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次元が違えば好みも違う
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コミケ二日目が終わった。まさかハルに会うとは思っていなかった……びっくりした、心臓に悪い、寿命ちょっと縮んだ。
(パイセンも来るとは言ってましたが、まぁ人多いですし広いですし出会う方が奇跡ですよな)
自宅に帰り、一人静かに夕飯を取り、アキの部屋へ。
「よっ、ただいま。アキ、セイカ」
「おかえり」
「おかえりなさいです、にーに」
アキはセイカを背に乗せて腕立て伏せをしていた。片手で。
「重りやってるのか、セイカ」
「うん……これ俺の体幹も結構鍛えられるから、ウィンウィン」
「そうなんだ……あのさ、今日コミケでハルに会ってさぁ、意外だよなハルがコミケ来てるなんて。まぁお姉さんの付き添いだったんだけど結構本格的なコスプレまでしてて……セイカ?」
ハルの名前を出した途端、セイカの表情が一変した。
「……ハル、まだ苦手か?」
「ぁ、いや…………あのさ、霞染に漫画オススメされてさ、読んでさぁ……霞染すっごい正義感強いヤツなのに、霞染が好きだって言ってたキャラがめっちゃ酷くてびっくりしてて……びっくりし過ぎて、その先読めてなくてさぁ」
「そうなのか……まぁ二次元と三次元は別物だよ」
「鳴雷も女の子のふゅぎゅあ……ふゅぎゅいあ……? 持ってるもんな」
「フィギュア、な。女の子キャラの方が髪長かったりスカートヒラヒラしてたりでフィギュア映えするってのもあるんだけど……二次元だったら女の子も普通に好きだからな、俺。抜きはしないけど」
触れ合えない存在であるならば、性別など些細な壁だ。
「俺が女の子苦手なのは、そもそも興味ないってのに加えて今までめちゃくちゃキモがられてきたからで……席替えで隣の席になったら号泣されて、拾ってあげた消しゴムを鉛筆を箸替わりにして捨てられて、ってされてきたからってだけで……二次元の女の子はそんなことしてこないからな」
「……確かにお前昔はキモかったけど、可愛げあったしよく見たら顔整ってたのに……そこまで嫌われるもんなのか?」
「ゴキブリと同じ次元に居たと思う。で、この通り超絶美形という本来の姿を手に入れたらもーすっごいモテっぷりでさぁ……高低差で浮き袋出ちゃいそう」
「深海魚かよ」
暗いところでウゾウゾしている気持ち悪い生物、という点では一緒だな。まぁ俺は深海魚を気持ち悪いと思ったことないけど。あの謎に満ちた生態とかワクワクしない?
《筋トレ終わり~っと。風呂入って寝るわ》
「鳴雷、秋風風呂入って寝るって」
「あぁ……もうそんな時間だな。俺今日はシャワーだけでいいや、プール横のん借りるよ」
「ぁ、うん……」
シャワーを浴びて汗を流した俺は、すぐに自室に戻って睡眠を取った。一人でゆっくりと眠り、起き、朝食をパッと済ませて電車に揺られながら、ふと気付いた。
「…………サキヒコくん?」
サキヒコに取り憑かれている感覚がない。この身体の軽さはいつからだった? 何故もっと早く気付かなかった、コミケで浮かれ過ぎていた。まさか消えてしまったのでは?
