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ホテル代とガイド代
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とりあえず、コミケとアキの父親の来日の二つの日程が被っていないのは助かった。まずはコミケだ、SNSで知り合い、取り置きを頼んでいる作家方のサークルの場所を再度確認しておこう。
(コミケ会場は暑過ぎてスマホが使えなくなる、なんて話もありましたからな)
俺の盗撮写真がバズったばかりだし、顔は隠した方がいいかな。
「なぁアキ、お兄ちゃん明日から三日間このサングラス借りていいかな? なんかまた盗撮されちゃってさ……」
「あぁ、グルチャで見たぞ。イケメンも大変だな」
アキは日本語が分からず、セイカはスマホを持っていない。利害の一致と単なる仲の良さから二人はスマホを共有財産として扱っている。電話やメッセージに関してはセイカの比重が重めだ。
「このサングラス濃いから目元見えなくて変装には最適……うん、こっちからも見えない。これでお目当てのサークル探してお目当ての本買うのは無理でそ……! アキ、よくこんな濃いサングラスかけて生活出来るなぁ、尊敬するよ」
「平気で生活してる訳じゃないけどな。色は分かんねぇ、遠くもよく見えねぇ、黒っぽいものは潰れて凹凸すらパッと見分からねぇ、色々あるんだよ。それでも裸眼で過ごすよりマシ、そういう目してるんだよ秋風は」
「…………綺麗なんだけどなぁ」
アキの頬を撫で、その美しい赤い瞳をじっと見つめる。こちらを見つめ返すまんまるな瞳は、この部屋のように薄暗い空間でないと裸で居られない。
「瞳孔まで真っ赤……ウサギさんみたいだな、可愛いよ」
「……? ぷぅ太、目ぇ真っ黒だったろ?」
時雨のウサギ、とかじゃなく名前で呼んでるんだ……なんか、イイな。
「まぁいいや。で? サングラス借りてくのか?」
「やめとく……マスクでいいかなぁ。なんかメイクとかしようかな?」
「お前のツラの良さは粘土乗っけるようなメイクじゃなきゃどうしようもないと思う」
今は困っているが、その言葉自体は喜んでおこう。
《スェカーチカ、スマホ鳴ったぞ》
「ん? メッセか?」
アキがスマホをセイカに渡す。俺のスマホも鳴ったのでまたグループチャットだろう、確認しておかなければ。
『明日大阪帰って次の金曜まで大阪居んねん』
『もし大阪旅行したいもん居ったら言い』
『宿泊代とガイド代浮かしたるさかい』
これは、願ってもみない好機だ。アキが父親に会いたくないのなら、父親が日本に居る間ずっと留守にしてしまえばいい。俺とアキとセイカで大阪旅行と洒落込もうじゃないか、アキが父親に会わない理由付けなのだから母も納得してくれるはず、母が納得すれば義母も引きずられてくれるだろう。
『いいなぁ大阪、行きたい』
『でもそんな余裕はない。悲しい』
歌見だ。一人暮らしの大学生は大変だな。
『交通費と食費は出ますか?』
『自分持ちに決まっとるやろアホか』
『じゃあいいです』
シュカだ。そもそも行く気はなさそうだな。
『はーいりゅー先生ガイドに盲導は入りますかー?』
『知識はないけど一生懸命頑張るで』
サンだ。彼は好奇心旺盛だし暇と金に余裕のある大人だから来るかもしれないな。
『全盲の方の補助の講習動画を送信しておく』
『確認しておくように』
ミフユだ。彼とネザメはもう旅行なんてしている暇はないんだろうな。
『ありがとフユちゃん』
『じゃあよろしくりゅーくん』
『兄貴に相談して日程決めるね』
決断と行動が早い。
