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腕、欲しい
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夜景の見えるレストランでの食事を終え、約束通り一階の土産屋に向かった。
「さっきのご飯……お金は払ってあるのか? 後でまとめて請求?」
「母さんがやってくれてるはずだよ」
「ふーん……」
「ほら、着いたぞお土産屋さん。欲しい物あったら何でも言えよ、アキもな」
テディベアを抱いたセイカを連れて店内を物色する。お土産として和菓子を何箱か買って帰ろうかな、食べ物はやはり帰る寸前に買うのがいいだろうから今は見るだけにしておこう。
「お、がま口ポーチ。ほら見ろセイカ、可愛いぞ、欲しくないか?」
「女物だろ……」
「ポーチに男も女もないだろ?」
「……男がポーチ持つか? 何入れるんだよ、女なら化粧品とか色々入れるんだろうけど」
「甘いぞセイカ、もはや化粧は女性の特権じゃない」
ハルは今日のデート中もメイク直しのため頻繁に姿を消し──え? ハルは一般的な男とは少し違う?
「化粧必要ねぇツラが何言ってんだか、それとも化粧しろよブスって嫌味か?」
「確かに母さんがメイクしてるとこ見たことないし俺は要らないか……ってそんな嫌味俺が言うわけないだろ!?」
「ふふっ、うん、冗談、ごめん」
「もぉ~……ドキドキさせてくれるなぁ」
しかし、小物入れやコスメなど女性向けの雑貨ばかり見当たるのは事実だ。お土産を買って観光地に金を落とすのは女性が多いのだろうか。
「ん……? おぉ、におい袋だ」
「におい?」
「いい匂いするんだよ、ほら」
セイカの顔の前ににおい袋を近付けてやると、彼は鼻を寄せて匂いを嗅いだ。
「ほんとだ……どう使うの?」
「持ち歩いて、たまに嗅いでリラックスする用とか……やる気出す用とか。ぁ、これ防虫効果あるって書いてるからタンスとかに入れとくのかな」
「ふーん」
「欲しいか?」
「別に……いい匂いだけど好きな匂いじゃないし」
「種類色々あるぞ」
「……俺、好きな匂いは一つだけあって、その匂いじゃないならいい匂いでも嫌な匂いでも、何でも……どうでもいい」
言い終えるとセイカはふいっと顔を背けた。俺は持っていたにおい袋を置き、セイカの隣に並んだ。
「じゃあ部屋帰ろっか」
「……鳴雷は何も買わなくていいの?」
「ゃ、一個買ったぞ、つげの櫛」
「それだけ?」
「あぁ、お土産にお菓子とか買おうと思ってるけど、食べ物はやっぱ新鮮なのがいいからそれは出発前に買うつもり」
「ふぅん……」
興味なさげに店内をウロウロしていたアキを呼び寄せ、部屋に戻った。セイカがテディベアをベッドに置いたのを確認してすぐに彼を抱き締めた。
「……っ!? ちょ、な、何っ……鳴雷っ?」
「どうだ? セイカの好きな匂い、するか?」
「え……? ぁ…………ぅ、うん……する。鳴雷の……匂い」
左手で俺のシャツをきゅっと掴んだセイカはすんすんと鼻を鳴らしながら顔を動かす。匂いの濃い場所を探しているのだろう彼の鼻は脇のところで止まった。
(脇嗅がれるのは恥ずいでそセイカどの~! しかし、うぅむ……我慢しまそ。すんすんしててかわゆいですし……羞恥心は一旦しまっちゃおうね~でそ)
セイカが満足するまで俺は羞恥心を押し殺して過ごし、彼が満たされた笑顔で離れたら二人でソファに座った。
「鳴雷……」
「ん?」
テレビを点け、アニメ映画の放送を待つ。眺めていたCMから目を離し、セイカの方を向く。
「…………腕、その……欲しい」
「腕? そっか……」
いくらするのか知らないが、俺の小遣いでは義手は買ってやれない。母に頭を下げるか……と考えているとセイカは俺の左腕を弱々しく引っ張った。
「……ありがと」
引っ張られるのに合わせて手を動かすと、セイカは俺の手を太腿に挟み、腕を抱き締め、肩に頭をもたれさせた。
(あっ腕ってわたくしの? ふぉお~余計なこと言わなくてよかったぁ~!)
