冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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明晰夢と前向きな幽霊

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シュカと共にダイニングを出る寸前、肩が重くなり背筋に悪寒が走った。

(……サキヒコくん、ですよな。これ)

可愛らしい彼氏が増えたのは喜ばしいが。彼が傍に居る限りずっとこの重だるい感覚が続くのは困る、トレーニングメニューを見直して体力をつけることで改善出来たりしないかな。

「はぁ……」

ぼふん、とベッドに倒れ込む。でも肩や腰の重だるさは抜けない。

「水月? 疲れてるんですか?」

メガネを外したシュカが隣に寝転がる。レアな裸眼姿を見ておきたいのに、枕に埋めた頭が持ち上がらない。この身体の重だるさが全てサキヒコによるものだとしたら、明日の帰り支度すらままならないだろう。これはまずいかもしれない。

「んー、まぁまぁ……」

「……そうですか。処女相手じゃ無茶出来なかったんじゃないかと、物足りなさがあったんじゃないかと、ほんの少しだけ期待した数分前の私は愚かだったんですね」

ガバッと起き上がるとシュカは不敵な笑みを浮かべ、仰向けになって緩く腕を広げた。

「やっぱり物足りなかったんですね?」

「あんまりそんな言い方するなよ、その通りだけどさ。はぁ……最高だよシュカぁ、さてどうしてくれようか」

「今はそこそこ機嫌がいいのでどんなプレイでも構いませんよ」

「やったぁ!」

思い切り腰を振りたかった、四つん這いになった美少年と獣のような交尾がしたかった、奥の奥まで犯し尽くしたかった、そんな物足りなさが解消されていく。ハルはとても可愛くて心は満たされたけれど、性欲は満たされなかった。

「んっ、あぁんっ! んっ、く……はぁ、イきっぱなし……てめぇが出してる間くらいしか休憩が、んっ、ねぇっての……これで、何発目だ。四……か?」

「どうだっけ……なんか頭グラグラする」

「……昼間から顔色が優れませんでしたものね。次は私が上でどうです?」

「騎乗位? あぁもうホント最高……シュカ愛してる」

「ナカ敏感だからまともに動けるか分かりません……けどっ、ぉっ、んんっ! んっ、く、ぅう……はぁ、入れただけでイくとこだった、危ねぇ……」

一糸まとわぬ姿で俺に跨り、快楽によがりながらも腰を振るシュカを見上げながら、陰茎に注がれる快感に熱い吐息を漏らす。

「……っ、はぁ……シュカぁ、絶景……」

「うるせぁっ、よ。変態っ……んっ、ぁあっ! はっ、ぁ……イき、そっ……」

まさかメガネを外したシュカと出来るとは。電灯を煌々と輝かせたままにしておけばよかったな。そんな微かな後悔の中、射精による脱力感とダイニングを出た時からつきまとう倦怠感が重なって睡魔となり、俺は陰茎だけが心地いい温もりの中に包まれたまま夢の世界へと旅立った。



夢の世界は誰も居ない学校だった。

「……十二薔薇高校ではありませんか。はぁしかし、夢ですなこれ……明晰夢ってヤツですかな? 初めて見ましたぞ! ふぉおテンションだだ上がりんぐ~」

夢を見ていると自覚している夢、それが明晰夢。ネットで度々見かけて見たいなぁとは前から思っていたが、まさか見られるとは。

「明晰夢なら何かもっとこう、何でもありで超楽しいみたいな夢を見たいですな……無人の学校とかいうちょっとホラーな感じではなく、食べ放題バイキングとか、遊園地とか、そういうの……」

想像したら実際に現れたりしないだろうか? 夢だもんな、出来そう。

「よし……美少年来い美少年来い美少年来い美少年来いっ、色んなプチケーキをトレイに乗せた美少年っ! アーンしてくれる美少年っ!」

何にも出てこない。

「……っ、美青年でも可! 成人済みでも! あっ、ゆ、夢の中なんだから……美中年もアリ!? 俺に靡いたら高校生に手ぇ出すとか引くわーってなっちゃうから現実だと攻略しようとも思えないステキなオジサマ!」