「……っ、サキヒコくんっ、居る? 居るよね? 一回肩に乗ったりしてくれるっ?」
あの身体の重さが、体温が下がる感覚がない。焦った俺は唯一サキヒコを視認し会話が出来る人物、フタに電話をかけた。
『んん……もしもーし? ふわぁああ……なにぃ?』
「フ、フタさんっ? 俺です! 水月です!」
『みつきぃ? あはっ、どったの。今めっちゃ朝だけどぉ……』
「サキヒコくんが居ない気がしてっ、いつから居ないか分からなくて! フタさんとデートした次の日は居ましたよね!? その時なんか消えそうだったりしませんでしたか!?」
フタに過去のことを聞くなんて無駄だとは分かっていたけれど、聞かずにはいられなかった。
『サキちゃん? あぁサキちゃん……サキちゃーん! みつき呼んでる~!』
「…………えっ? そ、そっちに居るんですか?」
『そっちに居るってぇ?』
「フタさんのところに、サキヒコくん居るんですか?」
『……? うん、電話代わる?』
サキヒコは消滅したり成仏したりはしていなかった。そのことに酷く安堵した俺は肩の位置が十センチくらい下がっていそうな深いため息をついた。
「よかったぁ……あ、いえ、俺サキヒコくんの声聞こえないんで。どうしてフタさんのところに居るか聞いてもらっていいですか?」
『おー…………ぉ? なんかぁ……みつきと話したくてぇ……イチがぁ、師匠なんだって』
俺と話したくてイチが師匠? イチとは確かフタが昔に飼っていた、現在は幽霊としてフタの傍に居る猫の名前だ。幽霊の先輩として霊感のない人間と話す術を学んでいる? いやいや年季だけで言えばサキヒコの方が先輩だし、いくら幽霊仲間と言っても相手は猫だぞ?
「よく分からないんですけど……まぁ、無事ならいいです。気が済んだら帰っておいでって言っといてください」
『はーい……』
「すいません朝早くに……失礼します」
電話を切り、またため息をつく。サキヒコがちゃんと存在している事実への安堵を噛み締める。
「成仏祈ってあげるのが筋ってもんなんだろうけどなぁ……」
それは俺もサキヒコも、サキヒコの主人であるネザメの曽祖父も望んでいないことで──おっとそうだ、三日目に回る予定のサークルの場所を確認しておかなくては。
(レイどの……壁サーじゃないですか! ゃ、人気のあるプロのイラストレーターですしこんなもんですよな。普段の距離の近さがおかしいだけで、カミアたんほど忙しくないだけで、レイどのも十分雲の上の人でそ)
レイのサークルの位置を確認し、並ぶ時間が長く直接話す時間などなさそうだなと感じた俺は、レイにメッセージを送った。
(パイセンも来るとは言ってましたが、まぁ人多いですし広いですし出会う方が奇跡ですよな)
自宅に帰り、一人静かに夕飯を取り、アキの部屋へ。
「よっ、ただいま。アキ、セイカ」
「おかえり」
「おかえりなさいです、にーに」
アキはセイカを背に乗せて腕立て伏せをしていた。片手で。
「重りやってるのか、セイカ」
「うん……これ俺の体幹も結構鍛えられるから、ウィンウィン」
「そうなんだ……あのさ、今日コミケでハルに会ってさぁ、意外だよなハルがコミケ来てるなんて。まぁお姉さんの付き添いだったんだけど結構本格的なコスプレまでしてて……セイカ?」
ハルの名前を出した途端、セイカの表情が一変した。
「……ハル、まだ苦手か?」
「ぁ、いや…………あのさ、霞染に漫画オススメされてさ、読んでさぁ……霞染すっごい正義感強いヤツなのに、霞染が好きだって言ってたキャラがめっちゃ酷くてびっくりしてて……びっくりし過ぎて、その先読めてなくてさぁ」
「そうなのか……まぁ二次元と三次元は別物だよ」
「鳴雷も女の子のふゅぎゅあ……ふゅぎゅいあ……? 持ってるもんな」
「フィギュア、な。女の子キャラの方が髪長かったりスカートヒラヒラしてたりでフィギュア映えするってのもあるんだけど……二次元だったら女の子も普通に好きだからな、俺。抜きはしないけど」
触れ合えない存在であるならば、性別など些細な壁だ。
「俺が女の子苦手なのは、そもそも興味ないってのに加えて今までめちゃくちゃキモがられてきたからで……席替えで隣の席になったら号泣されて、拾ってあげた消しゴムを鉛筆を箸替わりにして捨てられて、ってされてきたからってだけで……二次元の女の子はそんなことしてこないからな」
「……確かにお前昔はキモかったけど、可愛げあったしよく見たら顔整ってたのに……そこまで嫌われるもんなのか?」
「ゴキブリと同じ次元に居たと思う。で、この通り超絶美形という本来の姿を手に入れたらもーすっごいモテっぷりでさぁ……高低差で浮き袋出ちゃいそう」
「深海魚かよ」
暗いところでウゾウゾしている気持ち悪い生物、という点では一緒だな。まぁ俺は深海魚を気持ち悪いと思ったことないけど。あの謎に満ちた生態とかワクワクしない?
