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事務所にご挨拶
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ヤクザ風に言えばフタの弟分、一般人目線で言えばフタの部下達、フタの恋人が俺であると知った彼らは俺を取り囲み、物珍しそうに眺めた。
「いや~……やっとフタさんにも春が来たかーって思ったら……」
「まさか男で、その上未成年とは……やべぇ、マジやべぇ」
「流石フタさん、常に想定の斜め上を行く男……」
「流石っすフタさん! マジリスペクトっすフタさん!」
未成年の同性とデキてる男のどこにリスペクト出来る部分があるんだ?
「男かよって思ったけど、こんだけ顔が良けりゃあまぁ……なんか、仕方ねぇよな……」
「あぁ……ここまで顔がいいと色々どうでもよくなってくるもんな、分かるっすよフタさん……!」
「ホント顔がいい、見てたら怖くなってきた。見て見て鳥肌、すげぇ鳥肌」
「こんなツラのいいイケメン落とすとかマジリスペクトっすよフタさん!」
もっと褒めて!
「俺の彼氏あんまり見んな~、金取んぞ」
顔を褒められて気持ちよくなっていると、フタは俺を完全に背後に隠した。結構な高身長の俺をすっぽり隠せるなんて……なんか、ときめいちゃった。
「拝観料だ! 出せてめぇら!」
「っす! いくらっすか!」
「馬鹿野郎三万に決まってんだろ!」
「割り切れちゃダメなんすよね!」
それご祝儀じゃない?
「あ、あの……フタさん、お土産……」
「んぁ? あぁそうそう、いや忘れてねぇよ? 忘れてなかったけどよ。ほれ、土産だぞ~」
フタは恐竜の絵がプリントされたクッキーの詰め合わせを部下達に向かって投げた。それをたまたまキャッチした部下に他の部下達が群がる。鯉の餌やりを思い出した。
「寄越せコラ! おいこら寄越せぇっ!」
「俺が取ったんだから俺んだぁ!」
「離せてめぇクソっ! おい肘入れろ肘!」
「目だ! 目狙え目!」
怖……
「あ、あのー……皆さん、俺からもお土産があるんですけど。チョコなんですけど、苦手じゃなければ……その、平和的に! 皆さんで! 分け合って! 食べていただきたいなぁ~……と」
恐竜の卵を模したチョコレートの詰め合わせをそっと差し出す。
「分け合う……?」
「平和的に……?」
「一個ずつ……?」
「皆で食う……?」
怖。
「お兄さんにも今日渡しちゃいましょうか? 夜中に訪ねて迷惑じゃないですかね」
「いんじゃね? 行こ~」
フタに手を引かれてエレベーターに乗り、最上階の手前で降りる。フタはノックしながら扉を開け、舌打ちを返された。
「……てめぇは一体いつになったら作法を覚える」
座り心地の良さそうな椅子から立ち上がり、俺が見知ったスーツではなく楽そうな部屋着に身を包んだヒトは、頭にタオルを被ったままフタを真正面から睨み付けた。
「こっ、こんばんは! お邪魔してますヒトさん!」
フタがまた暴力を振るわれるのではと恐れた俺は二人の間に無理矢理割り込み、精一杯の媚びた笑顔でヒトを見上げた。
「……ぁあ? あぁ……サンの絵のモデルの方ですね、鳴雷さん……でよろしかったでしょうか。どうしてこんな時間にこちらに?」
「へへへ、みつきはねぇ、俺の彼氏ぃ~」
フタは可愛らしいデレっとした笑顔を浮かべて俺を背後から抱き締める。部下達に対してもそうだったが、こんなふうに正直に紹介されると嬉しくなってしまう。
「はぁ……? 寝言は寝て言えボケカスが。舌引っこ抜かれてぇか」
「あ、あのー……事実、です。今日遊園地デートしてきて……お土産を、ですね、渡しにきたんですが。あっ、俺はご挨拶も兼ねて……」
「…………不治の病か何かですか?」
「ヤケで付き合ってる訳じゃないです!」
「限りある命なら余計に大切に使わないと」
「俺は健康体ですってば! ちゃ、ちゃんと……その、好きなんです……フタさんのこと。フタさん優しいし、素直だし……なんか、可愛いところもあって」