『リュウ、俺とアキとセイカも行きたいと思ってるんだ。母さんに確認してからまた連絡するよ。そっちの親御さんには話通してるんだよな?』
『今から』
『来るヤツ居るんやったら頼もうか思て聞いてん』
『そうなの?』
『まぁホテルくらい取れるからガイドだけしてよ』
『みっつんみっつんみっつん俺もやる!』
『俺も今日と替える!』
『誤字った』
『京都帰る!』
『火曜日から日曜日!』
『俺んとこにも来て!』
『近所だから!』
ハルか。メッセージアプリでもうるさいんだな、通知がうるさいから短文連投やめて欲しい。
『いや結構離れてんで大阪と京都』
『奈良ならまだしも』
『そんなのアンタの実家の位置次第じゃん』
『お願いみっつん電車代出すから!』
『みっつんとデートしたい!!!』
『なんなら二人りゅーんとこ置いてきていいから』
『秋風は連れてってやれよ』
アイコンはアキのものだがセイカだ。アキがメッセージを送ることはほぼない。スタンプはたまに送ってくるが。
『居たんだ』
『秋風はとか言われるとなんか』
『罪悪感やばいゴメン』
『三人で来てよ』
『八つ橋奢るからゆるして』
ちょっとした陰口を言ったり毒を吐いたりするくせに、根が優しくて小心者だからすぐこうだ。始めから言わなければいいのにと思うけれど、そこがハルの可愛いところでもあるのだ。
リュウと、ついでにハルと約束を取り付けられたから、後は母の許可を得るだけで俺達は近畿旅行を楽しみながらアキを父親の魔の手から逃がしてやれる。
「母さんそろそろ帰ってきたかな……俺頼みに行ってくるよ」
「うん。ぁ、鳴雷、八つ橋って何……? なんか、有名なご当地プラモなのか?」
「……八つ橋っていう橋があって、それの模型を買ってやるって言ってるんじゃなくて、八つ橋っていう名前の和菓子があるんだよ」
「え……そ、そっか……あり、がとう……教えてくれて」
段々と赤くなっていく頬の紅潮に比例してセイカの声はどんどん小さくなっていった。そんなセイカを可愛く思いつつ、俺は予想通り帰ってきていた母の元に向かった。
「水月、ただいま。後おかえりもね。いつ帰ってきてたの?」
「お昼前でそ。あの、少しお頼み申し上げたいことが」
「何?」
「リュウどのハルどのがご帰省致しまして、近畿旅行をするならホテル代を浮かしてやる、ガイドもしてやると仰っていて……行きたいなぁ、と。許可を頂けますか?」
「なんだそんなこと。別にいいわよ、旅行くらい好きになさい。高校生なんだから」
「アキきゅんとセイカ様も一緒に……」
「二人も? 分かったわ。二人の分の交通費と雑費はあげるわね」
「ありがとうございまそ!」
「さて、水月……久しぶりだけど」
頭の上に浮かんだハテナマークは母の手がハリセンを掴んだのを見て青ざめを表現する縦三本線へと変わる。
「暴力反たへぶぅっ!」
「その喋り方も好きって言ってくれる彼氏が出来たのはいいことだけどね、控えなさい! 大多数の人間にとっては気持ち悪いのよ、ふとした時に出たらアンタが困るから私はこうして矯正してやってるのよ」
「人は人を怒る時アンタのためだと言いがちでそ……あの、アキきゅんのお父様が来日するかもという話は……」
「ん、あぁ、そうね、適当な理由付けて断ってきたけどそろそろ限界なのよね……アンタがアキも連れてくって言ってくれてちょうどよかったわ。アンタらが居ない日程伝えてやるわ」
母と俺の考えは同じだったようだ。
「アンタも気が回るようになったわね。アキ、何でもすぐ口に出す素直な子だけど、父親が苦手だとか会いたくないってことだけは直接口には出さないでしょ」
「そうなんですか? わたくしセイカ様から聞いたので」
「あら、そうなの……じゃああの子が察する能力高めなのね。もしくは、アキがあの子にはその辺も正直に話してるか」