安堵のため息をつき、テレビに視線を戻す。映写機を回すディフォルメされたおじいさんが映っている。
「……セイカ、今日の昼どうだった? 俺ハルに引っ張られて二人デート始めちゃってさぁ……ごめんな放ったらかして。アキと二人で大丈夫だったか? っていうか……アキがサングラス取られた件、詳しく聞きたいんだけど」
「ぁ……えっと」
「あぁごめん一気に話しちゃって。今日あったこと全部、時系列順に話してくれるか?」
「ぜ、全部? えっと……霞染が、ほら、なんか……布の、飾りの店に連れてったじゃん、俺達」
「つまみ細工だな」
「そう言うんだ……えっと、お前が霞染とこそこそしてる間、俺も秋風とウロウロしてて……そしたら霞染が秋風の顔見たいって言い出して」
「ストップ、お姉さん達のことはハルと呼び方分けてくれ。姉A姉B姉Cで頼む」
「……姉、Cが……秋風の顔見たいって言い出して……AとBも、ノってきて」
俺はまだハルの姉達の判別が怪しいのに、セイカはちゃんと見分けが付いている風なのは腹立たしい。あの女共、セイカの記憶容量勝手に使いやがって。
「秋風は言葉分かってないから寄ってこられても理由分かってなくて、俺は秋風がサングラス外せないこと説明したんだけど、聞かずに説明の途中でBがサングラスに触ろうとして……秋風に手ぇぶっ叩かれてた」
ハルの姉が三人ともアキの元に居たから俺とハルは二人で抜け出すことが出来たのか。
「その後えげつない空気になって……Cは謝ってくれて、AとBは話題変えてお前探しに行って、居ないって気付いて、全員大騒ぎで……その隙に俺達も抜け出した」
「なるほど。その後はイチャコラ楽しい時間だったって訳だ、俺と同じく」
セイカが当時を思い出して暗い表情になっていたので、少々おどけてみた。ツッコミ待ちの発言なのにいつまで経ってもセイカが何も言ってこない、俯いた彼の耳は赤く染まっていた。
「……セイカ?」
「あっ……ご、ごめん。うん……まぁ、そう、そんな感じ。秋風が勝手にウロウロするのに俺が着いてって、秋風はお菓子色々買って、半分ずつ俺にくれて……美味しくて、楽しかった」
「イチャコラはあったんですね!?」
「い、いちゃこらって何」
「イチャイチャしてたのかって聞いてんだぜセイカ様ぁ! アキと恋人繋ぎしたりキスしたりしてたんだろアァン!? 薔薇製百合この目で見だがっだでござりゅゔ!」
「……手は繋いでないけど、おんぶしてもらったり抱っこしてもらったり、食べさせ合ったりはした」
「イチャコラしとるぅぅ! キ、キスは、キスはあったんですか!」
「ちょ……ちょっと、だけ。そんな……ガッツリじゃ、ない」
「アォォオオォオン!」
「…………アンビリカルケーブル切れた後も動いてる機体のモノマネ」
「俺の好きなアニメの知識着実につけてってくれててめちゃくちゃ嬉しいでそセイカ様ぁ! モノマネのつもりなどありませんでしたがな!? よ~し、使徒食ってる時の形態模写するから見ててくだされ!」
アキとセイカのデートの模様を妄想し、萌え、テンションが上がり過ぎて四つん這いでソファの周りを這い回る俺を見下ろし、セイカは「ハハっ……」と乾いた笑いを見せてくれた。
「さっきのご飯……お金は払ってあるのか? 後でまとめて請求?」
「母さんがやってくれてるはずだよ」
「ふーん……」
「ほら、着いたぞお土産屋さん。欲しい物あったら何でも言えよ、アキもな」
テディベアを抱いたセイカを連れて店内を物色する。お土産として和菓子を何箱か買って帰ろうかな、食べ物はやはり帰る寸前に買うのがいいだろうから今は見るだけにしておこう。
「お、がま口ポーチ。ほら見ろセイカ、可愛いぞ、欲しくないか?」
「女物だろ……」
「ポーチに男も女もないだろ?」
「……男がポーチ持つか? 何入れるんだよ、女なら化粧品とか色々入れるんだろうけど」
「甘いぞセイカ、もはや化粧は女性の特権じゃない」
ハルは今日のデート中もメイク直しのため頻繁に姿を消し──え? ハルは一般的な男とは少し違う?