ヒトは訝しげな表情で俺を見つめている。
「……まぁ、どうでもいいですけど……フタ、未成年者略取とかで捕まらないでくださいよ」
「うん……? がんばる」
ヒトは肺の空気を全て吐き出すような深いため息をつく。
「……あ、あのー、お風呂……入ったばっかりとかですか? 髪……タオル……」
「…………ええ、私も八割方ここに住んでいるようなものなので。シャワーだけですが、一応あるんですよ」
「お家、帰らないんですか? ご結婚されてるんですよね」
言いながらヒトの左手を見てみたが、薬指に指輪はなかった。跡もない、風呂に入るために外した訳ではなさそうだ。
「亭主は家に居ない方が喜ばれるものなんですよ、あなたのご家庭もそうではありませんか?」
「そもそも居ないので……よく分かりません」
「……そうですか、失礼」
「い、いえ、俺の方こそ……あの、お土産持ってきたんです。もしよければ……」
俺は恐る恐る土産屋で買った恐竜のフィギュアを差し出した。冷静になって考えてみると、三十手前の子持ち既婚者がこんな物を喜ぶとは思えない。怒らせてしまったかもしれない。鼓動が騒がしい。
「ヴェロキラプトル……! ですよね?」
「えっ、は、はい……そうです」
「敏捷な略奪者、ヴェロキラプトル……最も知能が高く、集団で獲物を追い詰めていく素晴らしい生物……! と、思われていますが実際まだ社会性を形成し狩りをしていたような証拠は発見されていないんですよ」
「そうなんですか?」
「頭が良さそうなイメージがあるのは映画の影響ですね、実際はもう少し小さいそうですし羽毛があったという話も……あぁでも、私はあの映画のラプトルが好きです、ディノニクスじゃんと言われればそれまでですが……ふふ、開けていいですか? 開けますね」
どうぞ……とか細い声で必要のない返事をしながら俺は困惑していた。怒らせるかもとまで思った土産が、こんなにも喜んでもらえるなんて、安心よりも喜びよりも何よりも先に困惑が来る。
「あぁっ……! イイ……! 素晴らしい、この靱やかで強靭な筋肉、瞬発力のありそうなこの脚っ、動脈を掻っ切る鉤爪……! 恐竜に羽毛なんていりません、爬虫類なんだから羽や毛なんてあって欲しくない! 私のラプトルはまさにこれです、このフィギュアの製作者は分かってますよ!」
「ヒト兄ぃキモい」
「ぶち殺すぞ!」
「怖~、みつきぃ、行こ~?」
「…………分かります。羽や毛がない、鱗だからこそ脚の筋肉の付き方がよく分かってセクシーなのに……もふもふしてるティラノやラプトルなんて嫌だぁ!」
「鳴雷さん!」
「ヒトさぁん!」
わぁあ……! と勝手に盛り上がったかつての恐竜大好きキッズ同士でのハグはフタによってすぐに引き剥がされた。
「みつきは! 俺の!」
「あーうっさいうっさい黙れ黙れ…………ふぅ、失礼、取り乱しました。ありがとうございます鳴雷さん、大切にします」
「い、いえ、俺の方こそ失礼を……こちらこそありがとうございます、喜んでもらえてよかった……フタさんからもお土産があるんですよ。ねっフタさん」
「…………あったっけ?」
その手に持っている物は何だと叫び散らしたくなる気持ちを抑え、優しく促すとフタはティラノサウルスが突き刺さっているセーターを袋から引っ張り出した。
「あぁ、これこれ。あったあった」
「………………は?」
「はいヒト兄ぃ、お土産」
「何……え、何……ぬいぐるみ……? 服……? どっち……?」
「じゃあね~」
「何、これ……? 何……?」
困惑し続けるヒトを置いて扉を閉め、その他の荷物を置くため俺達は一旦フタの部屋に向かった。
「いや~……やっとフタさんにも春が来たかーって思ったら……」
「まさか男で、その上未成年とは……やべぇ、マジやべぇ」
「流石フタさん、常に想定の斜め上を行く男……」
「流石っすフタさん! マジリスペクトっすフタさん!」
未成年の同性とデキてる男のどこにリスペクト出来る部分があるんだ?
