
苦いコーヒーを眉を顰めて飲み干し、最後にカヌレで後味を整えた。
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