シーン、と静まり返っている。

「ショタ! ガチショタ! ミフユさんとは違うガチの小学生! うるさくてバカで話の通じないクソガキじゃなくて俺と会話が出来るくらい賢くて可愛い美少年!」

そんなもの居ない。俺の声だけが虚しくこだまする。明晰夢なのに全然楽しくない……

「校庭にデッカいウンコ描いてやりまそ……」

どれだけ歩いても疲れることはなく、日差しを浴びても不快なほどの暑さは感じず、大した労もなく描き切った。

「次何しませう。職員室でカーリングですかな」

校舎内に入ってしばらく、違和感を覚えた。間取りが違う気がするのだ、開かない扉もある。俺が見たことのない場所は正確に再現されていないようだ。

「ゴキゲンな蝶になって~♪」

拾ったモップを振り回ながら職員室に入り、固定電話を床に置く。

「……ショーットぉ!」

モップで固定電話を殴って吹っ飛ばす。壁にぶつかって子機が外れた。

「あれ……? これカーリングじゃなくね?」

「かぁりんぐとは何だ?」

「スポーツ。氷の上で石滑らせて円の中に入れたら勝ちみたいな感じの……」

あまりよく知らないので雑な説明になってしまう。ん? 今の声誰?

「……っ!? 居たの!? いつから!?」

バッと振り返るとそこには着物姿のおかっぱ頭美少年が! 座敷童子を連想させるこのちんまりとした可愛らしい子はサキヒコだ、俺の最新の彼氏。

「そにばら高校ではありませんか、辺りから。ずっと背後に」

「めっちゃ最初から居るじゃん! 言ってよ!」

「今度から気を付ける」

「…………あ、あのさ、俺の話し方が変だったのはアレは一人だから気分を上げようと思ってわざと変な喋り方してただけだからね?」

ですぞ口調が本来の話し方だと知られるのは避けたい。

「そうか」

「……君、本物のサキヒコくん?」

「む……?」

「俺の夢だから俺が無意識に願ってポンと出てきた俺の脳みそ産のサキヒコくんなのか、幽霊の不思議ぱうゎで現れたりガチヒコくんなのか……」

「ガチヒコではない、サキヒコだ」

「……本物?」

「本物だ。霊は夢と干渉しやすいようだ」

という設定を俺が考え出しただけで、やっぱり俺の脳が作り出したサキヒコなのかもしれない。とか考え出したらキリがない、証拠なんてないのだから。もし本物だったら失言を取り返せないので、本物だと思っていよう。

「そっか、とにかくサキヒコくんと顔を合わせて話せる時間はあるんだなって分かってよかったよ」

「……海から解放され、みるみるうちに私の力は弱まった。ミツキに姿を見せることも、声を聞かせることも出来ない。写真や鏡に写り込むことは何とか出来たが」

「消えちゃったりしないよね……?」

「分からない」

「そんな……サキヒコくんが強い幽霊になる方法はないのっ?」

「分からない。身体から離れ過ぎているだけかもしれないし、成仏が近いのかもしれない。消滅が近いのかもしれない、何も分からない。ただ自分の存在が薄まっていく感覚だけがある」

「身体……そうだ、サキヒコくん海に捕まったら危ないから身体に帰るって言ってたけど、どうしてこっちに?」

「……自分の骨が調べられているのをただ見ているのは気持ちのいい光景ではない。それにどうやら、生者に取り憑いた霊は海とて引き剥がせないようだ。ミツキに取り憑いていれば私が再び海のものになることはない」

「なるほど……? え、じゃあ離れてる間危なかったの? ごめんね……そんなこと知らなくて」

「あの間はめぇぷるという名の犬に取り憑いていたから大丈夫だった。遊ぼうと思っていたのだが、撫でているうちに眠ってしまって……退屈だった」

犬も肩の重さや倦怠感があったのだろうか、だから早々に寝てしまったのでは……

(ごめんなさいでそメープルちゃん)

謝罪のため明日の朝一番に彼にブラッシングをさせていただくとするか。

「……私は近いうちに消えるのかもしれない。だとしたら、だ。ミツキ。今遊ばなければ損ではないか? 遊ぼうミツキ、当代の遊びを教えてくれ!」

「…………うん!」

前向きな幽霊というのも不思議な響きだ。
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