「男かよって思ったけど、こんだけ顔が良けりゃあまぁ……なんか、仕方ねぇよな……」
「あぁ……ここまで顔がいいと色々どうでもよくなってくるもんな、分かるっすよフタさん……!」
「ホント顔がいい、見てたら怖くなってきた。見て見て鳥肌、すげぇ鳥肌」
「こんなツラのいいイケメン落とすとかマジリスペクトっすよフタさん!」
もっと褒めて!
「俺の彼氏あんまり見んな~、金取んぞ」
顔を褒められて気持ちよくなっていると、フタは俺を完全に背後に隠した。結構な高身長の俺をすっぽり隠せるなんて……なんか、ときめいちゃった。
「拝観料だ! 出せてめぇら!」
「っす! いくらっすか!」
「馬鹿野郎三万に決まってんだろ!」
「割り切れちゃダメなんすよね!」
それご祝儀じゃない?
「あ、あの……フタさん、お土産……」
「んぁ? あぁそうそう、いや忘れてねぇよ? 忘れてなかったけどよ。ほれ、土産だぞ~」
フタは恐竜の絵がプリントされたクッキーの詰め合わせを部下達に向かって投げた。それをたまたまキャッチした部下に他の部下達が群がる。鯉の餌やりを思い出した。
「寄越せコラ! おいこら寄越せぇっ!」
「俺が取ったんだから俺んだぁ!」
「離せてめぇクソっ! おい肘入れろ肘!」
「目だ! 目狙え目!」
怖……
「あ、あのー……皆さん、俺からもお土産があるんですけど。チョコなんですけど、苦手じゃなければ……その、平和的に! 皆さんで! 分け合って! 食べていただきたいなぁ~……と」
恐竜の卵を模したチョコレートの詰め合わせをそっと差し出す。
「分け合う……?」
「平和的に……?」
「一個ずつ……?」
「皆で食う……?」
怖。
「お兄さんにも今日渡しちゃいましょうか? 夜中に訪ねて迷惑じゃないですかね」
「いんじゃね? 行こ~」
フタに手を引かれてエレベーターに乗り、最上階の手前で降りる。フタはノックしながら扉を開け、舌打ちを返された。
「……てめぇは一体いつになったら作法を覚える」
座り心地の良さそうな椅子から立ち上がり、俺が見知ったスーツではなく楽そうな部屋着に身を包んだヒトは、頭にタオルを被ったままフタを真正面から睨み付けた。
「こっ、こんばんは! お邪魔してますヒトさん!」
フタがまた暴力を振るわれるのではと恐れた俺は二人の間に無理矢理割り込み、精一杯の媚びた笑顔でヒトを見上げた。
「……ぁあ? あぁ……サンの絵のモデルの方ですね、鳴雷さん……でよろしかったでしょうか。どうしてこんな時間にこちらに?」
「へへへ、みつきはねぇ、俺の彼氏ぃ~」
フタは可愛らしいデレっとした笑顔を浮かべて俺を背後から抱き締める。部下達に対してもそうだったが、こんなふうに正直に紹介されると嬉しくなってしまう。
「はぁ……? 寝言は寝て言えボケカスが。舌引っこ抜かれてぇか」
「あ、あのー……事実、です。今日遊園地デートしてきて……お土産を、ですね、渡しにきたんですが。あっ、俺はご挨拶も兼ねて……」
「…………不治の病か何かですか?」
「ヤケで付き合ってる訳じゃないです!」
「限りある命なら余計に大切に使わないと」
「俺は健康体ですってば! ちゃ、ちゃんと……その、好きなんです……フタさんのこと。フタさん優しいし、素直だし……なんか、可愛いところもあって」
ヒトは訝しげな表情で俺を見つめている。
「……まぁ、どうでもいいですけど……フタ、未成年者略取とかで捕まらないでくださいよ」