「化粧必要ねぇツラが何言ってんだか、それとも化粧しろよブスって嫌味か?」
「確かに母さんがメイクしてるとこ見たことないし俺は要らないか……ってそんな嫌味俺が言うわけないだろ!?」
「ふふっ、うん、冗談、ごめん」
「もぉ~……ドキドキさせてくれるなぁ」
しかし、小物入れやコスメなど女性向けの雑貨ばかり見当たるのは事実だ。お土産を買って観光地に金を落とすのは女性が多いのだろうか。
「ん……? おぉ、におい袋だ」
「におい?」
「いい匂いするんだよ、ほら」
セイカの顔の前ににおい袋を近付けてやると、彼は鼻を寄せて匂いを嗅いだ。
「ほんとだ……どう使うの?」
「持ち歩いて、たまに嗅いでリラックスする用とか……やる気出す用とか。ぁ、これ防虫効果あるって書いてるからタンスとかに入れとくのかな」
「ふーん」
「欲しいか?」
「別に……いい匂いだけど好きな匂いじゃないし」
「種類色々あるぞ」
「……俺、好きな匂いは一つだけあって、その匂いじゃないならいい匂いでも嫌な匂いでも、何でも……どうでもいい」
言い終えるとセイカはふいっと顔を背けた。俺は持っていたにおい袋を置き、セイカの隣に並んだ。
「じゃあ部屋帰ろっか」
「……鳴雷は何も買わなくていいの?」
「ゃ、一個買ったぞ、つげの櫛」
「それだけ?」
「あぁ、お土産にお菓子とか買おうと思ってるけど、食べ物はやっぱ新鮮なのがいいからそれは出発前に買うつもり」
「ふぅん……」
興味なさげに店内をウロウロしていたアキを呼び寄せ、部屋に戻った。セイカがテディベアをベッドに置いたのを確認してすぐに彼を抱き締めた。
「……っ!? ちょ、な、何っ……鳴雷っ?」
「どうだ? セイカの好きな匂い、するか?」
「え……? ぁ…………ぅ、うん……する。鳴雷の……匂い」
左手で俺のシャツをきゅっと掴んだセイカはすんすんと鼻を鳴らしながら顔を動かす。匂いの濃い場所を探しているのだろう彼の鼻は脇のところで止まった。
(脇嗅がれるのは恥ずいでそセイカどの~! しかし、うぅむ……我慢しまそ。すんすんしててかわゆいですし……羞恥心は一旦しまっちゃおうね~でそ)
セイカが満足するまで俺は羞恥心を押し殺して過ごし、彼が満たされた笑顔で離れたら二人でソファに座った。
「鳴雷……」
「ん?」
テレビを点け、アニメ映画の放送を待つ。眺めていたCMから目を離し、セイカの方を向く。
「…………腕、その……欲しい」
「腕? そっか……」
いくらするのか知らないが、俺の小遣いでは義手は買ってやれない。母に頭を下げるか……と考えているとセイカは俺の左腕を弱々しく引っ張った。
「……ありがと」
引っ張られるのに合わせて手を動かすと、セイカは俺の手を太腿に挟み、腕を抱き締め、肩に頭をもたれさせた。
(あっ腕ってわたくしの? ふぉお~余計なこと言わなくてよかったぁ~!)