どちらでもありえそうだ。
「……ま、いいわ。そろそろ晩ご飯出来るから二人呼んできなさい」
「はーい」
俺はアキの部屋へと戻り、夕飯時を告げた。
(コミケ会場は暑過ぎてスマホが使えなくなる、なんて話もありましたからな)
俺の盗撮写真がバズったばかりだし、顔は隠した方がいいかな。
「なぁアキ、お兄ちゃん明日から三日間このサングラス借りていいかな? なんかまた盗撮されちゃってさ……」
「あぁ、グルチャで見たぞ。イケメンも大変だな」
アキは日本語が分からず、セイカはスマホを持っていない。利害の一致と単なる仲の良さから二人はスマホを共有財産として扱っている。電話やメッセージに関してはセイカの比重が重めだ。
「このサングラス濃いから目元見えなくて変装には最適……うん、こっちからも見えない。これでお目当てのサークル探してお目当ての本買うのは無理でそ……! アキ、よくこんな濃いサングラスかけて生活出来るなぁ、尊敬するよ」
「平気で生活してる訳じゃないけどな。色は分かんねぇ、遠くもよく見えねぇ、黒っぽいものは潰れて凹凸すらパッと見分からねぇ、色々あるんだよ。それでも裸眼で過ごすよりマシ、そういう目してるんだよ秋風は」
「…………綺麗なんだけどなぁ」
アキの頬を撫で、その美しい赤い瞳をじっと見つめる。こちらを見つめ返すまんまるな瞳は、この部屋のように薄暗い空間でないと裸で居られない。
「瞳孔まで真っ赤……ウサギさんみたいだな、可愛いよ」
「……? ぷぅ太、目ぇ真っ黒だったろ?」
時雨のウサギ、とかじゃなく名前で呼んでるんだ……なんか、イイな。
「まぁいいや。で? サングラス借りてくのか?」
「やめとく……マスクでいいかなぁ。なんかメイクとかしようかな?」
「お前のツラの良さは粘土乗っけるようなメイクじゃなきゃどうしようもないと思う」
今は困っているが、その言葉自体は喜んでおこう。
《スェカーチカ、スマホ鳴ったぞ》
「ん? メッセか?」
アキがスマホをセイカに渡す。俺のスマホも鳴ったのでまたグループチャットだろう、確認しておかなければ。
『明日大阪帰って次の金曜まで大阪居んねん』
『もし大阪旅行したいもん居ったら言い』
『宿泊代とガイド代浮かしたるさかい』
これは、願ってもみない好機だ。アキが父親に会いたくないのなら、父親が日本に居る間ずっと留守にしてしまえばいい。俺とアキとセイカで大阪旅行と洒落込もうじゃないか、アキが父親に会わない理由付けなのだから母も納得してくれるはず、母が納得すれば義母も引きずられてくれるだろう。
『いいなぁ大阪、行きたい』
『でもそんな余裕はない。悲しい』
歌見だ。一人暮らしの大学生は大変だな。
『交通費と食費は出ますか?』
『自分持ちに決まっとるやろアホか』
『じゃあいいです』
シュカだ。そもそも行く気はなさそうだな。
『はーいりゅー先生ガイドに盲導は入りますかー?』
『知識はないけど一生懸命頑張るで』
サンだ。彼は好奇心旺盛だし暇と金に余裕のある大人だから来るかもしれないな。
『全盲の方の補助の講習動画を送信しておく』
『確認しておくように』
ミフユだ。彼とネザメはもう旅行なんてしている暇はないんだろうな。
『ありがとフユちゃん』
『じゃあよろしくりゅーくん』
『兄貴に相談して日程決めるね』
決断と行動が早い。
『リュウ、俺とアキとセイカも行きたいと思ってるんだ。母さんに確認してからまた連絡するよ。そっちの親御さんには話通してるんだよな?』
『今から』
『来るヤツ居るんやったら頼もうか思て聞いてん』
『そうなの?』
『まぁホテルくらい取れるからガイドだけしてよ』
『みっつんみっつんみっつん俺もやる!』