「うん……? がんばる」
ヒトは肺の空気を全て吐き出すような深いため息をつく。
「……あ、あのー、お風呂……入ったばっかりとかですか? 髪……タオル……」
「…………ええ、私も八割方ここに住んでいるようなものなので。シャワーだけですが、一応あるんですよ」
「お家、帰らないんですか? ご結婚されてるんですよね」
言いながらヒトの左手を見てみたが、薬指に指輪はなかった。跡もない、風呂に入るために外した訳ではなさそうだ。
「亭主は家に居ない方が喜ばれるものなんですよ、あなたのご家庭もそうではありませんか?」
「そもそも居ないので……よく分かりません」
「……そうですか、失礼」
「い、いえ、俺の方こそ……あの、お土産持ってきたんです。もしよければ……」
俺は恐る恐る土産屋で買った恐竜のフィギュアを差し出した。冷静になって考えてみると、三十手前の子持ち既婚者がこんな物を喜ぶとは思えない。怒らせてしまったかもしれない。鼓動が騒がしい。
「ヴェロキラプトル……! ですよね?」
「えっ、は、はい……そうです」
「敏捷な略奪者、ヴェロキラプトル……最も知能が高く、集団で獲物を追い詰めていく素晴らしい生物……! と、思われていますが実際まだ社会性を形成し狩りをしていたような証拠は発見されていないんですよ」
「そうなんですか?」
「頭が良さそうなイメージがあるのは映画の影響ですね、実際はもう少し小さいそうですし羽毛があったという話も……あぁでも、私はあの映画のラプトルが好きです、ディノニクスじゃんと言われればそれまでですが……ふふ、開けていいですか? 開けますね」
どうぞ……とか細い声で必要のない返事をしながら俺は困惑していた。怒らせるかもとまで思った土産が、こんなにも喜んでもらえるなんて、安心よりも喜びよりも何よりも先に困惑が来る。
「あぁっ……! イイ……! 素晴らしい、この靱やかで強靭な筋肉、瞬発力のありそうなこの脚っ、動脈を掻っ切る鉤爪……! 恐竜に羽毛なんていりません、爬虫類なんだから羽や毛なんてあって欲しくない! 私のラプトルはまさにこれです、このフィギュアの製作者は分かってますよ!」
「ヒト兄ぃキモい」
「ぶち殺すぞ!」
「怖~、みつきぃ、行こ~?」
「…………分かります。羽や毛がない、鱗だからこそ脚の筋肉の付き方がよく分かってセクシーなのに……もふもふしてるティラノやラプトルなんて嫌だぁ!」
「鳴雷さん!」
「ヒトさぁん!」
わぁあ……! と勝手に盛り上がったかつての恐竜大好きキッズ同士でのハグはフタによってすぐに引き剥がされた。
「みつきは! 俺の!」
「あーうっさいうっさい黙れ黙れ…………ふぅ、失礼、取り乱しました。ありがとうございます鳴雷さん、大切にします」
「い、いえ、俺の方こそ失礼を……こちらこそありがとうございます、喜んでもらえてよかった……フタさんからもお土産があるんですよ。ねっフタさん」
「…………あったっけ?」
その手に持っている物は何だと叫び散らしたくなる気持ちを抑え、優しく促すとフタはティラノサウルスが突き刺さっているセーターを袋から引っ張り出した。
「あぁ、これこれ。あったあった」
「………………は?」
「はいヒト兄ぃ、お土産」
「何……え、何……ぬいぐるみ……? 服……? どっち……?」
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