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ぬいぐるみは家族と思え

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腰を抜かした俺を一瞥したセイカは能面を被ったままのアキからスマホを受け取り、テディベアを色んな角度から撮り始めた。

「…………ア、アキ? そのお面被って背後に立つのやめようか、お兄ちゃん死神の目契約したくらい寿命減ったよ。まだ心臓ドコドコ鳴ってる……はぁ、もう、びっくりしたぁ。セイカよく驚かなかったな」

「気に入ったみたいでずっと被ってるからな、流石に慣れた」

アキは紫外線対策のため長袖長ズボンの黒い服を着ており、白い能面の存在感が余計に際立っているように感じる。

「なんで気に入ったんだ……いや俺も売ってたら買っちゃう自信あるから言えないけど。木刀も買ったんだって? はしゃいだ修学旅行生かよ。まぁ、俺も見かけたら木刀買うから何も言えないけど……」

「言えなくなり過ぎだろ似た者兄弟め」

「……買わないか? 能面、木刀……買うだろ?」

能面はともかく木刀は全ての高校生男子が買うだろう。いや、中学生男子、のみならず小学生男子もか……ひょっとしたら大学生社会人でも買うかもしれない。

「買わねぇよ……」

「セイカは何か買ったか?」

「え、いや、何も」

「お小遣い渡してあるだろ? 足りなかったか?」

「いや……」

セイカは俺や母が渡した金は遠慮して使わないようにしてしまいがちだ。そもそも金を使うのに慣れていないのもあるだろう。

「せっかく旅行に来た記念なんだから、一個くらいお土産買ったらいいと思うぞ。ホテルの一階にお土産屋さんあったし……夕飯の後あっちもちょっと見てみるか」

「……うん」

「…………無理にとは言ってないぞ? 欲しい物あったら遠慮も躊躇もしなくていいぞってだけだからな」

「うん、大丈夫……分かってる。鳴雷優しいし、自由にさせてくれる……」

まだ浮かない顔をしているのが気になって、頬を撫でてリラックスさせつつ優しい眼差しを向けてみる。話してくれるだろうか。

「…………鳴雷」

「ん?」

「鳴雷が、俺に好きにしていいって言ってくれるの嬉しいけど……ないんだよ、やりたいこと……欲しい物、ないんだ。だから……その、欲しい物とか、聞かれても…………困る」

「…………」

「あっ、こ、困るって言ったらなんかっ、鳴雷悪いみたいだけど、違うんだ……悪いのは俺だよ。自分がない……鳴雷は多分、我の強いヤツのが好きだろ、他のヤツ見てたら分かる…………みんな趣味とか、欲しい物分かってる。俺は……何にもない、だから……人間的な魅力ってヤツも、ない。俺なんか…………鳴雷、鳴雷まだ……ほんとに、俺が好き? 今放り出したら俺どうしようもなくなるから……義務感とか、優しさとかで……面倒見てくれてるだけじゃない?」

黙って見つめていると、セイカはゆっくりとだが本心を話してくれた。

「……俺はそんなにいい人間じゃないよ。下心なしに人一人家に置いとくなんて出来ない」

「下心……ぁ、すぐにヤれるってこと?」

「うーん……いつでも顔が見られて、いつでも可愛がれて、いつでも抱けるってのは確かにセイカを家に置いてるメリットなんだけど……最大のメリットはやっぱり、俺の物に勝手に誰も傷を付けないってことかな?」

刈り上げたけれど少し伸びてきた髪を撫でるのをやめ、セイカの右腕の先端を握る。

「俺のなのに勝手に体積減るなんて、ありえないからな。ちゃんといっぱい食べさせて、好きなことさせて、ストレスのない環境で健康にしていかないと」

攫ってきたばかりの頃と比べたら随分マシになったけれど、まだまだ細い腹を掴む。

「欲しい物がない、好きなことがないってのも別にいいよ、いつか出来るかもしれないし……俺のことは好きだろ? アキのことも。セイカは趣味や物欲の分俺達のこと愛してくれてるんだ、嬉しいよ」

「…………」

「ごめんな、不安にさせちゃって。愛情の証明なんか出来ないけどさ……ちゃんと愛してるし、セイカの好きなようにしていいんだよ、何したいのか分からないなら何もしなくていいってことまで含めての、好きなようにしていい、だからな」

「…………うん、ごめんなさい……面倒臭いことばっかり言って」

「セイカが話してくれたからちょうどいい時間になったよ、晩ご飯食べに行こう。今日もご馳走だぞ~?」

「ご馳走……ぁ、ご飯は、好き。あんまり量食べられないけど、美味しい物は好き」

ほんの少し笑顔が戻ったセイカに、アキに能面を外すよう言ってくれと頼んでレストランへ向かう準備をした。準備と言っても軽く髪型を整え、着替えただけだ。

《行こうぜ兄貴。晩飯晩飯~》

「あぁ、行こう……セイカ、クマは置いて行こう?」

「……レストラン、室内だろ?」

「ご飯ってなったらほら、ソースとかスープとか飛ぶかもだし」

「抱えたまま食べないから……」

今日はやけに粘るな。不安を吐露したばかりだからまだ不安定なのだろうか? 俺では力不足だっただろうか。

「うーん……気を付けるんだぞ?」

俺がセイカにテディベアを置いて行くよう都度言うのは、他人の目を引くのが嫌だからだ。俺は汚れなんて気にしていない。しかし人目を引くどうこうではセイカを説得出来ないので、汚さないと言うなら許容するしかない。手足の欠損より大きなテディベアより俺の顔の方が人目を引くのだから、今日くらい我慢しよう。



最上階のレストランへ向かい、予約席である窓際のテーブルに着く。椅子は四脚用意されており、テディベアを座らせる場所もあった上、従業員はテディベアにナプキンを着けてくれた。

「可愛い……鳴雷、撮っていいかな」

テディベアの前にも食器が用意されていく。サービスのいいホテルだと思うべきだろうか、と喜ぶセイカを見てほっこりした。
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