『俺も今日と替える!』
『誤字った』
『京都帰る!』
『火曜日から日曜日!』
『俺んとこにも来て!』
『近所だから!』
ハルか。メッセージアプリでもうるさいんだな、通知がうるさいから短文連投やめて欲しい。
『いや結構離れてんで大阪と京都』
『奈良ならまだしも』
『そんなのアンタの実家の位置次第じゃん』
『お願いみっつん電車代出すから!』
『みっつんとデートしたい!!!』
『なんなら二人りゅーんとこ置いてきていいから』
『秋風は連れてってやれよ』
アイコンはアキのものだがセイカだ。アキがメッセージを送ることはほぼない。スタンプはたまに送ってくるが。
『居たんだ』
『秋風はとか言われるとなんか』
『罪悪感やばいゴメン』
『三人で来てよ』
『八つ橋奢るからゆるして』
ちょっとした陰口を言ったり毒を吐いたりするくせに、根が優しくて小心者だからすぐこうだ。始めから言わなければいいのにと思うけれど、そこがハルの可愛いところでもあるのだ。
リュウと、ついでにハルと約束を取り付けられたから、後は母の許可を得るだけで俺達は近畿旅行を楽しみながらアキを父親の魔の手から逃がしてやれる。
「母さんそろそろ帰ってきたかな……俺頼みに行ってくるよ」
「うん。ぁ、鳴雷、八つ橋って何……? なんか、有名なご当地プラモなのか?」
「……八つ橋っていう橋があって、それの模型を買ってやるって言ってるんじゃなくて、八つ橋っていう名前の和菓子があるんだよ」
「え……そ、そっか……あり、がとう……教えてくれて」
段々と赤くなっていく頬の紅潮に比例してセイカの声はどんどん小さくなっていった。そんなセイカを可愛く思いつつ、俺は予想通り帰ってきていた母の元に向かった。
「水月、ただいま。後おかえりもね。いつ帰ってきてたの?」
「お昼前でそ。あの、少しお頼み申し上げたいことが」
「何?」
「リュウどのハルどのがご帰省致しまして、近畿旅行をするならホテル代を浮かしてやる、ガイドもしてやると仰っていて……行きたいなぁ、と。許可を頂けますか?」
「なんだそんなこと。別にいいわよ、旅行くらい好きになさい。高校生なんだから」
「アキきゅんとセイカ様も一緒に……」
「二人も? 分かったわ。二人の分の交通費と雑費はあげるわね」
「ありがとうございまそ!」
「さて、水月……久しぶりだけど」
頭の上に浮かんだハテナマークは母の手がハリセンを掴んだのを見て青ざめを表現する縦三本線へと変わる。
「暴力反たへぶぅっ!」
「その喋り方も好きって言ってくれる彼氏が出来たのはいいことだけどね、控えなさい! 大多数の人間にとっては気持ち悪いのよ、ふとした時に出たらアンタが困るから私はこうして矯正してやってるのよ」
「人は人を怒る時アンタのためだと言いがちでそ……あの、アキきゅんのお父様が来日するかもという話は……」
「ん、あぁ、そうね、適当な理由付けて断ってきたけどそろそろ限界なのよね……アンタがアキも連れてくって言ってくれてちょうどよかったわ。アンタらが居ない日程伝えてやるわ」
母と俺の考えは同じだったようだ。
「アンタも気が回るようになったわね。アキ、何でもすぐ口に出す素直な子だけど、父親が苦手だとか会いたくないってことだけは直接口には出さないでしょ」
「そうなんですか? わたくしセイカ様から聞いたので」
「あら、そうなの……じゃああの子が察する能力高めなのね。もしくは、アキがあの子にはその辺も正直に話してるか」
どちらでもありえそうだ。
「……ま、いいわ。そろそろ晩ご飯出来るから二人呼んできなさい」
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