《筋トレ終わり~っと。風呂入って寝るわ》
「鳴雷、秋風風呂入って寝るって」
「あぁ……もうそんな時間だな。俺今日はシャワーだけでいいや、プール横のん借りるよ」
「ぁ、うん……」
シャワーを浴びて汗を流した俺は、すぐに自室に戻って睡眠を取った。一人でゆっくりと眠り、起き、朝食をパッと済ませて電車に揺られながら、ふと気付いた。
「…………サキヒコくん?」
サキヒコに取り憑かれている感覚がない。この身体の軽さはいつからだった? 何故もっと早く気付かなかった、コミケで浮かれ過ぎていた。まさか消えてしまったのでは?
「……っ、サキヒコくんっ、居る? 居るよね? 一回肩に乗ったりしてくれるっ?」
あの身体の重さが、体温が下がる感覚がない。焦った俺は唯一サキヒコを視認し会話が出来る人物、フタに電話をかけた。
『んん……もしもーし? ふわぁああ……なにぃ?』
「フ、フタさんっ? 俺です! 水月です!」
『みつきぃ? あはっ、どったの。今めっちゃ朝だけどぉ……』
「サキヒコくんが居ない気がしてっ、いつから居ないか分からなくて! フタさんとデートした次の日は居ましたよね!? その時なんか消えそうだったりしませんでしたか!?」
フタに過去のことを聞くなんて無駄だとは分かっていたけれど、聞かずにはいられなかった。
『サキちゃん? あぁサキちゃん……サキちゃーん! みつき呼んでる~!』
「…………えっ? そ、そっちに居るんですか?」
『そっちに居るってぇ?』
「フタさんのところに、サキヒコくん居るんですか?」
『……? うん、電話代わる?』
サキヒコは消滅したり成仏したりはしていなかった。そのことに酷く安堵した俺は肩の位置が十センチくらい下がっていそうな深いため息をついた。
「よかったぁ……あ、いえ、俺サキヒコくんの声聞こえないんで。どうしてフタさんのところに居るか聞いてもらっていいですか?」
『おー…………ぉ? なんかぁ……みつきと話したくてぇ……イチがぁ、師匠なんだって』
俺と話したくてイチが師匠? イチとは確かフタが昔に飼っていた、現在は幽霊としてフタの傍に居る猫の名前だ。幽霊の先輩として霊感のない人間と話す術を学んでいる? いやいや年季だけで言えばサキヒコの方が先輩だし、いくら幽霊仲間と言っても相手は猫だぞ?
「よく分からないんですけど……まぁ、無事ならいいです。気が済んだら帰っておいでって言っといてください」
『はーい……』
「すいません朝早くに……失礼します」
電話を切り、またため息をつく。サキヒコがちゃんと存在している事実への安堵を噛み締める。
「成仏祈ってあげるのが筋ってもんなんだろうけどなぁ……」
それは俺もサキヒコも、サキヒコの主人であるネザメの曽祖父も望んでいないことで──おっとそうだ、三日目に回る予定のサークルの場所を確認しておかなくては。
(レイどの……壁サーじゃないですか! ゃ、人気のあるプロのイラストレーターですしこんなもんですよな。普段の距離の近さがおかしいだけで、カミアたんほど忙しくないだけで、レイどのも十分雲の上の人でそ)
レイのサークルの位置を確認し、並ぶ時間が長く直接話す時間などなさそうだなと感じた俺は、レイにメッセージを送った。
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