安堵のため息をつき、テレビに視線を戻す。映写機を回すディフォルメされたおじいさんが映っている。
「……セイカ、今日の昼どうだった? 俺ハルに引っ張られて二人デート始めちゃってさぁ……ごめんな放ったらかして。アキと二人で大丈夫だったか? っていうか……アキがサングラス取られた件、詳しく聞きたいんだけど」
「ぁ……えっと」
「あぁごめん一気に話しちゃって。今日あったこと全部、時系列順に話してくれるか?」
「ぜ、全部? えっと……霞染が、ほら、なんか……布の、飾りの店に連れてったじゃん、俺達」
「つまみ細工だな」
「そう言うんだ……えっと、お前が霞染とこそこそしてる間、俺も秋風とウロウロしてて……そしたら霞染が秋風の顔見たいって言い出して」
「ストップ、お姉さん達のことはハルと呼び方分けてくれ。姉A姉B姉Cで頼む」
「……姉、Cが……秋風の顔見たいって言い出して……AとBも、ノってきて」
俺はまだハルの姉達の判別が怪しいのに、セイカはちゃんと見分けが付いている風なのは腹立たしい。あの女共、セイカの記憶容量勝手に使いやがって。
「秋風は言葉分かってないから寄ってこられても理由分かってなくて、俺は秋風がサングラス外せないこと説明したんだけど、聞かずに説明の途中でBがサングラスに触ろうとして……秋風に手ぇぶっ叩かれてた」
ハルの姉が三人ともアキの元に居たから俺とハルは二人で抜け出すことが出来たのか。
「その後えげつない空気になって……Cは謝ってくれて、AとBは話題変えてお前探しに行って、居ないって気付いて、全員大騒ぎで……その隙に俺達も抜け出した」
「なるほど。その後はイチャコラ楽しい時間だったって訳だ、俺と同じく」
セイカが当時を思い出して暗い表情になっていたので、少々おどけてみた。ツッコミ待ちの発言なのにいつまで経ってもセイカが何も言ってこない、俯いた彼の耳は赤く染まっていた。
「……セイカ?」
「あっ……ご、ごめん。うん……まぁ、そう、そんな感じ。秋風が勝手にウロウロするのに俺が着いてって、秋風はお菓子色々買って、半分ずつ俺にくれて……美味しくて、楽しかった」
「イチャコラはあったんですね!?」
「い、いちゃこらって何」
「イチャイチャしてたのかって聞いてんだぜセイカ様ぁ! アキと恋人繋ぎしたりキスしたりしてたんだろアァン!? 薔薇製百合この目で見だがっだでござりゅゔ!」
「……手は繋いでないけど、おんぶしてもらったり抱っこしてもらったり、食べさせ合ったりはした」
「イチャコラしとるぅぅ! キ、キスは、キスはあったんですか!」
「ちょ……ちょっと、だけ。そんな……ガッツリじゃ、ない」
「アォォオオォオン!」
「…………アンビリカルケーブル切れた後も動いてる機体のモノマネ」
「俺の好きなアニメの知識着実につけてってくれててめちゃくちゃ嬉しいでそセイカ様ぁ! モノマネのつもりなどありませんでしたがな!? よ~し、使徒食ってる時の形態模写するから見ててくだされ!」
アキとセイカのデートの模様を妄想し、萌え、テンションが上がり過ぎて四つん這いでソファの周りを這い回る俺を見下ろし、セイカは「ハハっ……」と乾いた笑いを見せてくれた。
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